61、ダンジョンの神が祀られし所
また泣かれたら面倒なので、メイと呼ばれていた女の子の手を振りほどくわけも行かなくなり、メイの言われるがままに神殿に連れて行かれ、いまそのメイの両手に顔を挟まれている。額の紋様が見えるメイの目線から逃れようと顔を背けてばかりいたら、よく見えないと頭をホールドされたのだ。
メイはバーナデットと似たくらいの背丈で、大きな青い目と薄い緑色の髪が特徴的女の子だ。長い髪を幾つかに分けて結いていて、大人になっても可愛いままで育ちそうな感じをしている。
「なんて書いてあるのでしょう?やっぱり読めませんね………」
読めないのかよ!
どうも紋様は見えるが書いてある文字までは読めないようだ。僕が早とちりしていたことに、深くため息を吐く。あの場で深読みをせずメイから逃げなければ、こんな状況にならずに済んだのかもと後悔をする。自分で面倒事を大きくしただけだったのだ。
「それでも貴方様が特別な方だということは分かりますので!さあダンジョンの神に懺悔しましょう!」
「なんでやねん!」
「なんでやねん?」
思わずツッこんでしまった。
「いや懺悔ってなに?」
「貴方様は嘘をつきました!あまつさえ誤魔化した罪を懺悔するのです!」
「ダンジョンの神だよね?」
「はい、そうです!この世界の生業を大きく占めるのはダンジョンの神なのです!その神の許しを請わずして誰に請うというのですか!?」
王国民の約二割程がダンジョンの神の信仰者とは聞いていた。それでも最も信仰者が多いそうで、ガルドーのように剣の神とダンジョンの神を同時に信仰する多層信仰が王国民の大半を占める。この世界の者達が複数の神を信仰する根本には、多くの能力や属性の神に祝福されることによって多くの力を得ることが出来ると信じているからだ。例えば、生まれて直ぐに水属性の神に祝福されて髪の色が青色に変わり、剣の神に祝福されて<剣術能力>を得た者は、祝福された水属性の神と剣の神を共に信仰するといった感じになることが多い。祝福されたことで得られた能力に対する恩は信仰を持って返す。それによってより神に愛され能力の向上が得られると信じているのだ。よって得ている能力の多い者ほど複数の神に祝福されて、信仰を持って祝福に応える多層信仰者が多くなる。またその一方で少数派になるが魔法を主に生業としている者は己の属性にそぐう属性の神のみを信仰することで、より深く愛されて特化した魔法の向上に努めようともする。剣の道のみを極めようとする者は剣の神のみを信仰するといった単一信仰する者もいた。能力や属性が与えられるのは神に祝福されたからであるという考えが、この世界での信仰の礎になっているので、信仰される神は数多くなるのだった。
メイはダンジョンの神の巫女だけあって、ダンジョンの神のみを信仰している。王国でダンジョンに関わることのみでお金を稼ぎ生計を立てている者多くはダンジョンの神のみを信仰していた。王国でダンジョンの神を信仰する者が約二割程いるということは、王国民の約二割程がダンジョンに関わることのみで生計を立てていることになるのだ。それともう一つ、ダンジョンの神のみを信仰する者が多い理由がある。ペラム家などがその理由に当てはまり、<秘宝狂い>や《名奪い》の能力は、ダンジョンの神に深く愛されていることにより得られていると信じられていた。ダンジョンの神は、信仰することでダンジョンにて宝をもたらしてくれるという考えだけに留まらず、ダンジョンで与えられる試練に必要な多種多様な能力を与えてくれる万能な神として崇められているのだ。この二つによってダンジョンの神は多くの単一信仰者を得ているのだ。
ダンジョンの神の巫女であるメイはそれを知っていて、信仰心が高いか故に何かとダンジョンの神の思し召しと結びつけたがるようだった。ダンジョンの神の神官や巫女が皆同じ考えを持っていなければ良いと心の底から思う。ペラム家がダンジョンの神のみを信仰している以上、僕も深い関わりを持たざるを得ないからだった。
「さあ懺悔を!」
メイが優しく僕の額に手を当てて目を瞑る。
「崇高なるダンジョンの神よ!この者の罪をお聞きください!」
「こんなに皆んなが見ている前でやるの?」
「ダンジョンの神の前で恥ずかしがることは有りません!」
「あっちに懺悔室っ書いてあるよ?」
「ダンジョンの神は場所を選ぶことは致しません!」
「因みに神殿のど真ん中で、懺悔した人って居るの?」
「聞いたことも有りませんが、ダンジョンの神の前には些細なことなのです!」
楓すまん、僕は残念シスターに捕まってしまったようだ
ピプゥ~♪
「お前さん、諦めてさっさとやらないと、どんどん人が集まってくるぞ?」
「他人事だと思って………嘘をついたことを懺悔します」
「誤魔化したこともです!」
「………誤魔化したことを懺悔します」
「メイを泣かせたことも懺悔なさい!」
「………あの調子に乗ってないよね?」
「背負っている赤ちゃんに恥ずかしくないのですか!?懺悔なさい!」
ピプゥ~♪
「楓は関係ないだろ?ちくしょう、泣かせたことを懺悔します!」
「崇高なるダンジョンの神よ!この者の度重なる罪を許し給え!」
メイの指が僕の額に何か文字を描く。優しく走る指先は少しこそばゆかった。
「貴方の罪は許されました!」
周りで見ていた信者や神殿関係者が騒めく。
「おお、流石はメイ様だ」
「メイ様の信仰の深さをこの目で見ることが出来ようとは」
「あのような怪しいやつの懺悔をお聞きになる、メイ様の何と慈悲深きことか」
「メイ様の神々しさは、ダンジョンの神に深く愛されている、まさに証拠」
「メイ様可愛い」
どうも良いようにダシに使われたようで少し面白くない。メイも口元がニヤニヤしているので、確信犯なのだろう。それにしても、神殿でのメイの認知度は高いようだ。外で見つかった時も護衛のようなお付きの者が四人もいたし、メイはダンジョンの神の神殿でかなりの高い役職なのかも知れないと目の前女の子を少しは見直したが、やはり面白くない。
「あんまりニヤニヤしてると、周りにバレるぞ?」
「はっ!何をおっしゃいますか!?」
図星だったようで、メイは体を仰け反らせてまでして慌てる。僕が周りに目を向けると、メイも周りに信者や神殿関係者が思ったより多く集まっていたのを見て少し尻込みしてしまったようだ。
「コホン!貴方にはダンジョンの神の信仰を教授する必要があるようですね!あちらに行きましょう!」
「嫌だよ、行かないよ?」
「え!?なんでですか!?」
「もう用は済んだんだろ?面倒臭そうだから僕は帰るよ。茶番に付き合わされるのは御免だね」
ピプゥ~♪
周りがざわざわしだす。
「ふぇ」
メイが涙目になった。
「あー分かったから!泣くな!ついて行くから!泣くなよ!」
「グスン」
「ほら、どっちだ?行くぞ」
「あっぢぃ~でず」
ともかく、人目の多いこの場所はよくないとメイの指差す方向に逃げるように、この場から立ち去る。
メイに案内されたのは、執務に使うような机がある一室で扉にメイの名前があることから、メイに与えられた専用の部屋と思われる。やはり神殿の中でもかなり高い役職が伺える部屋の佇まいで、部屋に入ってすぐに、奥の扉から綺麗な女性が現れた。
「メイ様、早かったわね?」
「ただいまです!ユキエ!」
ユキエと呼ばれた女性は、つり目がちで気の強そうな印象を受けるは美人だった。修道服で良いのだろうか、ゆったりした神殿の服はスタイルこそ見分けにくいが、大きく張り出した双丘は隠しきれずに主張していて、かなりのダイナマイトなスタイルと思われる。つり目の下の泣き黒子が印象的だ。
「それで、こちらのお客様は?」
「うん!?そう言えば名前を聞いていませんでした!」
「はぁ~貴女ねぇ、名前も知らない人を自室に連れてきてはダメでしょう?失礼ですがお名前は?」
「うっかり八兵衛です」
ピプゥ~♪
「……………………」
「変わった名前ですね!うっかり様!」
メイは信じたようだが、ユキエは信じていないようだ。
「嘘にきまってるでしょ?メイ様」
「え!?………あっ!貴方は!また嘘を付いたのですか!?このバチあたりな!」
「そちらのお方に聞いた方が早そうですね?」
「こやつがマジクで、ワシはガルドーじゃ」
「あら、マジク様に、ガルドー様って………」
ユキエが顎に指先を当てて、考えるような素振りを見せる
「マジク様にガルドー様ですね!覚えました!」
対してメイは能天気な感じだ。
「もしかして、背後の赤ちゃんの名前は?………」
「あ~ユキエ!メイは知っていますよ!マジク様が楓ちゃんと呼んでいました!」
ピプゥ~♪
楓が名前を呼ばれて返事をするようにおもちゃを鳴らす。
「やはり………ダンジョンの神子様」
「あちゃ~」
僕はユキエの口から出た言葉に思わず、項垂れてしまった。
「ん!?ユキエ、ダンジョンの神子様って何ですか!?」
「一月程前にダンジョンで保護された赤ちゃんのことよ」
「え!?それって!前にユキエが言っていたやつじゃ!」
「そして、ダンジョンの神子様の保護者であり、ダンジョンの神に招待されしマジク様と剣王ガルドー様ですね?」
「いかにも」
「いいえ、僕は違います。たまたま同じ名前の人違いです」
「あら、おかしいですわね? <全属性>の黒髪の少年で、同じく黒髪の赤ちゃんを背負い、竜殺しを成し遂げ、かのペラム家の令嬢に《名奪い》され、最高位の<剣術能力>と<刀剣術能力>まで登りつめ、希少な能力を複数持ち、ダンジョンの試練部屋を三度も乗り越え、竜人様にも認められ、天神海領のお姫様を救ったマジク様ではないと?」
大変です。僕の個人情報が流出しています。どこに訴えれば良いですか?
「あ!だからか!額に紋様が浮かび上ってるのは!」
「え!?何のこと!?メイ様!?」
「マジク様の額に紋様が記されているの!先ほど外でそれを見かけてお連れしたのよ!」
「まさか!どの様な紋様なの!?」
「えっとグルグル動いて読めないんですけど!どこかで見たことあるような気もしますね!」
「まさか、それは神祠にある文字じゃないでしょうね!?」
「あっ!それだ!流石はユキエ!」
メイの返答を聞いたユキエが、ふらついてメイを押し倒しながら気を失うのを僕は見ていることしか出来なかった。
次話 「神語」




