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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第二章 ユナイダート王国編
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第八十五話 セセトト山 2 - 雪山への必需品を作ろう -

 クマと戦闘してから暫く。ようやく洞窟を発見できた、のはいいんだけど。

「……このぬる~い感じの風、文君は何だと思う?」

「いや、ぬるいって言うより冷気と熱気が混ざり合ってるんだと思うけど……」

「いったいなんでしょうか……でも危険な感じはしませんよね?」

 くんくんと臭いを嗅いてそう言ったピミュさんに頷き返す。というのも、ある程度予想は付いているからというのもあるけど、足元とか周りにいくつもの野宿した後が見受けられるのが確証になるわけなんだけど。

「ウヌゥ……」

 フェンと目があう。フェンも僕と同じ結論に辿り着いたみたいだ。

 フェンの傍によって地図を広げる。あの落書き調の地図じゃなくてアイテムボックスに放っておいたしっかりした地図の方を。

「やはり……」

「うん。地図にこの先のことは載ってないけど、この洞窟と方角を地図と合わせて……」

 地形に合わせて指を動かす。すると、やっぱりというか山頂に向かっていった。

 フェンを見て軽く頷く。

「洞窟を進んだ先に出口あるとするなら、この冷気の正体は雪。というか山頂付近の風だね」

「ウヌッ。そしてこの熱気はセセトト(ざん)の名物である温泉、といったところだろうな」

「うん。でもこんな奥まったところに温泉って、かなり危ないよね?」

 だって、魔物が普通に出るぐらいだし。

「普段ケットルの街の住民が勧める場所はこの地図にも書いてある。となれば、だ」

 不意に神妙な顔つきになる。

 だけどその顔つきとは裏腹に、いつの間にか持っていたタオルを頭に乗せていた。

「フミ殿、これはまだ見つかっていない温泉の可能性があるぞぃ」

「おんせんっ!」

「温泉ですか!?」

 温泉という言葉に僕より早くウィズとピミュさんが反応した。それはもう、喜色満面といった様子で。

 いや、多分他の冒険者に見つかってるんじゃないかな。なんていう突っ込みもすでに遅いか。

 でも、さ。その正常な反応をする前にフェンの頭の上に乗っているものへの突っ込みをして欲しかったんだけど。

「秘湯っ!」

「ですですっ!!」

「……ああ、そっか」

 自分の服の裾を鼻に押しやってみる。うん、さっきまで動き回っていたのもあって、汗臭い。

「本当なら濡れタオルで身体を拭いてごまかすところだけど、二人共女の子だしね。身体を……清めたいのか」

 洗いたい、と言おうとしたら何故かジト目でピミュさんに睨まれた。いや、きっとニュアンスが嫌なだけだとはわかるけど、そんなまるで『デリカシーがない』みたいな目で睨まなくても。

「とりあえず、ご飯だけでも食べてかない?」

 洞窟に入る前に戦ったクマのような魔物の肉を小分けしたものをアイテムボックスから取り出して掲げながら言うと、やっぱりというか、ぐぅ、というデュエットが洞窟内に響いた。

「~~~~~~っ! フミさん!」

「……え、僕?」

「そうだよ、文君!」

 片方は顔を真赤にさせて、もう片方は頬をぷくぅっと膨らませて僕に詰め寄ってきた、からその口にクマ肉を突っ込んでみた。

「むごっ!? もぐもぐ、ゴクンッ……うん、よく焼けてておいしぃ……!」

「まあ焼いたのはウィズ自身だし、これでまだ生焼けだったらこの美味しそうな匂いはなんだって話になるからね」

 実際これを取り出してから匂いのせいで、僕もお胃がきゅうきゅうと締まる感覚に襲われている。それに、表面はパリっと焼けてるし、内包されている肉汁もすごそうだ。

「ピミュさんもお腹空いてるでしょ? だから善意でご飯を用意したんだけど……それにウィズはそういうの気にするタイプじゃないと思うし」

「そういうのが良くないんだよ、文君!」

 何故かピミュさんじゃなくてウィズが僕の腰辺りを掴んでゆさゆさと揺すってきた。力強いから倒れそうなんだけど。

「ボクは確かにそういうタイプじゃないけど、ピミュさんはそういう人なんだからね? デリカシーという言葉、辞書で調べてよ!!」

「……ウィズが辞書になるでしょ?」

「…………辞書で調べてね!」

 だめだ、このポンコツ(ウィズ)は。自分自身が辞書になりえるはずなのに。やっぱりウィズダムっていう名前は名前負けしてると思う。

 一つため息をついてから脳内から記憶を引っ張りだす。

「デリカシーっていうのは心の繊細なさま、だったはず」

 何回か小説でこういう言葉を見かけたから気になって本当に辞書で調べたことがあった。

 でも、さ。

 この意味をきちんと把握したところで、例えば『お花摘みに行く』というのを『トイレにいく』と小説の主人公が言って、それでデリカシーがないと言われるのって、無理なんじゃないかな? だって、心の繊細さって、漠然としすぎてるし。

 こういうのには注釈がいるんじゃないかな、って前に澪に言い聞かせたんだっけ。一時間ぐらい。

「二人が言おうとしてるのってさ、『女心を察して』ってことなんじゃないかな? 心の繊細なさま、っていうのはかなり漠然としてるからね。だからはっきり言うけど……その前に今回で言えば食べたいっていう欲求が勝つもんだから察したところで――って、なにさ、その微妙そうな顔」

 ふとピミュさんに焦点をあてると、ふらふらっと身体を揺らしていた。

「……フミさん、女性は誰もがよだれ垂らしてお肉にがっついてぶくぶく太りたい願望があるわけないじゃないですかー……」

 自分のお腹をぷにぷにさせながら目からハイライトを消さないで。

「ぷくぷく……ぷにぷに……うふふ、これからぽっちゃりになってフミさんからも呆れた目を向けられて、最後には、さいごには……サイゴニハ――」

「……女の子はちょっとぐらいぽっちゃりしてたほうが可愛いよ」

「本当ですか!?」

 ステータスバグが怒ったかと思うぐらい視認できないほどの速さで僕に詰め寄ってきたかと思うと、顔を輝かせてそう聞いてきた。あまりの変容ぶりに「う、うん」ってコクコクと頷きながら返してしまうぐらいに。

「じゃあ、私いっぱい食べちゃいます!」

「少しだけにしておこうか?」

「え……もしかしてぽっちゃりしてたほうがいいっていうのは嘘……――」

「いや、さ。僕らも食べたいし、それに少しは食料も保存しておかないといけないからさ」

「そう、ですか……」

 しょぼんとして力なく僕から離れてくれたけど、ピミュさんの目を見る限りハイライトは消えてない。消えてたら保存食にしようとしてたものも全部消えるところだった……。

 ふぅ、とため息を吐いてからヒノキの棒を召喚して地面につける。そして【クリエイト】を発動して人数分の椅子を作り出してからクマ肉をみんなに手渡す。

「とりあえず、みんなで食べてて」

 人数分の椅子の中に、僕は含まれていない。

 全員から不思議そうな視線を背中に受けながら洞窟の端の方まで行くと、ピミュさんがお肉を持ったまま僕の方にやってきた。

「なにをするんですか?」

 声のトーン自体はまだ低いけど、ある程度はいつもどおりの調子に戻ってるみたいだ。

「んー、防寒具作り?」

「防寒具、ですか?」

「そう」

 クマモドキから肉を剥ぎ取る時にいらない皮の部分を残しておいて良かった。

「じゃあ私、ここで見てます」

 見てるのはいいけど、背中に軽く枝垂れかかるのはちょっとやめて欲しい。そんなこと言ったらピミュさんの目からハイライトが消えそうだから言えないけどさ。

 ……ヤンデレにしないためとはいえ、こんなにも顔色窺いながら言葉の選択するのって、初めてかも。

 下手したら弱みになりかねない……気がする。

「フミさん?」

「ん、なんでもない。【クリエイト】」

 とりあえずクマモドキの皮を〈なめした皮〉にすると、だいたい三十枚ぐらい作れた。多分焦げてなかったところを合わせたらこれの二倍ぐらいはあったかもしれないけど……まあ仕方ない。

「それに、クマモドキは一体じゃないし」

 もちろん全部食用になるけど、全匹同じぐらいの焦げ目だったはずだから。

 だからその二匹を全部〈なめした皮〉にすると、だいたい百枚ぐらいになった。これぐらいあれば、もともとの在庫と合わせて全員分の防寒具が作れそう。

 なんとなくピミュさんをみると、目をぱちくりとしていた。

「ふぇぇ……これからどうするんですか?」

「どうするって……同じだよ。【クリエイト】を使って防寒具を作るだけ。といっても、衣服とかはちょっとだけ作る過程が違うけどね」

 それにしても、これをやるのって結構久々。

 最後にやったのは確か……〈魔力式自動人形(マギステル・ドール)〉を作った時だったかな。あの王宮から脱出する直前だから、大体三ヶ月ぐらい前?

 ……まあ、いいか。

 変なことも一緒に思い出しそうになったのを頭を振って【ステータス】画面を出す。確か【クリエイト▽】の『▽』のところを押すと、『衣服』って出たはず。

 そこを押すといろんなレシピが出てきた。

 けど、作れるものの中に防寒具系のものは……あるにはあるけど……さ。

 僕は〈獣耳つきフード〉に〈猫の手〉、〈猫の足型ブーツ〉と〈もふもふした服(しっぽ付き)〉を着るのは絶対に嫌だ。ピミュさんあたりに着せるのは良いかもしれないけど。

 ……ピミュさんだけこれにしよう。あ、あとウィズも喜んできてくれるかも。

 でも、こんなの着てるフェンなんて見たら……うん、血反吐ものは確実。あの肉体で『にゃん♪』なんてやられたら最悪死人が出る自体になりかねないね……。

「新しい、レシピ……」

 そういえば注意書きのところに『思いつきで開発される』ってあったはず。

 だから適当に考えれば……――――



 ― ― ― ―



 ――新しいレシピが開発されました


 もふもふ手袋


 必要素材

 なめした皮        4/4



 もふもふセーター


 必要素材

 なめした皮        8/8



 もふもふコート


 必要素材

 なめした皮        9/9



 もふもふもーふ


 必要素材

 なめした皮        3/3

 動物の骨/魔物の骨     2/2



 ――作成しますか?    Y/N



 ― ― ― ―


「………………………………」

「フミさん、どうしました?」

「………………いや、なんでも」

 ない、わけないよ。

 いや、まあ思いつきで適当に想像したのは確かに僕だけどさ。

 もふもふってかなりあったかそうだけどさ。

 ……最後の〈もふもふもーふ〉ってなに!?

 しかもこれだけ動物の骨がいるし……。魔物の骨で代用可だけどさ。でも、この一番意味がわからないものに材料が持ってかれるのはちょっと癪なんだけど。

「……なんて、言ってられないか」


 ――作成しますか?    Y/N


 作成してみないことにはわからない。

 一つため息を零してから全部に『Y』を押して作成した。ついでに前の段階でレシピとして出ていた毛皮の帽子も作成、と。

 結果。

 全部もっふもふな装備だった。

 手袋。手のひらは薄めで手の甲の部分はぷっくりと膨れてるけど、武器を振り回すにはなにも問題ない。

 もふもふセーター。ただ単にゆったりとしたセーターでしかない。けど、これ一枚がかなり分厚い。

 もふもふコート。中のもふもふ具合がすごい。包まれている感じが凄く気持ち良い。

 それで、問題のもふもふもーふ。

 思わず半眼でそれを睨む。

 もふもふもーふ。

 その正体はかなりごわっとしたブーツだった。

「いや、まあ無意識にしろ靴も欲しいなとは思ったには思ったけどさ」

 もうちょっとマシな名前はなかったのかな!?

 ……一旦落ち着こう。

 大きくため息を零して、落ち着くために獣セットを作って問答無用でピミュさんに押し付けた。

「ふぇ、ふえぇぇぇぇ!? ふ、フミさんこ、こここここここれ……!!」

 涙目で「そっちじゃないんですかぁ!?」っていう訴えを無視して、今度はウィズ用に獣セット……なんか語呂が微妙だな。『にゃんにゃんセット』……まだちょっと動揺してるかも。もうしばらくは獣セットでいいや。

「ウィズ、はい」

「んぐっ? もぐ……文君、これなに?」

「にゃんにゃ……獣セット。防寒具の一種だよ」

「ふ~ん……」

 なに? なんでそんな顔をニマニマさせてるのさ。

「いいよ~。ふ~み~く~んの! 趣味にのってあげるー♪」

 僕の趣味じゃないから。初めて作ろうとした時につい思いついたやつだから。だからそんな『文君の趣味』ってところを強調しないでよ。

「ウヌッ? フミ殿は獣好きなのか?」

 曲解やめて。

 別に獣は好きじゃないから。

「フミさんの趣味……だったら着るしか……」

「…………はぁ」

 ため息を一つ吐くと、あとは自分の分だけ防寒具を作って誤解を解く作業に入った。


「フェン。変な曲解をした君には防寒具を作らないから」

「ウヌゥッ!?」

 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい1:ピミュさん目からハイライト消さないで。

 おさらい2:秘湯(?)を見つけたっぽい。

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