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異世界Baby  作者: 本屋
33/112

33、東の領域


「なるほど、それぞれのかみさまに、いけいのねんをいだくことが、だいじでちゅか」


 僕は本を読んいた。

 初めは上手くいかなかったページ捲りも慣れたものだ。

 何度も読み返して、やっと内容がわかりつつある。本の題は「初めての魔法の発現」天神海で頂いてきたものだ。この世界の本は高額な値段で取引されており、今読んでる本でも手書きの百ページ程の物で金貨三枚と、我が家の約一年ちょいの食費に相当金額と言われては、とてもいまの僕には買える品物ではなかった。

 本の内容は、魔法の発現に対する初級講座のようなもので、この世界には魔力と魔法の発現は神が管理しており、力の源はそれぞれの属性の神となっているという考えだそうだ。

 前世の世界での神は宗教信仰の対象であったり、人間を超越した力を持つ存在とされていて、実際に姿を現したり実在するだけの痕跡を示したりなどしない。

 前世の記憶に引っ張られてこちらの世界の常識を違えてしまうことがある。

 神という存在の認識もまさにそれだった。

 一つ一つ、前世の世界にはなかった概念や法則を確認していく。


「でもなんれ、ぼくにはこうせいがみえないのでちゅかね~?」


 普通魔法を行使するには魔法構成を編むらしい。だが僕はそんなことしていないのだ。

 イレギュラーな問いの答えに辿り着けるような記述はこの本には書かれていないようだ。


 僕は母のベットにお座りして本を読んでいる。

 アキちゃんはお昼寝中で、楓はというと先程から、ちっこい手を握りしめて目を名一杯瞑ってきばっていた。

 しばらくすると、僕の目の前に選択枠のウィンドウが勝手に開く。

 やり遂げた楓が、期待に満ちた表情でニコニコと見つめてくる。

 楓の表情も柔らかくなったものだ。

 楓と契約されてからというもの僕の視界には二人分の初期設定ウィンドウが開いて、最近やっと気にならなくなってきたのだが、選択枠のウィンドウまで視界に開いているのは、本を読むのにはとても邪魔だった。

 天神海領のダンジョンから無事戻ってきてからというもの楓が変な技を編み出した。

 自力で選択枠のウィンドウを開いてくるのだ。

 明らかに催促であり開いてくる選択枠は、あのファイナルウェポンだらけの絶対選んではいけない選択肢。

 スカーレットに抱かれながら、竜人の優雨美と僕の戦いを見ていたらしい楓は、どうも僕が使ったレーザービームもどきを気に入ってしまったらしい。

 たまにちっこい指先を振り下ろす動きをして、一人で興奮している姿を見せる。

 期待一杯に見つめてくる楓を無視して、僕は選択枠のウィンドウを閉じる。

 楓がこてりと首を傾げて黄色い頭のリボンが揺れた。

 なんで選ばないの?っと言っているような可愛い表情だ。


「………なんどやっても、だめなものはだめでちゅ」


 僕は、そう言って本を読むのを再開すると楓がめげもせず、また目を瞑ってきばり出した。

 こんな繰り返しを天神海領から帰ってからというもの、ずっと繰り返している。諦めず繰り返しては疲れてすぐ眠ってしまう健気な楓の姿をみて情に絆されそうになるが、赤ん坊にレーザービームなんて技を与えられる訳が無い。そもそも楓の選択枠はどれ一つとして選ぶ気は無かった。

 楓の選択肢枠は六つで、選択済みとされている<全属性6>以外は、成長促進枠とファイナルウェポン枠、魔法特性枠、戦闘能力枠、特殊能力枠となっている。

 楓の選択肢枠の大きな特徴として、<なし>という選択が一つも無いことで、その上高い能力ばかりが揃っていた。僕は目の前にある楓の初期設定画面ウィンドウと長く付き合って行こういう覚悟を最近日に日に増している。

 それが楓の能力を目覚めさせない責任であり、楓の本来あるべきかもしれない未来を奪っている責任だと思っている。

 そしてまた、諦めもせず楓のファイナルウェポン選択枠が開く。

 やっぱり楓は自分に与えられている初期設定の能力を理解しているのだろう。

 楓が共に成長して言葉を喋るようなったら、能力の選択を強く求めてくるだろうかと思いながらもウィンドウを閉じる。

 その時僕は、自分がどんな選択をするだろうと考えずにはいられなかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「お言葉ですが、それでなぜ僕に同行せよという話になる訳ですか?」


 ライオネスを含めたピークトリクト領主オリヴァーとの会談は茶会という形式で、しかもオリヴァーの邸宅の庭で非公式に行われていた。

 茶会という事もあってマジクの主となるバーナデットとバーナデットと仲の良い領主の次女イーニッド姫、姉のオーレリア姫が共に参加していた。

 オーレリアは濃い緑の髪を巻き髪のハーフアップにしていて、つり目がちの蒼い瞳をしており、少女と大人の女性の魅力を合わせ持つ容姿をしている。本来、今日の茶会には参加する予定は無かったのだが、ピークトリクトで今話題の竜殺しが来ると知って、難色を示した父のオリヴァー強引に説得しての参加だとイーニッドが耳打ちしてくれた。イーニッドはなんでそんな情報を教えてくるのだろうか?


「あら、竜殺しともあろう方が怖気付かれていらっしゃいますの?」

「オーレリア………」


 オーレリアはオリヴァーに名前を呼ばれ、僕に向けていたきつい目線を下げる。

 オーレリアは苛立っているように見えた。姫様と言われる人が睨んでくるので、どうしていいかわからずへらへらしてしまった。


「……きっと何かの間違いですわ」


 やっぱり、竜殺しとか功績の名ばかり先走りするとこうなるんだよね………楓から離れられなくなって余計印象悪くなってるみたいだし……


「お姉さまは、本当に夢見がちのお姫様ですね~」

「ん?」


 バーナデットがイーニッドの小さく言ったことを聞き取れなかったらしく首を傾げる。

 甘い焼き菓子を口に頬張ってもぐもぐしていた。


「こっちの話よ、お菓子ぐずが頬に付いているわよ」


 バーナデットは頷きながらも、お菓子を頬張る手を再開する。


「言いたいことは、分かっておる。だがそう言うなマジク」


 ライオネスが言葉を挟んだ。

 僕もオリヴァーやライオネスの真意を分かりながらも、聴き直すのは嫌な態度だとは分かっている。それでも、そういう反応を見せたのは、明らかにとんでも案件だと分かったからだ。


「聞き間違えだといけませんので聞き直しますが東の山脈は、確か竜の棲家ですよね?」

「そうだ」


 オリヴァーが答える。


「僕が竜のいる東の山脈に向かうとして、そんな危険なところにバーナデット様は?」

「無論置いていく」


 会話が聞こえているはずのバーナデットからの反論は無い。


 既に懐柔済みか、バカ食いしてるのを咎めない理由はこれって事ね………


 バーナデットも参加する茶会と知って油断していたが、お菓子で懐柔されるほど甘い物が好きとは知らなかった。


「赤ん坊を連れて、竜の棲家に行けと?」

「それには心配は及ばん、スカーレット帰ってきてからの出発となる。そなたの報告通りなら、その赤子もスカーレットには懐いてるそうだからな。スカーレットには同行して貰い野営地にてその赤子を預かる形だ。野営地からは日帰りの調査になる」


 直ぐに分かることだからと、正直に報告をした事が仇になった事を知った。


「そなたの話通りの天神海からの出発であれば、順調に進んで三日後には着くであろう。なので四日後には出発をしてもらうこととなる」


 ライオネスとオリヴァーの2人がかりによる包囲網に抜かりは無いようだ。


「勿論今回のことは非公式とは言え、謝礼にはそれなりの金額を用意しよう。それとも知識を求めていると聞き及んでいるから、オリヴァー様が幾つか、与えられる書物を用意することも可能と仰られておるぞ?」


 確かに本は魅力的だったが、しっかりと餌が用意されていることに、筋道を決められてしまってるようで気分が乗らない。


「いや、でもですねー」

「あー煮え切らないですわね!そもそも、あなたが竜を殺したのが今回の原因なのですから、あなたが行くのは当然でございますのよ!」


 ライオネスが天を仰ぐ。


「これ、オーレリア、そうと決まったわけでは無い」

「お父様!それ以外あり得ません!互いの領域を侵さず長く共存してきた歴史がピークトリクトにはあるではないですか!?それなのに今回は竜の活動が活発になっている!この者が竜を怒らせるだけの事をしたに違いないのです!そもそも、このような者が竜殺しなどと何か裏があるに違いありません!竜はそれに―――」

「いい加減にせよ!」


 オリヴァーの大きな怒声に、オーレリアは目を見開いて、信じられないものを見たよう、眉を寄せると僕をキツく睨んだ。


「失礼しますわ!」


 オーレリアは乱暴に席を立つと肩を上げて歩き去っていく。


「お父様?お父様が甘やかして育てたからお姉様はあんな風におなりになったのですよ?」

「言うな、イーニッドよ………」


 オリヴァーが情けない父親の顔を見せた。


「まあ何にせよマジク。そう言った事情もある。そなたが竜殺しという事を納得していない者も多く、そう言った者達が特に今回の事への対処をお前にさせろと言っておるのだ」


ライオネスか裏の事情も教えてくれる。


「竜を殺したからといって、竜が行動を起こした事がないのは長いピークトリクトの歴史を見ても明らかじゃが、だからと言って今回も同じとも限らん。お主が出向くことで必ず解決すると思っておらんが、今回の調査の強硬派を納得させるためにも、同行をお願い出来ぬか」


 オリヴァーが頭を下げた。

 これに関してはライオネスは驚き、イーニッドは見て見ぬ振りをしている。

 オーレリアの言動に対する謝罪も含まれているのだろうと、僕はため息を吐いて首を縦にふる。


「分かりました」


 四日後、竜の活動が活発になった原因を調査するために東の山脈に出発する事が決まった。




次話 「竜の活動」

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