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何処か、空が見えるところで。  作者: ニャン叉
1/4

再開

二作目です。前回の反省を生かさず書いてます。

5年前、この国で戦争があった。

僕はその時の混乱で家族とはぐれ、現在共和国の領土となった北海道に取り残された。当時の酷い通信状況の中なんとか互いの無事は確認したものの(そもそも本州に逃げ切れた家族には危険なことなんてないだろうが)それ以上は何もできなかった。


とは言っても日常生活では普通に日本語を使っているし、変わったことは金の単位と中国語の授業くらいだ。

生活費はバイトで稼いだが、足りないことも多かったから、家にある農作業に使う機材をすべて売り払った。農薬散布機以外は。


ある日、街で今時殆ど見なくなったストリートチルドレンとあった。驚いた。中学の時のクラスメイトだった。目が合う。相手も気づいてしまった。ここで無視するわけにもいかないじゃないか。彼女は自分の格好を気にしたようだ。もうすぐ寒くなるというのにヨレヨレの夏服だけ。最初の年に大量のストリートチルドレンが死んだ理由でもある。凍死していたのだ。


取り敢えず、帰宅。シャワーを浴びてもらう。数十分後彼女は出てきた。

「着替えどうしよう…」

「あー悪い、忘れてた。そこらへんに姉貴の置いてったのがあるから。下着も自由に使っていいよ。」

「わかった、ありがと。」

「サイズ合わなかったら言って。買いに行こう。」

「大丈夫みたい。」

「…A」

「死ね。」


「鈴原、何があったの?」

一応聞いておこうと思う。

「…引かない?」

「引かないってか僕の方が引かれるようなエグいことやってると思うよ。」

「5年前、お父さんが…」

「知ってる。近くにいた。」

あの日、彼女の父は義勇兵として銃を握っていた。家族とはぐれた僕が、街に戻った日のことだった。

「それでも、今年の夏までは、なんとかなってたの。でも、お母さんが帰ってこなくなっちゃって。」

僕が今バイトで食いつないでいるのは義勇兵の時のツテを頼ったからだ。5年も経って放り出された彼女にそんなものがあるはずがない。

「…兵隊さんの相手をしたりしたの。それでもお金は足りなくて…」

止めておこう。

「鈴原、もういいよ。それより隆一さんに会いたい?」

「…?」

“隆一さん”は彼女の父の名前だ。被弾しても最前線に出張ってくるような人だった。僕は撤退を説得したがぶん殴られた。「ここで逃げたら後に残るのは丸腰の女子供だけだ」と怒鳴りつけられた。

「最後を知ってる。」

「なんで?」

「有名人だよ。」


彼女をガレージに連れて行く。

農薬散布機の尾翼の下のコンクリに扉がある。それを開けると、ライフル銃が二丁、マガジン数十本が入っている。

「銃剣がついてる方の銃裏返してみなよ。」

「じゅうけん?」

「先っちょにナイフついてる方。」

「…なんで…?」

ライフルの木製ストックに、家族でとったであろうプリクラが貼られていた。

「その銃あげる。もともとは敵の56式歩槍奪ったやつなんだけどね。」

「なんでソウタが持ってるの?」

「言ったでしょ。僕の方がもっとエグいことしてるって。」

「何したの?」

「もう一丁の銃あるでしょ。それで15人は殺したよ。」

「どういうこと?」

「僕は義勇兵だった。戦列参加した日だったよ。彼の左側でこいつを撃ってた。」

56式を抱える。

「そしたら奴等装甲車とかロケットランチャーとか持ってきやがって、全員吹っ飛ばされた。生き残ったのは俺だけだったよ。」

あぁ蘇ってきた。もう五年も前になる記憶が。


「隆一さん!ここはもう耐えられない!いい加減撤退しろと連絡がっ!」

「馬鹿野郎!ここで俺たちが引いたら、女子供は誰が守る!」

「戦える俺たちがここで死んだら誰が丸腰のあいつらを守るんだよッ!」

殴られた。分厚く積まれた土嚢の裏に吹っ飛ばされる。

「装甲車!」

遠くで誰かが叫ぶ。

「さっさと立て!」

自分で殴ったくせに。

ライフルを拾って上体を起こした瞬間、

「RPG!」

「伏せろ!」

爆音。身体が浮いている感覚。何かに叩きつけられる。全身が痛い。動けない。目の前が真っ暗になった。

目をさますと、戦闘は終了し、おびただしい数の死体が転がっていた。まともな形のものはほとんどなかったが…。体を起こす。骨や内臓には問題はないみたいだ。銃を拾い上げる。近くにまだ敵がいるかもしれない。近く銃が転がっていた。千切れた腕がまだ付いている。持ち上げてみる。手はグリップを離れ、墜ちる。嫌な予感がした。ストックを見ると、写真が貼ってあった。銃に写真を貼ってるやつなんてこの戦場で一人しか知らない。

「隆一さん。」

この銃も回収することにした。

敵を警戒しながら、死んだ奴等から弾丸を掻き集める。マガジン数十本が満タンになった。敵を探す。「いてくれ」と願う。「どうかお前らを皆殺しにさせてくれ」と。しかし敵と会うことはなく、味方の陣営にたどり着いた。次の日、唯一の生き残りというトラウマを理由にして義勇軍から離脱した。


「ソウタ?」

「あぁごめん。なんでもないよ。」

「ねぇ、二人で日本に行こう。」

「え?」

「この飛行機で。飛べるでしょ?もうやだよこんなとこ。」


「…そうだね。行こうか。」




今回も次に生かさない反省をしております。

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