(17)逆凪
「呪術師に会いたいのは呪いについての情報が欲しいからで、別に呪いたい相手とかいないんだけど……」
「この年齢でプロに頼んでまで呪いたい相手がいたら問題だよな」
「……何歳なんだ」
「「じゅーろく」」
俺とワルドの年齢に青年は眉を顰めた。未成年者が2人と猫1匹で旅をしているなんて怪しいことこの上ないから当然かもしれない。
「俺には関係ないことだが、未成年者が呪術師の一族に近づくのは賛成できないな」
呪術師の一族?呪術師は1人じゃないのかと疑問に思っているとハトゥールが説明してくれた。
テ・ネリエ帝国に代々国に仕える呪術師の一族が存在しているしており、貴族の地位が与えられているらしい。一族の長は王の臣下として国や王家のために、一族の者はその力を一族繁栄のために呪術を使っているという。
ハトゥールの説明を聞いて、なんだか気軽に呪いの情報を得られるところではない気がしてきた。そもそも目の前の青年は案内する気がなさそうだ。
「……物知りな猫だな」
「案内役がただの召使とも思えない。おまえ、呪術師の一族の者だろう」
青年はハトゥールの言葉に目を瞠った。どうやら図星のようだ。この青年が呪術師の一族なら案内してもらわなくても呪いのことをきけるかもしれない。
「あなたが呪術師の一族なら、ちょっと聞きたいんだけど」
「……俺には聞きたいことはないし、おまえたちの質問に答える義理は」
「昨日命を救われた義理はあるだろ」
断ろうとした青年の言葉をワルドが遮る。青年は小さく舌打ちをしてため息をついた。ワルドの言葉に反論する気はなさそうだ。
「じゃあ、呪術師の屋敷に行く必要がなくなったわけだし、大通りに戻って――」
オオオオオオオオオオオオ
突然聞こえてきた謎の咆哮に全身が総毛立つ。不快な声に振り返ると黒い霧から魔物が現れた。
いや、黒い霧が魔物に姿を変えたという表現が正解かもしれない。すぐに霧でぼやけていた四つ足でこちらに近づく魔物がくっきりと視界に入ると黒い霧は消えていた。
魔物を一瞥してハトゥールがつぶやく。
「この魔物……逆凪か」
「ああ、アレの狙いは俺だ」
逆凪?聞いたことないな。後で聞くとして今は魔物をどうにかしないといけない。
裏通りとはいえ街中で魔物が現れたとなれば騒ぎになるのは明らかだ。現れた魔物は1体、手早く倒せば騒ぎは避けられそうだ。俺たちに倒せる魔物かどうか解析魔法を走らせる。その横で魔法陣を浮かべる俺に青年が驚いた顔を向けていた。
「詠唱なしで魔法を!?……いや、それよりも何故逃げないんだ」
「ここで逃げて街に魔物が現れたと騒ぎになるのも、あなたがここで殺される後味の悪さも俺たちは求めてないんでね」
ワルドが軽やかに前に飛び出す。そのタイミングに合わせ加速の魔法をワルドにかける。
「ワルド、そいつ風魔法が使えるみたいでちょっと面倒くさそうだ。足と、尾を狙って!」
「リョーカイ」
ワルドが素早く前足・後足と尾に斬り込む。風魔法を纏わせ始めていた尾が地面に落ちて黒い霧になって消える。
魔獣は痛みを感じてる様子はないが動きは鈍くなった。魔物に攻撃魔法を放つ絶好のタイミングだ。
攻撃力の高い火魔法では大きな音と炎が注目を集めてしまう。大通りにまで悟られず魔物を消し去るなら音もなく消滅させるのが最善だろう。
魔物は俺の放った混沌魔法を避けることもできず闇に飲まれて姿を消した。