シルバータウン
シルバータウンは色んな人が探すが手が届かない宮殿である。「天国」とも呼ばれるシルバータウンはすべての人の想像が生きる場所である。毎日大きく進歩している。新たな発想により人が想像力を増す度に。
現実世界は多くの人が逃げようとする世界である。「地球」とも呼ばれる現実世界は忙しい人間社会のことである。
人がシルバータウンに住みたいと思うのには色んな理由がある。一つ目に戦争や残酷な争いはそこには存在しない。個々の者は独立して生きていて、地位や役職のための競争はなかった。二つ目に個々の者は十分な資源をもっていて、景色の安らかさと美しさに落ち着かされていた。三つ目に個々の者は年をとることがなく、生命に対するいかなる害や危険からも守られていた。
ステフェン・フィールズは宇宙飛行士であり、哲学者でもあった。専門はシルバータウンについての研究であった。彼は、シルバータウンはどこか宇宙の遠くに位置する実在する場所か人の夢にしか存在しない空想の場所かのどちらかだと信じていた。5年間これについて研究していて、この素晴らしい宮殿の夢は千回以上も見ている…
フィールズは目を開けて、厚い緑の葉っぱが上で揺すられているのを見た。彼は起き上がり、今までで一番美しい景色の中に自分がいることに気づいた。鮮やかな花が野原と山の上で咲き誇っていて、たくさんの色とりどりの魚が飛び跳ねる滝があり、ここにはてんとう虫が飛んでいて、あそこにはキリギリスが踊っていて、青い鳥が空を飛んでいて…
フィールズは飛びあがって小さな子供のように叫んだ。彼はスキップし、飛び跳ね、側転し、走った。
彼はどんどん進み、白い頂上を持つ青い山の下の町に辿りついた。家は木でできていて、ステンレス製のガラスや、ビー玉、鐘、葉っぱや花、リースなどで飾られていた。窓から綺麗で居心地の良さそうな部屋が見えた。カーペットが敷いてあって温かそうで、窓辺には花の入った壺があり、壁には美しい絵が並んでいた。町の中心には、まるで何かのシンボルかのように水を高く力強く噴き出す噴水があった。
彼は勢い良く噴き出す水に触れた。驚いたことに、ちっとも痛くなく、冷たくもなかった。空気に触れているようだった。掌に軽く冷たくて、くすぐったい感覚があるのみだった。そしてさらに不思議なことに、水は彼の手がまるで無いかのように彼の手を通り抜けた。
もうしばらく歩き、彼はこれらの家の一つを中から見たいと思った。石でできた玄関に立ち、ひどく緊張しながらドアを静かにノックした。誰も応答しなかった。ドアの取っ手をひねったが、鍵がかかっていた。窓も閉まっていた。フィールズはため息をついた。この町の平和を家に侵入することによって崩してしまってはいけない。彼はあきらめ、道を歩き続けた。
道はまっすぐ森へと向かった。彼は、鳥が木にとまるのや、リスが木の枝を走るのを見たり、藪の中で動物が物音を立てるのを聞いたりしながら、歩き進んでいた。すると突然、彼は道が消えていることに気づいた。後ろを見ても、道らしきものは見当たらなかった。彼はまたため息をついた。今度は森の中で迷子になってしまい、出るのにどれくらい時間がかかるか見当もつかなかった。今日はついていない日だな。
彼はしかし、心配することや後悔することに意味がないことを知っていて、疲れることなく歩き続けた。まるで永遠に歩き続けているかのようであった。希望を失いかけた時に、彼は森の出口のようなものを見つけた。やった!彼は信じられない喜びで目に涙を浮かべながらそこに向かって走った。
森があけたところには、広い紺色の湖があった。しばらくの間、フィールズは驚きで声も出ず、ただそこに立ちつくしていた。鏡のような水面をもつこのサファイア色の湖は完ぺきにだ円形で、その両側には大きな山があった。そして、湖を挟んで反対側には銀色の宮殿が遠くから明るく、まるで蛍光色のように光っていた。
彼は宮殿をさらに良く見るために目を細めた。宮殿は大きなプラスチックの輪のようなものに囲まれていた。おそらく透明でガラスのような水のための水道管であろう。宮殿の入り口には、遠くからも見えるもう一つの噴水があった。
彼は湖の方へ歩き、中を見たが自分の姿は映らなかった。現実の世界だったら、彼は自分の姿が見えるはず。それは僕がこの世界では本物ではないからだ、と彼は思った。このように考えると、彼は元気をなくし、落ち込んだ。いくら彼がこの山を歩いて美しい宮殿に辿りついたとしても…ただの夢で、起きた瞬間に消えてしまい、永久に彼のものにはならないのなら…意味がないではないか?
彼は後ろへ寝転がり、顔を手で覆った。現実世界とシルバータウンをつなぐ橋は一体何なのだろう。
彼は迷子でつらい気持ちで、しばらく後ろに寝転がったままでいた。彼は怒りの涙をこらえた。現実世界に戻りたくない、シルバータウンにずっといたい…彼は子供っぽいと知りながらもそう考えずにはいられなかった。現実のことを考えて、最初に思い浮かぶのは守り養わなければならない妻と幼い息子のことであった。次に彼は、大嫌いな事務所にずっといなければいけない会社員としての最悪の人生を思う。しかし、現実では、シルバータウンの研究といった、単に自分の好きなことをして生きていくことはできない。彼がこの宮殿に住めたらどんなに嬉しいだろう!家族も一緒にこの宮殿に住めたらどんなに嬉しいだろう。「神様、どうか僕を導いてください」と彼は、薄い青色にくもった空を見ながらつぶやいた。
何かが彼に降りかかった。雨か?彼はとび起きて、何かがバシャバシャ水をはねかしながら湖から出てくるのを見た。それは美しい青い女性で、この湖の住人であった。
「現実世界から来た可哀そうなあなた、恐れる必要はないのよ」と彼女は深い、落ち着いた声で言った。「あなたをこれほど悩ませているのは一体何ですか。」
ステフェンは少し考えた。この女性は優しそうで、彼のことを助けてくれそうだ。今がシルバータウンと現実世界についての質問の答えを見つけるチャンスかもしれない。彼は興奮を抑えながら冷静な声で返事をした。「僕は数年間考えてきた質問に対する答えがほしいのです。」
「本当ですか。それでは、あなたの三つの質問に答えましょう。三つだけです。よく考えて質問してください。」
「三つ?うーん…」
しばらく考えて、彼は準備ができた。最も単純な三つの質問が、きっと最も大事な質問であろう。
「それでは、私の一つ目の質問です。シルバータウンはどこに存在するのですか?」
女性はこのように答えた。「想像力豊かな純粋な人間の心に存在します。寝ている時にしかこの宮殿が見られません。」
「宇宙のどこかに実存する場所ではないということですね?」ステフェンは重ねて聞いた。
女性は首を振った。
「そうですか…」ステフェンは宮殿がいつでも行くことのできる実在する場所でないことについては落ち込んだが、彼が、寝た時に行かれるラッキーな人間の一人であることを嬉しく思った。「あ、ごめんなさい、今のは私の二つ目の質問ではありません。」
女性は微笑みを浮かべ、「知っていますよ。次の質問は?」と言った。
ステフェンはこの優しい女性に微笑み返した。「二つ目の質問はシルバータウンに住む人たちはどんな人たちなのですか?」
「シルバータウンに住んでいるのは、現実世界や他の色んな世界に住んでいた者たちの魂です。」
ステフェンはその「他の色んな世界」については聞かないことにした。ただ、現実世界を超える色々なものが存在することを理解した。人の想像力は無限大である。生まれる前、死んだ後、第二の人生…一人の人間の魂は一生のうちにそのような色んな世界を経験するのだろう。
「ありがとうございます。最後の質問です。現実世界とシルバータウンを結んでいるのは何ですか。夢以外にもし何かあれば…」
女性はため息をつき、初めて顔をしかめた。「それは聞かないでほしかったです。私たち、神様の家来は、現実世界から来た者にそのもう一つの方法を伝えないように言われているのです。でも、あなたは好奇心と熱意がある特別な人なので教えましょう。ただし、秘密にすることを約束してください。」
「はい、約束します。」ステフェンは答えた。
「それでは教えましょう。お気づきの通り、シルバータウンにはたくさん、たくさん噴水があります。これらの噴水はシルバータウンの特定の場所を示しており、現実世界の噴水は実はシルバータウンのこれらの噴水と連結しているのです。」
ステフェンは目を見開いた。このようなことは初めて聞いた。なんと素晴らしい!
「それなので、現実世界からシルバータウンに来るにはコインを噴水の上に投げて3秒間その噴水の上に乗せることができれば、はて、シルバータウンに自分がいることに気づくのです。」
「本当ですか!」ステフェンは叫んだ。
「簡単ではありませんよ。」女性は警告するように言った。
「やってみます。ありがとうございます。」
「どういたしまして。では、現実世界からの方、さようなら。頑張ってください!」
湖から昇ってきた時のような高い水しぶきを上げながら、女性は湖の中へとゆっくり沈んでいった。ステフェンは横になり、目をつぶった。次に起きた時は現実世界のベッドの中に戻っていた。
これまでは目が覚めて現実世界に戻ってしまっていることを残念に思っていたが、今回は好奇心が強く、興奮していた。
これで、彼はこれまでの疑問に対する答えがすべて分かった!
彼は次の日の朝、財布を持ち、町を散歩しようと思った。もちろん、彼の行く場所は決まっていた:町の真ん中にある噴水である。彼は噴水に何度もコインを投げかける彼の姿を見て周りの人からおかしいと思われても構わないと思っていた。彼は言われたことに成功したくて仕方なかった。
そこで、彼は思い出した―あぁそうか。今日は月曜日だった。彼は仕事に行かなければならなかった。不機嫌そうに、彼は普段着から仕事着に着替えた:ブラウスときちんとしたズボン、なめし革の上着。妻と朝ごはんを食べ、日常的なニュースについて話した。そして、彼と彼の妻は仕事へ出かけた。
彼はコンピューターと向き合い、同僚と話しながら、一日中仕事をした。やっと終わった頃には夕暮れに近かった。それでも夕食前に町へ散歩しようと思った。
数分間、一人で歩き、探していた噴水を見つけた。彼は財布からダイムを取りだした。どのコインを3秒間噴水の上に乗せなければいけないか特に言われていなかったので、きっとどれでもいいのだろうと思った。
そのダイムはなぜか光っていた。彼は、『これがきっと僕をシルバータウンに連れて行ってくれるだろう』と思った。噴水は夢の中と同じように勢い良く噴射していた。
何度か試したが、初めはうまくいかなかった。コインは噴水を通り抜けるか、噴射されて外に落ちてしまった。3秒間もてっぺんには止まらなかった。彼は何度もやってみた。明日の仕事のことを考えると憂鬱で、夕暮れよりずっと遅くまで挑戦し続けた。
彼はようやくあきらめた。まだチャンスはある。夜ごはんのために家に帰った。
妻はすでに家にいて、夜ごはんにビーフシチューを作っていた。
翌日も仕事の後、挑戦した。女性が言っていたように簡単ではなかった。しかし、挑戦する価値はあるものだった。彼があきらめた頃には、もう7時半を過ぎていた。
翌日も同じであった。妻と朝食を食べ、仕事に行き、コインを投げることに挑戦し、夕食を食べ、シャワーを浴びてベッドに入った。だんだんルーチン化してきた。
次の日、彼はコインを噴水の上に投げる時に気づいたことがあった。噴水の水は噴水の一番真ん中で最も勢いよく上がっていた。そこしかおそらく、水はコインをてっぺんにとどめる力がないようだ。
ようやく、金曜日、今週最後の仕事を終え、噴水に行き何度かコインを投げていた。コインは噴水の上に、1秒、2秒…3秒止まった。その瞬間、彼は自分の体が足から消えていくのに驚いた。意識を回復した時にはシルバータウンにいた。
数日間、彼はシルバータウンの王様のようであった。宮殿は彼のものだった。彼はどのお城にでも入ることができ、おいしい冷たいスープを食べ、大きなベッドで寝ることができた…しかし、数日経つと、彼はお腹が空いてきたことに気づいた。スープ一つでは彼のお腹は満たされなかった。
彼は外に出て、宮殿の美しい景色をみることで、空腹感を忘れようと思った。水道管の中を水が通り、木の枝にはケーキのような雪があり、寒い町の家の屋根にはつららが垂れ下がっていた。彼は宮殿の中は若干寒いと感じた。
何日かして、彼は、シルバータウンがとても美しいにも関わらず、ホームシックになってきた。温かく居心地のいい家や家族や仕事さえも恋しくなった…そのため、彼はもう一度湖に行き、女性を呼んだ。
しかし、女性は出てこなかった。彼に秘密を教えた以上、彼女はもう彼に答えることはなかった。彼は絶望して座り込んだ。頭を腕で抱え、次はどうしたらいいのか考えた。
その時、賢そうな年老いた男性が彼の方に来て、彼の腕を軽く叩いた。
「どうしたんだい?」
この男性は長い髭があり、青いパステルのような色の目をしていた。ステフェンは彼の目が湖の女性の目と似ていると思った。
「現実世界に戻りたいです」ステフェンはつらそうに言った。
「なぜそう言わなかったのかい。あなたはまだシルバータウンの住人ではない。自分の世界に戻った方がいい。」
「どうしたらそれができるんですか?私はずっとここにいるんじゃないんですか?」
男性はポケットの中からコインをとり、ウインクした。「ここに来たのと同じ方法で、帰れるよ:噴水の上にコインを投げ、3秒間噴水の上に乗ればいいのさ。それができたら、現実世界に戻れるよ。頑張って!」
男性はコインをステフェンに投げて、ステフェンはそれをキャッチした。彼は掌の中のダイムを見た。また上を見た時には、男性はもういなくなっていた。
ステフェンは何度か挑戦した。やはり難しかったが、ようやくできた。コインは噴水の上に3秒間とどまった。もしかしたら現実世界よりもシルバータウンでやる方が多少簡単だったのかもしれない。ともかく、彼はまた足から消えていき、また起きた時には現実世界の自分の家の自分のベッドにいた。
もうすぐ夜の時間だった。彼がいなかった間は何も起きていなかった。まだ金曜日の夜であった。すべては止まっていたが、また動き始めた。ステフェンは寝室で寝ている妻を起こし、外へ連れて行った。
二人は、仰向けになり、輝く空の星を見つめた。ステフェンは噴水のような星座が見えた気がした。妻にそれを見せたら、彼女は頷いた。彼女は彼がどんな経験をしたか全く知らなかった。彼は微笑んだ。まだシルバータウンの住人ではないが、いつでも行ける場所であることに気づいたからだ。次行く時は、妻も連れて行きたいと思った。