(12)野盗討伐
「そろそろ戻ってメシにする?」
空を見上げると、陽も傾いて空の色が変わりはじめていた。ワルドの腹時計は正解に時を刻むようだ。
「メシ……あ〜、今日衝動買いした野営セットに調理道具とかあったな……もったいないからここで食べていかないか?」
まったく使わないと本当にただの無駄遣いになるような気がしてしまう。いや、間違いなく無駄遣いなんだけど。
「それはいいけど、クロ。言っておくが俺は料理は食べる専門だ」
「俺も簡単なものしか作れないけどな。まあちょっと待っていて」
亜空間収納から野営セットと食材を取り出し、調理にとりかかる。
「クロ手際いいな」
「ワルド、主は先ほど料理スキル2を獲得した。完成度は高いはずだぞ」
ワルドとハトゥールが離れたところからこちらを見ながら会話している。
……また知らないうちに新しいスキルを獲得していたようだ。
料理のスキルは自分でも美味しいものが食べられるから良いけど。
鍋で肉と野菜と大量のキノコを煮込んでいる間に魔法で近くの岩に穴をあける。岩を火炎で焼けば窯代わりだ。木の実を砕いた生地を放り込み焼き上げる。すぐに食欲をそそる香りが漂い始める。焼きあがった平パンとキノコ煮を器によそう。外はパリパリ中はしっとりとした生地の平パンと具沢山のキノコ煮の相性は良く、歩き続けて使ったエネルギーをしっかり回復できそうだ。
「うまっ!うっま!!これは貴族の、いや、王族の料理人になれるレベルじゃないか!?」
ワルドが絶賛して食べている。自分でも想像以上に美味しいものが作れて驚いた。料理スキルってすごい。
「ハーちゃんは食べないのか?」
「我は魔力が糧だからな。ヒトの食事は不要だ」
「ハトゥール、水は飲むだろ?魔力を少し混ぜたほうがいいのかな」
高さのある器に入れた水に魔力を注ぐ。
ハトゥールはふさふさの尻尾を緩やかにたてながら近づいてきて水を飲んでいる。
「美味い。主たちの食事の時、我にこの魔力水を用意してもらえるとありがたい」
和やかに食事を終え、窯岩を冷やし、野営セットを亜空間収納にしまう。
「明日も授業後に出発して、ここから先に進もう。明後日が休みだから夜遅くてもいいし」
……なんて言ってた昨日の自分の浅はかさにため息がでる。
陽の落ちた街道を光魔法で照らして食事にでもしようかと話していた俺たちは盗賊に出会ってしまった。
「チッ……ガキか。あんまり期待できねえが、有り金全部出してもらおうか」
人相の悪い男が俺たちを取り囲んだ。もちろん、おとなしく身ぐるみ剥がれる気はない。
ワルドと視線を交わし、加速の魔法をかける。
俺の周りに浮き出る魔方陣を見て盗賊が目の色を変える。
「お前、魔術師か!呪文なんか唱えようもんならタダじゃおかねえぞ!」
詠唱不要の俺には意味のない脅しなんだけど。
「ワルド、ハトゥール目を閉じて!」
言い終わると同時に光魔法で周辺一帯を閃光で包む。予想をしていなかった盗賊は一時的に視界を奪われて統制が崩れた。その隙をついてワルドとハトゥールが駈け出す。
ワルドがスピードスラッシュで致命傷を避けて斬りつける反対側でハトゥールが体長5mくらいの巨大な姿に変身していた。
「ハトゥール、殺さないでねー生け捕りにしたいんだ」
ハトゥールに念を押すと、何度か盗賊を転がした後さっきまでの白い猫の姿に戻った。盗賊たちの動きが鈍くなったのを機に街道脇に生えている雑草を魔法で伸ばして縛り上げる。
「ファムタールの兵団詰所前に放置しておこう」
蔦に覆われてムームー言ってる盗賊を連れて王国に飛び、兵団詰所前に転がしておく。朝になったらしょっぴかれるだろう。
「美味いメシが食えると思ったのに戻ってきちゃったかー」
「また明日だな」
盗賊を放置してすぐ寮に戻るとワルドがぼやいた。
「主よ何故さっきの者たちを殺さなかったのだ。主に対して愚鈍な態度をとっていただろう。我が八裂きにしてやろうかと思っていたのに」
ハトゥールはワルドとは別の不満をぼやく。ハトゥールは俺に対して忠誠心が強いようには見えない(特に口調なんて俺のことを主と呼ぶ以外は傲岸不遜だ)が、従魔としての忠誠心はちゃんと持ち合わせていたようだ。
「交易路で事件が起きると国際問題だからな。ヒトの世ではヒトを殺して許されるのは戦争と正当防衛くらいだ。ま、あの盗賊たちに恨みもないし被害も出てないからな」
「俺の楽しみの夕食の機会が1食分消えたけどな!」
ワルドの不満を軽く笑って流す。ハトゥールの頭を撫でながら、さっきまでハトゥールが変身してたことを思い出した。
「そういえばハトゥール、大きくなってたな」
「言い忘れていたな。どちらかといえば、あれが元の姿だ。この姿は主のそばにいて自然な大きさにしているだけだ」
「大きいハーちゃんもかわいかったなあ」
ワルドがハトゥールを撫でようとして、また逃げられた。……めげないな、ワルド。