(9)神獣
見た目には白い長毛の猫にしか見えないハトゥールだがニャーとは鳴かない。
「従魔って人の言葉をしゃべるものなのか?」
魔導研究会の会長やイレーネ先輩の従魔は孵化した時鳴いていたが、あれは産声のようなものだったのだろうか。ハトゥールは一声も鳴かないまま走り出したけど
「我は主と同じ言葉を発しているが、同じ術式を用いて生み出された従魔は言葉を発することはできない。一方的に召喚者の言葉を解するのみだ」
「ハーちゃんが人の言葉を話すのは特別ってことか! そうだよなこのかわいさは特別な存在に違いないよな!!」
「……我が主と同じ言葉を発するのは我が主に意思を伝えるためだ。我は世界の理を統べる者。正確にはその力の一部が従魔として召喚された身であるが、この程度の理の操作など容易いものだ」
ワルドの言葉に片側のヒゲをピクリと釣り上げるハトゥール。ああ、これは鬱陶しいと思ってるんだろうな。
それでも説明を続けてくれるとは気の長い猫だ。
というか、世界の理を統べる者って……
「ハトゥールは神様なのか?」
「世界の理を統べる者の力の一部が具現化したものだから神獣といったほうが主にはわかりやすいのではないだろうか。世界の理を統べる者というのは個の意思を持たない、世界を形成する機構の一部のようなものだ」
なんだかすごい存在が従魔になったようだ。ていうか神獣が従魔になるものなんだろうか。
「主が膨大な魔力を注いで召喚を行ったのだ。世界の理はその魔力に応じた存在を従魔として誕生させる。主が注いだ魔力量が尋常でなかっただけの話だ」
「いや、俺の魔力は人並み程度・・・」
「主は召喚の術式の最中に魔力増幅Ex、魔力制御Ex、魔力授受3のスキルを獲得している」
ギルドカードを取り出すとハトゥールの言う通りスキルが増えている。
「主が我を召喚した術式は古き世のもので魔力を注ぐ時の呪文で属性をもつ魔物、属性はないが力ある生命を従魔にするものだ。我はどちらでもないが主の力になるぞ」
ハトゥールは目を細めて喉を鳴らした。頭を撫でてやると想像以上に触り心地が良い。
ワルドが触りたそうにしているがハトゥールはワルドに撫でられる気はないようだ。
「ところで主のその呪いは厄介だな」
「呪い?」
特に呪われた覚えはないけれど……
「主の記憶はないだろうが、1人の人間を何度もやり直しさせる呪いがかかっている」
「それって……いや、まてよ。『何度も』?おかしいな。俺の記憶にあるのは兵団に入って死ぬまでの生涯のものしかない」
「なんと。主にはやり直し前の記憶があるのか。その記憶は主の前回の生涯のものだろう」
ハトゥールが言うには、その呪いのせいで俺は何度も人生のやり直しをしているらしい。
今と前回の生涯しか記憶にないが、呪われるようなことはなかった思うんだけど。
まあ、呪われていたとしても後悔しない生涯を送れたらそれでいい。前回のように20代で寂しく死ぬようなことがなければ大丈夫だろう。
「呪いを解かねば主は何度も同じ年齢で死を迎えループを繰り返すことになる」
前言撤回。呪われてていいことはないようだ。