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異世界Baby  作者: 本屋
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13、ペラム家


 「ペラム家は代々、ダンジョンから沢山の秘宝を持ち帰ってきたのよ?」

 

 バーナデットはハムスターの姿の僕に説明してくれた。僕のハムスターっぷりは完璧なはずなのに、バーナデットは自分の家のことを話して行く。始めは自分の名前や歳を教えてくれる自己紹介だったのだが途中から、ペラム家の成立ちを語り出した。一族の歴史や立場をペラム家では教育として教えているのかも知れないが、ただ丸暗記しているだけのようで、所々躓きながらも思い出して話す姿は可愛らしかった。話し相手のいない子供が人形やペットに話しかける感じなのだろうか。

 気絶したリリアを放置して、バーナデットの話は続く。結構薄情な一面もある女の子のようだ。

 ペラム家は持ち帰った秘法の数々は王国に献上し、時には自らの物として時代を経て大きく成った名家だという。ペラム家は元々貴族では無く、その能力と業績で貴族にまで上り詰めた傑物としても王国では有名だそうだ。成り上りを目指す若者達からの目線は熱く、数多くの物語の題材としても語られることから、その人気は王国中に広がり、一部の貴族には軋轢となる副産物も生んでしまっているという。

 そんなペラム家の子らは代々<秘宝狂い>と一族が呼ぶ<希少感知能力>を持つ者が生まれ、ダンジョンから秘宝を持ち帰り、その力と能力と名声を王国中に知れ渡らせている。

 ただ秘宝を見つけるだけではペラム家は大きく反映することは無かったそうで、決して奪われない能力《名奪い》をペラム家は有しており、手にした秘宝を決して奪われないという能力も、広く王国中に知られているそうだ。


「使用回数がある事は一族の秘密なのよ?」

  

 僕のことをネズミと思っているからなのだろうが、聞いてしまってから秘密とか言われても困る。

 《名奪い》は、例え盗み出されたとしても名を奪ったペラム家の者には居場所が分かり、全ての自由を奪い従わせられるという能力だそうだ。それはいかなるものにも対象となり、王国は人にその能力を使う事は禁止しているが、これは王国がペラム家の能力を恐れているからであり、その能力を人に使わぬ見返りとして貴族の地位を与えられているとも世間では言われているという。実際ところこれは本当の話ということなのだが、あくまで昔のペラム家の話だそうで、少なくとも今のペラム家には誰一人として王国での地位向上の野心など持っていないそうだ。それでもこの手の話があることもあって、表立ってペラム家に反しようと思う者は王国には居ないので、予防線としてこの話を正そうとしないという。ペラム家に生まれる者たちは<秘宝狂い>故に秘宝にしか関心がなく地位欲などないのだが、それを隠れ蓑として栄えている強かさもペラム家の一面であるそうだ。

 そんなペラム家でバーナデットは今の当主のもとに四人目の子として生まれたという。


「初めての女の子だから、わたしは甘やかされているそうなのよ?」


 バーナデットが外で聞いてしまったという話を僕にしてきた。四人も子供がいて、上三人が男ならば猫可愛がりになるのは当たり前だろう。僕でさえ双子の妹が可愛くて仕方がないのだから。バーナデットは家族から見てもペラム家として才能に恵まれていると言われ、紅い髪や瞳は誰よりも濃く、<秘宝狂い>を幼い頃から発揮し、何かと拾い集めてくる活発な子のようだ。

 ペラム家では幼い頃から<秘宝狂い>を頻繁に使わせる事で、その能力の精度、効果は上ると言われ代々受け継ぐ教育課程として重要視しているそうだ。バーナデットは近い内にダンジョンデビューが決まっていると嬉しそうに語っていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「使ってしまった事は仕方ないとしても………それにしても、ネズミか……」

「ネズミじゃないのよ?マジクなのよ?」


 バーナデットを見下ろすのは、赤い髪を短く刈り込んだ筋骨隆々の大男で顎に手を当てて困り顔だ。バーナデットに掴み上げられて、大男と面と向かわされている僕も内心では困り顔である。


「ネズミに名前があるのか?聞いた事も無いな………」

「ネズミじゃないのよ?パパ?」


 お、お父様でしたか………


「バーナデットが《名奪い》したのでは、既に儂の<秘宝狂い>は効かぬしのう。果たしてどうしたものか………」


 バーナデットの父親は、バーナデットの頭に手を伸ばすと優しく撫でる。


「それで、まだ使えるのは確かなのか?」

「うん使えるのよ?」

「まあ救いだのぉ。《名奪い》が二度以上使えるのは、嬉しい知らせじゃがネズミとはの~」

「だからネズミじゃ無いのよ?」


 確かにネズミでは無いんだが、ネズミと思われてた方が良いのは間違いない。


「あーわかっとるぞ。わかっておる。リリアもそんなに自分を責めるで無い。《名奪い》を簡単に使ってはならぬと言い聞かせて来たのは儂も同じじゃ、お前だけの責任では無いぞ」


 部屋の隅で消沈しているリリアはブツブツと独り言を繰り返している


「バーナデット様の初めてがネズミ………」


 ……ネズミじゃないけどスミマセン。


「パパ?マジクは絶対凄いのよ?ビビビッてきたのよ。パパもビビビッて来たんでしょ?」


 バーナデットの父親の顔が、より困り顔になる。


「あの話はママとの馴れ初めで、ネズミと一緒にしたら………ママが怒るぞ?」


 バーナデットは父親の言葉も耳に入ってい無いようで、僕の体を撫でるのに夢中になっていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 バーナデットの父親は僕がいることで、バーナデットの気が散って話が進まないと、僕を置いて部屋の外に連れ出して行った。リリアがまだ部屋の隅で壁に向かってブツブツと繰り返しているが、バーナデット達がいない、今がチャンスだ。このままここにいる訳にもいかないし、そもそもここに居たくない。本当に面倒ごとはこれ以上真っ平御免である。

 もうとっくに昼を過ぎて、レージンとの約束の時間内になっているはずだ。レージンの剣を持って、さっさとこの場を去らなければならない。だが、どうやってこの場から逃げ出すか。<変身能力>を駆使するのは当然として、剣を持ち出すには人の姿にならなければ無理だ。だがいまマジクに変身したら素っ裸で、衣類を調達しなければならないし、そんなあてもない。現状を打開するには、とにかく行動せねばならないのだが、かなり追い詰められた状況だ。最近なんだかんだで行き当たりばったりで潜り抜けてきたことから、何とかなるような気もするのは、この世界に毒されてる証拠かもしれない。


 <変身能力> ➡︎ マジク


 僕は人の姿になったことで、籠から抜け出した。籠を頭から取りバーナデットのベッドに移動するとシーツを手に取って体に巻きつける。

 歩きにくい事この上ないが、取り敢えず的な処置。今は鞘に収められ片付けられていたレージンの剣を音を立てぬようにおもちゃ箱から手に取ると、おもちゃ箱の中に仮面があったので丁度顔を隠せると拝借する。部屋の扉も極力音が出ないように慎重に開け気配を殺して、壁に向かって立ち直っていないリリアを尻目に部屋を出た。

 部屋を出てすぐの廊下には窓があり、反射している自分の姿を見て顔を引きつらせる。完全に怪しいとしか見えないというか、黒髪になっていた。窓ガラスに反射する仮面越しに見える僕の髪の毛が白髪から真っ黒な髪に変わっていたことで、インフォメーションで<全属性∞>を強制的な選択されたことを思い出す。

全属性の選択で髪色がレインボーにならなくて良かったが、黒髪もこの世界では目立つようなので、一概に喜べない心情になった。

 僕は窓ガラスに映る自分の姿に気を取られたが、眼下に裏庭らしきものが見えたことで我に帰る。今は脱出のことに集中しなければならないのだ。ここは二階のようで、ここから一階に降りて正面の玄関に回るのは、屋敷の者に出くわすリスクが高いだろう。人目の付かない場所から抜け出したいところだ。屋敷裏から出入が出来るかは賭けだが大きな屋敷の様なので可能性は十分にあると思う。目の前の窓には閉め金具が付いており開閉できそうなのだ。最短の脱出ルートとして用意されたかのような、近くに飛び移れそうな枝木も伸びていたので、衣類の調達は捨てて脱出を決意する。

 取り敢えずと金具に手をかけるがビクともしなかった。もう一度今度は力を入れてみる。


 ガチャリ!


 金具外れる音はビックリするほど大きな音だった。部屋から「ネズミがいない!?」とリリアの声が聞こえてきた。僕は窓を開けると縁に足を掛けて飛び移る。

 バーナデットの部屋の扉が開く。

 はためくシーツの下は、ぶらぶらと揺れるすっぽんぽんの仮面の男。


「ギャー!!へッ!変態!!」


 リリアの悲鳴と共にパスンとシーツを貫通して、僕が着地した木の枝に深々と短剣が刺さる。開放されっぱなしの僕の下のものが縮み上がった。

 僕は慌てて更に隣の木に飛び移る。ルートを選んでいる余裕はない。もう二本ほど飛び移って葉や枝木で屋敷が見えなくなるまで移動できたので一呼吸置こうとするが、顔の直ぐ側を弓矢が通り過ぎた。遠くから声が聞こえる。


「破廉恥なものを見せて……絶対コロス!」


 僕は冷や汗をかきながら先程の短剣や今の弓矢といい完全に殺しに来ていると、出し惜しみなく全力での逃走の覚悟を決める。屋敷の方角から死角になるように大きな幹の枝に背中を預けた。

 まだ試したことのない、大型の鳥ならばと思い周囲を確認して行動に移す。木の上でシーツを脱ぎレージンの剣をぐるぐる巻きにして集中力を高めるため目を瞑る。


 <変身能力> ➡︎ 扇鷲


 扇鷲は前世では最大級の猛禽類と言われ、最も強い握力と捕まえたものを運ぶ能力を持っていると言われいた。絶滅危惧種で日本の動物園では飼育されていなく、海外の動物園でしか見るのが難しいと紹介していたテレビ番組の特集を思い出す。今までで一番曖昧な記憶からの変化となる。体が変化し、自ら確認出来る範囲の体の様子は、自分の知る扇鷲とは少し違うような気もするが、今は逃げるのが先決だ。

 広げた黒い翼を両腕を振る感じで運動させると浮力を感じるたので、しっかりと爪で剣を掴み直し、より翼に浮力を生ませ翔び立つ。

 直ぐにも視界が広く解放され、遠くまで見通せる高度となった。

 空を飛ぶってこんなに気持ちいいのか。

 街はかなり広く、バーナデットの屋敷は街の端にあるようで、木々に囲まれていた。母達がいる砦を右手に中心には街、左手にはバーナデットの屋敷という配置だ。砦の奥には険しい山々が見え、街を中心に周辺の土地は半分以上山脈に囲まれているよな形だった。


「ん? 何だろあれ?」


 <危機察知3>が鳴り響き、背中に緊張感が走る。鷲の視界は広いというが、距離的にかなり先の山々の中に大きく翼を広げる何かがいる。僕はそれが何か想像できるかできないかの内に急降下する。


「………ドッ、ドラゴン!?」


 僕が初めて絶対的な上位者との違いを嗅ぎ分けた瞬間でもあり、兎もどきにも死にかける自分は絶対に近寄ってはならない相手である。

 だが、とった行動は一瞬だったにも関わらず、かなりの距離があったはずなのに遅かった。僕の体に覆う影と共に体を捻じ曲げられるほどの圧迫感を感じたのだ。


「がはっ!」


 訳も分からず吐いた息に血が飛び散るのを見る。何かが体の一部を貫いている感触。僕は自分がまたしても死地に踏み込んでいることを知った。必死に意識を懸命に保ちながら、マジクの姿に変身してドラゴンの体の一部に触れる。<複製能力>の発動によって体に溢れる力の奔流。指に力を入れ触れていた場所を力の限り握り潰す。


「ギリュユルルルガァー!!!!!」


 ドラゴンが痛みに叫び声を上げる。

 その叫び声だけで意識が消し飛びそうなほどの激しい声量。

 僕は襲っていた圧迫感が緩むのを感じると、握り潰したまま離さなかったドラゴンの足に体を引き寄せ、大振りながらも最大の力を込めて拳をドラゴンの腹部に叩き込んだ。

 僕は目がかすみ行く中、空中で意識を失った。




次話 「メロディ」

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