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異世界Baby  作者: 本屋
23/112

23、勇者蘭童

 巨人の激しい痛みを訴える叫び声が反響し、僕達は恐怖で硬直する。

 満身創痍なガルドーも硬直していた隙だらけの所に、巨人の手の平が叩きつけられた。ガルドーは床に二度バウンドするほど叩きつけられ動かなくなる。先ほど投げつけた棍棒を持っていなくても歪な筋肉の腕は十分に凶器だと全員に知らしめる形となった。もう生きているのかわからない血だらけのガルドーを見てトーリが吠える。


「うおおおぉおおおお!」


 剣を抜いて飛び出したトーリを追うようにセリルも大型のナイフを両手に抜き放つ。

 ガルドーに注意が向いたままの巨人の背をつく攻撃。トーリは巨人の足に剣を振るうが、切り抜いた傷は浅く、続いて剣を突き刺すが剣先が幾らか刺さったところで止まった。逆に剣が抜けなくなり、トーリは剣にぶら下がる感じになる。セリルの二刀流ナイフの乱舞が同じ足に振舞われとき、巨人の注意がガルドーから外れトーリ達に向いた。だが巨人が鬱陶しそうに振り上げた足の勢いだけで、二人は吹き飛ばされ壁に叩きつられる。セリルがトーリと壁との間に入り庇ったにも関わらず、トーリ共々二人でその場に崩れ落ちて動かなくなった。


「だっ、だめなのよ?いかないのよ?」


 トーリ達に向いたままの巨人の注意をバーナデットが奪おうとする。掌に浮かぶ光は直ぐに強くなり、紅い炎となる。バーナデットが魔法を使えたことに驚く僕と、バーナデットの行動を止められなかったことに表情を歪めるリリア。

 巨人の顔面に直撃したバーナデットの魔法で次のダーケットはバーナデットとなる。


 【 マジク?逃げるのよ? 】


 強制的に頭に流れる命令を出すバーナデットは優しく微笑んでいた。


 いっ嫌だ!これだけは聞けない!


 巨人の怒り任せに振り抜いたサーベルは、バーナデット達が背を預けていた壁ごと切り裂こうとする。

 巨人のサーベルは壁を切り抜くこと叶わずに途中で止まるが、砕けた壁の残骸がバーナデットを庇うリリアに直撃していた。


「リリア?リリア?」


 動かなくなったリリアを呼ぶバーナデットの弱々しい声が聞こえる。


 【 マジク、逃げるのよ?早く逃げるのよ? 】


 頭から離れないバーナデットの優しい願いに抗おうと頭を振る。

 巨人のダーケットはバーナデット達に向いたままだ。

 僕はもう悩んでいる暇は無いと、いま出来る事をする。

 いつもぶっつけ本番。

 思い当たった可能性だけの話で、死線に立ち向かうなど馬鹿げた話なのだが、他に方法が思いつかないのが、いつものこと過ぎて泣きたくなる。

 だがそんな事はしている暇さえ無い。


 <変身能力> 解除


 まずはマジクの変身を解く。赤子の姿に戻ってしまうが仕方がない。衣類に埋もれて姿は見えないだろう。思考がすっきりとしていたことに胸を撫で下ろす。マジクの名で《名奪い》をされた時から見出していた可能性。それはユウキの姿では《名奪い》効果は発揮されない可能性だ。

 バーナデットの《名奪い》の呪縛から解放されたことを確認すると最強を思い出す。


 <変身能力> ➡︎ 勇者蘭童


 次に変身をするのは前世の時にやり込んだRPGゲームの主人公。

 最強のジョブ勇者となった蘭童。

 黒髪の十二歳の少年の姿となる。

 背格好が幾分か縮んだ分、衣服がダブつくが今は後回し。

 バーナデットの視線を背中越しに感じるが、振り向かず即座に掌を巨人に向け、蘭童が使えた魔法を読む。


 【 ほのおよ、あばれよ 】


 発動の速い初級魔法は本来の球形に成り切っていない内に、炎の球となって巨人の側頭部に向かって命中する手前で爆発する。


「思ったのと違うけどいける!」


 【 てつけ、氷結ひょうけつ 】


 巨人の片足が床ごと氷の塊に包まれる。本来の両足を氷漬けにして対象の動きを阻害しつつ継続ダメージを与える魔法なのだが、これも効果が怪しい。

 それでも巨人のターゲットは取ることが出来た。

 巨人の目が僕に向くと同時に氷にもヒビが入る。足止めも長くは持たない。


 【 後押あとおしのかぜに 】


 行動速度上昇になるはずの補助魔法を自分にかけると、邪魔な袖と裾を捲り上げる。


 巨人に大きなダメージを与えられそうな規模の大きな魔法は、この閉ざされた空間で使うとどうなるか不安だ。そもそも先ほどの再現しきれていない炎の魔法を見ても、魔法の効果が少し異なっている。ゲームキャラに変身しての魔法の行使は無理があるとなると、残す選択肢は物理攻撃になる。

 ガルドーの脇に転がる剣を得るために移動しようとしたところで、巨人が一閃してきた。素早く躱そうとするも体の動きがマジクの時と違ってバランスを崩し、ツンのめる。

 速度上昇は余計だったかもしれないと後悔しながら、迫るサーベルを格好悪く這いつくばって躱して、ガルドーと剣の間に体を滑り込ませた。

 ガルドーの様子を見ながら剣を握る。

 血だるまになったガルドーの姿は痛々しく、息があるかどうか分からない。


 【 女神めがみ息吹いぶきもとめるは、のもにょに 】


 ちょっと噛んでしまったのは呪文が長いのがいけない。

 勇者蘭童が使える最大の回復魔法。

 これも本来の美しい女神の姿が化現するのだが、ふくよかなおばちゃんが、ガルドーの唇を貪りつくように奪いウインクして空気中に解けるように消えた。

 僕は心の中で必死に謝りながらも、ガルドーの傷が塞がり始めるのを見て安心する。明後日の方向を向いていた右足も二回転して正常な向きになった。

 意識を取り戻したガルドーは僕の存在に気付き顔を持ち上げた。

 失われていない強い眼光に安堵する。


「無理だ止めておけ……その剣はお前さんには使えない………」


 僕はガルドーの言葉を無視して剣を強く握り持ち上げる。

 思った以上に軽く感じた美しい銀色の刀身を見ると力が湧いてくる。

 それはガルドーが振るっていた時にも見せていない剣の姿。


「バカな……」


 ガルドーの目が驚きで見開かれている。


「……綺麗だ」


 僕は薄く光る紅い文様の剣に気を取られていて、巨人が振り下ろした槌に気付くのが遅れた。


「しまっ!」


 反応が遅れながらも倒れたガルドーがいるこの場では、巻き添えにしてしまうと移動をする。

 僕の動きに合わせて巨人の振り下ろす縦の軌道が床に落ちることなく、直角に曲がり横の軌道に変化した。僕は流石に避けきれずに剣で受け止める形となり、そのまま吹き飛ばされる。

 いくらそれなりにやり込んだゲームのキャラでも、コントーラーとキーボードで操作するのと頭で自身の肉体として動かすのは感覚違って当然だった。それと先程までのマジクの肉体との性能差が大きくてコントロールがうまくできない。

 結局受身もうまく取れず、壁に叩きつけられる。

 体の中に熱いものが溢れ、口の中に血の味が広がった。

 思っよりもダメージが大きい。

 止まった呼吸を無理やり血と共に吐き出すと、前世でVRゲームをやっておけば少しは違ったのだろうかと自分でも少し見当違いと分かっていながらも考えてしまった。

 こんな時も勿論巨人は待ってなどくれない。足を封じていた氷を砕き、蘭童を捕まえようと手の平を伸ばしてくる。


 〔 秘剣・六天疾風 〕


 僕は勇者の技の中で初動が最速の技を発動させる。


 本来のものとは違った歪な剣筋。


 ゲームの技は実際の肉体では無理なモーションだった。僕は全身が激しい痛みに襲われながらブチブチと筋肉や筋が切れる音と骨が軋み折れる音を聞いた。

 紅い軌跡が残る六連撃は強制的に最後まで発動したが、僕は巨人から与えられたダメージよりも酷い有様になる。


「グウオオォオオオオオオオ!!!」


 それでも大きな代償に得た巨人へのダメージは絶大なもので、つかみ掛かってきた手を腕ごと刻み切っていた。

 四本の内の二本の腕から大量の緑の血がリズミカルに噴き出す。

 巨人の怒りの咆哮も聞き飽きて耳が痛い。

 まだ怒り心頭で戦闘意欲満々のようだ。

 僕は体を支えきれず力が抜けるように床に崩れ落ちた。


 【 めっ女神めがみの……いっ息吹いぶきもとめるは、のものに 】


 ぽっちゃりマダム風の女神が化現して、ギラつく瞳で獲物をロックオン。

 さっきよりやる気満々な女神様は化粧も少し濃くなっていた。

 顔を鷲掴みしてきて、問答無用に真っ赤な唇がブチュっと来る。


 ちょっ!舌が!


 ガルドーの時より長く蹂躙されて満足気に消える女神様マダムの姿に、二度と呼ぶまいと心に誓う。

 それでも効果は抜群で体の中で暴れていた激痛が消えていた。

 魔法の行使は不安。

 剣技は体への負担がやばい。

 もうマダムは呼びたくない。

 となると純粋な剣での攻撃で倒すしかない。

 周りに被害が及ばないように、それぞれの行動不能になっている場所から一番遠い場所に移動しようとして、足を踏み出したら景色がぶれて次の瞬間には壁に激突していた。


「なっなにさ!今頃後押しの風の効果!?遅過ぎる上に過剰効果なんですけど!」


 熱いものが鼻から顎に滴り落ちるのを拭う。僕を見失ってキョロキョロしている巨人の後ろ姿にチャンスとばかり剣を構えて、恐る恐るゆっくりと足を出すが、そんなの関係無いとばかりにまたも景色が歪み次の瞬間には目の前に巨人の足が迫っていた。

 激突するのを諦めて剣先を突き出す。

 するっと何の抵抗もなく巨人の右足の膝を貫通してしまったので、衝突速度が緩まないまま僕も巨人の足に激突した。


「自爆ダメを受け続ける仕様とか、本当にヒドイ!」


 痛みに叫び声を上げる巨人が振り向こうと足を動かしたおかげで、膝を半分をスライド切断してしまった。

 巨人は体を支えきれずに尻餅をつく格好となる。

 足を動かすと障害物に食い止められるまで移動することになってしまうので、腕だけを振るうことにする。

 目で追えないほどの剣速で巨人の背中を斜め一線すると、剣は深々と巨人の背中を切り裂いて勢い余って床に突き刺さって止まった。


「うお!」


 床に刺さらなければ自分の脚を両断していたに違い無いと、剣を持つのも怖くなって剣から手を離してしまう。

 過ぎた力は身を滅ぼす。今それを身を持って体験した。

 巨人は立ち上がれないまま暴れ狂い始めている。

 確かに意味もわからない相手に理不尽なダメージを与えられてると僕でも怒ると思う。

 真面目にやれと。


 先ほどから目を合わせないようにしているが、意識のあるバーナデットとガルドーの視線をずっと感じてもいる。後でしなければならない言い訳も大変なことになると気が重くなるが、今は巨人をさっさと何とかしてしまおうと思う。僕は床に刺さった剣のを再び手にして床から引き抜く。


 <変身能力> ➡︎ マジク


 剣が抜けた瞬間に勇者蘭童はもう閉店終了とマジクに戻る。

 剣を抜いた勢いに急制動がかかった。

 捲っていた裾と袖を直してみるが問題無く、後押しの風の効力は消えていた。使い慣れたこの体がやっぱり一番だ。

 剣技も魔法も使えないなら、いつまでも自爆し続ける勇者蘭童でいる必要はなかった。この剣を使うに必要なのは<剣術能力9+Ω>の能力が必要なようだと予想は付いていた。勇者蘭童の力ではない。

 ゲームのキャラの力はもう用済みだった。

 巨人のとどめを刺すのに過ぎた力はいらない。

 僕は槌を闇雲に振り回していた巨人腕を剣の一閃で切断する。

 続けてサーベルを持っていた腕も同様に切断して、円を描くよう続けざまに首を斬り飛ばした。


 勇者蘭童に変身したことで窮地を脱出することが出来たのも確かだし、それ以上に得るものが大きかった。

 剣に対する認識や造形がマジクに戻っても引き継がれている。

 これは経験で記憶。

 蘭童で得た経験と記憶をマジクの体のできる範囲で応用したということ。

 これがレベルアップというものかもしれない。

 切断されてもなお動いていた巨人の頭を串刺しにして、やっと巨人の姿が粒子となって消えていくのを見て思わず声に出てしまった。


「あ~勿体無い。ドロップアイテムとかは無いものなのかな?」


 魔物とは違うのかと、強敵レアものだっただけに素材に対する損得勘定が出てしまった。

 周りを見て安全が確保されたようだしと、大きな目を皿のように大きく広げてキラキラさせているバーナデットの元に向かう。


「大丈夫?怪我は無い?」


 こくこくとバーナデットは何度も頷く。

 

 口が尖って半開きなのは可愛いけど、馬鹿っぽいから止めなさい仮にもお嬢様でしょ。


「リリアも大丈夫そうかな? まあ、実験もとい心配だし……」


 【 回復かいふく 】


 リリアが淡い金色の光に包まれる。腕や鎧のアンダーに血の滲みだけ残って、細かい切り傷などは消えていた。


「成功~。いいじゃない!」


 全然取っ掛かりも掴めなかった魔法の行使の仕方が掴めていた。切っ掛けとはこんなものか。


「さて次はと、ん!?」


 マジクは慌てて振り向くと、眼光の鋭いガルドーがすぐ真後ろにいて威圧感丸出しで睨みつけていた。


「あ、あのですね。そっ、そうだ。剣をお返しします!」


 微動だにせずに差し出した剣も無視したまま、ガルドーは睨み続けてくる。長い沈黙にマジクの額に汗が浮かぶ。


「まあよい。返却感謝する」


 威圧していた雰囲気が無くなり、逆に口元に笑みを浮かべる。


「お前さん…魔法が使えたのじゃな」


 ガルドーが剣の状態を検分し始める。


「使えたというか、使えるようになったというのが正解です……」


 滅茶苦茶剣ガン見している!やばい……刃こぼれとかしてたら、また借金が増えて……


「坊ちゃんとセリルにも、お願いする」

「あっ、回復魔法ですか?勿論です。ガルドー様はまだおかしな所とか有りませんか?」

「ワシはもういい、追った怪我の全てをなかったことにしてしまうと身に付かん。痛みと傷を見ることで、自らの失敗を省みるのもことも未熟な身には必要だ」

「胸が痛いです………」

「お前さんがどうこう思うことではない。それと頼んでおいて何じゃが、お前さんの魔法は余り人前では使わんほうがええぞ?」


 ドキッとする。マダム女神のことが頭をよぎる。


「成り立っておらんように見えるのに何故それで効果が得られる?助けてもらった身じゃから深くは聞かんが、見るものが見たら良い研究材料じゃて」

「え?ガルドー様には魔法の形か何かが見えるんですか?」

「はてな?逆にお前さんは見えないのに何故魔法が使えると聞きたいところじゃが?」

「………………」

「魔法構成を編まずに魔法を行使するか。それは歪になるのう。果たして何を持って魔法の発現と成すか、興味深いところじゃが専門外じゃて止めておこう。だがこれだけは言っておく。ワシはお前さんに興味が湧いたぞ。それに様付けはいらぬ。ワシのことはガルドーでいい」


 ガルドーはそう言って嬉しそうに笑ったが、僕には何が嬉しいのか、わからず頭が混乱するだけだった。




次話 「ダンジョンっ子」

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