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異世界Baby  作者: 本屋
72/112

72、兄としての尊厳


 ベットで僕は一人でお座りをしていた。赤ん坊の姿でいる時に一人でいることはまずないのに、なぜか一人だった。ぼーっとしていたら巨大な影が僕を包み込む。見上げるとそれは大きなアキちゃんだった。僕の体の十倍くらい大きな姿で僕を見下ろしている。怖かった。アキちゃんに抱いた恐怖は、追い込まれて能力を選択をした時以来だ。あの時は本気でおもちゃにされ殺されるかと思った。あの時のどうにもならない絶望的な恐怖が蘇る。


「うばぁばばー♪」


 耳が痛くなるほどの大きな声の宇宙語。何を言っているのかは分からないが楽しそうだ。


「ひぃー!」


 僕を一飲み出来そうな顔が近付いて来て、僕の体の横に手が押し当てられる。アキちゃんが手を付いた振動だけで、僕の体が宙に浮いた。一握りで潰されてしまいそうだ。僕の頭ぐらいの大きさのキラキラした円らな瞳が僕のことを興味津々で見つめてくる。


「うばぁー!」


 ミルク臭いアキちゃんの吐き出された息だけで、お座りしていられずに後ろにひっくり返る。体が竦んで動けない。もうダメかと諦めかけたその時、もう一つの大きな影がさす。


ぷっぷぅ~♪


 ビッグ楓の登場。僕を挟み込み感じでビッグな二人が対峙する。頭の上で宇宙語とラッパの応酬が繰り広げられる。少しずつ二人の距離が近付いてくる。ビッグな二人は迫り来る壁のように徐々に迫って来た。ビッグな二人のあんよに僕の体が挟まれて揉みくちゃにされる。


 やめて潰れちゃう~!


「つぶれちゃうでちゅー!はっ!」


 視界が薄暗かった。ビッグなアキちゃんと楓はいないが挟まれている圧迫感は変わらずにある。左右に標準サイズのアキちゃんと楓が僕を挟み込むように抱き付いていた。


「ふぅ~ゆめでちたか………」


 あんな夢を見てしまったのも、二人に圧迫されていたからのようだ。二人とも体温が高いのでくっつかれていると暑く感じるが、無理に押しのけて起こしてしまうのも気が引けたので、動かずに二人の可愛い寝顔を観察しながら眠気が来るのを待つ。アキちゃんが唇をムニムニさせていて可愛いかった。アキちゃんのムニムニ唇指先で触って遊んでいると、口が開いて白いものが見えた。


「!!!!!」


 アキちゃんの唇を指で広げると下の前歯が生え始めていた。慌てて自分の口の中を触ってみるが、歯は生えていていない。


 ガーン!


 ショックだった。双子のはずなのに、僕の方がお兄ちゃんなのにアキちゃんの方が先に歯が生え始めている。僕の歯茎はまだツルッツルだ。歯が生えてきそうな素振りもない。先ほどの夢を思い出した。大きくなったアキちゃんに襲われる夢だ。不安になってきてアキちゃんの手のひらを広げで、自分の手のひらと重ねて見た。


「ぼくのほうがちいさいでちゅ………」


 僅かな差だが、アキちゃんの手のひらの方が大きかった。血の気が引いた。取り返しのつかないことをして来たのではないかと思考が一瞬止まる。


 まさか、マジクでいる時間が長いせいなのか?


 僕達は二卵性の双子なのだから個人差はあって当然なのだが、成長の差が個人差だと済まされるほどポジティブな性格をしているわけではない。ゾッとする。このまま今の生活を続けていて、アキちゃんの年の離れた弟と勘違いされる未来を想像して。


 絶対にまずい!兄としての尊厳が!


 気になりだしたら止まらない。楓なら起こしても平気だろうと、楓を押し退けてスペースを作るとアキちゃんの頭のてっぺんから足の先まで手のひらを使って測っていく。一つ二つと数えていると、後ろから楓が覗き込んで来た。やはり起こしてしまったようだが、相手をしている暇はない。約十手のひらがアキちゃんの身長だ。次に慎重に自分の頭の先から測っていく八つ九つ。十手のひら目が半分も満たない。そんなはずはないと、もう一度アキちゃんを測り直す。十手のひらが確実に測れた。きっと自分で自分を測るのが上手くできていないのだろう。もう一度慎重に手のひらをあてて測っていく。九手のひらとちょいになってしまった。十手のひらなんて、全く足りない。焦りが出て来る。そんなはずは無い。何かの間違いだともう一度とアキちゃんを測り直そうとしてら、楓がアキちゃんの頭の手のひらで、ぺしっと叩いてしまった。僕が何度も手のひらをあてていたのを真似したのかも知れない。


「うぎゃー!!」


 アキちゃんが起きてしまった。手足をばたつかせて、愚図り始める。


「うぁー、はかれないでちゅ!なんてことでちゅ!うわぁーん!」


 不安と恐怖で頭が一杯で思わず泣いてしまった。楓が僕の頭を泣き止むまで撫で撫でしてくれた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 王都滞在の六日目は延長滞在の一日目で、王都のレイモンド卿の屋敷に招待されている日だ。そんな日の朝日が昇るのを僕は王都の時計塔の一番上で眺めていた。隣には楓が密着していて二人でシーツを被っている。綺麗な朝日を見ていると僕の存在が汚く浮き彫りに感じる。

 それでも今日だけはここで一日をユウキとして過ごすつもりである。結果的にレイモンド卿との約束は反故になるとしても今日一日はマジクになるつもりはない。

 朝日を浴びながら哺乳瓶をあおる。母に沢山の哺乳瓶を用意してもらった。この時間はまだ肌寒かったが、楓の体温とシーツに(くる)まってるのもあって心地良い。楓は夜中に起こしてしまっこともあって今はすやすやと可愛らしい寝顔を見せている。

 マジクに変身するのは、生活のためにお金を稼がなければならないからだった。それなのにお金を稼いだことが一度もないのが現状だ。幼竜の素材の換金代は様々な状況が重なった結果であって稼いだと言う考えは持っていない。当初の目的とは違ったが様々な人達と関わり合いになることで家族の生活が豊かになっている。いまも家族に対して多くの人達が気を使ってくれているし、お金を稼ぐ以上の待遇を受けている自覚もあった。今後もお金は稼げなくてもマジクという存在が必要とされて、家族の生活が保護されるならば良いかと考えていた。だがいまは不健全さを感じずにはいられない。マジクに変身した当初の目的は職を手にして家族と恙無(つつがな)く生活するのが目的だったはずだ。必要に迫られて多彩な能力を得て高い能力が多くの人達の目についてしまったのが始まりで、今では王国でトップの権威を持つ人達にまで目をつけられてしまっている。マジクの姿でいる必要性が高まり、その結果がアキちゃんとの成長の差に出てしまったのだ。あの怖い夢が僕に潜む危険を教えてくれたのだと、夢の御告げを無にしないように行動に起こしたのである。

 行動とは何のことはない、必要以上のマジクになることを減らすことだ。本来の予定にはレイモンド卿との接見はなかったのだ。これは予定以外のマジクとしての行動であり必要のないものだ。トライセルには必要のあることかも知れなくても、自分の能力の一端を知ることが出来たとしても、それによってよりレイモンド卿に目を付けられるとしても、ユウキとしての大切な時間がマジクとしての行動を求められて奪われるのでは割に合わなくなったのだ。それ程いまの自分にとってユウキでいる時間が大切になったということになる。単にマジクでいる時間よりユウキとしている時間の大事さに気付いたのだ。


「もうすでにとりかえしのつかないじかんをうしなったでちゅ」


 朝日にちんまい手のひらを透かしながら、アキちゃんとの成長の差を思い出す。


「でもいまならまだまにあうはずでちゅ。あにのそんげんは、なんとしてもまもらねばならないのでちゅ」


 透かした手のひらを強く握るのは意志の表れだった。生きるために選び得た能力で生活の基盤を築けたのは確かで、今でも能力を使った生活に異存なくしては生活が送れない。頼らずにはいられないが自重すら出来ずにいる過ぎた能力たちを省みる必要があった。


 <前世の記憶を引き継ぐ><自動翻訳><危機察知3><複製能力><変身能力><?????????> <スクリーンショット><剣術能力9+Ω><家事能力9+Ω><全属性∞><全魔法特性9+Ω><フィルター>


 目の前に選択された能力の数々はどれも、必要で今の生活を支えているものばかりだ。一部趣味方面に能力の使われる比重が色濃いものもあるが、選んだ時に自重していれば、いまの立場には至っていなかっただろうと思いはする。過ぎた能力達が原因で今の結果を招いているのは間違いなかった。


「なげいても、あとのまつりだというのは、わかっているのでちゅが………うん?なんでちゅか、あのけむりは?」


 能力たちを映し出しているウインドウの背景に黒い煙が空に向かって伸びていた。


「もしかして、かじでちゅかね?」


 シーツの温もりから抜け出して時計塔の外壁の段差によじ登り、外側に身を乗り出す。塔の下で多くの人達が慌ただしく走り回っていた。


「やっぱり、かじでちゅかね~だいじょうぶでちょうか?」


 煙がどんどん大きくなっていくと、ぼんっと小さな爆発が起きて、黒い煙の塊が空に向かって丸く膨らみ上がった。

 何か出来るだけの力があって、マジクの姿で使うことに長けてしまった自分がいる。もしいま誰かが僕の力を必要としているならば、それはユウキの時間と天秤にかけるまでもなくやらなければならないことだ。


 <変身能力> ➡︎ マジク


 マジクの姿で人目につくつもりはなかったので服を持って来ていない。楓を包まれたシーツから出して背負うと、楓の姿が隠れるようにシーツを体に巻いた。着ていたベビー服を頭から被って、顔を半分隠すと時計塔のから跳んだ。


 【 かぜよ 】


 時計塔に向かって風の魔法をぶつけると推進力が生まれた。目指すは火元らしき建物の近く。風の魔法をうまく使って方向と速度を調整して目的の二つ隣の建物に着地する。


 【 みずよ 】


 頭から水をかぶり、火の粉が燃え移らないようにする。背中がもぞもぞしだした。


「あっごめん楓。少しだけ我慢してな」


 もう一つ隣の屋根に飛び移ると、水の魔法を煙の出ている建物に数度打ち込んだが、目に見える効果が見受けられない。大きな魔法は目立つと思って躊躇したが効果が得られないのであれば仕方がない。


 【 大水おおみず


 先程よりも大きい水の塊を火元の建物の上空に打ち出して自由落下させる。かなりの水の量が建物に流れたが、煙が収まったのは一時的で直ぐに煙の勢いが元に戻る。もっと多い水ご必要のようだ。


 【 豪雨ごうう


 前世のゲリラ豪雨をイメージすると、バケツをひっくり返したような、視界が真っ白にる雨が建物に降り注いだ。建物の下から悲鳴が聞こえて来て、建物の近くにいた人達が火元の建物を中心に外に流されていく。もくもくと上がっていた黒い煙はすっかり消えていて、白い蒸気が上がり始めた。


「あそこに誰かいるぞ!」

「アイツが火を消したのか!?」

「なんか怪しいぞ、アイツが火を付けたんじゃないのか!?」


 下から聞こえてくる言葉には全て怒気が含まれていた。突然の大量の水の贈り物に怒りを買ってしまったようだ。

 うんやり過ぎた。

 背中で暴れている楓の抗議もあるので、この場から逃げ出すことを選択する。濡れたシーツでは動きづらいので、やむ負えなく少しシーツを捲って火事を起こしていた建物から遠ざかるために隣へ隣へと屋根を飛び移る。


「キャー!変態がいるわ!」


 下から女性の声が聞こえた。確かに真下から見られれば丸見えである。

 ここは逃げの一手である。

 早朝の王都に、次々と女性の悲鳴が広がっていった。




次話 「【+Ω】の謎」

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