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(19)目指せ冒険者レベル30

 今俺たちがいるテ・ネリエ帝国の街はメダリスというらしい。メダリス冒険者ギルドと看板を掲げた建物に入ると『宗教と冒険者ギルドに国境はない』と馬鹿でかく書かれた壁の文字が目に飛び込む。受付の熊の獣人が俺たちに気づいてニカッと笑顔を向けてきた。


「よお兄弟!見ない顔だな、どこの冒険者だ?」


 威圧感のある大柄な体躯とちぐはぐな印象の笑顔で親しげに言う熊の獣人。なんだろうこの親戚のおじさんみたいな親近感。


「ファムタール王国です」

「じゃあ交易路を通ってきたんだな。あそこは野盗が多いから若くても実力があると見た」


 冒険者ギルドでクウォーレさんとワルドと俺のパーティ登録を済ませてダンジョン情報を尋ねる。一番近いメダリスのダンジョンの適正レベルは5からで初心者でも頑張れば入口付近の魔物を倒すことができるらしい。


「今レベルはいくつなんだ」

「冒険者レベル3と2です。クウォーレさんは」

「プリーストレベル20です」

「おお! おねーちゃんはレベル20のプリーストか。じゃあ中層くらいまで余裕かもしれないな」

「おねーちゃん……」

「依頼をこなすならまずは冒険者レベル10を目指すんだぞ。たいていの依頼が受けられるようになる。冒険者レベル30まで上げれば職域(ジョブ)レベルを上げれるようになるからな! そうすると就職にも有利だからな。メダリスのダンジョンに行く学生冒険者も多い」


 職業に合った職域(ジョブ)レベルが高いと就職に有利なのは学舎でも聞いたことがある。俺たちのような学舎の下級生はそうでもないが、上級生は冒険者として活躍するのが常識になっているのはそのためだ。

 職域(ジョブ)レベルを上げるためにはまず冒険者レベルを30まで上げなくてはいけない。冒険者の上限であるレベル30まで到達すると「祝福」と呼ばれる現象が起きる。祝福はジョブを選ぶ機会で、一度選ぶとその後に選び直すことはできない。テ・ネリエ帝国ではほぼすべての国民が一度は冒険者になる。国民の大半が戦闘経験者であることが他国を凌ぐ武力の基礎になっている。熊の獣人——名前もクマさんというらしい——が丁寧に説明をしてからまたニカッと笑顔を見せる。


「最初は無理をせず慎重に進めばいいからな、頑張れよ」


 クマさんからダンジョンへの案内図をもらってギルドの建物を出た。まだ空は明るいが、今からダンジョンに向かうと潜ってる間に日が落ちそうだ。魔法で照らせば問題ないだろう。


「索敵の魔法は必須だな。あとは防御か、罠とかあるかもしれないし……」

(あるじ)よ」

「……俺、またスキルを獲得した?」

「そのとおりだ」

「クロ、どんなスキルなんだ?」


 ギルドカードを取り出すとワルドも覗き込んできた。



 クロノ・エンデ

 冒険者レベル2

 スキル:剣技1、魔法4、詠唱不要Ex、魔力増幅Ex、魔力制御Ex、魔力授受3、亜空間収納Ex、ステルス1、料理2、重力操作Ex、自動防御3、自己行動補正98



 新しく追加された自動防御3を解析してみると物理攻撃と魔法攻撃に対する防御壁を展開できるというものだった。

 ダンジョンに入る前にどの程度のものか自動防御を発動してみると最大で俺を中心に半径3メートルくらいまでの防御壁が作れた。


「……使えるものは使えばいいよな。じゃあ、俺が防御壁を展開して行こう」

「……っ、クロノさん!!どういうことか説明をしてください!魔法を使わずに防御壁を展開するなんて聞いたことありませんよっ」


 クウォーレさんが状況についていけないと説明を求めてくる。説明と言ってもなぁ。


「そういうスキルなんです」


 にっこりと笑顔で返す。クウォーレさんにギルドカードは見せないほうが良さそうだ。自己行動補正スキルのことを聞かれても答えられない。

 クウォーレさんは納得してなさそうな表情だがとりあえず質問を続けるつもりはなさそうだ。

 ダンジョンに着いてから1層から4層までワルドのスピードスラッシュで魔物は全て瞬殺されていった。その間俺が役に立ったことといえば、罠で飛んできた矢を防御壁で防いだくらいだ。

 そんな感じなので俺は大して疲れてはいないけど、ワルドは疲れているかもしれないと思い、今俺たちは4層の再奥部で休憩をとっている。


「ビギナー冒険者がダンジョンでこんなにスムーズに進むなんて驚きですよ。この防御壁すごいです」

「クウォーレさんありがとうございます。でも魔物の相手は全部ワルドがしてますからそのおかげですね」

「そうですね。ワルドさん、ありがとうございます。剣の切れ味が落ちないように浄化の魔法をかけますね」

「俺は魔法使えないから1人だとスピードスラッシュも使えません。自分で使えるといいんだけど」


 クウォーレさんが水魔法で剣を浄化する。剣についていた汚れが消え去り輝きが戻った。剣の浄化を見ながら魔法を学ぶ俺の横で座っていたハトゥールが毛づくろいをしている。


「魔法が使えないなら魔石か魔道具が必要だろうな。だが安くはないぞ」


 ハトゥールの言葉にワルドが「そこなんだよなぁ」と苦笑している。確かに学生の手が届く魔道具なんてない。どれもこれも高級品ばかりだ。


「魔力を魔法として具現化させず、物にこめることができる魔術師は少ないですからね」


 クウォーレさんが言うには歴史上でも魔道具を作れる魔術師は少なく、魔道具が出回らないのもそのためだという。

 ふと思いついた。物に魔力をこめるって俺の魔力授受スキルでできるんじゃね?

 例えばこの剣を持って所有者(ワルド)が念じた時に加速の魔法が発動するようにあらかじめ魔力を多めに蓄積……おお、できた。

 顔をあげるとクウォーレさんが引き攣った表情で固まっている。俺がワルドの剣を魔道具にしたことに絶句しているようだ。


「ワルド、返す。その剣、念じたら加速の魔法が発動するようになったから」

「え!?まじで!魔道具!?」

(あるじ)の魔力がかなり多くこめられているからワルドが生きている間にこの剣が魔力切れになることはないだろうな」


 何故か誇らしげに言うハトゥール。口調は全く俺を敬ってはいないが、思考は結構ちゃんと従魔なようで俺に懐いているように思う。

 とりあえずハトゥールの毛づくろいも剣の浄化も終わったし、5層に進もう。

「一生この剣手放さない」と喜ぶワルド、放心気味のクウォーレさんに声をかけて腰をあげた。

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