60、散歩
王都区に入るのにもバルジニア領に入った時と同じような審査を受けることとなった。多少は審査官の目付きが厳しかったが、滞りなく済んだので予定通りの移動五日目に王都区に入ることが出来た。王都区は高い壁に囲まれた巨大な街である。街の中心には王城があり、王城を取り囲む城壁の中にある広い土地には王城や王族に連なる者の宮殿も建っていた。
王都区は門を潜ったそばから賑やかな街並みとなっている。これは壁で仕切られた制限ある土地の中で、人口が飽和していることを意味した。既に新しく家を建てるだけの土地もなければ、壁の為に広げることもできない。それ故に王都区の外にも幾つもの集落が出来ているが、壁一枚に隔たれただけの距離でもあっても、王都区民ではなく領民となるので、王都区に入るには審査を伴うため気軽に出入りしようとする者のはいない。
壁の中の者たちは、同じ平民であっても自分達を誇り、壁の外の平民たちを下に見る。壁が人の心も阻む弊害となって、数百年時を経ていた。
「やはり、視線を感じるのう」
「ガルドーさんは人気者ですね」
「お前さん、可愛げがなくなってきておるのう」
「そうかなぁ~ああ、またマイリオリーヌさん立ち止まってる」
「まあ、王都でしか見れぬ物も多いしのう」
「マイリオリーヌさん、今日でなくてもまた見て回れますから」
「マジクちゃんでもね~同じ物があるとは限らないよの~珍しい色の糸よ~」
「そうだぜ兄ちゃん、買うなら今のうちさ!」
「もう、行きますよ!」
「だぁ♪」
「アキちゃんも気に入ったのね~」
「そんなわけないじゃないですか~分かりましたよ買いますから行きますよ」
「お前さんも、なんだかんだで買うんじゃから甘いのう」
「マジク!お菓子売ってた!あそこだ!菓子だ!早く!」
「優雨美様にはもう買いません!両手に持ってるのは何ですか?もう持ちきれなくて、僕の鞄にも入ってるんですからね!」
「ずるいぞ!マイリオリーヌばかり狡いぞ!」
「はい、はい、それでカウタも視線を感じる?」
「いまはなくなりましたが、排除してきますか?」
「いや、もういないならいいんだ」
「マジク?楓ちゃんはお寝んね?」
「うん、寝てるよー。何でだい?」
「楓ちゃんが、好きそうなおもちゃ見つけのよ?」
「寝ちゃってるから、また今度にしようか」
「わかったのよ?」
「あまりあっちこっち歩いて行っちゃダメだよ?ソリュート様の手は離しちゃいけないよ」
「うん?わかったのよ?」
「バーナデット!あれなんかどうだ?」
「トーリ兄?あれは、まだ早いのよ?」
「トーリ、赤子に小さいおもちゃを与える馬鹿がいるか!?飲み込んだら危ないだろ!」
「五月蝿ぇーなあ、ソー兄。そんなことわかってるよ」
「まだ先に何軒もあるはずじゃから、喧嘩をするな。本当にお前さんら兄弟は、バーナデットのことになると見境がなくなるのう」
「そう言えばガルドーさんは、この後行かれるところがあるんですよね?」
「昔馴染みに会いにのう」
「そうですか、優雨美様が興味を持った人が何人かいるみたいだし、お気を付けて。優雨美様を基準にしてこんな話をするのも何ですが」
「面白そうなヤツがいても楽しめないんじゃ意味がないからな!つまらないんだぞ!」
「そう言ったのについてきたのは優雨美様でしょう?」
僕達の集団は大賑わいだった。五日目の昼過ぎに王都に着いてピークトリクト領館に荷物を置いて、王都の街を観光している。明日からは聴取がメインでや食事会や色々と個人単位でスケジュールが組まれているらしく、みんなで一緒に居られるのは今日ぐらいだという。そんなこともあって、旅の疲れは置いておいて、バーナデットに急かされるように王都の街に繰り出した。流石に街に出て来たのは今回王都行きに同行した全員ではなく、ライオネスとスカーレット夫妻は到着早々挨拶回りで、愛海凛と天神海の面々も同じように挨拶があるらしい。愛海凛達は天神海領館に泊まることになるので、今後は顔を会わせることも少なくなりそうだ。滞在も僕達よりも短いと聞いている。
僕達の王都の滞在予定期間は五日の予定で食事に関しては領館でことが済む。旅の支度金もまだあるし、親子三人で王都に来れる機会なんてこの先あるか分からないので名一杯思い出作りをしようとは決めていた。既に<スクリーンショット>で記録も沢山していて、王都で思い出のアルバムはかなりの厚さになりそうな勢いだった。
いまはみんなでの観光ということもあって、ガルドーやレノックスの薦めとあって、メインストリートを歩いている。道幅が広いのに車両の出入りが禁止されている道だそうだ。子供にも安心ということで、親子で歩いている人が多い。まあ、それに合わせて子供や女性の興味を引きそうな物が売られている店が多くなっていた。トーリやレノックスはバーナデットにお菓子を買い与え、ちゃっかり優雨美も買ってもらう。母は子供のようにあちらこちらに興味を持って、店の前に立ち止まってしまう。ソリュートとカウタと僕が、購入した荷物を持ちきれなくなるまで楽しんで、王都に到着した日は終わりを告げた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王都での滞在が始まる一日目の朝。早く目覚めたのもあって朝の王都の様子を見てみたくなった。楓はまだ寝ているが、僕が離れれば目を覚ますので寝かせたまま背負う。カウタに母達を見て貰いうことを告げて部屋を出ると、玄関の前でライオネスの遣い役であり、リリアの父であるワイズに声を掛けられ出掛けることを告げた。
「構わぬが、今日の予定は把握しているだろうな?」
「はい、午後過ぎに王城に出向くことになってます」
「わかってれば良い。だが早めに戻るように」
「はい、周辺を散歩するだけですので直ぐに戻ります」
領館から出ると玄関先の庭にてガルドーが素振りをしていた。紅剣バナードではなく、肉厚の金属の塊のような棒だ。砦にも似たような素振り棒がある。僕が日課に使っているものだが、いまガルドーが使っているものよりも細い棒だ。逞しい筋肉を付けないとガルドーと同じ素振り棒は振ることも出来ないだろう。
「おはようございます」
「どこかに行くのか?」
「この時間の街の様子を見ようかと」
「お前さんなら、大概のことは大丈夫だと思うが、あまり気を抜くなよ?ここは王国の中心地なのだからな。王国中から集まっているものは多彩だ。様々な思惑が集まっていることを忘れないようにな」
「はい。でも散歩程度なので、遠くには行きませんので」
「心配よのう。どれワシもついて行こう。お前さんは用を足しに行ってダンジョン見つけるような輩じゃからな」
ガルドーが仲間になった!いや、心配し過ぎだから!
領館は王城の城壁の外側を囲むように、建てられている。ハ棟の領館が城壁の大門を中心として四棟づつ左右に分かれている感じた。四棟の領館の終わりに城壁の東西の門があり、北に向かって貴族街が広がる。ピークトリクト領館は大門から四棟目の西門に最も近い場所に建てられていた。領館から出ると東は城壁、北は貴族街だ。南は昨日みんなで観光したので、今朝は西に向かって歩き始める。背中が、もぞもぞし出した。楓が起きたようだ。
「楓~気持ちのいい朝だぞ~!」
良い天気に恵まれて朝の日差しが気持ち良い。人が殆ど歩いてなく、昨日の昼間に見た賑わう王都の雰囲気と全く違っていた。
「西の方には何かあるんですか?」
「住宅街や神殿なんかもあるのう。ワシも数年振りじゃから確かなことは言えぬが、王都はあまり変わらんだろ」
「神殿って、ヤバいやつですか?」
「ダンジョンの神を祀る神殿じゃな。ヤバいというのが誘拐の時のことを言っておるなら心配はいらん。ワシらダンジョンを探求する者達は、王都に来たら必ず立ち寄る場所じゃ。ダンジョンの神に良き宝に出会えるようにと願うのが通例じゃからのう」
「そうなんですか………でも第一印象が悪いと中々、気が許せませんよ」
「それは仕方なかろう。だがバーナデットを含めて王都にいる間に行くことになるのは確実じゃて」
「なら、今日はパスですね」
王都の西は住居が多いようで洗濯物を干している人達を多く見かける。背の高い建物の住居が多く、集合住宅のような感じなのかもしれない。生活感が感じられる風景は世界が違ってもゆっくりとした時間が流れているので、とても落ち着く。朝ということもあるのだろうけど体の緊張がほぐれるような感覚は久し振りだった。
「昨日も気付いたのですが、結構黒髪の人見かけますね?王都には全属性の人が多くて良かったです。目立たなくていいですね」
「ああ、そのことだがワシも気になって、昨日昔馴染みに会ったときに聞いたのじゃが、髪を黒に染めることが王都で流行っているらしい。属性の神を信仰する者達から見れば、神を蔑ろにする行為だと批判が出始めているそうだ」
「そうか、傍から見たら僕もその一人ですね~」
「軽く言っているが、お前さんは問題事に直ぐに巻き込まれるのだから、気を付けろよ?」
「髪を染める事が出来るなら、黒髪を別の色に染められますよね!?」
「黒色を他の色に染めるのは、まだ出来ぬらしいぞ。黒に染める事が出来るようになったもの、最近のようじゃ」
「なんだ期待して損しました」
それにしても気持ちの良い朝だ。思いっきり深呼吸して、背伸びをすると目の前から、白い服を着た集団が歩いて来た。五人程の集合なのだが、囲まれるように真ん中を歩いていた女の子が、僕と目線を合わせて立ち止まる。後ろを歩いていたお仲間さんが、急に立ち止まった女の子に何事かと声を掛けた。当の女の子は僕を見て口をあんぐり開けて、間抜けな表情をしていた。
………あ!やばっ!
「なんでちゅかぁ~?楓ちゃま~」
楓をダシにして慌てて顔を背けて、素知らぬ顔で横を通り過ぎる。
「ちょっと!貴方様!?」
あ~絶対ヤバい………
「無視しないで下さいです!!」
振り向きたくない。立ち止まりたくもない。諦めて下さい
「お前さん、呼ばれておるようじゃぞ?」
「聞こえません。もう帰りましょう」
「お願いします!待ってくださいなのです!」
歩くスピードを早歩きにしたのに、真後ろから声が聞こえてくる。追っかけて来ていることに、頭が痛くなった。
「ぐすっ!待って下しゃい………」
「泣いとるようだぞ?」
ガルドーが耳元で囁きかけて来る。ガルドーにも耳元を近付けて貰えるように、わざと聞き取れないほどの声を出す。ガルドーが耳に手を当てて聞き取れるように体を寄せて来た。
「マズイですよ………多分この子は僕の額の紋様が見えてます………」
「それは、確かにマズイのう……だがダンジョンの神の神殿の巫女のようじゃ、背後からも御付きの者達が付いてきとるぞ。泣かすのも面倒なことになるぞ?」
「そんなこと言っても………」
「びえ~ん!」
追いかけて来た女の子が、とうとう泣き出してしまったようだ。泣き声が楓のような赤ん坊みたいで、見た目以上に幼いのかも知れない。
「おい!貴様!メイ様に何をした!」
「言わんこっちゃない………」
走ってきた御付きの者に回り込まれる。帯剣していた剣の柄に手が添えられる。
「………どうしましょう?振り切っちゃいます?」
「後日神殿に行ったときに、見つかったら騒ぎになるぞ?」
「僕が行かなければ済みません?」
「バーナデットの遣い役が行かない訳にも行かんだろう?」
「そういうものなんですか?」
「そうじゃ、札を貰うのじゃが個人の物とグループの物を貰うお守りじゃな。お主の名前がないのは、ペラム家の遣い役として体裁が悪い」
「おい!何を話している!?」
「大人しく話をして、丸く収まりますかね?」
「さあのう………どんどん拗れておるからのう」
「はぁ~分かりました。何かご用ですか?因みに僕は何もしてませんよ」
「嘘をつけ!何もしていないのにメイ様がなぜ泣く!?」
「ん~無視したから?」
「貴様!メイ様を無下に扱ったのか!?」
「そんな大袈裟な~聴こえなかったんですよ。僕はあまり耳が良くないんです」
「小声で話していた奴が、耳が悪いわけなかろう!」
「ああ確かに………」
「貴様、愚弄するのも大概にしろよ!」
「いやいや、僕丸腰ですよ。赤ん坊も背負っているのに剣なんか物騒な物抜かないで下さい」
「剣を持っている連れがいるではないか!」
「この人は知らない人です」
「お前さん、流石にそれは無理があるじゃろ?」
「あ~諦めるの早いですよ。ともかく、争いは好まないのでやめて下さいね。本当に」
「貴様達のような、ふざけた奴の言うことを聞く理由は持たん!」
「そんなこと言わないで、少し落ち着きましょう」
「メイ様!?おやめ下さい!」
「ん?」
クイクイ
袖のあたりが引っ張られる。何かと思って振り向くと、まだ半べそをかいたメイに袖を掴まれていた。
「えへ、捕まえました!グスン!」
「お前さん、諦めよう」
「はあ……………」
次話 「ダンジョンの神が祀られし所」




