願い
次の日、彼は朝から飛行機の点検をしていた。目立ったダメージはないが飛ばせるかどうかは動かさないと分からないという。バイトの合間に少しずつ飛行機を飛ばせるように直していく計画らしい。
「ありがと。私のわがままなのに。」
「ううん。この飛行機を残しておいたのはこのためだし。」
「なんでそんなにしてくれるの?」
「なんでだろうね。俺がそうしたいと思ってるからとしか言いようがないなぁ。」
お昼になって、ご飯を作る。
「作ってくれるの?ありがとう!」
と作業を終えた彼が部屋に入ってくる。
「もうすぐできるよ。」
「わーいい匂い。」
「ハードルあげないでよ。」
二人でご飯を食べた。
その日は午後から彼はバイト。私は一人で彼を待つ。
バイトが終わり、家に帰る。
「おかえり。」
「ただいま。」
「ご飯にする?お風呂にする?それとも…」
「鈴原、マジで襲われたくなかったらやめろ。」
「じゃあやめない。」
「ご飯にしようかな。」
「一人で寂しかったんだけどなー。」
夕食を食べながら昔の話をした。
「中学の時、好きな子がいてさ。」
「告白しなかったの?」
「しようと思ったんだけどね、まさかその日におっぱじめるなんて思わなかったよ。」
「うわタイミング悪wwで、誰なの?笹田さん?」
「そっちも教えてよ。」
「気になってた人はいたんだ、でも告白とかはね。いいじゃん、教えてよ。」
「放送入った時のこと覚えてる?急に帰れってさ。ちょうどあの時告ろうとしててサ。せっかくその子捕まえて話し始めた時だよ。タイミングが本当に悪かった。」
「…ふーん。その子とはそのあとどうしたの?」
「つい昨日街であったんだ、5年ぶりに。」
「まだ好きだった?」
「そうだね。」
「私も。」
「…マジで?」
一ヶ月がたった。もうすっかり寒い。
飛行機はもうすぐ飛べそうだ。農薬を撒く機材を取り外し、少しでも軽くする。そして燃料の搭載スペースを広げた。ルートも考えなければ。まず家の前の平坦な直線道路から離陸、できるだけ自然に飛び、海に出る。そのあとは青森の国防軍所有猿が森砂丘に不時着する。
「でも、軍隊に見つかったらどうするの?」
「おしまい。僕たちが殺されて終わりだよ。この飛行機って遅いし武器無いし、敵認識されたらお手上げ。」
油圧を確認。全部入れ替えたから動きは快調。フラップがちょっと渋いかな?…鈴原は心配そうにこっちを見ている。
「大丈夫だよ。俺が守るから。」
義勇兵のリーダーだった人(バイト先の上司)に計画を話した。
「本州に行きます。」
「本気か?」
「飛行機も準備が終わりました。」
「いつだ?」
「来週には。」
おもむろにマイクを握る彼。
「諸君、予定を一週間早めることになった。来週木曜、21時より作戦開始だ。」
「作戦?」
「ちょうど再来週あたりに一矢報いようと思っててさ。ちょうどいいタイミングだし、いい目くらましにもなる。すごいだろう、10000人も集めたんだ。」
「まじっすか!ありがとうございます!」
敬礼。しかし10000人も集めるとはすごい。かなりの兵力だ。
家に帰る。今日はもう寝よう。寝させてくれ。僕から降りろ。
「ヤダ。断る権利なんてないでしょ?」
「…誘ったのはお前だからな。」