100、噂の悪役ヒーロー
狂信者の四人は僕に何か強力な魔具を使おうとしたようだが、難なくクリスティアンが無力化してしまったので結局のところ最後まで僕は何もしていない。
「これは何か他のものより、危険な感じがしますね」
「即死効果と、こっちは精神支配じゃな。あまり好かんのう、この手のものは。お前さん達種族は残虐極まりないのう」
同種族で合間見えぬ者は憎しみ殺し合う人族の業は、この世界でも同じで、クリスティアンに醜い争いを付き合わせてしまったことに申し訳なく思う。それにしてもまた即死か、やばいなんてもんじゃない。精神支配は子供達や優良な能力者を信徒に仕上げる為にも使われてそうだ。魔具は使い手を選ばない分、製作者には悪意の塊しか感じない。精神支配した子供に即死の魔具を持たせて暗殺などにも併用出来るからだ。過去に使われた記録がないことを祈るしかない。このことも含めてトライセルに、また伝えなければならない用が出来た。
「クリスティアン様、この四人の中に魔具を製作出来る能力者はいませんか?」
「おらぬのう。全員<鑑定能力>を持つ者じゃ」
よくもこれだけ<鑑定能力>持ちを集めたものだ。狂信者達の幹部は<鑑定能力>が必須なのかも知れない。<鑑定能力>がいて、危険思想の組織が成り立っているのは上層部が互いのことを包み隠さず鑑定出来る。奇妙なバランスからなるものではないかと考えが及ぶ。
「クリスティアン様、今更ですがここの人達が目を覚ますのいつですか?」
「一日は覚まさぬぞ?お主は顔によく出るのう。なんじゃ頼みごとか?その申し訳なさそうな顔は?子供がそんな顔するでない」
「この四人と子供達をここから、連れ出したいのですが」
「また、無茶なこと言い出すの~。女子供今まで何人おった?」
「二十一人です」
「全員か?」
「いえ、幹部は拘束の形をとりますが、他は目を覚まさせて、解放されたい意思がある者だけを連れて行きます」
「どうやって運ぼうと思っておる?妾はあの様な者達に背は貸さぬぞ?」
「掴める大きな籠のようなものを作りますので、運んでもらえませんか?」
「今から作るのか?そんな大きなものを」
「はい。王都の近くまでで良いのでお願いできませんか?」
偽善なのはわかっているが、強制的に信徒として参加させられている者ならば、助け出したいと思った。その力も協力も得られるならば、自分の好きに行動するのもたまには良い。いつも取り巻く環境に振り回されているのだからと、自分の気持ちを正当化する。
「難儀なやつじゃのう。お主は種族の中でも浮いておりそうじゃの」
「そんな事はないと思いますけど………」
まだまだこの世界の常識を全て知った訳ではないので、最後の方が尻窄みしてしまった。
「外に集めて来ますので見張りをお願いしても良いですか?」
「お主は籠を作るのであろう?ならば妾が引きずって来よう」
「これ以上煩わせるのはー」
「そのやり取りは、もうよい。素直に受け取って行動せよ」
クリスティアンは面倒臭いと腕を組んで手を瞑って会話を打ち切ってくる。人のことは言えないが、人が良すぎて長という立場が務まるのかと疑問に感じるレベルだ。
幹部を共に二人ずつ担ぎ神殿を出て洞窟を登り地上に出ると幹部四人をまとめて魔法の檻に入れる。クリスティアンは引き返して神殿に戻って行ったので、僕は周辺の木々を風の魔法を使って伐採して広い場所をつくった。一本だけ形と大きさの程よい木を選び土魔法を併用して根から引き抜く。クリスティアンが掴む太い枝だけを残し邪魔な枝は全て刈る。この木を中心に場所を作るのに伐採した木々を使って大きな木の籠を作る。二十一人全員乗ることを仮定して釣り材を多めにとり、梁を床下に入れて床の補強を十分にする。自重を軽くするために手摺無しで巾木程度の簡易的なものにした。放置する信徒の衣類で中心の木に結ぶ命綱と中心の木を貫通させて通した手で捕まる棒を何本か設置する。釘は流石に作るのに時間が掛かりそうなので、抜き留めの横材や継手を加工し工夫した作りだ。<家事能力+Ω>マジ万能。
「これは驚いた、まさか一往復の間にそれらしいものが出来ているではないか」
「僕も驚きです。一度に神殿と洞窟の七人運んで来るとは」
子供も女性もぞんざいな扱いの運び方だが、特に問題はない。本当に引きずって来なかっただけ、高待遇だろう。
「残りの森の対処者は僕が運んで来ます」
言い合いにならないうちに走り出す。まずは一番初めに襲撃された場所からだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「マジク………緊急なのかも知れぬが、火消しをする方にもなってろ」
王都区からかなり離れた場所に運んでもらった筈なのだが、思いの外大騒ぎになった。クリスティアンとは既に別れており、今度はゆっくり遊びに来いと約束を押し付けられての別れだった。離れた王都からでも竜の姿のクリスティアンはよく見えたらしい。僕たちが移動する準備をしている最中に王都から聖騎士隊が到着した。僕の顔を知っている聖騎士がいてくれたおかげで、直ぐにもトライセルへの取り継ぎがされたのだが、逆に僕はトライセルからの命令で行動を制限される。クリスティアンの着地点から移動できない時間が狂信者の根城に居た時間より長くなる羽目になった。
「少し騒ぎ過ぎな気もしますが?」
「馬鹿を言え!黒竜の姿を見て、気を失った民がどれ程に上ったのか教えてやろう。百六十二人だ!」
「それは、思っても見なかった被害ですね………」
「黒竜だぞ!?死と不吉を司る禁忌の竜だ!」
「へ?クリスティアン様がですか?」
トライセルの目が驚きに見開かれる。
「……よく聞き取れなかったが、黒竜の名か?名を聞いた者は死が訪れると言い伝えがあったが、いま君が生きているのを見ても迷信なのは分かったが名を教えられ運び役を頼める間柄となったのか?………頭が痛くなって来た」
クリスティアンの名は人には聞き取ることも出来ないらしい。クリスティアンの言う通り、名を聞き取れないのならば、発音出来ないと言うことなのだろう。それとも別の何かの要因があるのかだ。
「僕のことを助けてくれるわ、手伝いまでしてくれるわ、僕が心配になるほどのお人好しな、南神の竜族の長でしたよ」
「歴史書や言い伝えがひっくり返る史実の報告はこの際後回しで良い。連れて来た女子供達はダンジョンの神の信徒、それも暗躍して居た過激派の信徒で間違いないのだな?」
「はい、聖騎士団の副団長様にもお伝えしましたが、幹部の四人から聴取を取れば事実確認は取れるかと。ですがお気を付け下さい。四人とも<鑑定能力>持ちのようなので、鑑定した情報から心理を突いて来る可能性があります。聴取の人選は慎重にお願いします」
目を覚ました女子供の全員が保護を求めて来た。狂信者は<鑑定能力>を使って彼らの弱味を見つけ、そこに漬け込み、信徒となる道筋以外を削ぐ手口を一人として例外なくやられていたようだ。非道な連中なのは涙ながらに訴えかける子供達を見て確信した。クリスティアンも嘘は言っていないと影で教えてくれたので間違いない。<鑑定能力>はその凡庸性から、決して悪用してはならないことを実際の目で見ることになった。
「<鑑定能力>者が四人もか、狂信者でなければ喜ぶべきなのだろうが、災いの種以外あり得ぬな、今回は。だが狂団の大きな戦力を奪えたのは大きい。褒めるべきなのだろうが、素直に褒めたくない心境が、魔王マジク殿には分かるかな?」
「その魔王って、狂信者の幹部にも言われました。魔王の名が広がるのに殿下も一役買ってるんじゃないでしょうね?」
「そんなわけあるか。王都での魔王の評判を知っているか?英雄や勇者よりも、子供は憧れ女は頬を染める存在と化しておるのだぞ?こんな狂った世情を広める訳あるまい」
「え……っと、はい?何で魔王が人気者になっているんですか?」
「ペラム家の奥方が蒔いた種の受けが民に良すぎて、面白がって記者どもが更に加熱して大々的に祭り上げおった結果だ」
「そうなるのを黙って見過ごしたのですか?」
「馬鹿を言え。誰があの馬鹿げた記事が発端でここまで取り返しの付かない状況になると予想できる。バカバカしくて放置した結果だ。もうどうにもならん。何が非情で冷酷だが、気付けば助けられているだ。一人を助けるために周りを盛大に巻き込むのは、大事なものを気付かせるための彼の粋な計らいだだ。どうして傍迷惑な奴だったと民が言っていたにも関わらず、いまは評価が百八十度ひっくり返っている?」
目を充血させて、僕に詰め寄って来る。怖い。
「僕に言われても、見てもいないので」
クリスティアンに運んで貰ったあの場で足止めを食らった理由の一端が、僕にもあったことがわかった。何も知らずに王都区に入っていたら、僕の顔と魔王を同一人物とわかる人に遭遇した場合、怖いことになった可能性がある。
「私はこの件に関しては、最後まで放置することにした。既に想定外のこの状況で、火消しに動いたら、それこそ想定外の被害を受けかねない」
「いや、ちょっと!諦めないで下さい!どれだけ盛られてるか知らないですけど、放置されるのは困ります!」
「もう無理だ、既に王都区を出て近領には広がっている。吟遊詩人に旅芸人がこれまでにないタイプの新しい人気者の活躍を挙って、広めるのに躍起になっておる。ピークトリクトにも届くのは時間の問題だろう」
僕が頭を抱えて困っている素振りを見せているのにトライセルの表情は変わらない。クリスティアンは見返りもなく同情して助けてくれたのに、トライセルからは見放された。黒竜が不吉だとか聞いて呆れる。
それにしても元を正せばスカーレットの悪ふざけが始まりだ。僕もここまで大騒ぎの元凶になるとは思っても見なかった。当の本人はこの事を知ったら大爆笑で涙を流すだろうが。そのまま笑い死にしてくれればいい。
「この話はもうなしだ。それより狂団の狂信者達が能力の悪用を続ける事で、人族として能力を失いかけないという事実には至急対策を講じる必要がある。ダンジョンの神の一部の行き過ぎた連中の活動は我々も把握はしていたが、最大信徒を誇るダンジョンの神の信徒ともなれば、有力者達の理解を得るのも困難だったのだ。王族もダンジョンの神の信仰を持つ伝統があったからな。いままでは扱いが神経質になる繊細な問題だったのだが、今回、君がもたらしたこの事実は、腰の重かった連中を動かす理由にはなる」
「それはお任せします。ですが今回保護した女子供に関しては盛大なる処置を願います」
「今となっては、その言葉は脅しにも取れるな。首をかしげるでない。黒竜を連れて王都の近くに飛来したのだ。言う通りにしなければ黒竜を嗾けるぞと言っているようなものだ」
「思っても見ませんでした。まさか殿下も本気では言っていませんよね?」
「私は思わないが、他のものを黙らす手立てにはこれ以上なカードだかな」
「結果オーライという奴ですね」
「何を嬉しそうにしている。今話題なる魔王の大きなネタを提供することになるのだぞ?」
僕は声にならない悲鳴を口にした。
「噂の魔王の、その表情を見れただけでも良しとするか………。後で渡すものがある。送る手間は省けた。神子の紋着だ。それを羽織らせておけば、大概ことは同行させられるだろう」
前に王都に来た時にトライセルに頼んでおいたものだ。
「君自身のは、本当に要らんのだな?」
「はい、僕自身はそんな仰々しいものはいりません」
「君の場合は、周りからのトラブルを減らす為にも、危険物とわかるものを身につけていてもらう方が良いとも思うのだがな。まさか、自分の見た目を利用して相手の反応を楽しむ趣味趣向があるのではないだろうね?」
そんな自らトラブルを楽しむ趣味嗜好があるわけないと、僕はトライセルを睨みつけた。
次話 「楽しい時間」




