(10)とりあえずレベリング
学舎の寮の廊下で俺はハトゥールを抱えてキョロキョロと様子を伺った。
他の寮生に見つかるとまずい。寮はペット禁止だ。
「主の部屋の窓を開けてもらえれば、我は窓から入ることができるが」
ハトゥールはそう言ったが、ワルドが猛反対して抱いて行くべきだと主張した。
ワルドが抱いていこうかと尋ねたが、ハトゥールは従魔が召喚者以外に身を預けることはできないと俺が抱くことになった。・・・十中八九ワルドを避けたな。
「主が新たなスキル、ステルス1を獲得した。」
ピクリと耳を立て、ハトゥールが小声で言った。
ハトゥールが告げたステルスを使ってみると俺とハトゥール、ワルドの姿がほぼ透過して気配が消えた。これなら他の寮生に見つかる心配はなさそうだ。
ステルス状態で部屋に入り、ステルスを解除する。
「ハーちゃんはクロのスキル獲得がわかるんだな」
ワルドが感心する。ハトゥールは従魔だから当然と言いながら俺の腕から降りた。ベッドの上に乗り後足を広げて毛づくろいを始めた。仕草は猫そのものだ。その姿にワルドがまた悶えているが放っておこう。
「ハトゥール、俺の呪いがいつ誰にかけられたものかわかるか?」
「我にはわからない。主がやり直してきた生涯の中で出会っているのなら今世でも出会う可能性がある。世界の理から外れた存在であることは間違いなさそうだ」
正体不明の大きな存在に呪われてることに不安を覚える。俺の不安を察知したのかハトゥールが頬に顔を擦り寄せてきた。
「主には従魔の我がついている。不安に思うことはない。・・・主の友も力になる、そうだろう?ワルド」
「もちろんだ!!」
ハトゥールは言いながらワルドに近づいて肉球をワルドの膝に押しつけた。
あ、ワルドが舞い上がってる。ハトゥール、確信犯か。
「主に、我らの前に敵などいないと証明してみせよう」
不敵に胸を張るハトゥール。頼もしい従魔だ。見た目は白もふの猫がすまして座っているようにしか見えないのだけれど。
「ありがとう。とっとと呪いかけたやつ見つけて呪いを解かないとな。」
「主の危険を回避するには早急にレベルを上げるべきだが、レベルを上げるのにこのあたりでは時間がかかりすぎる。交易路を東へ進めば獣人の国土だ。あの国ならば土壌に魔力があふれているから強い魔物もダンジョンも腐るほどある。」
「遠くてもクロの空間転移で行けるか?」
「行ったことのないところは無理だな。旅に出る余裕もないぞ、学舎を中途退学することになるのはワルドも困るだろう」
「我も主が学舎で知識を得ることには賛成だ。学業と並行できる方法となると・・・」
ハトゥールの案は、まず授業のあと転移可能なギリギリのところまで飛び、獣人の国を目指す。その日にたどり着けないうちはまた空間転移で戻り、寮の自室で休んで、翌日に引き継ぐ。これを繰り返すことで転移可能な範囲を広げて目的地まで無理なくたどり着こうというものだ。
「じゃあそれでいこう。転移可能な距離に制限があるかわからないけど、距離制限があるなら刻んで飛べばいいだろうし」
「クロ、明日必要なものを買いに行ってから出発でいいか?」
「ああ、そうだな」