(16)獣人との再会
「我は主に付き従っているだけだ。おまえの同行を認めるかどうかは主とワルドに尋ねるべきだ」
「俺はハーちゃんが良いなら良いよ」
ハトゥールが神官がついてきても困ることはないから好きに決めていいと言うと神官は俺に必死な視線を送ってきた。
「えっと、神官さんが冒険者と一緒にダンジョンとかまずいんじゃないでしょうか?」
「クウォーレでいいですよ。神官とはいえ、かつては魔法研究の成果を実践するためダンジョンにも行ったことがあります。何ら問題はありません。私はハーちゃん様のお世話とクロノ・エンデさんの力の謎を解明したいんです!」
クウォーレさんは教会で研究職にあり、趣味と実益を兼ねているらしい。研究のことを語るクウォーレさんの目は熱に浮かされた危ない人にしか見えない。でも魔法や魔力に関しての研究をしているというのはチャンスかもしれない。
魔導研究会には顔を出しづらい空気を感じ始めているし、学生で誰かに弟子入りもできない。そもそも弟子入りしようにも師匠のあてもない。この際クウォーレさんの知識をあてにしよう。
「じゃあクウォーレさん魔法教えてくれますか?それで手を打ちます」
「もちろん喜んでお引き受けいたします。身支度を整えてお供しますから少しお時間をいただきますね」
まずはここを出ましょう、とクウォーレさんは笛を吹いた。音は出ていないがハトゥールは顔をしかめている。すぐに部屋の外に兵士がやってきたようで扉が開いた。
「神官殿いかがでしたかな」
「この地に害をなす魔獣ではありません。冒険者のおふたりも善良な魂で神のお導きを感じます」
「そうでしたか。おい、君たち悪かったな。もう出ていいぞ」
兵士たちは神官の言葉に全幅の信頼を寄せているらしく、クウォーレさんの言葉に俺たちへの態度も軟化した。もしもクウォーレさんの同行を断ったら悪く言われていたかもしれない。
「ハーちゃん様お抱きします!!」
「いらん」
「じゃあハーちゃん、俺が!」
「いらん」
……いや、ワルドと一緒になって小声でハトゥールを構っているクウォーレさんがハトゥールの状況を悪くすることはなさそうだ。
街に入ったところでクウォーレさんから教会の場所を聞いた。クウォーレさんは一旦教会に戻り、夕方教会前で合流する予定だ。
ハトゥールを肩に乗せ、うろうろしていると大通りから外れた小径にひっそりと占いの看板が出ていた。呪術師に会うにはどこに行けばいいか聞けるかもしれない。そう考えて扉を開くとその店は酒場だった。
「子どもが来るところじゃないぞ」
店に入ってきた俺とワルドに店主だろう熊の獣人がぶっきらぼうに言い放つ。
「呪術師に会いたいんだが、どこに行ったら会えるか占ってもらえるか?」
到底占い師には見えない風体の店主に尋ねる。店主は片眉をぴくりと持ち上げた。
「なんだ客か。だが呪術師に会いたいなら占う必要はねえ。・・・おい案内役!客だ!」
店主が乱暴に呼びつけると静かに近づいてくる者がいた。顔の下半分を隠していたが狼の獣人の青年だった。昨日の獣人によく似ている。青年は俺たちを見ると目を瞠った。
「主、そこにいるのは昨夜の獣人だ」
ハトゥールが耳元で告げた。似ていると思ったが本人だったようだ。
青年は気を取り直したのか落ち着いた様子で口を開いた。
「……呪術師に会いたいのか。ついて来い」
店を出る青年の後を追う。店の外で待つこともなく先を歩いて行く青年にハトゥールが不機嫌な声を出した。
「おい。主に命を救われておきながらその態度はなんだ」
青年は振り返り俺とワルドを交互に見た。まさかハトゥールが喋ったとは思わないよなあ。
「冒険者のパーティーかと思ったが、主従か」
「いや、俺とワルドは友人でパーティー仲間だ」
「ハーちゃん喋って良いの?」
「人気もないし構わないだろう。主への態度が気に入らない」
青年は一瞬驚いた後小さくため息をついた。立ち直りの早い冷静な男のようだ。
「昨夜のことはありがたく思う。だが所詮他人を呪おうという者と馴れ合う気はない」
誰かを呪うために呪術師を探しているのではないんだけど……どうやら青年は勘違いをしているようだ。