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異世界Baby  作者: 本屋
53/112

53、神々の塔


 塔の一階の入口に立つとそこはフロア全部が吹き抜けの空間だった。十階相当の天井に小さな穴が一つ開いているだけで階段がなく壁に突起物もない。ゴミ一つ落ちていない新築のような傷一つ無い美しい空間。天井の穴まで何とか到達しないと先に進めないようだ。天上の穴を通って上に行くには、こうなる事を想定して用意周到に準備をしていたか、東神の竜族の試練を再度受ける覚悟で一度引き返して準備をしてくるか、対応できるだけの特殊能力が必要となるだろう。

 さて、僕達はどうする?


「カウタ様、あの穴の大きさは竜の姿では通れないですよね?」

「無理だな、それにこの広さでは翼を広げられない」


 カウタに掴まって飛んでいくのは無理。


「人の姿で転移は使えませんよね?」

「使えていれば、さっき使っていた。長にばれる事もなかった」

「竜の姿であそこに転移は出来そうですか?」

「転移出来るスペースがあると言う確証が自らに無いと転移は発動しない。もしも転移先が狭いと死ぬ事になる可能性がある以上、自己防衛が働き構成見えなくなり編めなくなる」


 転移もダメになった。

 それでも魔法構成に関する重要な情報が思いも掛けなく手に入った。それでも魔法構成のことを考えるのは、また今度だ。


「でどうするのじゃ?お前さんだけなら上に行けるであろう?」

「そうですね。鳥に変身すれば簡単でしょうが、あの先に罠があるか、仕掛けがあるか僕に見分けがつきません」

「このフロアの罠や仕掛けを探すだけでも骨が折れそうじゃ、参ったのう」

「取り敢えず、このフロアの罠だけでも力ずくで確認してしまいましょうか。魔法を使いますので万が一の事を考えて、お二人は入口いて下さい。不測の事態が起きても入口なら逃げようもありますし、時間を短縮しましょう」

「お前さん、かなり滅茶苦茶な事をしようとしておるの、神々の塔と呼ばれるものに対して魔法をぶっ放すつもりか?」

 

 ガルドーに言われて考える。確かにガルドーの神に対する考えがこの世界の常識だとすると、僕は明らかに神々の事を軽視している感じだ。僕の中の神という存在が目の前の出来事に関する優先順位で簡単に取るに足らないものと判断している。カウタの妹の命がかかっている事に比べたら、神々の塔に傷を付けても構わないと僕は思っているのだ。


「行きます」


 選ぶは風の魔法。周囲の被害を考える必要もない。空間消滅のリスクも承知の上の行使だ。


 【 暴風地獄ぼうふうじごく


 荒れ狂う風がフロアを蹂躙する。風は狂気となりフロアをくまなく舐め回した。


 ゴゴゴゴ!ギギギギ!ガガガガ!


 軋む音を撒き散らしながら、フロアの視界がゼロになり、次第に収まっていくと回復した視界に少しやり過ぎたかと、背後の二人の顔を見るのが怖くなった。

 フロアはボロボロの廃墟のような姿に変わり果てていた。床も壁も傷だらけで、削られた建物な一部が床に散乱している。壁に数ヶ所大きく抉れた場所があり、僕自身顔が引きつった。塔の基礎に近い低層階に致命的なダメージを与えてしまったのではないかと、塔自体の自重を支えきれるか心配になってくる。


 崩壊したりしないよね?


「お前さんとんでもないのう。加減というものを知らんのか?」

「少しやり過ぎました………」

「少しというレベルでは無い気がするが、これで罠と仕掛けが発動した後でなければお手上げじゃな」

「キサマという奴を見誤っていたようだ」

 

 ガルドーとカウタの僕の評価が大暴落した感が否めない。ここは気にした様子も見せずに誤魔化そう。


「風は天井の穴の奥にも届いたと思いますので見てきますね」


 二人と顔を合わせずに上着だけを脱いで変身する。


 <変身能力> ➡︎ 扇鷲


 床に脱げ落ちた服を片足で掴み、羽ばたくと一気に飛び上がる。旋回しながら高度を上げ穴の縁に足をかけると羽ばたきながら中を覗き込む。狭い空間に奥には階段があり、下のフロアほどにないにしろ、破壊の傷跡が残っていた。床に崩れ落ちている生物がらしきものが三体。暫く様子を見て身動きひとつしない事を確認すると体をフロアに登り上げて、マジクに変身して服を着る。床に落ちていたのは鋭い牙と赤と黄色の派手な羽を持つ鳥のようで、紫色の血を流し息絶えていた。この塔に巣作る魔物かは分からないが、この塔に魔物がいる可能性が高くなった。


 さて下の二人をどうしようか?


 顔を合わせ辛いので置いていこうかと考えていたら、カウタがフロアに飛び込んできた。続けてロープが結ばれた鉤爪が飛び込んできてガルドーも上がってくる。


「あれ?」

「何を驚いている。あれだけ壁に傷があれば、よじ登れる」


 二十メートル以上の高さを壁と天井の傷を頼りに登ってきた二人の身体能力の非常識さに脱帽する。


「ワシは伊達に何百回もダンジョンに潜ってない。それにワシらの驚きに比べたら、お前さんの驚きなど可愛いものじゃて」


 先に言われてしまった。


「この魔物は、この周辺に住んでいるやつですか?」

「いや違うな、見たことがない。神々が配置した試練の魔物だろう」

「ガルドーさんも見たことがない魔物なら、素材が高く売れそうですね」

「まあ、そうじゃが」

「今は目的を履き違えちゃ駄目ですよね」


 この発色の良い羽根なんか、とても高く買い取ってくれそうだけど我慢我慢。後で拾いにくるのはいいよね?


「階段がありますがどうしますか?」

「いや、下に比べてこの部屋は狭すぎる、隠し扉の仕掛けがあるかもしれぬ。調べることにしよう」


 下のフロアに比べて、今のいるフロアの広さは半分以下だ。床の穴は下から見て中央にあったので、今いるフロアの周辺に空間があるのは確実だ。

 ガルドーの指示を受けながら、隠し扉がないか仕掛けを探すが見当たらない。魔法で反応しなかっただけに仕掛けがある可能性も低い。


 ふと考えが出る。まあ、なんとかなる気がする。


 〔 レクナハルバート 〕


「キサマ何をする!?」


 思い込む。目の前の壁は豆腐。この世界に豆腐はないかも知れないけど、絹ごし豆腐。レクナハルバートを壁に一閃すると、殆ど手ごたえがなかった。続けざまに壁を斬りつける。

 斬りつけた壁を蹴飛ばすと崩れて穴が開いた。

 この世界に前世の常識は当てはまらない。自分自身に言い聞かせる。レクナハルバートなら壁が豆腐のように切れると思い込めば切れる事を証明した。それは神の作りし塔を利用して神への考え方、この世界の考え方を学ぶ。神々の試練を受けるのに、神々へ挑戦するのは当然の行為だと自分を正当化した。


「下に降りる階段だ」

 

 ガルドーだけならまだしも、カウタの呆れた表情を見れたことは大きな収穫かも知れない。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 カウタの槍が舞って、ガルドーの連続突きが躱される。二人の相手は銀色の甲冑騎士で、もう暫く二人で引きつけておいて欲しい。

 僕が相手するのは青いキラキラした甲冑騎士。二人が相手している甲冑騎士の倍の体格がある。巨大な剣を振り回し、体を丸ごと隠せるような大きな盾を持っているのに動きは速く厄介だった。斜め一閃したレクナハルバートが盾に阻まれる。盾には浅い傷が出来たが、盾の耐久を超えることはない。

 正攻法で行くのは無理かと、痛いのを覚悟で技を撃つことを選択する。


 〔 神氣功・覇掌龍点 改二 〕


 神氣功・覇掌龍点 改を片手で放てるように改良された技。改良されたために与えるダメージが半分以下にまで減るが、複合技として使うことが出来る。技を打ち込んだのは盾。青甲冑騎士の盾が腕ごと上に弾かれたの見て、懐に飛び込む。腕と足から軽く吹き出る出血を無視して次の技に繋げる。


 〔 連撃讃華 〕


 力技で大振りの三連撃。横方向の同じ場所への折り返し斬りつける連続攻撃。青甲冑騎士の胴体を両断する。青甲冑騎士は粒子となり、青い宝石が落下する。


 【 回復かいふく


 体に走る痛みが無くなったのを確認すると落下した青い宝石を拾い上げ、二人が相手する銀色甲冑騎士の間合いに飛び込み、片足を切断した。銀色の甲冑騎士がバランスを崩し、ガルドーのバナードが頭部を貫いてカウタの槍が胴体を貫通する。銀色甲冑騎士が粒子と消えると銀色の宝石が落下した。宝石を拾って隅に置いておいた荷物を手に取るとガルドーの腰の袋に宝石を入れる。袋の中の宝石は、かなりの数が集まっていた。


「十フロアも降りてくると、上も気になりますね」

「いまさら戻る気もせんしな、進むしかあるまい」


 塔に入ってから既に半日は過ぎていると思う。入口から吹き抜けの上のフロアに上がり、密室の隠し空間にある階段を降りたら直ぐに、別のフロアに行き着いた。吹き抜けの空間を無視するように辿り着いた下のフロアに、意図的な怪しさを感じて進む方向をこちらへと決めたわけだが、辿り着いたフロアの彼方此方に甲冑騎士が闊歩していた。しかも、倒した甲冑騎士は粒子と化して戦利品を落とす。上にいた魔物は粒子にならなかった事も含めて、やはり下が怪しいと思って下へ下へとフロアを降り続けている。そして、降りれば降りるほど甲冑騎士が強くなって来ているのも進んでいる方向が正解な気がしてならない理由でもあった。

 しかし終わりが見えずに進み続けるのも精神的に参るものがある。


「しかしのう。お前さんの技は特殊じゃな。いくらおのれで回復出来ると言っても、己の体が耐えられぬ技を使うのは、ちょっとのう。お前さんの頭の中が心配になってきた」

 

 連戦の戦いに気持ちが高ぶっているのもあるだろう。この場にはカウタしか居ないのもあって、ガルドーは今まで聞いてこなかった事を聞いてくるようになった。付き合いが長くなれば、話していく事も有るだろうとは思っていたので誤魔化しは色々考えていたが、いざその話になると、しどろもどろしてしまって完全に怪しくなっていた。


「僕も痛いのは嫌なんですけど、相手を倒す事を考えると、体が勝手に動くというか。思いつきで技は出しています」


 必殺天才肌で誤魔化そう作戦。出来ちゃうんだから仕方がない、僕もよく分からないです的な感じを貫く。


「打撃で盾を打ち上げた技はなんじゃ?カウタ様との戦いでも使っておったようじゃが、どうやれば、あのような効果が得られる?」

「あれは魔力を外にではなく体の内に貯めて相手に伝達出来ないかなと思ってやって見たら出来た感じです。どうしても自分の体の中で魔力を暴れさせるので、僕の腕も一緒に内からダメージを貰ってしまいますが」

「お前さん、よくそんな自虐的なやり方を試そうと思うのう」

「死に物狂いが多いですから、なりふり構ってられないという感じですよ」

「上手くコントロール出来るようになれば、己へのダメージをなくせるのか?」

「さあ、なんとも言えないんですけど、どれだけ自分を痛めつければ、糸口が見えるか分からないので、出来るだけ使いたくないですね」

「破茶滅茶な考え方よのう。ワシも試してみたいものじゃな、己へのダメージは抜きにして、使い勝手は良さそうじゃ、確か魔力を内に出すと言っておったの?」


 ガルドーが腕を出して集中する。暫くして腕を下げた。


「さっぱりわからん」


 もしかして、ガルドーが使えるようになるかと期待したが無理のようだ。


「感覚的にはどんな感じなのじゃ?」

「えーと、お腹の辺りズンっと力入れて、魔力をギュッと腕に集めて、相手にバゴン!って感じですかね?」

「……マジクは教える立場にはきっと向いてないのう」


勿論、天才肌を演出するためにわざと言っている。


「無駄話はそこまでにしろ、お次が来た」




次話 「甲冑騎士の足音」

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