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異世界Baby  作者: 本屋
21/112

21、素人の説得


 僕以外は誰一人慌てることなく準備を始めている。訓練と経験の積み重ねが培った無駄のない個々が何をするべきか理解し、静かに黙々と準備を整えていた。

 僕はまだダンジョン用の装備を持たされておらず、ただ呆然と準備の様子を見守っていることしか出来なかった。


 進行を再開して幾つかの分岐を過ぎ、時には引き返しながらもある程度進むと、ダンジョンの色が線を引いたように変わる場所に出た。人工的に手が加わったような場所から自然の洞窟のような通路に変わっており、全員が足を止める。


「まさか神の悪戯ですか………」 


 セリルが静かに呟く。張り詰めた空気が僕達を包む。


「バーナデット、これがダンジョンの神の悪戯と呼ばれるものだ。いつもは苦労して迷宮を抜けないと行けない中層や下層のダンジョンが、たまに一部だけ他層に迷い込むんだ。楽して希少価値の高い宝に辿り着ける事が多いが、もたらされた幸運と共に、実力がなく経験の浅い冒険者には危険な罠にもなるんだ」

「トーリにい?わたしね、ここのところ運がいいのよ? 」


 皆が緊張する中で、バーナデットだけが喜んでいた。


「でもな……これは、どう思う爺?」

「今日は口出しする気はなかったのじゃがな………仕方あるまい」


 トーリは自分のパーティメンバーで道中発言することなく静かにしていたスキンヘッドで赤い顎髭を蓄えた筋骨隆々の強面に意見を求める。

 トーリが爺と呼ぶガルドーは、トーリがダンジョンデビューした時から共にダンジョンに潜るパーティメンバーだそうで、ペラム家一族の専属としてダンジョンの教育係りを務めている人だそうだ。ライオネスの全ての子息の面倒を見て来ているというガルドーは、今回のバーナデットのダンジョンデビューから、新しく形成されたバーナデットのパーティメンバーとなることが決まっていた。

 ガルドーがダンジョンに入ってから今まで口を出さなかったのは、最後の確認としてトーリにバーナデットのダンジョンデビューの仕切りをやらせるためだったらしい。今後ペラム家一族が負う長い秘宝探索の人生で、若輩者や未経験者、更には自らの子の教育をして行く事になるので必要な経験とのことだ。パーティリーダーしての教育は既に終わっているが、これからは自分で最終的な判断を下し、下の者への気遣いや統率などもしていかねばならないので、これからのダンジョン探求の一つ一つが新しい経験になる。


「坊………こりゃおかしいぞ。上層から中層飛ばして下層が迷い込んどる。こんなの悪戯で済む話じゃない」

「私もこれ以上進むのは反対です。いくら何でも上層に下層が迷い込んだことなど、今の今まで無かっことです。何が起きるのか予想ができません」


 緊張した面持ちでセリルも会話に加わる。


「ん~、そりゃそうなんだけどなあ……」

「トーリにい?あっちに何か凄いのあるのよ?凄くすっごいの」


 バーナデットが目を大きくして、手を大きく広げてアピールする。感情を激しく変化させないバーナデットにしてはあまり見ない姿だ。ハムスターに変身していた僕を見つけた時の様子に似ていた。


「例え下層だとしても、このメンバーなら経験の豊富だし、バーナデットや使えぬ奴が居たとしても、補って余りある戦力だとは思うんだけどな………」


 普段から見れば間違いなく興奮しているバーナデットを間に挟みながら、トーリとガルドーが意見を交わしている。


「あのリリアさん、悪いんですけど……あの。これも………分かるように状況を説明願えませんか?」


 話しかけておいて言葉の後半が尻窄みして行くのを自分でも情けなくは感じていた。リリアの僕を睨みつけてくる目は、空気を読め的な殺気がこもっていた、それほどの場面に出くわしているということだ。


「はあ、まあいい。普通で言えば、ダンジョンの神の悪戯は大喜びして当然の発見だ。バーナデット様達の<秘宝狂い>があっても中々出くわすことはない。一般の冒険者の場合は出くわしただけでも、幸運に恵まれた者、神に祝福された者として持て囃されるくらいだ。滅多にお目にかかれない宝を得られたり、秘宝と呼ばれる類のものも多く出るのが特徴だ。だがやっぱり実例が少ない分慎重に行動して、決して油断してはいけない」

「えーと、要は見逃すには勿体無いレアで美味しいものを見つけちゃったわけね……」


 僕も此処まで続けば馬鹿ではない。名乗りを上げで起きるであろう面倒ごとから逃げたにも関わらず、その先で新たな面倒ごとに巻き込まれるのは、何か作為的なものが働いているに違いないと肩を落とした。となると、自分の問題で今いるメンバーをトラブルに巻き込んでいるようで酷く申し訳ない気持ちに苛まれる。

 僕はバーナデット達の元に近いた。


「あの~、きっと行かない方がいいと思います」

「あぁ~!素人は黙ってろ!!」

「お前さんは、バーナデットお嬢のお気に入りのようじゃが場は弁えた方がええぞ」


 完全に出しゃばっているのは僕にも分かっていた。それでも止めないわけには行かない。


「その~口を出すような立場でもないのは重々承知しているんているんですが、嫌な予感しかしないんです。せめて今日は止めておきませんか?」

「何を言ってやがる!こんな絶好の機会を逃すなんて笑われちまう!俺たちがじゃ無い、バーナデットのデビューが笑われちまうんだぞ!分かってるのか!?」

「おまえさんも、初めてのダンジョンで臆病風に吹かれてしまったのもわかる。だがここはこのジジイの判断に任せてくれないかのう?」


 トーリは仕方がないとして、ガルドーが素人の僕を頭ごなしに言いくるめずに真摯な態度で諭してくるのは、気を使ってくれているからとわかるので、これ以上僕も強く出にくくなる。それでも止めないわけにもいかない。


「いいえ。そういうのではなくて、どうも最近変なトラブルばかりに巻き込まれていて、今回も同じじゃ無いかと」

「それは確実なのか?それとも能力かなんかか?」


 お前が幾つか能力を隠しているは知っているんだぞ?とトーリに言われているようで、言葉に勢いがなくなってしまう。


「いいえ。感のようなものなんですけど……」


 隠し事などで、言えない事へのしがらみが出来て、後ろめたい気持ちになるのは辛いな………


 いっそ全てを話してしまった方が楽なのではないかと考えてしまう。

 本来の姿に戻れば、いざという時は雲隠れできるという手段を持っているので、行けるところまで行こうと頑張れてはいた。

 話すことを制限するのが結局は自分のためになると何度目かの同じ自問を繰り返した。自惚れかもしれないが、自分の能力がこの世界での規格外ならば、利用しようとする人もいれば目障りと思う人も居るはずで、どちらにしても明るい未来では無いと思っている。

 将来的に全てを話せる人が家族以外にも出来たらいいなと思いつつも、目の前の可愛らしい紅い髪の少女を見て、それが相手の迷惑にもなる可能性も十分考えなくてはならないと複雑な感情を抱いたのだった。


「う~マジクは嫌々さんなの?」


 バーナデットが眉を寄せて見上げてきた。


「バーナデットは秘宝が好きかい?」

「うん?大好きなのよ?でもマジクが一番なのよ?」

「そうかぁ………バーナデット?一つだけ約束してくれないか、いざ危なくなっても僕を助けようとしないこと。それが一番心配なんだ」

「《名奪い》した者は《名奪い》されたものに対して責任を負うものなのよ?」

「それでもだ、僕は僕で絶対なんとかするから、いざとなったら逃げて欲しいんだ。バーナデットのお眼鏡に叶った僕を信じられないかい?」

「……それはズルイ言い方なのよ?」

「それをわかった上で、僕はお願いしているんだ」

「けっ!安心しろ!バーナデットにそんなこと一つもさせねぇ!勘違いするなよ!?お前がバーナデットのことを一番に考えてるならと、そこにだけは乗ってやるだけだからな!」

「ああ。ワシも約束しようお嬢の安全が最優先じゃて」

「私はトーリ様の遣い役としての義務があるが、バーナデット様に対しても最善を尽くそう」

「セリルさんの立場は理解しているつもりです」

「リリアさんもお願い出来ますか?」

「私には元から判断する立場に無いが、バーナデット様の身を守るのは遣い役の勤めだと先ほど言ったはず」

「バーナデットもいい?」

「うん………」

「ありがとうございます。すみません余計な口出しでした。全ての判断に従います」


 嫌な予感は拭い去れていないが、ここはプロの判断に任せることにする。もしプロにさえ想定外の問題が起きた場合に備えて僕は、能力を出し惜しみなく最大に発揮する心の準備だけ整えておこうと心に決めた。






次話 「ダンジョンの神のイタズラ」

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