65、王都のダンジョン
午後は特に予定もないので、楓と二人で王都の西側をまったりと歩く。今日は曇っていて肌寒い。この世界にも四季があるのか知らないが、生まれて初めてこの世界の外に出てから、気温が変わって来ているのは間違いない。今日も一枚多く服を着て来たのに寒さを感じる。
長居したくなかった学院をさっさと出て、南に歩いて行くと武具関係や薬品などの商店が多くなってくる。歩く人に冒険者を見受けられるようになってくると、王都にもダンジョンがあることを思い出した。王都のダンジョンはナンバリングのNo.1である事もあって一番歴史のあるダンジョンと言われている。歩みを進めていくと商店と人がより多くなり、活気がより高くやなっていく。一目で歴戦の冒険者とわかる風貌や雰囲気の人達が見え始め、商店の鉱石などの買取価格などを見て、ピークトリクトの買取額との差を見る。若干王都の方が平均的に買取が高い感じだった。暫く眺めながら歩いていると広く開けた広場に着いた。
「ピークトリクトのダンジョンも活気があるけど、王都のダンジョンはそれに輪をかけて賑やかだな」
広場には露店が並び、飲食物、携帯食、薬品類、雑貨、ダンジョン探求によく使われている道具の数々をそれぞれ専門に扱う店が数多く並んでいる。
僕はまだ専用の道具を持たされていないが、そのうちペラム家のお下がりが貰えることになっている。お下がりといってもペラム家の道具だけに最高級のもので、使い込まれているものだ。ペラム家の地下にある練習場で何度か使ったがとても使いやすく手に馴染んだ。僕の場合は<危機察知3>がある事もあって、命を脅かす罠は大概前もって分かる。なので隠し部屋や隠し通路などを導く仕掛けを見つけるのに、技術と知識を集中しているところだ。
露店を見て回っていると、ダンジョンの入口と思われる開けた場所に出た。冒険者の怒号や管理している騎士が、忙しいのか慌ただしく動いているのが見える。初めは活気があって賑やかな様子だと思っていたがどうも様子が変だ。
「おい!手配はどうなっている!?まだか!」
「学院にも使いを走らせている!もう少し待て!」
何かあったようだ。どうするか迷うが、話だけでも聞こうと、明らかに野次馬の商人の元に近付く。
「何かあったんですか?」
「ん?ああ、どうも学院の子がダンジョンの仕掛けにはまっちまった見たいたぜ?」
「え?それ大丈夫なんですか?」
「最上層みたいだからな、危険は少ないだろうって話してるの聞こえたぜ。壁から声も聞こえる見たいだけど、実際どうなんだろうな」
「………そうなんですか。ありがとうございます」
ダンジョンの入口の横で騎士が何人も話し合いをしている。ガルドーが騎士はダンジョンに関しては素人だと言っていた。冒険者が二人いるが、人が集まるのを待っている節を感じる。
「楓?ちょと寄り道するよ」
何食わぬ顔でダンジョンの入口に入る。
「おい!おまえ!?」
声を掛けられたのを無視して走り出した。最上層なら凶悪な罠は殆どないはずだ。レクナハルバートを装備して発動する罠には対処する。発動する罠は飛び出してくる石や矢など、当たりどころが悪いと死に至る事もあるが、通路も広いので発動してからで十分反応できる。レクナハルバートで罠から射出されたものは背負う楓のことも考えて、全て切り刻む。
きゃきゃ♪
楓のお気に召したようで、はしゃぐ声が聞こえてくる。暫く走っていると冒険者の姿が見えたのでレクナハルバートをしまう。
「すみません。学院の子が罠にかかってしまったと聞いたのですが?」
「ああ、その先の通路を右だ。お前は外から来たのか?救助の手配はどうなってる?」
「まだ時間がかかるかも知れません。それを伝えに来ました」
「そうか、すまんが現場にも伝えに行けるか?赤ん坊を連れていて悪いが、この先に罠はないから安心してくれ。君みたいな子に伝言を走らせるなど、まったく何をやってるんだ。俺も外に催促に行ってくるので頼む」
「わかりました。僕のことは気になさらずに、それでは」
罠かないなら好都合。思いっきり走り出す。直ぐに人集りが出来た現場に辿り着く。
「落ち着きなさい!もう直ぐですから!大丈夫ですよ!」
文官風の女性が壁に向かって大きな声を上げると、壁に耳を当てていた。壁の向こう側と会話をしているようだ。冒険者の何人かと他の文官風の男性が僕のことに気付く。
「君は一人か?」
「はい、すみません。伝言を頼まれました」
「そうか、伝言は何と?」
「もう少し時間がかかるみいたいです」
「何をやってるんだ、外の連中は?もしも改変が起きたら、手遅れになるかも知れないんだぞ」
「どうも、対応にばたばたしているようで」
「そうか伝言ご苦労だったな。伝言の証明はいるか?」
「いえ大丈夫です」
「赤ん坊の世話中に、ご苦労だったな。この後は任せてくれ。気を付けて戻ってくれ」
「はい、でもこの場の安全の確保も含めて、周辺を確認してから戻ります」
「それは、助かるが大丈夫か?」
楓のことを気遣ってくれているのがわかる。
「大丈夫です」
現場を後にして奥に進む。現場に着いた時から、少し先に通路があるのが見えていた。距離して二十歩。壁沿いに沿って、学院の子が罠には閉じ込められた空間が繋がっている可能性がある。ならばやる事は一つ。レクナハルバートを装備して壁を斬る。手応えを特に感じなかったのでそのまま、斬り刻む。壁に人一人入れるだけの穴を開けると子供の叫び声が聞こえて来た。
「楓。静かにな?」
穴から中を覗き込み赤い発光体を複数確認すると、躊躇することなくレクナハルバートをかまえて突っ込んだ。赤い発光体は魔物の目。多足の巨大なムカデのような魔物が三体、三人の子供を囲っている。
「来るな!化け物!!」
「開けて!早く開けなさいよ!!」
「お母様!お母様!!」
ギギギギギィ
僕背丈の二倍はある巨大な虫は顎を鳴らして、子供達を威嚇している。
以前ガルドーから教授された魔物の特徴に似ている。もしその魔物だと剣による攻撃は大きなミスに繋がるので、確認のためにも背後から魔物の足を切り落とす。
ブシャー
足から体液が飛び出し、床から煙が上がる。魔物達のターゲットが僕に向く。レクナハルバートで切り倒せば、暴れられて体液を撒き散らかされると学院の子達に被害が及ぶ。レクナハルバートを腕輪に戻して、やむ終えずに魔法を選択する。
【 氷結 】
魔物を切り落とした足ごと、溶け出して煙を発する床も氷漬けにする。出来た氷塊を足場にして魔物の体を飛び越えると、子供達と魔物の間に立った。先程まで叫び声を上げていた子供が一人気絶している。
【 剛風 】
もう二体を風の力で弾き飛ばし、距離を作る。
【 鉄壁 】
魔物との間に鉄の壁を築くと、背後の壁を斬り刻んで蹴飛ばし子供達の脱出経路を確保する。呆然とする子供の様子を一瞥して大きな怪我は無いことを確認すると、後は壁の向こうの救助隊に任せることにして、自分で築いた鉄の壁を三角飛びで飛び越えた。
「お待たせしたね」
三匹の魔物が鎌首を向けて来る。ガルドーから聞いていたこの魔物はダンジョン下層の罠でよく見られると聞いていた。最上層に下層の魔物の出現は疑問に思う。
【 氷結 】
残る二匹も含めて三匹とも、動きを封じるために床の接地面ごと氷の塊に閉じ込める。体半分の動きだけで襲いかかってくる魔物の攻撃を躱して背後に回り込む。動きを封じられた魔物を放置して奥に続く通路に向かって歩いて行くと、通路の奥で先のダンジョンの様子が変化していた。
「神の悪戯なのかな、もしかして?」
ペシペシ!
そう言えば楓はダンジョン生まれかと、ダンジョンにいることで興奮している楓を落ち着かせようと少し構ってあげる。
中層と下層の区別は僕には判断出来ないが、下層の魔物がいる事を見ても神の悪戯で下層が迷い込んでる可能性が高い。上層部に下層部が紛れ込むのは珍しいと言っていた。それも今回は最上部だ。少し気になったのでレクナハルバートを装備して、ゆっくりと進んで行くと靴が落ちていた。サイズが小さく子供のものだ。悪い予感がする。先ほど助けた子供たちは全員靴を履いていた。となればこの靴の持ち主がまだダンジョン内に取り残されているということになる。
罠と仕掛けに注意しながら、もう暫く進んで行くと扉が見えて来た。何度も見た事のある試練部屋の扉のようで、しかも片方の扉が開いている。子供達が興味本位で開けたののだろう。扉を覗き込むと多足の大きな蜘蛛のよう魔物がいた。蜘蛛が糸を紡ぎ丸めている塊が人の形に見えて、迷わず試練部屋に滑り込む。レクナハルバートで無防備に後ろ姿を晒す魔物の体を一刀両断する。紫色の体液を撒き散らし崩れて動けなくなった魔物を確認し、ベトベトする粘着力の高い繭の糸を慎重に少しずつ切って繭を開けると、血の気のない顔面蒼白な女の子の顔が出て来た。回復魔法を二度唱えると少し赤みがさして来て、なんとか間に合ったことに安堵する。繭を切断しながら引き剥がして行くと子供ながらにも細かい意匠がされた鎧などが見えて来たので、手間を省くために鎧ごと繭を切断して女の子の体を繭から取り出す。高級そうな鎧だったが、回収は諦めて腰に下げられていた剣だけ回収する。呼吸が苦しそうだったので鼻や口の周りの細かい糸やベトベトを取り除くと呼吸が落ち着いて来た。顔から髪の毛までベトベトで洗うのが大変そうだが、命が助かっただけ良かったのだろう。
ふと女の子の繭があった壁に大きな窪みがあるのに気付く。繭の残りを斬り刻むと壁の台座に嵌め込まれた大きな宝石が現れた。この女の子が宝石を取ろうとして魔物が出現したのだろう。逃げ遅れた女の子は蜘蛛のような魔物の餌食となりかけ、他の子供は仕掛けに部屋まで逃げたことを予想する。台座から宝石を外して、僕が切断してしまった鎧の代金になればと女の子の服のポケットに忍ばせる。手のベトベトを少し壁などに擦りてけて、女の子を抱き上げると試練部屋を後にする。ムカデに似た魔物を氷で移動出来なくした部屋に着き、空けた横穴から出る。
【 火炎流 】
放っておいて誰かが二次被害にあうと寝覚めが悪いので、部屋の外からムカデに似た魔物を焼き尽くす。通路に出ると壁から覗き込み救助の冒険者がいた通路を確認する。先程の子供の達を抜け出させるために空けた穴のに冒険者達が入って行くのが見えた。火の魔法を使っことで注意が中に向いたようで好都合だった。穴の近くまで素早く移動すると壁に女の子をもたれ掛けさせて、戻って奥の通路に身を隠す。
「おい!女の子がいるぞ!」
楓を一旦下ろし、蜘蛛の魔物の粘液でベトベトした服を一枚脱いで楓を背負い直す。そして何食わぬ顔で通路に出て行く。まだ冒険者と文官の身なりの二人が残っていた。
「良かった。助け出せたんですね」
「君か。誰か見なかったか?」
「いえ誰とも会いませんでした。周辺を確認しましたが特に危険はなさそうです」
「そうか、ならばもう子供達は助け出せたので撤収するぞ」
「それは良かった。他の方々は?」
「先に三人の子供が助けられたんだが、気絶していた子もいたので既に外に運ばれた。まだ一人足らないということで、俺達が残っていたんだ」
「本当に良かったよ。大事な子供さんに何かあったら、取り返しのつかないところだった」
「さっきの子供達も、よっぽど怖い目にあったんだろう。この子のことを聞いても口を閉ざしていたな」
「この子も何があったんだろう。こんな姿になって」
ダンジョンに出るまで、安堵の言葉や憶測など色々と会話がされていたが、相槌を打つだけに留めておいた。ダンジョンの出口で、救助した女の子を抱えた体の大きな冒険者の背に隠れる。僕は少女が助けられたことで歓声が上がるどさくさに紛れてこの場を後にする。
「さあ帰ろう楓。手もまだベトつくし。服も洗わなきゃ。これ明日までに乾くかなぁ~明日の対決に着ていけるような仕立ての良い服は、これしか無いよ。あんな奴に会うぐらいなら、いつもの服で十分だったな~」
僕の言葉に、学者との聞き取りを思い出したのか楓が興奮し始めた。
「今日のことは、もう忘れようぜ楓」
次話 「間幕 継承権を持つ者」




