44、幕間 バーナデットのモヤモヤ
わたしはペラム=バーナデット。
好きなものはパパとママとソー兄とレノ兄とトーリ兄。あと甘いお菓子もペラム家の英雄の物語もリリアも、ガル爺もお屋敷のみんなは好きなのよ。
嫌いなものは、メトシアと五月蝿いリリアと怖い時のママ。
あとはそう、街に出るのも好き。
まだダンジョンに行けないから、街で宝を探すの。もちろん売っているものはダメよ。<秘宝狂い>がピピピッって教えてくれるんだけど、ほとんど売っている物や人の物ばかり、だから宝探しは大変。そこでわたしが宝だって決めたものは宝にする事にしたの。リリアに汚いゴミ扱いされて捨てられそうになったこともあったけど、わたしは見つけた宝は大事にコレクションしている。この子たちはわたしが見つけたんだもの当然でしょ?
街で見つけた宝は、お屋敷でパパとママが点数を付けてくれるの。点数を集めると甘いとびきりのお菓子と交換して貰えるわ。たまに点数が貰えないのもあるけど、点数が一杯貰えると嬉しいのよ。だから毎日わたしは街に出るの、宝を探しに。
あるとき今までに感じたことのないぐらい<秘宝狂い>がざわざわし出したの。<秘宝狂い>が急かしてくるの。「あっちに凄いのがある!凄いのがある!」って言われているような気がして、胸が凄くドキドキして体が熱くなったのよ。
いつも入ってはダメって言われているダンジョンの領域にリリアの制止を振り切って入ったら。ねずみさんがいたわ。わたしのお屋敷には宝があって、パパのお爺ちゃんや、お爺ちゃんのお爺ちゃんが見つけてきたものが一杯あるの。そんなお屋敷にある宝よりも、目の前のねずみさんが凄い宝に感じたの。今までの最高得点に間違いないわ。
<秘宝狂い>が凄い反応をしただけあって、ねずみさんは普通のねずみさんじゃなかっの。わたしの言葉も理解しているようだし、きっとお本も読める。誤魔化す素振りを見せたりもする。下手っぴだけど。
わたしは、逃がしたくなくて、自分のものだけにしたくて、気持ちが抑えきれなくて、パパやママに絶対使っては駄目だと言われていた《名奪い》を使ってしまったわ。
奪った名はマジク。心の奥にマジクという名が刻まれて、頭の中でマジクの居場所がいつもわかるようになったの。凄いことだわ。ねずみさんにしては、人間臭い名前だと思ったけどそれもそうね。ねずみさんはマジクが<変身能力>を使った姿だと知ったときは、びっくりしたわ。
でもそんなマジクが居なくなって、遠くに感じて、探しに出て見つけたら大怪我していた。リリアに治してもらって、マジクは助かったわ。だけど、この時わたしの胸の奥には知らないモヤモヤが生まれたの。
マジクは本当に凄いのよ?
大きな竜さんを倒して、みんなに凄い凄いって言われちゃうし、ねずみさんに変身も出来るし、可愛いうさぎさんにも変身が出来る。ずっと一緒にいたかったし、一緒にいなきゃいけないと思うの、わたしはマジクの名を奪った主なのだから。
楽しみにしていたダンジョンデビューにもマジクは一緒だった。パパとママやソー兄やレノ兄がいないけど、トーリ兄やガル爺が一緒だった。
マジクがいるし、わたしは大丈夫よ?寂しくないわ、本当よ?
初めてのダンジョンでわたしの<秘宝狂い>が反応した。トーリ兄の<秘宝狂い>も反応してたけど、凄い宝があるのが、わかった時はとても興奮するの。<秘宝狂い>に反応した宝のことで頭がいっぱいになって、じっとしていられなくなる。
<秘宝狂い>に引っ張られて、試練部屋を見つけたわ。もう少しで宝を見つけられるって、とても嬉しかった。だってパパとママは試練部屋で剣を見つけたのよ。パパが《名奪い》したのはその時の秘宝の剣。そのくらい試練部屋には凄い宝があるんだから。パパやママが見つけた宝より凄いのを見つけてみせるの。
でも試練部屋に入ったら四つも腕がある大きなの巨人さんが出て来たの。トーリ兄が王国一の剣士だって言っていたガル爺が大怪我をして動かなくなった。ガル爺を助けようとしたトーリ兄とセリルも動かなくなった。
とても怖かった。怖かったけど助けたかった。ガル爺をトーリ兄をセリルをリリアをそして、この怖くてしょうがない状況からマジクを逃したかった。
「《名奪い》した者は《名奪い》されたものに対して責任を負うものなのよ?」
「それでもだ、僕は僕で絶対なんとかするから、いざとなったら逃げて欲しいんだ。バーナデットのお眼鏡に叶った僕を信じられないかい?」
あの時はマジクがあまりにも真面目に言うもんだから、返事しちゃたけど、やっぱりダメよ。だって、わたしはマジクの主だわ。当然でしょ?
《名奪い》でマジクに逃げるように命令を出していた時、急にマジクに命令が出来なくなった時は驚いたわ。そしてマジクの姿が消えたと思ったら、知らない男の子が居た。知らない男の子はガル爺を助けてくれて、巨人さんとわたしやガル爺の代わりに戦ってくれた。
知らない男の子だったけど、あなたは誰?なんて疑問に思わなかったわ。だって知らない男の子だったけどマジクと同じ黒髪で、マジクと同じ服を着ていたらわかるでしょ。わたしは主なんだからわかって当然なのよ。
知らない男の子は直ぐにマジクに戻って巨人さんをやっつけてしまった。凄かったのよ、これほどビックリしたことは生まれて初めてだった。本当にビックリしたんだから。
「ねえ、ガル爺?マジクがマジクじゃなくなったのよ?」
ガル爺に《名奪い》が切れたことを直ぐに話したわ。
「お嬢このことは内緒にした方が良い。マジクのためじゃ」
ガル爺にマジクのためって言われて、この事がバレたらマジクがわたしの元からいなくなるかもしれないって言われたわ。ガル爺はとても悪い顔をしていた。でもそう言われてしまったら仕方ないわ。マジクがわたしの元から居なくなるなんて認められない。だから秘密を守るのも主の役目なのよ。パパにもママにも兄様達にも内緒の秘密よ。少しわくわくしたわ。みんなにしちゃいけない秘密の内緒なんて初めてなんですもの。
マジクは砦に帰るといつも消えてしまう。でも必ず帰ってきてくれる。少し不安だけど、秘密の内緒だからパパとママには相談できない。みんなにも相談できない。相談出来るのはガル爺だけなんだけど、マジクがいなくなるって怖いこと言うから相談したくない。
またマジクが大怪我をして帰ってきた。わたしがお菓子の誘惑に負けて一緒に行けなかった時だ。今回はわたしがマジクと初めて出会って《名奪い》をした日に、マジクが殺した大きな竜さんの敵討ちで大怪我したようだってガル爺が言ってた。わたしの胸の奥のモヤモヤがまた大きくなる。
その夜からマジクがいなくなったまま、戻ってこなくなった。マジクはわたしの知らない所で辛い思いをして傷付いているようだって、ママとガル爺が話していた。また、胸の奥のモヤモヤが増えた。
パパとママがマジクの居場所を聞いてくる。本当は《名奪い》が切れてて私も居場所はわからないんだけど、秘密の内緒だから言えない。秘密の内緒を言っちゃうとマジクが本当に居なくなってしまうから言えない。
わたしはパパとママ、お屋敷のみんなに、嘘をついているようで辛かった。
マジクは戻って来ないし、モヤモヤは大きくなるし辛くて、とうとうガル爺に相談した。ガル爺は泣きそうな顔で謝ってきた。なんでガル爺に謝られたのか分からなかったけど、モヤモヤのことはパパとママに話しなさいと言われたから、秘密の内緒のことは言えないけど、モヤモヤのことはパパとママに聞いてみた。
「えっとね………」
ママはわたしがお話をしたいって言ったら、お仕事中のパパを引きずって来てくれた。
「わたし変なのよ?………マジクがね、大怪我をすると胸の奥のモヤモヤが大きくなるの」
パパとママは真剣に聞いてくれた。わたしの話を聞いたパパは少し考えて首を横に振ると目頭を押さえる。ママが近付いてきて抱きしめてくれた。
「辛かったわね」
ママは泣いているようだった。
「バーナデット気付いてあげられなくてすまない」
パパが謝ってくる理由がわからなかった。
「きっとバーナデットは、初めての責任を《名奪い》で負ってしまったんだね」
パパの言っていることが全くわからなかった。
「本当は別のことから、責任というものを知って子供は成長していくものなんだよ。バーナデットはまだ責任とはどういうものか知らずにマジクという《名奪い》の責任を負ってしまったんだよ」
「責任は知っているのよ?《名奪い》した者は《名奪い》したものに対して責任を負うものだって、パパが教えてくれたのよ?」
「そうだね。パパが教えたね。パパは気付かなきゃならなかっんだ。バーナデットが《名奪い》したものが人であったことに。物と人では責任の大きさが違うことをもっと早く気付くべきだった」
わたしはパパにも抱きしめられた。
「物は傷付いても痛いとは言わないし、辛そうな顔はしない。でも人は傷付けば痛がるし、嫌がるし、逃げたくもなるだろう。パパ達がそれを教えなきゃいけなかった。パパ達の責任だごめんよバーナデット」
「バーデちゃんは、マジクが大怪我をする度に責任を感じてたのね」
ママの言葉が胸に染み込んでいく。
マジクが大怪我をして寝ているのを見て苦しかった?
《名奪い》をしなければ大怪我をしなかったかも?
マジクが血を流しながらも痛い思いもしながら、四つ腕の巨人さんと戦わなければなかったのは、わたしが《名奪い》したから?
わたしが《名奪い》をしなければ、大きな竜さんの敵討ちで大怪我をしてマジクは辛い思いをしなくてよかったの?
わたしはマジクへの《名奪い》の本当の責任を知った。
「パパ?ママ?………わたしはマジクに《名奪い》をしてはいけなかったの?」
声が震えていた。こんなに声が震えるなんて初めての経験だ。
「それはパパ達にもわからない。ごめんよバーナデット。人を《名奪い》したこともないパパ達が無責任なことは言えないんだ」
「情けないママでごめんね。バーデちゃん」
「………わたしはどうしたらいいの?」
「バーナデットはマジクの名を奪って後悔しているかい?難しいかな、そうだなマジクが居なかったらと考えてみてごらん」
パパの問いかけに考える。
「マジクがいなかったら………」
大好きなうさぎさんになってもらえなくなる。
嫌いなメトシアをリリアに知られずに食べてくれる人がいなくなる。
折り紙とかヨーヨーとかあやとりとかコマ回しとか遊んでくれる人がいなくなる。
一緒にイタズラをして、一緒にリリアに怒られてくれる人がいなくなる。
聞いたこともないお話をしてくれる人がいなくなる。
「わたしはマジクがいないのは嫌なのよ?」
涙が頬を伝う。
わたしは泣いたことがなかった。
そのことでパパがお医者さんを連れてきたことがあるくらいだ。
ママは泣きたい時になったら泣くわよってパパに怒っていた。
いまが、泣きたいとき?
わからないけど、涙が溢れて止まらなかった。
胸の奥にモヤモヤは今もある。これはマジクに感じている責任。
パパはマジクが一緒にいたいならモヤモヤと一緒に付き合っていかないといけないと言った。
わたしはパパとママに抱かれたまま泣き疲れて眠ってしまった。
次の日パパとママはわたしに宿題を出した。
それはパパとママに話したことをマジクにも言うこと。
わたしが不安そうな顔したら、ママはちゃんと言うことが出来たらマジクを遣い役として認めてくれると約束してくれた。
でも怖いのよ。
「《名奪い》されたことを責められたら?痛い思い辛い思いをしなくてよかったのにって言われたら?」
「あいつがそんなことを言ったらママがギタンギタンに四つ折りにして、刻んでとっちめてあげるわ!」
ママは、たまに見せるとても悪い顔でそう言ってくれたけど、いまはマジクと会うのも怖くなってしまっている。
パパにマジクと話をするのが怖いって話したらお膳立てをしてくれる言ってくれた。
わたしは、マジクのことをずっと考えながら、覚悟を決めてマジクを戻って来るのを待った。
またマジクと遊びたい。遊んでもらいたい。一緒にいたい。
そのためにわたしは勇気を振り絞るのよ。
次話 「プレゼント」




