真実
週が明けた火曜日、彼の職場に行く。明後日の最終調整があるそうだ。
「へぇ、この子が…」
「そ、隆一さんの娘さん。」
「じゃあ知ってるの?お父さんのこと。」
「あの時のことは、僕から話した。」
「そうか…あ、そーいえば、何がトラウマだよ。調べたらあの後お前、共和国の特殊部隊チーム一つ皆殺しにしてるじゃねーか。」
彼は頭を掻く。
「いや、あれはタマが欲しくて、つい。回収しておいた弾丸が切れかけてて…」
「じゃあその前に20本近く集めたやつは何に使ったんだよ。」
「ここ辞めた後すぐに兵隊が5人くらいで家に押し込んできたからぶっ殺すのに使っちゃった。」
「嬉々としてぶっ殺してるじゃん。」
「いやいや大変だったから。」
話についていけない。いったいソウタは何をしてきたんだ。怖くなる。彼等が笑って話していることが余計に恐怖を増大させる。この前感じたものとは全く違う恐怖。いったい何人殺したんだろう。
「あ、ソウ!おひさー。元気だった?」
「おー!ケン!元気だよー、そっちは?」
「もう最高!義勇兵の中でウチの隊が一番強いんだぜ!」
「だろうな。お前が指揮してんだもん。」
見覚えのある顔が加わった。中学のクラスメイトだ。確か苗字はサダだったハズ。彼がこっちに来る。
「鈴原ちゃんもおひさー。やっぱりソウが持ってったか。」
「え?あ、はい。サダ君は彼女さんとまだうまくいってるの?」
「うーん…ミカちゃん本州いっちゃってさ。」
「あ…ごめんなさい。」
「気にしないでよ、俺が騙して無理やり船に乗せたんだ。ソウと同じで戦うつもりだったから、あの子がいると危ないからね。」
と言って彼はソウタを見る。
「知ってる?アイツが共和国の軍人になんて呼ばれてるか。」
「知らない、そんな有名人なの?」
「まぁ、今この場にいる人らは大体そうだけどね、さっき総隊長が話してたソウが部隊
を皆殺しにしたってのがあったじゃん?あれ実は離れたところに目撃者がいたんだ。もちろん敵の人だったけど。そんでなんかの拍子に『義勇軍に金華猫がいる』って話がこっちにも入ったんだ。総隊長は昨日その話を知ったらしいんだけど…あ、知ってる?金華猫。」
「うん、中国の妖怪で異性を惑わすっていう。」
「そうそう。凄かったらしいよ、敵はまるで何かに惑わされてるかのように一発も撃てずに…」
「だから、しょうがなかったんだよ。撃たなきゃこっちが殺されちゃうし。」
ソウタがもどってきた。
「で?部隊長サン。人の彼女に手ぇ出さないでくれる?」
「うっわーお前がそんなこというとはね…」
「ねぇ、ソウタ…なんでそんなに人殺したの?」
聞いてみる。怒られるだろうと思った。
「…憎しみ、かな?奴らを見るとどうしても許せなくて、つい。」
「ほんと変わったね、ソウ。前は『絶対に憎しみを戦場に持ち込むな』って言ってたのに。」
「…ケンなら知ってるだろ。今北海道にいるクラスメイトで生きてるのが3人しか居ないって。」
耳を疑った。私達だけ?嘘、そんなはずは…
「守れなかったってワケ。みんなを…どうしてもそれが許せなかったんだよ。でもまぁ、ようやく、守るものができたからね、もう大丈夫。ごめんね、怖がらせちゃって。」
帰り道、もう暗くなっていた。まばらにある街灯が寂しい。
「ごめん…」
「え?どうしたの?」
「嫌だったでしょ?俺がそういうことしてて、しかも今まで黙ってたなんて。いつかは言おうと思ってたんだけど、どうしても言い出せなくてさ…」
「……」
何も言えない。本当に悪いのは私だ。綺麗事ばかりで…
彼の手を引く。そのまあ路地裏へ。胸ぐらをつかんで引き寄せる。そして唇を重ねる。そのまま二人で倒れ込む。「こんなところじゃ風邪ひくよ」と彼は言う。「いいよ。襲われなさい。」
「さっむい…」
「だから言ったじゃん。お風呂はいってきな。」
「一緒に入ろ。」
「第2ラウンド?」
「なっそんなわけないでしょ!」