(11)いざ、交易路へ
冒険者ギルド付属学舎の授業は朝7時から昼休憩を挟んで14時まで続く。授業内容は日によってその構成は変わる。今は国史の授業中だ。
国境線が書き込まれた地図を広げる。
-我が国、ファムタール王国は現在開国432年です。現在は東西に延びた交易路で西側はオルター連邦国、東側は獣人族の住むテ・ネリエ帝国と交易が盛んですが、かつては獣人族とヒトの戦争が-
国史の教師の声を遠くに感じながら地図で今いる街を探す。
冒険者ギルド付属学舎があるこの街は王国の北端に位置しているため、交易路まで行くにも少し距離がある。交易路からの東玄関にあたる街は商売が盛んで、俺も親元にいた頃に連れて行ってもらったことがある。そこまでは転移することができそうだ。ついでに必要なものを買い込むにもあの街は品揃えが良さそうだ。
窓の外に目をやると窓に近い木の枝の上でハトゥールが昼寝をしていた。そうだ、ハトゥールにも何か買ってやろう。
-戦争の名残から交易路に近い街は治安も悪くなりがちですから、注意が必要です。では今日はここまで。
授業が終わり、教室を出る。ハトゥールが寝ていた木に近づくとハトゥールが肩に降りてきた。
「主よ、一度寮へ戻るのか?」
「戻らないよ。ワルドがそろそろ来るはずだから行こう」
空間転移で王国東玄関の街まで飛んだ俺たちは賑やかな市場に圧倒された。
「旅にでるならコレは必須だよ!こっちのはなくてもいいけどあると快適だよ!」
「今だけ限定の商品はどう?」
「これ食べてみな!美味いぞ、一籠どうだい」
市場を抜けるまでに勢いに任せて色々買ってしまった気がする。
……野営セットとか、よく考えたら寮に戻れるんだからいらなかったな。
ギルドの依頼報酬で潤っていたからつい買いすぎてしまった。次から必要なものだけを買おう。反省反省。
「これはハトゥールにプレゼントだよ」
俺はハトゥールのために買った小さな魔石のついたビロードのリボンを取り出す。
「あ。こういうのはきらいか?」
「嫌ではない。主から贈り物をされるとは思わなかった。さっそくつけてくれ」
ハトゥールの首にリボンをつけてやるとハトゥールは嬉しそうに体を擦りつけてきた。
リボンはハトゥールによく似合っていて、ワルドからも似合うと絶賛されていた。
街から交易路に出て、まっすぐ東へ向かう。ある程度進んだところで休憩をとっている商人の一行がいた。
「旅の途中か?見たところまだ未成年のようだが」
「いえ若く見えるだけですよ。テ・ネリエ帝国の知人のところに向かってまして」
にこりと笑顔で嘘を並べる。見た目は幼さの残る16歳でも、20代兵士の記憶を持つ俺の雰囲気はけっこう老けてるらしく、たいていはごまかせる。
ワルドは元々体を鍛えていることもあり18歳くらいには見える。18歳で成年のため黙っていてもごまかしはきく。
「テ・ネリエ帝国といえば、知っているか?呪術師ってのがいるらしい。なんでも呪いを専門に行うんだと」
「魔法ですか?」
「いや魔法とは違うものらしい。特定の部族で受け継がれている職種なんだとよ」
「へえ……呪いに詳しそうな職種ですね」
「お?にいちゃん誰か呪いたいのか」
「ハハ、まさか。今のところ呪いたい相手なんていませんよ」
「まあ、呪い呪われない平穏が一番だな」
商人はひとしきり雑談した後、腰をあげた。商人の一行はこの後、交易路を西へ向かうと言い荷車を引いて行った。
呪術師、か。この呪いのことはわかるだろうか?
「テ・ネリエ帝国に着いたら呪術師を探してみるか?」
「そうだな。情報は多い方がいいからな。よし、今日のうちにもう少し先まで進もう」