25、幕間 竜殺しの正体 Ⅱ
ピークトリクト領主館の一角に、領主他各位が密談など取り扱う専用の密室がある。
その場に領主のオリヴァー、副領主のキンブリル、ペラム家ライオネス、剣王ガルドーの四人が四角いテーブルを囲んで座っていた。
「剣王よ、間違いないのだな?」
「はい、あのバナードが真の力を出しましたので間違いなく剣術最高位<剣術能力9>の持ち主で間違いありませぞ」
「まさかのう、あれだけの特殊能力を持って、尚且つ剣王よりも剣位が上か……信じられん」
オリヴァーが背もたれに背を深く預け、力を抜きながら言葉を絞り出す。
「事実となると、あの場で見せた<変身能力>と<複製能力><全属性>に最高位の<剣術能力>が加わるわけですな。しかも魔法特性の片鱗も見せたと。とんでもない化物ですな」
キンブリルが眼光をギラつかせる。
「伊達に単騎の竜殺しや、ダンジョンの主人の招待は受けておらんか」
「あやつの剣は、遥か高みの域にありました。ワシも目を疑いましたが、まだ伸びしろを感じるほどじゃった」
「それだけの逸材が、素性不明のままか……」
「直ぐにも素性は知れると思っておりましたが難航しております。方々の聞き取りから、ピークトリクトの地の者でもないようで、タンドーラ家の令嬢に恩義を感じて追ってきたという話から、タンドーラ家が嫁がせた方面にも範囲を広げ調べさせました」
「確かユースモア領のレクスタ家に嫁いだはずだったな?」
「はい、他領への嫁ぎと成りますので、ユースモア領との書類の手配とオリヴァー様の了解を得たのも記憶に新しい所です」
「ユースモア領か、崇める神の数だけ信仰宗家が起こされた特殊な土地柄じゃな」
ガルドーは腕を組み眉を寄せると話し始めた。顔に歪む古傷と皴は長い年月かけて培われた歴連の戦士の迫力を滲ませる。
「武門の名家が多いのでワシも何度か足を運んだ事があるが、もしあの土地の生まれならば、あれだけの能力を持つ者が家名を広めるのは当然で、その名は領内に留まるまいな。だがそれにしてはマジクというの名は聞いたことがないのう」
「ユースモア領で調べてを進めさせている者からも、マジクの名で該当する者を、タンドーラ家の令嬢が嫁いだレクスタ家を含めて探らせましたが、一切名前が上がってこないそうです」
「確かに剣術最高位を持つ者ならば剣の神の信仰宗家たるレクスタの出自が濃厚ではあるな」
「しかし一族にマジクという該当者がいないようです」
「《名奪い》されている以上偽名でも無いのだから、それだけの能力者、本来なら王国に名を轟かせているのが当然だな」
「ましてや武門の名家だからのう。己の信仰神が最強を謳うのが当然の土地柄じゃ。マジクの最高位の剣位は大きく宣伝して回っているのが当然じゃて」
「となると、ユースモア領の出身でない事も視野に入れねばなるまいな」
「ユースモア領の出身でもない可能性もあるのか、しかしタンドーラ家の令嬢との繋がりが分からなくなりますな」
「タンドーラ家の令嬢とは男女の関係ではないのであろう?」
「家族のような信頼関係が築かれているとの報告を受けております」
「本当に令嬢との男女の関係はないのか?」
「はい、令嬢側の扱いは世話の焼ける弟や子を扱うような態度だそうで、違和感なく自然な様子だそうです」
「タンドーラ家の令嬢は深層の令嬢として、タンドーラがより名家に嫁がせようと大事に育てた娘だと聞いておる。レクスタ家との関係がどうなっておるのかは分からぬが、血の繋がりなくして短時間で家族同等の扱いは中々成しえぬものじゃと思うがな。タンドーラ家にどこか所縁がある可能性はないのか?」
「タンドーラ家令嬢と仲から見ても、その可能性が高かったのですが、タンドーラ家所縁となりますとピークトリクトの人間となります。先ほども申しました通り今のところピークトリクトにてマジクの名を調べさせておりますが、それらしいものは見つかっておりません。ピースクリフトでそれほどの能力者がいるならば、今まで名が広まっていないのはあり得ないでしょう」
「世間と交わることなく今まで生活していた可能性はないのか?」
「ないとは言えません。ですがそのようなものが、タンドーラ家が宝のように外に出すことなく育てた令嬢と家族同然の繋がりを持てるとも思えません。ピークトリクト内も合わせてこちらも調べておりますので暫く時間を頂きたく思います」
「確かにまだ時間がかかりそうだな………そちらは任せる。くれぐれも慎重にな。そう言えば、ダンジョンで見つけた赤子の方も気になるとろだったな」
「試練部屋攻略の褒美の品として赤子を得たという記述は我が家にも有りませんでした」
「その赤子も、あの者以外に懐かぬそうではないか」
「はい、泣き叫んで大暴れをして、マジク以外の誰にも懐かない赤子です。マジクが近くのいると大人しいのですが見えない位置に移動すると大騒ぎで手がつけられません。普通の赤子であれば無理にでも引きはなしましょうが、ダンジョンの試練部屋で発見された赤子ともなれば、その赤子にも何かあるのかも知れません。嫌がることを強制することで何が起きるか分かりませんのでマジクに預ける以外ありませんでした」
「それらも入れて、もう少し調べさせるのしかないのだな」
「仰る通りになります。但し、ユースモア領及びレクスタ家を刺激するのは得策では無いので、可能な限りり調べるという形になりますが」
「仕方あるまい。儂の方からは、マジクの周辺の調べも慎重に行うよう再度申し渡す。特に砦は慎重にな、赤子が三人もいる場所を騒がす事もあるまい。藪をつついて蛇が出るならまだしも、竜と同等の力がある者が出てくるとなれば話は別だ。その旨、細部まで通達せよ」
「畏まりました。慎重に行動できる監視者をただいま選定中であります」
「何にせよ、刺激はせぬようにな」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「この二日で、これはまた話が大きくなってるわね……」
イーニッドは、密談部屋の会話を盗み聴きしていた。
幼い頃から好奇心旺盛で動くのが好きだったイーニッドが父親たちがよく使っている密談部屋に興味を持ったのは当然と言える。
そんな時に四部屋離れた衣装部屋のクローゼットの中で秘密部屋の会話が聞こえたのは、侍女から悪戯心で隠れた時のことだった。あの時に密談部屋から聞こえてきた内容は、ライオネスと昼間から楽しそうに酒を飲んでいただけだったが、あれ以来、密談部屋が使われる兆候とのタイミングが合えば盗み聴きしている。
そんな事もあって、イーニッドは領主令嬢という立場にも有りながら、普通は遠ざけられる泥臭い話、生臭い話にも精通して慣れっこになっていた。
幼くして、教えられる教育と現実に行われていることの差を見せつけられながら育った事もあって、虐げられている立場の者への共感を持つ大貴族令嬢と育っていた。貴族との在り方もわかった上で、平民の虐げらるている身分の差も何とかならないかと考えるに至っている。
そんな中で、この密談部屋で今までとは違った会話がされるようになった。
「全てはマジクという青年を中心に、何かが動き出している」
常に客観的にピークトリクトでの出来事を捉えてきたイーニッドだからこそ気付き得た事だった。
「能力は問題なし、これで素性も問題ないとなれば、功績もある事だし、バーナデットとの事もある。お父様が行く当てのないお姉様を差し向ける可能性も低くはないわね……先に手を打っておくのが正解かしらね」
密談部屋にて談議を続ける四人には、ピークトリクトの姫が暗躍し始めた事を知らない。
次話 「契約者」




