(7)魔導研究会と遭遇
巨大なボードに文字を書きながら老教師が張りのある声を響かせる。元冒険者らしく年齢にそぐわない体格で学生たちを指導している。
「スキルには、剣術や体術といった繰り返し経験をつむことで身につくもの、使い手に魔力がないと身につかない魔法のような才能によるものがある。もちろん剣術や体術にも才能やセンスは影響する。しかし、ある一定の精度までは磨くことのできるスキルを身につけないのは損というものだ」
授業終了の鐘の音とともに学生たちがしゃべりだし室内が賑やかになる。
「なあ、クロ。今日の授業のココのところってさ」
ワルドがテキストを開いて聞いてきた。
「ああ、ここは……」
「あ! ワルド君も? わたしも同じところがわからなかったんだよね〜」
説明しかけたところでワルドが2〜3人の女の子に囲まれた。
ワルドといるとよく見る光景だ。こいつは何故かモテる。羨ましいかぎりだ。
顔には出さずに、質問の箇所を噛み砕いて説明すると女の子たちは俺にありがとうと笑って去っていった。
「ワルドがモテて、俺がモテないのはなんでだ?顔?」
「クロ……今の女の子たちは俺じゃなくてクロに話しかけにきたんだと思うぞ?」
「だったらいいな」
ワルドは残念なものを見るように俺を見た。まるで俺が鈍いように言うが鈍いのはワルドだろう。失礼な。
授業が終わったので荷物をまとめてワルドと一緒に学舎を出る。
「これから、魔法スキル上げたいから海岸洞窟行ってくるよ」
学舎や街中で攻撃魔法を試すのはまずいような気もするし、洞窟なら問題ないだろう。
「暇だし俺も行く。クロの魔法は頼りにしてるし」
海岸洞窟は浅瀬の時間帯に海岸沿いに渡って行ける小島の洞窟だ。
洞窟内は広く、光も入るので魔法を使うにはもってこいだ。
ワルドは俺が読み終わった魔法技術の基礎本を開いた。
「属性は火、水、大地、風、光、混沌、時空の7つ。クロが使えるのは?」
「いまいち感覚でわかりづらいから、ひとつずつ試してみようと思って。まずは属性だな。」
「じゃあ最初は火」
ワルドのリクエストに火をイメージする
俺の手に熱が集まり、掌を向けた洞窟の壁に人1人分ほどの大きさの炎がぶつかる。
「水」
掌の温度が下がる。水の中に手を入れたような感覚だが濡れてはいない。今しがた炎に焼かれた洞窟の壁を大量の水が濡らし、凍らせた。
「大地」
凍った壁の手前の地面が盛り上がり、鉱石や岩が地面から突き出す。
「風」
あしもとからあらわれた旋風が勢いを増し、鉱石や岩、氷を粉々に崩して洞窟の地面に撒き散らす。
「光」
いくつかの光の玉が俺の周りに浮き辺りを照らす。
「混沌」
光の玉とおなじくらいの黒い玉が浮きでたのでこれも壁にぶつけてみる。黒い玉が触れた瞬間、壁には玉の大きさとは比較にならない巨大な穴があいた。
「すげ……最後は、時空」
「ワルド、飛ぶぞ」
ワルドに声をかけワルドと自分を洞窟の外、小島の丘の上に空間転移する。
「……クロ、パネェな」
「うーん。なぜか、できたなぁ。あとはどのくらいの威力間で扱えるのか知りたいな。よし、洞窟に戻ろう」
空間転移で洞窟へ戻る。
そこへ人の話し声が聞こえてきた。
どうやら誰か来たようだ。
「このあたりなら古代魔法を執り行えるでしょう」
「会長、では魔法陣を敷かせていただきますね」
「イレーネ君、僕も手伝おう」
「あら、副会長ありがとうございます」
洞窟に入ってきたのは魔導研究会の主力メンバーのようだった。
イレーネ先輩が言ってた古代の魔法を再現しに来たのか。
「イレーネ先輩、例の魔法の再現ですか?」
ワルドが声をかけるとイレーネ先輩は俺たちに気づいた。
「あらあら。クロノ君と、お友達のワルド君でしたね」
「会長、副会長、イレーネ先輩こんにちは」
「おやクロノ君。奇遇だね。良かったら君も参加しなさい。君の番がくるまでは見ていてくれればいいよ」
会長はそう言って俺に卵をひとつ押し付けた。
会長の中では俺が参加するのは決定事項のようだ。
なかば強引に巻き込まれたため、準備を手伝うこともできない。
せめて邪魔にならないように、ワルドと俺は洞窟の端に腰掛ける。
魔導研究会の研究成果に興味もある。