55、剣神
何度か指先を開いたり閉じたりして、再生した指先の感触を確認する。目の前に広がる扉の大きさは背丈の五倍ほど。扉の細工には火、水、風、土の属性を象ったものだ。
赤い甲冑騎士で埋め尽くされていた空間には赤い宝石が散らばっている。宝石の数だけ甲冑騎士がいたと思うと、よく倒しきれたと背筋が寒くなるほどだ。既に階段の上に上がって扉よ前に座り込んで三十分は経つ。千は簡単に超えそうな広がる宝石達を取りに行こうと考える者はここにはいなかった。またあの場に降りて赤い甲冑騎士が出てくるのではと疑っているのだ。
それでも、扉を開けて進まないのは進めないからであって、扉の前で立ち往生して十五分は過ぎている。休憩から立ち往生になって三十分は経ったということだ。扉に指先を触れると窪みがあった。窪みには青や銀色、赤と色とりどりの宝石がはまっている。宝石がはまっていない窪みはまだ多数ある。既にカバンの中に今まで拾ってきた宝石は使い果たした。目の前に広がる赤い宝石を見つめて十五分ほどが経ったのだ。
「もう、あれは相手にしたくないですね」
「再び、出現するとは思えないが。見た目の状況に一度欺かれているからな」
「今度こそ、塔に入るときに使った魔法を準備して、試しに拾ってみるかの?」
「それしかありませんかね?」
「俺がやろう」
「はあ、全くもって気が乗らない」
階段の最下段まで降りてくると、思わず愚痴が出た。
「行くぞ」
両手を突き出し準備をすると、カウタが一番近い赤い宝石を拾う。何も起きない。もう一つ拾うが何も起きない。だがまだ階段から手を伸ばして拾っているだけだ。階段の最下段から届く範囲を拾っても扉の窪みは埋まらない。全部は拾う必要は無いだろうが、かなりの数が必要だ。
「あっそうか、拾えるだけ拾って風の魔法で掻き乱して、また近くに動いたやつを拾ってを繰り返しますか?」
「魔法でガーディアンが出現するかも知れんぞ?」
「その時は、ぶちかまします」
「成功すれば良しか。時間は掛かるが確実ではありますな」
「俺が拾おう」
「ではワシは宝石を運んで窪みにはめる役じゃな」
「階段を往復になってしまいますが、すみません」
三人の中でリーチが一番長いカウタが赤い宝石を拾ってガルドーが広げる袋に入れる。拾える範囲の宝石を拾い切りにると、臨戦態勢に入る。
【 暴風 】
壁に向けて放つと奥の方の宝石が巻き上げられ、届く範囲に幾つか動いてきた。甲冑騎士が出現する雰囲気ほ無い。
「よし続けるぞ」
僕が魔法で掻き乱してカウタが拾い、ガルドーが扉にはめていく、これを一時間は繰り返して、やっとのことで空いた窪みが最後の一つとなり、扉の前に集まる。ガルドーの体力の回復を待ってからの突入だ。
「最後の試練であるといいですが、ここに辿り着くまでの過程を考えるとガーディアンが出てきそうですね」
「出だしに、先ほどの光の魔法はどうだ?長く行使しなければ問題無いのであろう?」
「そうですね」
「戦いの場が広いのであれば、入った後に俺は竜となる」
「分かりました」
「ワシは様子見かのう。初撃の後に遊撃に走る」
「ならばキサマは後方から魔法と支援だ。とどめはキサマが刺すことを前提に動く。大きな隙があるなら、近接しても構わないが慎重に見極めろ」
「了解です。相手が一体で無い場合の想定も基本は同じですか?」
「数が多いい場合は、竜には戻らない。魔法を行使するのに邪魔であろう」
「はい、広域での魔法の選択が狭まります」
僕は基本は後衛任務の役割となった。
「そろそろ行くぞ」
「ガルドーさん大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない」
「最後の石もキサマがはめろ」
ガルドーから赤い宝石を受け取り、深呼吸をして残り一つとなった窪みにはめ込む。全ての宝石が光り出し扉の紋様に光が移行する。次第に宝石達の光が失われて窪みからはずれる。宝石たちは床に落ちると粒子となって消えた。扉がゆっくりと外側に開きだす。中は光が溢れていてよく見えないが、少しずつ光が晴れていく。真っ白な部屋の再奥に神殿のような小さな建物があり、その中央の壇上の椅子に座る者がいた。
「よく来た」
白い着物のような服を着た出で立ちに、赤い髪にはキラキラと粒子が舞っている。大きな体格と逞しい腕には刺青のような紋様がある。だが声は男と女が二重に聞こえるピークトリクトのダンジョンにて強制転移で連れて行かれた先にいた美丈夫と似た雰囲気の男がそこにいた。
「竜族と人族の混成か、よくぞ辿り着いた」
ダンジョンの転移先にいた者がダンジョンの神だとすると、目の前の美丈夫も神な可能性が高くなる。そして、神ならば僕の考えていることもお見通しのはずだ。
「その通り、僕には君の考えが見えている。他の神と同じと思われるのは少し違うが間違ってはいない」
カウタとガルドーは膝をついて首を垂れる。二人とも震えていた。
「最後の試練に立つ者として、ぼく自らが望み、この場に来た」
神との二度目の邂逅。僕は膝を折らずに立ったまま神を見つめる。神もまた僕だけを見ている。横の二人には興味が無いようだ。
「その通り」
神の指が二人に軽く向けられると、二人の姿が消えた。
「なっ!」
「君の願い通りに二人は外に出した。僕はあの二人には興味がない。そして、これから与える試練に挑める資格があるのは君だけだ」
嫌な汗をかいてくる。神の言っていることが本当かどうかわからないが、二人が外に脱出出来たなら安堵するべき状況だ。それも二人への注意を割かなくてよくなった分、自分のことに集中出来る。これから何の試練が始まるのかと言う疑問を持てる余裕まで出てきた。
「僕は剣神。剣の最高位の達せし者よ。その力を見せてみよ」
〔 レクナハルバート 〕
剣神の腕が横に振るわられる。吹き飛ばされて二回転転がり、レクナハルバートを構える。強制的に神殿の前から広い場所に場が移された。剣神の腕には赤く透き通る剣が握られている。
「来い」
絶対にかなわないと分かる相手との戦いが始まる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
様子見で撃ち込んだレクナハルバートは簡単に弾かれた。しばらく様子見を続けて斬撃を繰り返し剣神の反応を試す。少しづつ斬撃のスピードを上げていき、力の込め具合も徐々に合わせて上げていく。レクナハルバートとの刃と剣神の剣の刃が、ぶつかるたびに火花が散る。神様も色々いるようだ。剣を撃ち合っている目の前の神様は、前にダンジョンで邂逅した神様とは違うようだ。剣神が答えた「違うが間違っていない」という意味が分かったような気がする。
レクナハルバートの剣筋は全て先回りされて防がれる。変則的な動きも例外なく全ての防がれて、尽くす手がどんどん奪われていく。そろそろ絡めても使っていこうかと魔法を選び行使する。
【 氷槍 】
氷の槍を死角から撃ち込もうとしたのに、氷の槍が発現しない
「僕は、君の剣技を見たいんだ。無粋な真似はやめて貰おう」
全部塞がれるのに剣技を見る意味があるのか、わかりやしないのに、攻撃に魔法を使うのは禁止のようだ。
ならば剣技であまり痛くないのから使っていくしかない。
〔 烈火斬刀 〕
考えてみると痛さを基準にして技を選択している自分がいることにげんなりした。
初動が遅く大きなモーションで隙の多い技だが、相手が受けてくれることを見越した技でもあった。 剣神は僕の攻撃を受けるばかりで、攻撃してこない。
レクナハルバートの刃が炎に包まれ斜袈裟斬りの一刀両断技である。連撃の技ではないので、無理なモーションもなく自分に及ぶダメージも少ないだろうと考えたのが間違いだった。
炎をどうやって生み出すのにまでは考えを至らしていなかった。しかも炎は一瞬だけ発生して消えてしまい、ただの袈裟斬りになって、両腕がとても痛い上に剣も持っていられずに手を放してしまう。
【 回復 】
「君の技はおかしいな。いや異常と言うべきか。ああ、そうか君は痛いのが好きなのか」
「いいえ、違います!」
「おお、やっと口をきいたね」
「随分と気さくな神様ですね」
「言ったろ、少し違うが間違ってはいないと」
「謎掛けか何かですか?」
「難しい話じゃない。君達が考える僕達と僕達が考える僕とでは違うということさ」
「やっぱり、謎掛けじゃないですか」
剣神が笑みを浮かべる。
本当に神様か?いや纏っている雰囲気は間近いなくダンジョンの神と一緒だ。
「さあ続けよう。まだまだあるだろう?試練を越えれば君が欲しているものをやるぞ」
「それは、頑張らないといけませんね」
今更だが、本当に試されることが多い。試練が溢れる世界なのだから、それはそうなのだろうが、本当に痛いの嫌なんです。
「来たまえ」
大きく深呼吸をする。痛い思いをするための心の準備だ
〔 剣鬼・八鬼乱舞 〕
体に八つの鬼神が乗移る八連斬撃。剣神に向かって打ち付ける一撃一撃には、それぞれの鬼神が乗移り、鬼の斬撃を繰り返す。それぞれが一撃必殺の力故に、剣神に受けられた時の自分自身にフィードバックしてくる体へのダメージが半端なかった。途中で気を失いかけるが気合だけで乗り切る。
そして憑依系の大技が使えたことに内心ほくそ笑む。
これはあくまでも布石。
【 回復 】
〔 必中 〕
行くぞ!
〔 降臨剣・剣神散華 〕
体に剣の神を呼び込み繰り出す技。剣神相手に、剣神を己の身に呼び込み神の技を繰り出す憑依系最高の技。流石に僕の体もどうなるのかわからない。いつもの行き当たりばったりの思い付きの技の行使。初めから 女神様を呼ばなければならないことすら覚悟する。
「面白い!」
剣神の顔色が変わったのをはっきりと見る。
体に途方もない力が溢れるのを感じ、それを思いっきり剣神に叩きつけるために体が捻じ切れるほどに振りかぶる。剣神が両足を踏み締め、両手で剣を構え受けて立つ。初めてまともに構えた姿を見るが、必中の効果が通用するなら防御無視だ。いままで同様に受け手に回ってくれたことに感謝をする。
「いけぇー!!!!」
手応えも何も感じぬまま、レクナハルバートが手から離れ僕は床に崩れ落ちた。気が遠くなる。今回は抑えが効かない。許容範囲を超えた技を使ってしまったようだ。
剣神がどうなったかも、確認できないまま、僕は肉体ごと消えていく感覚と共に意識が消滅していった。
次話 「神に愚か者と呼ばれた男」




