サスカ・リッチ
「僕はずっと君のことが……」
僕は言いかけた。
しかし言葉が続かない。
僕の方を彼女が見る。
長い銀髪に青い瞳の彼女。白い肌。
彼女は少し驚いた表情になり、俯き、しばらくしてから言った。
「……サスカ・リッチ」
「え?」僕は言葉は聞き取れたが意味がよくわからなかった。
「な、なんでもないわ。ケイ、私、もう行かないと……」
彼女は荷物を持ち上げ、転移の魔法を唱えた。
僕は慌てて叫ぶ。
「待って!クラリー……!」
彼女は一瞬にして消えた。
僕は一人草原で大空を眺めていた。
彼女が消えてから3か月。
後悔の念は今でも消えていない。
あの時ちゃんと好きだと伝えておきたかった。
たとえ、断られたとしても。
彼女、クラリーはあの場を早く離れたがっていたように思えた。
僕の言おうとしたことを察して、その場を早く離れたかったのだろうか……。
クラリーから連絡はない。
僕は剣士で、クラリーは魔法使い。
一緒に冒険をした仲だ。
様々な危険を乗り越え、達成感を共にしてきた。
クラリーは古代言語に詳しく、迷宮では僕にはわからない文章もサラサラと解読し、
僕は感心したものだった。
しかし、そんな冒険の日々も終わり、
魔物の巣窟と言われる迷宮も多くの冒険者によって攻略され、
僕たちの存在意義は無くなってしまった。
これからどうしようか、という話になった時、
彼女は「故郷に帰ろうと思うの」と話した。
僕たちの日々は終わった。
僕はその後あてもなく街を出歩いていた。
様々な店が立ち並ぶ商店街。
古い文献がたくさん置いてある店の前で立ち止まり、
ふと思いを巡らす。
クラリーならこういう文献もサラサラ読んでしまうんだろうな。
僕はなんとなく店の中に入る。
することも少なく退屈だったので、
簡単な本でも探してみようと思った。
しばらく店の中を探していると一つの本に目が止まった。
『古代語を学ぶ愛の物語』という本だった。
どうして恋愛小説を読みたいと思ったのか、それはよくわからない。
僕はその本を買い、また草原に戻って木の傍でそれを読み始めた。
『古代語を学ぶ愛の物語』は、恋愛小説の形をしつつ、
所々で古代語が出てくる、古代語の入門書のような本だった。
話はシンプルな恋愛小説で、主役の男女が最終的には結ばれるのだろうな、
と思いながら読み進めていた。
心の隅でクラリーのことを思い出しながら。
そして物語がクライマックスになった所で、僕はぎょっとする。
「サスカ・リッチ……」
「どういう意味?」
「あなたを愛しています、という意味だよ」
僕がとんでもない照れ屋さんのクラリーと再会するのは一か月後のこと。
僕は、「サスカ・リッチ」と言い返してやった。