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異世界Baby  作者: 本屋
102/112

102、天神海の幸


 旅行のメンバーは、ペラム家からバーナデット、リリア、トーリ、ガルドー、我が家全員の十一人となった。

 軽い試運転はしたが、家族全員を乗せての長時間の走行は初めての試みだ。時折止めて、歪みの発生の確認と摩耗や潤滑油の状態を<スクリーンショット>で記録していく。今の所、出発前に記録して置いたものと比較して異常は見られなかった。一つ試運転の時に問題になった自重が重くなり過ぎた為に車輪が道に潜った問題は車輪の幅を三倍にする事で解決できたが、より自重が増してしまって馬の負担が大きくなった。魔法を行使して馬の負担は一時的には減らせるが、長い時間行使し続けるのは集中力が切れて無理があるので、やはり摩擦の少ないベアリングの開発をすることになりそうだ。


「作ってた時は生き生きしてたのに、今は元気無しね。私から見れば、あなたは十分やっていると思うけどね」


 慰めを言ってくれたラヴィニアが言う通り、作っていた時は思っていたよりも上手く事が進んで楽しかったのだが、実際に魔具付きの馬車と初めて一緒に走った今回の旅で、その劣る性能の差が浮き彫りになって浮かれていた気分が吹っ飛んだのだ。

 後ろからトーリとガルドーたちを乗せたペラム家の馬車が付いてくる。ペラム家の馬車も、ペラム家で所有する中で一番大きなもので馬ニ頭引きである。僕の製作した馬車はペラム家の馬車から見てもかなり大きいが、馬が六頭必要なのでエネルギー効率の差が魔具の有る無しで明確に出ていた。魔法の行使によるサポート付きでこれなのだから、僕が少しばかし落ち込んでいても、そっとして置いて欲しいと思う。

 そもそも魔具とは何か。魔法の能力を持った道具というのが一般的なものらしい。魔具職人と呼ばれる者達がいて、仲介人となる商人を通して魔具の販売をしているそうだ。魔具職人が作り出す魔具の殆どは商会連合が管理して相場を管理していることになる。商会連合が魔具の販売を独占しているということだ。魔具の製作方法は魔石に魔法を閉じ込めることが出来る能力が必要だと一般的に知られているが、その必要とされている能力名は極秘とされている。更に実際の製作には能力以外のものも必要らしく、純度の高い魔石ほど閉じ込めることが出来る魔法の大きさが比例していく。魔石の流通に関しても商会連合が管理しているので二重の独占で魔具職人の囲い込みを実現していた。魔具は高価なものになるのでトラブルが起きた時に問題も大きなものになる。魔具職人が個人で商売をすると軋轢(あつれき)の中で潰れてしまうのだ。商会連合が仲介する事で魔具職人は軋轢から(まぬが)れる。商会連合は情報操作で平民の憧れの職業になることまでしているらしい。王国も商会連合が管理することを認めていることから今では、魔具職人が危険なトラブルに巻き込まれるケースは殆どないと言われている。

 狂信者達の<鑑定能力>を利用した私兵を集める行いは、王国に仇なす行為と執われることとなれば、王国も大きな排除行動を発せられる。僕の暗殺未遂から発覚した一連の狂信者供の行動に、トライセルは僕を気遣う素振りを見せながらも、危険な輩の行動が明るみに出て、幹部を数人捕獲出来たことは渡りに船だったと思っているようだった。まだ実行犯が所在がわかっていないので危険なのは変わらないが、今は周囲に鼻の効くカウタと共に行動している間くらいは緊張感は解いて良いだろう。


「そうだ、ラヴィニア君に渡すものがあったんだ」

「なに?重いものはお断りよ?」


 ラヴィニアの言う重いものというのが、重量的なものを意味するのか、気持ちとして重いものなのかは、面倒だし聞きたくもないのでスルーする。


「何これ?文字?なんて書いてあるのよ?」

「私は喋れません。申し訳ありませんって書いてある。これから向かうのは他領だからね。ピークトリクトと違って融通が効かない可能性が高いんだ。要らないトラブルを招かないための予防さ」

「………」


 ラヴィニアが眉を寄せて僕を見つめてくる。何か言いたそうだが言葉を飲み込んだようだ。礼を言おうとして止めたと言ったところだろうか。まあいい。

 僕は車体の点検を終えると車内に入り、ベビーベッドに体を預けてユウキに戻った。


「ふぅ~いろいろと、うまくいかないものでちゅね~」

「だぁ~?」

「だぁ~?」

「きゃっきゃ♪」


 僕がため息を()くと、アキちゃんが小首を傾げて来た。どうしたの?と気遣ってくれているように思えて、反応に困ってアキちゃんの真似をして誤魔化したのだが、アキちゃんはその流れがとてもお気に召したようで、楽しそうにお座りジャンプをして喜びの声を出した。しばらくの間、真似っこ合戦をしていると楓が居ても立っても居られなくなったようで、母のおっぱいタイムを途中で放棄して、真似っこ合戦に参加して来た。楓の場合はこう言った時でも声は出さないので、完全な真似にはならないのだが、頭の上にいるぴーちゃんと動きが連動しているので、それはそれで面白いのか、アキちゃんは楽しそうだ。悩み事や考え事から解放されるこの瞬間を大事にしようと思う。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 天神海領の領館がある天神海の街に着くと、天神海の姫である愛海凛が自ら出迎えに出てくれていた。愛海凛の姿を見て僕はユウキの姿のままやり過ごすことにする。王都に向かう道中に愛海凛に想いを告げられてから、拒絶の態度を取って来ている筈なのに愛海凛は、へこたれた様子は一つも見せない。大言通り諦めている様子がない。


「マジクは頻繁に行方をくらますのよ?」

「マジク様がいらっしゃらないなんて、同乗されている事は確認した筈なのですけれど。王都でも顔も合わせる機会にも恵まれず出立することになって、今回の来訪楽しみにしていたのに、もう~マジク様ったら~仕方のない人。うふふ」


 僕はマジクとして愛海凛に対してかなり、お座なりの態度を取っていると思うのだが、愛海凛が見せている瞳を潤ませて頬を上気させている姿は、間違った方向に目覚めていないことを祈ることしか、いま僕には出来ない。


「皆さんも、王都以来ですね。天神海を持って歓迎致します」


 歓迎されることは吝かではないのだが、歓迎の度合いにもよるのである。どうも愛海凛は天神海として僕達をもてなす気が満々のようだ。僕達はプライベートで旅行に来たのであって、天神海にもてなされに来たのではない。

 愛海凛が乗る馬車が僕達の馬車を先導してくれているとあって、天神海の街ではすれ違う人の注目の的になった。徐々に天神海の領民が沿道に集まり凱旋パレードのようになって、ただの旅行がおおごとなって来ているのを実感して来た。

 前回天神海に来た時は、緊急で転移によるものだった上に、救出へとダンジョンに向かうのは差し迫る時間もあって街の様子をじっくり眺めている余裕などなかった。それでも一応記録としては、天神海の街並みの様子を残していた筈なのだが、今回見る風景は前とは違う印象だった。


「からふるでちゅね~」


 天神海は王国の一部となる前までは、千年も前から一つの国として存在していた領地ということもあって、王国とは違った文化と風習がある。海の青と同じ青い屋根や外壁、赤やオレンジ色の濃くて明るい派手な色で溢れている感じだ。特に商店などを営んでいる建物が、派手な配色をしていることが多く、色で主張をする文化が根付いているようである。服装も派手な色を好み、愛海凛の様に何枚も色を重ねた服装まではしないものの、平民の服装もピークトリクトの平民と比べて派手だった。ピークトリクトの街でも、時折天神海の人間を見かけることがある。出で立ちで直ぐにも判別がつくのだが、天神海に来ると逆によその領民が王国の一般的な服装をしているにも関わらず目立つのである。

 僕と同じ様に三人の赤ん坊が、馬車の窓から顔を覗かせているので、それに気付いた沿道の人達が笑顔になって手を振ってくれた。僕達三人は母の作ってくれた新しいベビー服を着ている。頭まですっぽり被ったフードには、アキちゃんがクマ耳、楓がイヌ耳、僕がツノで自分で言うのも何だが、可愛らしいベービーズに天神海の街の人達は顔を綻ばせて手を振ってくるているようだ。返事をする様にアキちゃんが興奮して声を上げていた。ぴーちゃんは街の中ということで、隠れて貰っている。この馬車には隠しスペースがあり、領界を通過する時もぴーちゃんには隠れて貰った。本気で検分されれば見つかってしまうだろうが、天神海領と懇意になっている事も含めて、ほとんど顔パスで軽い審査のみで通れてしまったので、隠しスペースはノーチェックだった。


「マジク殿、あの時は恥ずかしい限りで、儂等のものの見えぬ目ん玉なんぞ、くり抜かれてもおかしくなかった。マジク殿の懐の深さに儂等は今も感服しておる。姫様と同胞を助けて下さったものとは別に、恩義を感じておるのだ!ガッハッハ!」


 領界の審査役は僕が天神海の領館に転移した先にいた堅気に見えない強面さんだった。勘違いレベルでやたらと僕の都合の良い方向に取られている気がする。あの時は本気で空気の読めない場違いな格好で怒られて当然だった上に、強面さんの殺気に当てられて怖気付いて居たのがありのままの僕の姿だ。


 宿を二泊取る予定だったのだが、天神海領館にグループ分の部屋を用意されて、断っても聞き入れてくれなかった。僕はユウキでいたためにトーリとガルドーが遠慮を申し出たのだが愛海凛を始め、領館の者達全員に引き止められることに至った。受けた恩に関して報いるのが当たり前という考えが根強い天神海では、受けた恩がマジクであったとしても、主人であるバーナデットとペラム家にも同じ恩義を感じるそうで、歓迎の宴が開催されるほどの歓迎ぶりとなった。


「海の幸は美味しいのです!」

「これも美味いぞ!」


 食い気が一番の目的だったメイと優雨美は、宴に用意された天神海の海の幸を前に大はしゃぎだった。今回の旅行で大きな目的の一つが達成されたので、領館の宴には感謝すべきなのだろう。何せ天神海の領館が用意した天神海の海を代表する食材達で、同じものを外で手に入れようと思っても手に入らないものだと会話の流れからキャチしていた。食いしん坊の二人は味わっている様子もなく、ただがっついているだけの様子にリーダーのトーリも気が気でないようだった。


「時間が経てば経つほど出にくくなるわよ?」


 ラヴィニアの言う通りであるのだが、今更マジクになって、歓迎を受ける気にもならなかった。豪華な料理は惜しいが、愛海凛を始め、天神海の重鎮達が僕をベタ褒めしているのだ。その話を聞いた上でこの場に現れて、どんな表情をすれば良いのか分からない。更に王都でのことが輪をかけて大きな話になっていた。付き合いきれないのが本音だ。ユウキでいることで得られる情報もあると思って耳を傾けていたが、大した収益を見込めなかったので、喧騒の中でもスヤスヤと眠るアキちゃんの隣で僕も寝てしまおうかと思っていた矢先だった。


「何だ!婿殿が居らんのは残念よのう!」

「まあ、お爺様ったら!」


 赤ん坊の姿ながらズッコケた。天神海領主久那之守・レグラ・貞昌の登場である。いつ婿になったというのだ。僕がいないこといいことに風潮しているのではないだろうなと睨みつける。


「私もこんな、赤ちゃんが早く欲しいです」


 アキちゃんが寝ているのをいいことに、独占でぴったりとくっついている楓を見て愛海凛がうっとりとする。僕以外と欲しいだけ作ればいいと思う。


「婿殿も、こんなご馳走を食べ損なうとは、甲斐性なしよのう」

「恥ずかしいですわ♪」


 孫娘をご馳走呼ばわりする神経がよく分からない。どうも天神海の人間の人となりにはついていけない。一度懐に入ってしまうと、家族と見間違うほどの親近感を持って接してくるのだ。仮の姿を持つ身の上としては、故意になってはいけない人種だったことに今更気付き、大きな後悔を感じていた。





次話 「観光」

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