50、神を信じますか?
「マジク!マジクー!」
彼女が来たのは、まだ朝日が昇る前だった。
「認識阻害の措置などやっておるから、迷ってしまったではないか!」
騒がしく、高い声で、五月蝿い。
「起きろー!起きろってんだー!」
「うんぎゃー!」
ほら、そんなに騒いだら、アキちゃんが起きるに決まっている。
「煩いぞー!お前に用はない!マジクー!起きろー!」
ボゴっ
痛い、アキちゃん蹴られた。
「もう、なんなんでちゅかーって、だれでちゅか?」
僕が眠い目をこすって体を起こすと、ちびっ子がいた。知らないちびっ子だ。バーナデットより背が小さい。頭がボサボサでボロボロの服を着ていた。
「はっはっはっ!やっと起きたか!寝坊助だな!好敵手よ!」
いま自分が、どんな顔をしているのか見てみたかった。
「はっはっは!なんだその顔は、不細工だな!はっはっはっ!」
ほっといてくれ………
「ゆうみさまなんでちゅか?」
「自分でも見てくれは、悪いと思うが優雨美だぞ!わっはっは!」
「どうしたんでちゅか?」
「何を言っておる!どうしたもこうしたもあるまい!マジクが来ないから出向いたのではないか!」
「それで、そのおしゅがたは、どうしたのでちゅか?」
「無理やりダンジョンから出たら、こうなった!」
チビ優雨美が胸をはって、偉そうにしている姿は、カキんちょが虚勢を張っている姿そのものだった。チビ優雨美は、ダンジョンであった時に感じた威厳がまるで感じない生意気な口を聞く子供そのものだ。
「うあー!あー!」
アキちゃんが泣き止んで、優雨美に手を伸ばす。
「なんだマジクに、そっくりだな!」
「ふたごのいもうとでちゅ、にていてあたりまえでちゅ」
「おお妹か!お前!名前はなんと言う!?マジクの妹なら覚えてやるぞ!」
「いや、喋れないから」
「何でだ?お前は喋っているではないか!」
「ぼくはちょっと、とくべつでちゅ」
「そうなのか!人間とは面白いものよのう!」
「いもうとはあきちゃんでちゅ、それにしてゆうみちゃま、ぼくはこのすがたであうのはじめてでちゅけど、よくわかりましたね、やっぱりりゅうのちのにおいでちゅか?」
「そうだ!それにしても人間が幼体になれたり成体なれたりするとは初めて知ったぞ!」
「いや、にんげんすべてでなくて、ぼくののうりょくでちゅよ」
「そうなのか!中々面白い能力も持っておるのだな!」
「おもしろい……ですか?…まあひとそれぞれでしょうからいいでちゅ」
アキちゃんが楓の口に、手を突っ込み始めたので止めさせる。そんなことされても起きない楓もどうかと思うが、楓は僕さえ近くに居れば一度寝付くとちょっとやそっとでは起きないことが多い。周りの雰囲気に敏感なアキちゃんとは正反対のタイプになる。
「それで、ぼくになんのようでちゅか?」
わかっているが聞いてみる。
「おー!そうだった!やるぞ!オレは激しいのがしたいぞ!思い出の傷が残るくらいのだ!」
勘違いしていたことがわかった。優雨美は脳筋のバトルジャンキーじゃない。ただのドMだった。
「さあ、思い出作りをしよう!」
「いやでちゅ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「けんかはだめでちゅよ!」
アキちゃんと楓が見つめ合っている。アキちゃんが持っているのは母お手製の槌の縫いぐるみ、対する楓は布剣。一触即発のような雰囲気だ。
「そうだ、ゆうみさまは、ぼくのまほうがいびちゅで、くうかんがひめいをあげていると、いってましたよね」
「なんだ!?あれでやりあおうってのか!ん~あれは嫌だ!なんか違う!」
「あたまのなか、たたかうことしかないんでちゅか?」
「マジクもそうだろ!似た者同士だ!さあ、やろう!」
「なんで、にたものどうしになるでちゅか………いたいのは、いやだといったはずでちゅ」
「違うぞ!竜の血の匂いにガーディアンの匂い、何度も死にかけてる匂い、どれも新しい匂いだ!ズルいぞ!自分だけ!」
「ちょっと、まって、え?ゆうみさま、においってのうりょくでちゅか?」
「そうだぞ!よし!やろう!」
優雨美の頭の中は戦うことで一杯で話が進まない。はっきりいって気が進まないが仕方ないと方針を変えることにする。
「あーそうでちゅ。すこし、おてつだいしてほしいことがあるんでちゅが、きょうりょくしてくれたら、たたかってもいいでちゅよ?」
「ほんとか!?何んだ!早く言え!」
「ぼくがまほうをちゃんとつかえるように、おてつだいしてほしいのでちゅ」
この世界の魔法をちゃんと学ぶ必要があった。ガルドーには魔法構成を編まずにどうして魔法を行使できるのかと言われた。優雨美には僕の魔法は歪で空間が悲鳴をあげていると言われた。
僕は魔法を行使するのに魔法構成を編んでいないというか、そもそも魔法構成というものを知らない。蘭童に変身して、蘭童が使えた魔法を強くイメージすることで魔法は行使された。一度感覚を掴めば簡単なことだった。だがそれはこの世界の魔法の行使の仕方とは違った方法だった。だから歪で空間が悲鳴をあげるような魔法となってしまった原因と思っている。本来は魔法の構成を見ながら、決められた形に編んで行使のするのが、この世界での魔法の発現となる。だが僕は肝心の魔法の構成が見えない。始めから躓いているのだ。ここをクリアしないと僕はこの世界のルールに則った魔法が使えないという訳だ。
僕の魔法は欠点があって、その欠点を知ってから戦いの中で全く使えなくなったものと、ある一定の状況下ならば使えるものの二つに分類された。使えないものは強力な攻撃魔法。僕は魔法構成が見えないが、僕が魔法を行使するときは魔法構成が編まれているらしい。その魔法構成が歪なため空間に影響与えてしまっているということだ。僕が使おうとする魔法が強力であればあるほど構成は大きくなる。大きくなった魔法構成は、より歪になり空間に影響を与えて消滅の危険を大きくするわけだ。優雨美に消滅の危険性を指摘されてから攻撃魔法は怖くて使っていない。回復魔法の魔法構成も歪に違いないが、自分の命に関わるときは御構い無しに使ってしまっている。命の危険に差し迫る状況だけは空間の消滅などと考えてる余裕はない。
そして僕の魔法の行使には一定の環境下で使えない欠陥が発覚していた。それが言葉を発することで魔法の行使をしているということだ。この世界で使われている魔法は魔力を目で見て編むことで発現させるのが常識で、僕のように言葉にして発現させるのは非常識だということだ。僕の魔法は言葉に出来ないと発現させられない。例えばレティーシャとの戦いで顎をやられて回復魔法が使えなかったのが記憶に新しい。声が出せない環境、極端に言うと水中で使えなかったり、嵐など風で声を出すのを邪魔されると発現しない可能性があるのだ。
これを相手が水魔法、風魔法などで環境を作り出すと僕は魔法が使えなくなるという大きな弱点となる。
致命的な欠点が存在するのが僕の魔法の行使方法なのだ。
一日中、優雨美に手伝って貰ったが、 今もこの世界の常識に則った魔法は使えていない。ただ一つだけ分かったかも知れないことがある。精神論というか僕の前世の記憶が魔法の発現を邪魔している可能性だ。僕が属性の神を信じきれていないのが、魔力が見えず魔法構成が見えない原因と考えられる。この世界に生まれたものは、神の存在が当たり前で神を身近に感じている。前世の記憶を持つ僕には神の存在は当たり前ではないし、身近にも感じていない。ただ思い込みを激しくするだけでは駄目でいくら、そう考えても魔力は見えなかった。
「神を信じないとは罰当たりな奴だな!マジクは!」
「僕としては信じているというか、どうしても神とは何かと、応えの出ないことを考えてしまって頭の中堂々巡りな感じです」
「神は神じゃないか!」
ダンジョンで転移された先にいた美丈夫は、その印象や感じ取れる力、会話も含めて神様に違いないと思っているのに、潜在意識のどこかでやっぱり存在を否定しているのだろうか。この世界の魔法を行使する糸口が見つかっているのにも関わらず、解決する方法が結局僕次第という結論に至って、歯がゆい感じになってしまった。
どこかの宗教団体に入信して、信仰にどっぷり嵌れば魔法を使えるようになるだろうかと、自分でも危ない考えを持ってしまうほど先が見えない大きな壁にぶち当たった気分だ。
前世の記憶から、見方を変えて考えてもみた。例えば科学で魔法を考えてみる。魔力とはこの世界にしか存在しない物質かエネルギーで、その物質かエネルギーを自在に操るために、さらに別の物質かエネルギーが必要でないのかと考えた。ただ科学でこの世界の秘密を紐解こうとすると、僕の目の前の初期ウィンドウが何かと言われてもわからないし、僕が身に付けた能力、<変身能力>で物理的に大きさの違うものに変身できる力は証明できない。<複写能力>なんて、無から有を生み出す神のような所業だ。
結局、意味の分からないものは神様の仕業と考えてしまっている。神様が僕の中の都合のよい存在となっている限り、僕はこの世界のルールに則った魔法を行使できないのではと、いい加減考えるのをやめたくなって来た。
ああ神様、僕に魔法の行使を教えられる人物との出会いの場を設けてください!
僕は、この世界の魔法を使えないまま、優雨美との約束を果たすため優雨美のダンジョンまで赴き、優雨美が満足するまで痛い思いをして、損した気分のまま神頼みをして眠ることになった。
次話 「イーニッド姫と愛海凛姫と」




