(5)イレーネ先輩と遭遇
「クロ、未来が見えるって言ってたよな。その未来でもそのスキル持ってたのか?」
スキルの解析結果を説明すると、ワルドは思い出したように尋ねてきた。
信じてないかと思ったけど、そうでもなかったようだ。
「いや、こんなスキルなかった。そもそも剣技一筋だったし」
「ああ、じゃあ順調にクロが見たのとは違う未来に向かってるってことか」
おそらくそうだろうけど、自信は持てない。そもそも今のところ女の子とも疎遠だし、このまま1人身で寂しく生涯を終えるのは嫌だ。
おかしい。意識的にコミュニケーション能力も重視してきたのに。
まあそのうちなんとかなるだろう。
「……たぶんなー」
「俺にできることがあれば言ってくれよな。力になるからな」
「ワルド……爽やかだな……」
「クロとパーティ組んで正解だな!おもしろそうだしな!」
親身になってくれる友人に感動……と思ったら面白がられていたようだ。
憎めないからいいんだけど。
「ああ、ワルドとのパーティはやっぱり魔法を強化した方がいいよなあ。ワルドは剣だし」
「俺は魔法は向いてないからなー剣だけだな」
「よし、とりあえず冒険者レベル上げに行こう。今朝ギルドで受けた他の依頼何があったっけ」
「草原と反対側の森でネムリタケ採集」
「今の季節ならまだ胞子は飛ばしてないからカンタンだって言ってたな。よし行こう」
「……まだ胞子飛んでないって言ってたよな」
森の入り口で怪しげな胞子が飛びまくってる森を眺めて俺たちは立ち尽くした。
受付のオヤジめ。がっつり胞子だらけじゃないか。
何の胞子が飛んでるのか解析魔法を発動する。
ネムリタケ、シビレタケ、ドクバリタケ……有害キノコの胞子がお祭状態だ。
さて、どうしたものかと考えていると森の中から突風が吹き胞子をきれいに巻き込み空へと打ち上げた。
「あらあら、クロノ君じゃないですか」
森の中から現れたのは1人の若い女性だった。薄桃色の腰まである髪を揺らしながら森から出てくる。
「イレーネ先輩」
上品な雰囲気の笑顔で俺たちのほうへ歩いてきた女性は魔導研究会の先輩だった。
なるほど、さっきの規格外の突風はイレーネ先輩の魔法だったのか。
「ワルド、俺が行ってる魔導研究会のイレーネ先輩だよ。」
「初めまして、ワルドです。クロが魔法を教えてもらってるんですよね?」
ワルドが頭を下げ挨拶をする。イレーネ先輩はにこにこと笑顔ではじめましてと返した。
俺はさっきの突風の魔法を思い出しイレーネ先輩の魔力の大きさとコントロール能力の高さを賞賛する。
なぜかイレーネ先輩の笑顔がひきつった。
「クロノ君、小さくてもいいから竜巻を起こしてみせて」
「こうですか?」
小さな旋風を発生させる。勢いを増し小規模な竜巻になったところで消滅させる。
イレーネ先輩は残念なものを見るように眉尻を下げた。
「クロノ君は当然のように無詠唱で魔法を行使してるけど、普通はありえないのよ?」
……後でギルドカードを見たらスキルに詠唱不要が追加されていた。スキルとして認識していなかったから表示されていなかったとでもいうのか。