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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第二章 ユナイダート王国編
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第八十六話 セセトト山 3 - 歩んだ路にフラグあり1 -

 しばらくしたら暗くなってきたというのもあって、僕らはそのまま野宿することになった。

 フェンが薪を集めてピミュさんが料理する。僕は風を凌げる簡易的な家を【クリエイト】で作り、そしてウィズはその間に周囲に気を配らせて、魔物が現れたらこっそりと倒す。前にこっそり行かずにピミュさんに一人で戦闘しているところを見つかってこってりと説教されたから。

 ウィズの戦闘能力は僕もフェンも知っているけど、ピミュさんははっきりと見たわけじゃないから知らない。つまり、おねえちゃんぶりたい年頃なのか知らないけど、かなり過保護になっているわけで。

「あれ? ウィズちゃんはどこに行きましたか?」

 少しいなくなるだけでここまできょろきょろとし始める。うん、過保護すぎる。

「多分お花摘みじゃないかな」

「そうですか」

 うん、今頃ラフレシア(お花)が大量に積まれているはず。

 安心したのかそれっきり会話がなくなって、ただ包丁で肉を切る音が僕らを包む。なんともいえない音のせいで、本当に何も言えなくなる。

「そ、そういえば、フミさんはカスティリア王国の方角から来たんですよね?」

「…………ああ、うん」

 だからって、ピミュさん。その話題は出してほしくなかった。

「あの、その前はどの国にいたんですか?」

 ああ、そういうことか。

 世界を見て回るって言っていた以上、カスティリア王国以外にも放浪していたフリをしなくちゃいけないのか。

 ……いや。

「僕さ、カスティリア王国出身なんだ」

「え? そうなんですか?」

「そう」

 リリルに召喚されたのはカスティリア王国だから、必然的にカスティリア国民として住民登録される。それが身分証明になるから。今はギルド証で良いから、ほとんどどうでも良い登録になってはいるけど。……そもそも死んだから住民登録消されてると思うし。

 でも、結局。

「そこから旅を始めたから、話せるのはカスティリア王国……ぐらいかな」

「そうですか……」

「でも、カスティリア王国だけでもいろんな人と話をしたよ。位の高い人から村人まで。それはもう、人生における喜怒哀楽をたくさんね。正負の感情、どんなことでもその人達はきちんと教えてくれた」

 特に子供なんかは遠回しにいうことなんて覚えていないから、心で思ったことをどんどん感情的に教えてくれる。

 どんな些細な事でも僕は共感することができなかったけどさ。

「その、例えばどんな話をしたんですか?」

「そうだね……」

 リリルの話からしようか。それとも兵士団長? 王都の服屋を営んではいないけどなんだかんだでお手伝いをしているメティさんもなかなかウィット富んでいるしなぁ。

 それに、ユナイダート王国に辿り着くまでにもたくさんの人と触れ合えた。

 そういった人達の……光の部分。その部分を抜き取って話そう。

「じゃあ一つ。これは小さな村で起きたちょっとした怪異を冒険者が解決してくれた、っていう話なんだけど……――」




 僕の話は一つで終わらず、帰ってきたフェンやウィズも交えていくつものエピソードを話すはめになった。

 とくに、ウィズ。

 知らない間の僕の話を一生懸命聞き出そうとしてかなり揺さぶってきた。

 その場は「これ以上話したらお楽しみが無くなるよ」という言葉で諌めたけど……これ以降もこれが続くとなると気が滅入る。

「フミさん、大丈夫ですか?」

 クマモドキの肉以外も食べて、すでに就寝の時間。

 夜は交代で番をする。そのルーチンワークの中にピミュさんは入っていなかったはずで、もう寝たと思っていたのに。

「大丈夫だよ」

 火に薪をくべながら笑うと、毛布を掛けられた。

「そう、ですか」

「ピミュさんこそ寝なくて大丈夫なの?」

「はい。私は……その、実はフミさんの近くじゃないと寝られなくて」

 その言葉になにか言い返そうとしたけど、やめる。

 だって、ピミュさんの手が、そして声が、震えていたから。

 だから、

「そっか」

 そっけなく返して、黙って手を握る。

「あ……」

 驚きと安堵が入り混じった声がピミュさんから漏れる。本当、どうしてかピミュさんを相手にすると僕が僕らしくない感じになる。それも、何かを演じている感じもしないし、本当にわけわからない。

 パチパチと火が跳ねる。

 前からと横からの熱でだんだんと僕も暑くなる。

 不思議と、それが嫌に思わなかった。きっと、僕が僕らしくないから、かもしれない。

 それからしばらくして、うとうとし始めたピミュさんの頭をあぐらを書いている膝辺りまで下ろす。いわゆる膝枕だ。

「これでも僕とピミュさんって同い年ぐらいなんだよね……」

 なんだか幼く見えるピミュさんの頭をよしよしと撫でると、不意にピミュさんの口が開かれた。

「ぅ、うぅ……なんで、なんで……みんなしんじゃったの……おばあちゃん……」

 撫でる手が、動かせなくなった。

 さらりとした髪の隙間から、火の灯を受けてきらりと光る雫にぼんやりと焦点をあてる。

 多分、ショックというほどでもなかったと思う。

 ピミュさんは家族を亡くしてまだあまり日が経っていないんだから。だからうなされると思っていた。

 でも、僕はなんでこの撫でる手が動かせないんだろう?

 なんで、本にはたくさん書いてあった慰めの言葉が何一つ出てこないんだろう?

 どうして、僕の頬に熱いものが伝うんだろう?

 わからない。

「ごめん、なさい……フミ、さん……わたしの、わたしのせいでくる、しませて……」

 ……わからないことだらけだ。

 でも。

 心の中では、きっとわかっている。

 それに、ピミュさんの寝言に、一つだけ答えるなら。

 その答えのために僕がやらなくちゃいけないのは。

「こっちこそ、弱くてごめんね」

 誠心誠意の謝罪と。

「ピミュさんは、僕が絶対に、絶対に守るから」

 一つの決意だ。



 ◆



「トンネルの先は銀世界でした、というオチじゃなかったの?」

「にゃはは♪ ……ボクもそう思ってたよ。わーい、同じだね文君……」

「わ、私もそう思ってましたフミさん!」

「ウヌゥ? そう言っている場合なのか?」

 ……そう言いたくなる状況なんだよ、フェン。

 だって、目の前にあるの、温泉だよ。

 しかも、かなり豪奢な造りをした屋敷付きでさ。

「僕のイメージだと雪に足を取られながらも一生懸命歩いてようやく辿り着いた手狭な温泉だったというのに……宿付きって……」

 野宿する意味、なかったじゃん。

 こんな事態になるんだったら次からきちんと偵察を送ろう。……いや、人数的に無理か。

 せっかくパーティー作ったんだし、もう少し信用できる人を増やすのもありかも。できればピミュさんと普通の会話ができる人が良いな。

「ウヌッ! 早速入るぞぃ!」

「あ、フェン待って――」

 プシュッ!

 どこか抜けたような音と同時にフェンの胸に針が突き刺さった。

「フェン!?」

「ヌゥッ!?」

 フェンが急いで抜く。

 ピミュさんが急いで駆け寄ろうとしたのを僕が抱きかかえて阻止する。

「危ないから駄目だって!」

「で、でもフェンさんが!」

「大丈夫。ほら、針に血がついていないから。防具が守ってくれたんだよ」

「あ。本当ですね」

「ヌゥゥ……ここで死ぬわけには……」

「フェン。死なないから其のつまらない芸はやめて」

「ウヌッ? バレたか」

 バレバレだよ。

「あのさ、フェン。目の前の看板に書いてあるでしょ? 『地面にあるスイッチを踏まないでください』って。明らかに魔物対策が施されてるの」

「吾輩が魔物という線が……」

「……なら今からウィズと一緒に倒すけど?」

「……すまぬ」

 そそくさと後ろに下がって僕の後ろに来る。

「では、()くか」

「行くか、って……」

 視線を前に向けると、すでに扉を半開きにしているウィズがいた。さっきから反応がないと思ったらあんなところに……。

 一つため息を零してから、ウィズ、僕、ピミュさん、フェンの順番で屋敷に入る。

 屋敷の中もかなり掃除がいき届いていた。とはいってもカスティリア王国の王宮を見た手前、手放しで褒め称える程でもないけど、それでも十分に綺麗に保たれてる。

「……うーん」

 ウィズが唸ると同時に、指をパチンと鳴らしたぐらいで他には何も起こらず、ひたすら奥に進む。

 いくつか扉を開けるも、ところどころでメイドがいるぐらいで他には……メイド……え?

「……いや、なんでメイドがいるのさ?」

 まわりに僕ら以外誰もいないことを念入りに確認してからポツリとそう漏らした。

「わ、わわわたしも知りたいのですけど!」

「ウヌゥ……しかも全員我輩たちに一礼しておった……もしかしたらここの客人と間違えられているのかもしれんな……」

 客人て。

 でも、その可能性は十分に有り得る。

 だって、あのお辞儀とか(うやうや)しさとか、見たことあるし。というか、体験してたし、あの愚王の王宮で。

「……うーん。これは一芝居打って実際にここの主と面会したほうが良いかも」

「そうですね、そうしましょう!」

 目をグルグルと回しながらピミュさんが僕の服の端をちょこんっと掴む。追従するからお願いします、っていう意思表示でいいのかな。

「ウヌッ。では、吾輩がメイドに――」

「いや、僕が訊くよ」

 そう言って歩きまわっているとメイドにエンカウントした。結構高い確率でエンカウントするな、メイドって。

 でも、このメイドは……ボクから見て別格だった。

 目がつり上がっていて、眼鏡も相まってどこか冷めたイメージをもたせられる。しかも、というか、思わず魅入ってしまったというか、このメイドの髪色は〝黒〟だった。後ろで三つ編みにしてまとめられているけど、その艶やかな黒髪に思わず身体が強張った。

「……失礼ですが、貴方はどこかで私を?」

 ジッと見過ぎたのか、声を掛ける前に逆に声を掛けられた。

 頭の中で警鐘が鳴らされているのをどうにか諌めながら脳を全力で回す。

「……いえ。ですが、知り合いに貴女のような艶やかな黒髪をした人がいまして」

「それは貴方も同じでは?」

「いえ。僕のようなものではなく……本当に飲み込まれそうな、まるで闇のよう」

 そう言った瞬間――一瞬で僕の目の前に移動した。

「動揺、なしですか」

「……その身体能力も、見たことがありますから」

 目つきを更に細めながら一歩後退る。すると、フェンが僕の横に立った。

「お主……本当にメイドか?」

「はい。見ての通り私はメイドをさせて頂いております。証拠を望まれるのでしたら主君に問い合わせてみますが?」

「いえ、その必要はありませんよ」

 フェンを後ろに下がらせながら僕は肯定する。

「貴女が本当にメイドだって、僕にはわかりますよ」

 ただ、と付け加える。

「貴女のような黒髪のメイドをみたことがある、というだけです」

「……そうですか」

 一瞬顔が歪んだ。

 多分ボロを出したことに気づいたんだろうね。

 それも、今ここで抹殺するか考えるほどには。

「ただ、僕が知っているだけで、それ以上でも以下でもないですし、僕はここではもうこの話題には触れることはありません」

 そう考えていなかったとしても、布石は打っておかなくては。

 殺される可能性は、最小限に。

「そうですか」

 単調な返事と「それでは他に御用は?」と訊かれたから、本来の目的を果たすことにした。

「すいませんが、ここの屋敷の(あるじ)はどちらにおられますか?」

 そう質問すると、少し逡巡(しゅんじゅん)した後にメイドが後ろを振り返ってすぐ近くにあった大きな扉を開いた。

 そこから立ち込める湯気でどこにいるか察せれた。


「現在、ここの主君であるティトシェ女王陛下は温泉に浸かられております」


 …………人物まではさすがに察せれずにあんぐりと口を開くはめになったけど。

 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい1:おや、文くんの意識に変化が……?

 おさらい2:黒髪メイドにすばらしい身体能力。

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