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王子と初対面

「…………というわけで、今リリアンは記憶喪失の状態になっているのです。」

「なるほど、それは大変だっただろうな……。」


私達は今、王宮へと来ていて私の隣にはお父様が、目の前には国王様とカイザーが座っていた。

私が記憶喪失と伝えるためにお父様と来ていたのですが、お父様と国王様が学園時代からの親友というのを聞いて驚いた。

だから、この婚約の話もあったのか……。

記憶喪失の話を聞いて、国王様は同情したような眼差しでこちらを見ていた。

ちなみにカイザーは私の目の前に座っているにも関わらず、こちらを一切見ようとしていなかった。視線もさっきから全然合わないし……。

幾ら何でも嫌いすぎじゃない?

これは、先が思いやられるな……。


「まぁ、後は二人でゆっくりと話すといいよ。ちゃんと仲良くするんだよ?」


お父様は私に、国王様はカイザーにそれぞれそう言った後、二人は部屋を出ていった。

よし!これは仲良くなるチャンスじゃない!?

私は気合を入れて王子へと向き直った。








………………気まずい。

二人が出ていってから既に十分は経過している。その間、私とカイザーの間に会話は一切なかった。

私も話しかけるタイミングを見失ったし、カイザーからも話しかけるなオーラが出ているのが分かる。

でも、ここで引いたら私は没落コースへとまた一歩近づいてしまう。それだけは絶対回避しなきゃ!!

そういえば私は、まだカイザーに対して謝っていなかったことに、今更ながら気づいた。

この謝罪がきっかけで少しでも話せたら……というちょっとした下心を持ちながら、私はカイザーに頭を下げた。



「カイザー王子お久しぶりでございます。記憶喪失となってしまいましたが、今までの私の愚行を両親から聞かされました。この度は誠に申し訳ありませんでした。深くお詫び申し上げますわ。」


「……記憶喪失だと偽って全てをやり直そうとしているのか。ふん、私はそんな演技に騙されないからな。」


さて、いま目の前にはかなり不機嫌なカイザーがいるのですが、どうやら私が記憶喪失だということを疑ってるらしい。

まぁ、実際違うから間違いではないんですけどねー……

なんてことを思いながらも、私はこれからの作戦のために意識を集中させていた。


昨日考えたこれからの対カイザー作戦……名付けて『飴と鞭作戦』である。

これは今日だけの作戦ではないが、将来の国王となるべきカイザーを甘やかしすぎずに自覚をもってもらうことで没落を回避するという作戦である。

ゲームの中のカイザーは、次期国王のプレッシャーや我儘な婚約者に疲れているところでヒロインに会い、馬鹿だけど明るく愛嬌のあるヒロインにコロッと恋に落ちていた。

そこで私は、カイザーの疲れの原因となる自分が変わることと、国王としてのプレッシャーを和らげるため甘やかすときはとことん甘やかすという作戦に出ることにした。


とりあえず今回は最初なので『記憶喪失で人格が変わった』つまり、私が以前とは違っているということだけでも認識してもらえば作戦成功だ。

欲をいえば、好意を持ってくれるといいんだけど……。

第一声で出てきた言葉がこれでは、あまり良い印象ではないようだなぁ……。



まずは、以前の『我儘で傲慢』という印象を変えることからだよね?

目指すべきは、愛らしく見える私です。

「いえ、記憶喪失というのは本当なのです……信じていただけませんか?」

可愛らしく見えるように、カイザーを上目遣いで見つめてみる。勿論、少し涙で瞳を濡らしながら。

するとカイザーは、目に見えて慌て始めた。頬も微妙に赤く染まっているから効果はあったようだ。

リリアンは容姿だけでいったら、ヒロインにも見劣りしない可愛さなのだ。

性格がアレなだけに全てが台無しになってしまっている訳だけどね……。

リリアンは傲慢な態度さえ改め直せば、将来有望な絶世の美少女としか見えない。

そんなリリアンに涙目の上目遣いで見つめられて、さすがのカイザーも慌てた様子だったが、正気に戻ると私を睨みつけてきた。


「……ふん、信じられんな。今は傲慢な態度もなりを潜めているだけであろう。」


言葉だけ聞くとさっきと同じような態度をしているように思えるが、いまのカイザーは未だに頬を染めたままである。故に全然怖くない。むしろ、私の精神年齢的に可愛く見えるレベルである。

よし、あと一息じゃない?


「そうですか……今までの態度を考えてみたら、当然のことですよね。それでも、これから王子の婚約者として一緒に頑張っていきたいのです。私が変わっているかどうかは、王子の目で直接判断して下さい。」


さっきの可愛らしい雰囲気を取り去って、背筋を伸ばして凛とした佇まいで言った私にカイザーは一瞬目を見開いて驚いたが、すぐに皮肉な笑顔を向けてきた。


「勝手にしろ……まぁ、すぐにボロが出てくるだろうがな。」


何だかんだ言いつつ、一緒に頑張ってくれるってことだよね?

私は多分だけど作戦が成功したことに安堵して、心からの笑顔をカイザーに向けた。


「よかったぁ……ありがとうございます!」


その笑顔を見た途端、王子の顔が一気に赤くなった。

それはもう、茹で蛸のように……

あら?これは照れているのかな?

笑顔一つで真っ赤になる初々しい反応が可愛くて微笑ましく見ていると、私の眼差しに気づいたのかカイザーは怒った顔をしながら怒鳴りつけてきた。


「俺は今日は具合が悪いんだ!早く休みたいから帰ってくれ!」


とはいえ、今までの話の流れ的に本当にカイザーをイラつかせてしまったようなことはしていない。

多分、いつもと違うリリアンにどう対応すればいいか困ってしまっただけだろう……と簡単に想像できた。

ここで、いつまでも残るのは得策じゃないな……

私は瞬時に判断すると、すぐに帰るべく立ち上がった。


「え?……本当に帰るのか?」

「えぇ、王子が帰れとおっしゃいましたので。」


カイザーは、私の行動が思っていたのと違っていたので戸惑っていた。確かに今までのリリアンなら、無理を言ってでも残っていただろう。

ただ、私は別にそんなことをする必要がない。

それほどカイザーに執着してる訳でもないし、ここで無理を言ってしまえばそれこそ我儘女と認知されてしまう。

何故、嫌いなはずのリリアンをすぐに返さないのか不思議に思いカイザーを見ると、一瞬何か言いたげにしていたが、顔を俯かせて背中を向けてしまった。


「何かありましたか?」

「……何でもない。早く帰れ。」

「そうですか。分かりました。……王子」


背中を向けたまま微動だにしないカイザーに、溜息をつきたくなるのを抑えながら素直に返事をしてドアを開ける。

部屋を出る直前、カイザーを呼ぶと肩をピクリとさせて少しだけこちらを振り返った。


「今日は楽しかったです。また今度来ます。その時は、今日よりもお話しましょうね。」


今日のお礼と共に笑顔を向けると、彼はすぐにまた背中を向けてしまった。

ここでしつこく迫っても仕方ないので、部屋を出た私はお父様のところへ戻るべく、長い廊下を歩き始めた。




「……なんなのだ、あいつ。記憶喪失というのは本当なのか?」


部屋を出ていった後、カイザーが私の変わりように戸惑いながらも笑顔を思い出して赤面していたことなど、私は知る由もなかった。

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