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異世界Baby  作者: 本屋
74/112

74、残念巫女姫


 レイモンド卿の屋敷からの帰りは王都までの旅でお世話になった馬車が迎えに来てくれていた。すぐ近くだが楓を寝かせられるし丁度良い。


「過激派ではなかったんですね」


 帰りの馬車の中での話は、ダンジョンの神の神殿で調査報告をトライセルがしてくれた。楓を攫う手助けをして、用済みと見ると直ぐにも僕を追い出そうとしたレーテルの行動は、過激派のように思えたが違ったようだ。


「ダンジョンの神の神殿内で起きたことは、王族と言えども内情を探るのは難しい。信徒の反発を受けて対立するわけにはいかない。今回は特に神殿内のトップでもあり、信頼も高いレーテル様ということもあって慎重な対応になる。いっそのこと過激派であったのなら私も強く出ることが出来たんだがな。相手が悪かったというか、ダンジョンの神の天啓に従ったレーテル様を責める者は神殿内には居ないだろう。今回は丸く収めたというところだな」

「僕のダンジョンの神の信徒への不信感は一層高まりましたけどね」

「神だけにあらず、何か一つのものに依存している者は、それを否定や排除しようとしたら強く反発するものだよ」


 全てを依存で片付けてしまうのは冷たい感じがした。僕に置き換えてみれば家族から与えられる愛と温もりなのだろうが、それを否定や排除しようとしてきたら全力で抵抗するだろう。人それぞれ持つ価値観によって起きる反発や争いごとは、どこの世界でも絶えないもののようだ。


「過激派を含めてダンジョンの神の信徒達は、しばらくの間は君に不干渉を徹底するだろう。いまは些細な動きをしただけで悪目立ちするからな。せっかく丸く収めたものをぶり返させる切欠は与えたくないだろうからな。それでもダンジョンの神の神殿にとっては最大の関心事ではあるだろう。彼らが崇める神に邂逅し直接神子を託されたのたからね」

「そうですね………油断ならない相手ですし警戒はしておきます」

「過激な行動は取らないとは思うが、あるとするならば神子を託された君を抱き込もうとはするかもしれんな」

「今更でしょう」

「そうだな今更だろうな。元々強制的な勧誘を行わない伝統がダンジョンの神の信徒達にはある。それはダンジョンの神という存在が布教するまでもなく絶対的な存在だと信じている信徒のプライドでもあるのだ。君が反感を抱いている限り成り立たないだろう」

「武神十四信仰宗家にしても、僕はどの神の信徒にもなるつもりはないです。いかなる神の何処にも属さないことで僕の周りを大人しくさせることは出来ませんか?」

「それだけの力を持つ者が何処にも属さずに、神への感謝を蔑ろにするのは危険な行動だ。それこそ争いの種を振りまくことになる。良い機会だから話そう。国王陛下を始め全権を委ねられた私自身も君への詮索は行わない方針だが、王国の誰もが常識として考えるものを覆すような異端な考えは危ういものと判断せざおえなくなる。いまのことは忘れよう。私に君を危険な存在だと判断させないでくれ。力のある者の王国の在りようを覆すような思想は、警戒すべき筆頭となるのだからな。くれぐれも王国の敵に回るのだけはやめろ。それさえなければ王国は、君が守ろうとする身辺への配慮を全面的に支援することを約束しよう」

「国王陛下も含めて殿下も僕に対して、どうしてそれ程の事をお約束出来るのですか?」


 単純な疑問だった。急な対応の変化とは感じないが、いつ何処でここまで判断がされたのだろうか分からなない。トライセルとは出会って半月ほどで、国王とは会話させしていない一度きりの謁見のはずだ。信頼を得る時間には短すぎる。


「それは言えないことになっているが、君なら予想が付くだろう?」


 ああそうか、短時間の間に僕を調べることが出来て尚且つ、国王の信頼が高い者には心当たりがある。いつの間にか鑑定能力者の目に晒されていたということだ。王国でもその存在を極秘とする<鑑定能力者>を持ち出してきた。だが一つ疑問になる。鑑定されて僕の情報が明るみになっているなら、既にトライセルが僕の鑑定結果を知らないはずがなかった。


「君との友好関係の為にもこれだけは言っておく。安心してくれたまえ、仙人は君の鑑定結果を出す事を拒否したので、君のことに関しては仙人以外の誰も知ることはない。これは陛下も例外ではない」


 そんなことがあるのだろうかと不信には思って当然だと思う。それは今後の対応に注意していくことで見極めていけば良いということなのだろう。


「君が疑う気持ちはよく分かるが王国は何処の誰であろうと、その力と能力を高く買っているということさ」

「僕にはそれに見合うだけの仕事をしろということですね」

「そう思ってくれれば良いよ。そんな無理なことは言わないさ。今の所は大人しくしていてくれればいい」


 僕にはうまい話にしか聞こえないが、大きな権力のあがらえない波の渦に飲み込まれて深く海底に引きずり込まれていく怖さを感じた。少なくとも仙人には僕の正体が明るみになった可能性があり、トライセルも実際は知られてしまっている可能性があるのだ。


「その目は全く信用していない感じだな。仕方無い………君とはまだ付き合いが浅いが、誠実に対応した方が良いようだ。仙人は君の鑑定結果を教えることを拒否した後に、敵にだけは回さないよう陛下に注意を喚起した。陛下は君を危険視したんだが、最終的には様子を見ることとなった。君が王国の害となるならば陛下は立ち上がることに躊躇いはしないだろう」


 トライセルはピークトリクト領館に寄ることなく、迎えの馬車に乗って帰っていった。今日の残りの時間はユウキとして過ごす予定である。領館に戻って、そのまま家族の部屋に戻ろうとしたら談話室から賑やかな声が聞こえて来た。いつもの声の他に聞き覚えのある声が混ざっていて、僕は談話室に入ってげんなりする。三人の少女が一つのテーブルでお菓子を口一杯に頬張っていた。背丈が似たコンビだったバーナデットと優雨美の他に、ダンジョンの神の神殿の巫女姫メイが混ざってトリオになっていた。


「もご!もごもごごもも!」

「あのな、口の一杯にして喋っても意味が分からないよ?」


 メイはお茶を呷ると口の中の菓子を綺麗に飲み込んで嬉しそうに笑顔になった。


「待っていましたよ!神子様にマジク様!」

「何で居るの?メイ様」

「よくぞ聞いてくれました!それはメイが神子様にお仕えすることになったからです!」

「え?いらないよ?帰って」

「ガーン!」

「何、そのオーバーなリアクション」

「そんなこと言わないでくだしゃい!」


 メイが半泣きで縋って来た。メイの座っていた椅子の横に白い大きな袋がある。


「もうメイの部屋はないのです!」

「え?オマエ追い出されたの?」

「レーテル様は責任を取ると神殿を出られてしまったのでユキエも私も責任を取らなきゃいけなって…メイは迷惑をかけた神子様に仕えて罪を償うと、ユキエが神殿に話を付けてくれたのです!そんで帰る所がもうないんです!」

「結構大事になったんだな」

「マジク?ママが面倒見てやれって言っていたのよ?」


 お菓子屑を口の周りに付けて、バーナデットが援護射撃をして来た。


「はぁ?なんだよそれ。困るよ。うちには優雨美様やカウタがいるのに。それに僕も楓も居候なんだよ?」

「ママがマイリオリーヌには話をつけたとも言っていたのよ?」

「あの人、やること滅茶苦茶だよ」


 メイは優雨美やカウタと状況が違う。僕の本来の姿を知らないのだ。そんな子を砦に置いておいたら、気が休まらない。


「スカーレット様は何処にいるの?」

「パパと二人でお出かけしたのよ?」


 二人でって、バーナデットをお菓子の山に置いて行ったのも、それが理由かと合点が行く。


「バーナデット様はマジク様の主人と聞きました!スカーレット様はバーナデット様の母君と聞きました!マイリオリーヌ様はマジク様が世話になっている方だと聞きました!」

「何それ、僕には何の権限もないと言いたいの?」

「そうではありません!ですが目上の人の言葉は聞くものなのです!」

「メイって、神殿でずっと育って来たの?」

「はい!ユキエが言うには神殿の前に捨てられていたそうです!」

「捨てられてって、もうちょっと言い方あるんじゃ………」

「もう慣れたので平気なのです!」


 メイが特殊な環境下で生きて来たことに同情してしまった。メイにとって同情されてしまう事は迷惑なのかも知れないが、健気に生きている彼女の明るい笑顔には感動を覚えてしまっていた。


「帰る所がないんなら、しょうがないか………」

「おー!ユキエの言う通りです!」

「うん?何の話?」

「捨て子と帰る家がないと言えば、イチコロだそうです!」

「おい!俺の感動返せ!」


 王都滞在六日目は、辛い過去を持つ残念巫女姫(シスター)が我が家の居候に加わった日になった。


「神子様!おむつですか!?それともお乳ですか!?」


 メイは全く落ち着きがない。声も大きく常に動いていて、じっとしていられないタイプだった。常に誰かを構いたがり、いま一番の被害をこうむっているのは楓だった。メイは楓に仕える為に来たと言うだけあって楓の世話を焼きたがる。楓は基本的に僕が近くにいれば大人しく手間のかからない子である。そんな大人しい楓の世話を焼きたがるので楓も鬱陶しそうにしていた。

 夕方はお昼寝三昧のつもりだったのに五月蝿くて敵わなかった。わざわざメイが離れたタイミングでユウキに戻って何食わぬ顔でベビーベットの上からメイと初対面したが、メイは赤ちゃんが一杯ですと大した感想もなく楓をかまい続けている。

 どうもダンジョンの神の神殿は赤ちゃんが多いようだ。メイと同じように神殿に保護された赤ん坊がいるらしい。メイも赤ん坊の扱いに慣れていて、日頃から神殿で保護された赤ん坊の面倒を見ていたようだ。ダンジョンで冒険者の父親が亡くなり、母親が育てられなくなってダンジョンの神の神殿に預けると言うことがよくあることだそうだ。

 ダンジョンの神の神殿は、そういった赤ん坊や子供は積極的に受け入れているそうで、神殿で働く者の多くがメイと同じような境遇を持つらしい。物心着く前からダンジョンの神を敬う生活を送ることで、ダンジョンの神のみを敬う信徒と成長する。ダンジョンに関する安全や運の祝福から始まり、不幸に至った人達のケアまで神殿は行っていることで、王国での長い歴史の信頼を得て来たのだとわかった。

 そんな、かまいたがりのメイにも、ものともしないのが我らがマイペースっ子アキちゃんだった。僕はよくこの騒がしい中で寝れると、妹を羨ましく思った。

 楓がいい加減、怒ったのか布剣でメイの顔をペシリと引っ叩く。


「うぎゃ!痛いです!何するんですか!?神子様!」


 鼻っ面に綺麗にクリーンヒットしたので、メイは涙を浮かべて抗議した。真剣になって赤ん坊に抗議しているメイの姿を見ると神殿はちゃんとした教育を行っているのだろうかと心配になる。それともメイが特別で、残念な巫女姫(シスター)はその残念さ故に、神殿さえもいられなくなったのかもと、事件とは別の要因もあったのではないかと考えさせられる程の残念さだ。


「マイリオリーヌ様!神子様の隣にいるちんちくりんのお名前は何ですか!?」


 おい!いまちんちくりんと言ったな!?


「お兄ちゃんのユウキちゃんのことかしら~」

「ユウキと言うのですね!私が立派に神子様を主人として敬う男の子に育ててあげましょう!」


 メイが僕のことを抱き上げたので、思いっきり鼻の頭を蹴り上げでやった。


「ぐぎゃ!痛いですぅ~」


 もう一発お見舞いしてやろうと思ったのだがベッドに戻されてしまった。


「神子様といいユウキといい、乱暴者が多いです!きっとマジク様が悪影響を及ぼしているのですね!」


 楓に与えている影響は自覚があるだけに否定できないのが悔しいが、楓はきっと根っからの乱暴者の素養があるのだと自分を正当化するのを忘れない。いつになったら昼寝ができるのかと、僕のことを布剣でペシペシし出した楓と騒がしいメイに途方に暮れた。





次話 「メイとディナスと」

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