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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第二章 ユナイダート王国編
96/105

閑話 私が武器を持つ理由は

 閑話延ばしてたら最後走っちゃった……。

 あと、風邪ひいてそこにさらに試験被って投稿遅くなりました……。

 一方その頃夕花里さんは、という感じです。

 好き。

 ただこの一言。この一言で想いは伝わる。

 なのに、この単語を口に出すまでがとても大変。

 私の想い人はとても鈍感。どう頑張っても伝わらない。好きって言わないと、私のこの想いには気づかない。

 ……でも、私が悪いのかも。

 妹にも、友達の美羽にも好きな人がいるって気づかれているけど、想い人も同じなんてことはないから。

 だから、もう少しだけ頑張ってみようとは思った。

 でも……────



 雨。

 ザーザーと降りしきる雨をぼーっと眺めていると、後ろに気配を感じた。

「なにやっているのよ、夕花里」

 やっぱり、美羽だ。声が少し遠いことからも扉付近にいるのがわかる。

「んー……ボーッと……」

 振り返らず、力なく答える。

 なにやってるのと訊かれても、本当にそれだけ。私もなにやってるんだろー、ってなるぐらい。

「お昼は食べた?」

「んーん。食べてない」

「……朝は?」

「そういえば……食べてないかも?」

 気付いたらお昼過ぎだったから、仕方ないのかも。朝起きて、訓練して、汗流して。それからここでずーっと雨を眺めてる。そろそろ寝よっかな?

「夕花里」

「ん?」

 カッカッカッカッと足を踏み鳴らす音が近づいてきたかと思うと、グイッと顔の向きを変えられた。そのせいで首からピキッと変な音が鳴った。

「あんたねぇ……!!」

「ふぁあああああああ!? み、美羽!?」

 ほっぺたぐにゅんぐにゅん揉まれて、離されたころにはほっぺたがひりひりと傷んだ。涙目になりながらも美羽を軽く睨む。

「ひどいよ、美羽〜……」

「ひどいのはあんたの顔よ!」

「それは今、美羽が……」

「……そうじゃないわ。あんた今、とってもひどい顔をしてるの、気づいてないの?」

「え?」

「ほら、これで自分の顔を見なさい」

 そう言って手渡してきた手鏡。それを受け取って鏡に映して──愕然とした。

「これが……私?」

 目が赤い。

 ちょっと肌荒れがある。頬はこけてるし赤い。赤いのは仕方ないけど。

 髪も艶が少し失われてる。

 これじゃ少し女の子としてだめだめだ。

「あんたの性格だから少しという感想を持つだろうけど、今のあんたはまるで幽鬼だわ」

「そこまで言わなくても……」

「その反応も含めて、よ。いつものあんたならもっと過剰に反応するのに」

「……うん」

 再び視線が外に向く。

 雨、しとしと。ザーザー。なんてことのない自然の音が、なんだか耳の中で大きく響く。

 幽鬼みたいと言われても、女子力がどうのこうのと言われても、だからと言って前みたいにやる気が湧いてくることがない。

「暗城文」

 美羽の言葉に勝手に体が反応する。

「暗城君が死んでから二ヶ月よ。最初の頃よりかは良くなったけど……」

 ため息が聞こえる。嘆息? それとも疲れただけ?

 わからない。けど、気が重くなるため息には間違いない。

 でも、一つだけ訂正しなくちゃいけない。

「文君は、死んでないもん」

「あ、あんたねぇ! またそんなこと言って……!」

「死んでないもん! 文君はどっかに行っているだけだもん!!」

 癇癪を爆発させるかのように叫ぶ。吐露する。心が落ち着いているはずなのに、美羽に向けて言っているはずなのに……どうして私自身に言い聞かせるような言い方になっているのかな?

「……ごめんね、美羽」

「──っ!」

 後ろからぎゅっと抱きしめられる。

 ふぁー、となんとなく声を出し、胸元あたりにある美羽の手に自分の手を添える。

 暖かい。

「暖かいね」

「今日は冷えるから、これぐらいが良いのよ」

「ふぁー……」

「文君、どこに行っちゃったんだろうねー」

「これから寒くなるし、暖かいところじゃないかしら」

 とりとめのない、文君の話。文君がどこへ行ったのか、今何しているんだろう、っていう話。

 文君のことだから料理とか初対面の人との過ごし方はお手の物だよね。でも、文君は弱いー弱いーって言っていたから、そこだけがちょっと心配。

 でも絶対に生きている。

「『──王のことは、信用しないでね』って。文君がいつか言ってた」

「……えっ?」

「あの時はまだわからなかったけど、今ならわかる、かも? 多分この国の王様はね、頑張りすぎちゃって、疲れてるの。だから、ね、文君が出ちゃったことを死んだ、って発表しちゃったんだよ。その方が体裁も良いと思うし」

「……そうね」

 美羽はしんじていないんだろうけど、きっとこれが本当のこと。

 誰も口を開かない真実だと思う。けど、あまり言わないほうがいいと思ってる。

 知っているのは、望月さんとリリルちゃん、ファミナちゃん、あと私だけ。

 桜ちゃんはまだ寝てる。文君が死んだーっていうのを聞いてから、ずっと。

「雨、やまないね」



 次の日も雨だった。

「ふぁー」

 なんとなく、声に出してみる。ふぁ、ふぃ、ふ、ふぇ、ふぉ、の、ふぁー。

「ふぁー……」

 文君、風邪ひいてないかな? ちょっと心配。あ、でも文君なら大丈夫かな? 地球にいた時も一回も風邪ひいてなかったから。

「……くしゅっ」

 私が風邪ひきそう。体動かそうかな。

 窓際の席から立ちあがって壁に立てかけてあった二本の小剣を手にして腰に携えると、アキレス腱を延ばす。

 ストレッチは基本だよね。最近は少ないけど、筋肉痛はつらいもん。。

 しっかりといろんなところを延ばしてから、立ったまま走る構えをとる。

 軽く目をつぶって人の気配を探ってだれもいないことを確認してから、ゆっくりと口を開いた。

「よーい……ドンっ」

 二歩。たった二歩で簡単に十メートル走りきる。そして三歩。二十メートル。ここで急ブレーキっ! と同時に来た道を振り返る。

 四歩目。来た道を戻る。今度は飛ぶように、ではなく廊下の広さを使ってジグザグに。迷惑かもだけど、でも訓練のためだから。うん、リリルちゃんにも許可はもらったから大丈夫……かな?

 ジグザグの時は一歩一歩を小さくしたり、端から端を飛ぶようにしたり、とばらばらに。単純な動きだけど、私の速さは敵を翻弄できるから――――――

「……敵、かー」

 動きを止めると汗がどっとあふれてくる。かなりやってたみたい。

 自分の部屋まで戻って剣を壁に立てかけると、そのまま服を脱いで魔導具(アーティファクト)でお風呂にお湯を貯める。たまるまでシャワー浴びよう。

「ふぁー……」

 敵。私の敵って、なんだろう? お肌? 年齢? 恋敵?

 じゃなくて。

 魔物、だよね。

 でも、この国の王様はおかしいな。

 魔王を倒せー、って言われても、行かされるのはダンジョン。篠田君たちは盗賊王フィンガーと戦わされたって。

 私は、なんのためにこの世界で戦ってるんだろ?

 料理作って、ファミナちゃんやリリルちゃんと遊んで。

 そこに文君がやってきたときは楽しさが二倍になるんだよね。文君のちょっとした笑みが本当に頭から離れな――

「ふぁあああああああああああああああああっ!!」

 違うのっ。そうじゃないのっ!

「文君はいつもほかの人とは考え方が違って単純じゃなかったから! だから自分でやれることをちゃんと知ってるだけだから! うん! ……うん?」

 シャワーを止めてお風呂に入ってから、疑問を振り返ってみる。

 そして今まで私がやってきたことも振り返ってみる。

 それで、結論。……私が戦う理由って、ないかも。

 誰にも傷ついてもらいたくないよ。でも、よくよく考えると、おかしいね。みんなに幸せにするためなら、武器はいらない。力もいらない。美味しい美味しいごはんをみんなに作れば、それだけでいい。

 だから、私は今もなんで武器を握るんだろうね?



 お風呂を出て久々にお肌や髪の毛の手入れをすると、なんとなく桜さんの部屋に。

 桜さんはすやすやと静かに眠っていた。

 二か月も寝てるから、ちょっと筋肉とか衰えちゃってるのかな? いつもより痩せてみえる。私のおなかはちょっとだけつまめるけど、桜さんはつまめなさそう。

 傍らに置いてある椅子に座って少しずれていた布団をかけなおす。

 そういえば桜さんも戦うような人じゃなかったなぁ。聖女と言われて、回復魔法を操って。

「……【ヒール】」

 ポワッと淡い光が手元を照らす。それを桜さんに押し当てると、少しだけ気持ちよさそうな顔をした。

 戦闘に向かない桜さんは、きっと好きな人……文君のために頑張ってたのかな。文君はときどき橋本君に喧嘩腰でよられてたけど、そんな暴力みたいなことも理解していないみたいだったのに。なのに、文君がいれば大丈夫、文君を支えるために頑張っていた。

 ……私も頑張らないと。

 まだ戦う理由はわからないよ。でも、文君も、桜さんも頑張っているから。

 それに、リリルちゃんもファミナちゃんもここの人で、危険にさいなまれているから。

「ふぁー……きっと、また会えるよね」

 この場所で、みんなを守っていたら、文君に。

 そしたら、桜さんが支えるなら、私は文君を守れるような……ううん。隣で立ってられるような人に。

「桜さん。起きたら、また、一緒に頑張ろうね」

 文君を探したり、訓練したり。――あと、恋も。

 私にはまだちゃんとした武器を持つ理由はないよ。でも、好きな人のためなら、頑張れると思う。

「その前にきっと、おなかがすくだろうから何か料理作っておくね?」

 そう言い残すと桜さんの部屋を出た。

 ふと窓からのぞいた空はまだ曇り空だけど、雨はあがっていた。

 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい1:ふぁーちゃん、武器を握る理由は文君のためでしかない。

 おさらい2:ヒール使えちゃうふぁーちゃん。

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