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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
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第八話 なんか来た

 召喚されてから数日が過ぎた。

 召喚された翌日にはもう訓練は始まって、それぞれの特性の武器を持ってそれぞれ修練に励んでいる。

 その中で、やる気なさそうに佇んでいるのが、僕。ため息を吐きながら適当にヒノキの棒をだらだら振り回していた。

 ……だってこれ、つまるところ棍棒だよ。

 周りを見ると、ところどころ個性が溢れてる剣や弓、斧や杖や槍などを持ったクラスメイトが目に入る。その中で殺せるか微妙な物といったら笛とかの(たぐい)だろうけど、きっとあれは吟遊詩人とかそっち系だろうね。それでも、魔物を惑わせたりする能力がありそうだ。

 ……心が折れそう。いや、折れるようなものではないけどさ。

 訓練初日にもう図書館に篭ってやろうかと考えたけど、聖女の職を手に入れたことによって本物の聖女スマイルになった桜さんに「頑張ってね!」と応援されたから、少しは頑張ろうかという気にはなったんだ。笑わずに元気付けてくれた桜さんのためにもね。

 だけど、結果はダメダメだった。ヒノキの棒ってさ、木に重量感を持たせて作ったものだから、剣には切られるし、攻撃しても力がないから軽々と防がれる。

 棍棒を教えられる人はいないから自己流にはなる。それにあくまでヒノキの棒だから棍棒スキル、っていうのがないし。

 ただ、一つだけ面白そうなスキルはあった。


【クリエイト】


 スキル欄の一番最後に合ったスキル。これだけが異色を放っていた。

 ユニークスキルっぽいんだけど、説明文には、

[造り変えます。土を壁にしたり、畑を作ったり。人によって使い方は変わります]

 だって。ごめん、いみわからない。

 だってこれ、普通の土魔法と変わらない気がするし。何が違うんだろう?

 しかも実際にやって見るとそれなりに集中力が必要だった。慣れたら簡単かもしれないけどさ、そのレベルに達するために頑張らないといけない。

 はぁっとため息を吐き、棍棒をアイテムボックスに放り投げてその場を誰にもバレないように去り、図書館へ向かった。

 最近の僕の日課は図書館で本を大量に読むことだ。

 スキルにある《速読》を発動させればすぐに読み終わることができる。だから大体いつも百~百五十冊ほどの本を読了しては知識を貯めこむという作業を繰り返している。

 このままいけば一ヶ月もすれば読みたいものは読み終えられる計算だ。もしかするともっと早く終わるかもしれない。

 僕は雑食といってもある程度選()(ごの)みはあるからね。というより、必要な物を優先的に知識として身につけていかないと。

 こうするのも早くこの国、いや、目下目標はこの城を出ること。

 城を出ると王都が広がっているらしいし、そこで少し厄介になりつつ、他の街に行くのが今の所の計画。

 カツ、カツ、と音を鳴り響かせて歩いていると、ふと視線を感じた。

 視線がする方を見るとドレスの端が(ひるがえ)るのが見えた。しかし、すぐに興味はなくなったのでまた歩き出す。

 ジー……――――

 またか、と思わずにはいられない。

 召喚された次の日から何かと監視でもされているかのような、ずっと見られているこの視線……。

 しょうがない。付きまとわれても面倒だし、顔を拝んでおこう。

 図書館へ行く道に曲がり角があるから、そこを曲がったあとすぐに壁によって息を潜めて相手が来るのを待つ。すると焦ったのかタタタッと小走りで駆けてきて僕の目の前を通り過ぎていった。

「さっきからなんで僕を付けて来ているのかな?」

「ひゃあっ!」

 ストーカーは……女の子だった。

 プラチナブロンドをした、ふわふわしている長い髪を両サイドを少しだけリボンで括った、世間一般でみる美少女。……美幼女? どっちだろ? 多分、美少女で良いと思うけど。

 大体十四歳ぐらいなのかな。豪奢(ごうしゃ)なドレスを身に纏っていて、透き通るようなスピネルを連想させる綺麗な緑色の瞳をしていた。

「あ、あの、あのあのあのあのあの!!」

 面白いほど目を回して動揺してる。……うん。

「落ち着いて、白状しよ?」

 少し(すご)むと「ひぅっ!?」とさらに怯えてしまった。

 ちょっと凄みすぎちゃったかな。もうちょっと柔和(にゅうわ)な感じで……。

「えっと、なんで僕を見てたの? 最近話題の勇者達でも見てこれば良いのに」

 あの勇者一行は今じゃ城中で話題になっている。だというのにわざわざ目立たない僕を訪ねに来たというのは相当な物好きだね。

 まだ怖がっているようだけど段々と落ち着いてきた。

 質問した内容への返答ではなかったけど。

「えっと、その、私のこと覚えてます?」

「…………ごめん。僕、過去に付け込んでお金をむしり取ろうとする人初めてだったから」

「ち、違いますよ! 数日前です! あなたが召喚された時です!!」

 召喚された時?

 うーん……。

「えっと、たしか床に突っ伏していたと思います」

「ああ!」

 思い出した。確かにいたよ、そんな女の子。

「でも、それが僕をストーカーする理由にはならないと思うんだけど」

「はい、確かにそうですね」

 この子、はいって言い切っちゃったよ。

「ですが、私は意識を失う前に見たのです。皆様が呆然となされている中で一人だけ、余裕を持って周りを観察されているあなたの姿を」

 ……しまったなぁ。みんなと同じように呆然としていればよかった。

 僕の冷静な性格が裏目に出た結果か。

「それで気になったのです。あなたがどういう人で、何を思っておられ、どう過ごされてきたのか」

 最初は声が震えていたが、今はもうその震え声がなくなって、堅い意志を持った目で僕の目を覗きこんできた。あ、目に涙が溜まってる。

 頭をポリポリと掻く。そんなこと言われても、人に語れるような人生とか思考とか持ってないからなぁ。それに、

「そう言われて、はい僕は……って答える人、いるかな? いや、みんなはそうだろうけど僕は違うんだ。そういうことで、じゃあね」

 そそくさと立ち去ろうと体を反転させる。

 しかしはしっと服の裾を摘ままれてその後の行動を中断される。

「待ってください……」

 振り向くと、涙目に上目遣いで僕をじっと見てきた。

「わた、私は、あなたのことが、きに、気になって……」

 ……そんな捨てられそうな子供のような瞳をされると、僕も困るんだけど。

「気になるって……僕の、なにが、気になるっていうの?」

「全てです」

 凛と、澄まされた声が僕の耳に響く。

 まだ目が涙目だけど、その声には少女ながら、大人のような声質を纏っていた。

 ……もし、ここで断っても、ずっとどこまでも着いてきそうな予感がする。あの桜さんみたいに。

「わかったよ。でも、交換条件だ。僕は君に僕のことを教える。代わりに君は君のことを僕に教える。それでいい?」

 そう条件を掲示すると嬉しそうにコクコクと顔を縦に振った。

「それで、どこで話す? 立ち話で終わるようなものじゃないし」

「そうですね……。あ、でしたら私の部屋に来て下さい!」

「君の部屋?」

「はい!」

 笑顔で頷かれた。うーん、部屋、部屋か。えー、王宮に部屋かー。

「わかった。じゃあ案内して」

「はい! こちらです!」

 ドレスがなかったらこの子、スキップし始めそうだね。

 僕の手をとって引き始める。一度この子の顔を見ると、とても嬉しそうな表情をしていた。なんだろ、この子動物で言うと何かに似てるんだけど……。そうだね、尻尾があったらブンブン振ってそうだ。



 ◆



「ここです」

 そう言われて両開きの扉が開かれる。この子の部屋はドレスに見合うほどに広くて豪奢な作りとなっていた。だいたい僕が借りている部屋の二倍。

 大体高級マンション一部屋分の大きさと同じぐらい、かな。

 家具とかがいちいち高級だし。

「なんでこんな高級な家具ばっかり……もしかしてキミ……」

「あわわ……! 別に隠していたとかそういうわけじゃ……――」

「高位の巫女さん、とか?」

「別に本当に………………え?」

「おかしいと思ったんだ。なんで君がお城の中を自由に歩き回ったり、こんな高級そうな家具が置いてある部屋が与えられているのかがさ。そう、かなり高位の巫女ってことなら全て合点がつく」

 うん、なんて名推理。僕この世界で探偵になろうかな。そんな職業あるのかわからないけど。

 ドヤ顔で彼女をみると少し呆れが混ざった表情で「……ならそっちの……とだ……に…………」とよく聞こえないけどなにか呟いているのはわかった。

 この子、大丈夫かな? ボッチ極めてる?

 心配になりながらみていると、急にバッと前を向いた。

「そうです! 私はひ……ではなくカスティリア王国のお抱えの巫女で、リリルと申します」

「そう。僕は文だよ。よろしくリリル。えっと、それともリリル様?」

「いえ、リリルと呼んでください!!」

「あ、うん。わかったよリリル」

 そう呼んであげると満面の笑みで「ありがとうございます、フミ様」となぜかお礼を言われた。

 ……まって。

「文様? 僕も文でいいよ?」

「す、すいませんフミ様……」

この子、なにかと『様』をつけるのがデフォっぽいね。

 巫女さんだからかな。巫女さんって敬語使わないといけないといけないイメージがあるし。

「とりあえず適当に腰掛けてください」

 適当に、ね。なら適当に座ろう。

「……えっと、確かに適当に腰掛けてくださいとは言いましたが……」

「リリルが椅子に座るかなぁと思ってさ」

「まあそうなりますけど、椅子とベッドって結構距離ありますよ?」

 言われてみれば確かに。十メートルぐらいあるね。

 別に嫌々というわけ………………わけではないから、もう少し近くでもね、うん。

 ベッドの隣をポンポンと叩くと、リリルはその行動の意図に気づいてトコトコと小歩きできて、ボフッと僕の隣に座った。

 気のせいか若干顔が赤い。

「き、緊張しますね……」

「なんで?」

「実は歳の近い男性の方とこんなに近くでお話しするのは初めてでして」

「そうなんだ。じゃあ移動する?」

 さっきの椅子を指差してそう言うと首をブンブンと横に振った。そんなに強く振ったら首取れそうだね……。

「まあ嫌なら僕がそっちに……」

「いえ大丈夫です! そこにいてください!!」

 う、うん。そんな必死に否定されると、ね。

 浮かしかけていた腰を戻して話を進めることにした。

「じゃあ僕のお話からでいいかな? と言っても何を話せば良いか……」

「そうですね……。では、フミ様が好きなことからお話ししていただけませんか?」

「好きなこと、か。僕の好きなこと、趣味は……しいて言えば読書かな」

 僕は自身のことを少しずつ語り始めた。


お読みいただきありがとうございます。


文くんはリリルというウサギさんばりのかわいそうな少女にストーキングされていました。


次話はそんなリリル視点

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