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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第二章 ユナイダート王国編
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第八十二話 物知りな巫女さん

 とりあえず、頭の中を整理しよう。

 僕は【バカと煙は高いところに登る作戦】を決行していた。

 作戦内容は簡単で、つまるところ僕は馬鹿でも愚か者でもないし、考えなしでもない。高いところからならパラグライダーなりなんなりで行けると思ったから。ほら、二次元で行き詰まったら三次元でっていうのが普通に行き着く考えだし。

 だから、ね。

 決して覗きをしたかったわけじゃない。

 確かに目の前にいる女の子はあれだ、きっと魅力的な女の子だと言われるほどスラっ……っとはしていないけどある程度可愛らしい身長はしている。胸はふくら……小ぶりとも言えないほどないけど、濡れた青白の髪と相まってどこか色っぽく見える。……うん、がんばれば、みえる……。

 まあ、一般的にみたら清楚系だね。

 今楽しそうに偏った知識のお披露目がなかったら、だけど。

「わたし、男と男という生物が肌を重ねあうと言うもの、好きなんです! よくわからないんですけどね。なんかこう、胸が熱くなるんです! ……あ、わたしこういうこと言うの初めてなのでありますが……変、ですか?」

「変じゃないと思うよ」

「そうですか! 良かったです! では早速侍女さんにふきょーします!」

「……きっと一人で楽しんだ方がより楽しめると思うんだ」

「そうですかそうですか! じゃあわたし、これからもこの男と男の燃えに燃える熱き友情の築き方をこっそり学び続けますね!」

 萌えに萌えるじゃないことを祈る。

「そう。なら、とりあえず温泉に浸かろうか。全裸はさすがに僕もあんまりみたくないからさ」

「あ、これは失礼しました」

 ぽちゃんとお湯に浸かりなおす。

「あ、そういえばわたし、今魔王と巫女という存在についてとその関係性についても勉強中なんです!」

 せっかく浸かってくれたのにまた立ち上がって力説し始めちゃったよこの子。

 どうして男は女性をたくさんはべ、はべ」

「侍らせる」

「それです! はべらせると『夜の魔王』なるんでしょう? この小説の世界には夜の魔王だらけですね! この魔王野郎!」

「……あー、うん。なんでだろうねー」

 僕も考えたことないや、そんなこと。

「わたし、思うんです。男が男を囲っても夜の魔王になるんじゃないかなって!」

「そっち!?」

 あまりの斜め上な発想に思わず声が裏返った。

 だけど、この子はそんな僕に向かって無邪気に笑って「はい!」と元気に返事をしてくるから、とりあえず近づいて湯船にグッと押し込む。

「わたし、男と女の関係も好きですが、男と男の関係も同じぐらい好きなんです! ……〝禁断〟ってつくと、どこかいやらし~感じがしませんか?」

「……禁止されるほど魅力があるって続けるつもりでしょ?」

「ほっ!? どうしてわかったんですか!? あ、いえ待ってください! この男と男、男と女という恋愛事情について調べつくした自称恋愛相談の巫女に解けない謎はありません! ………………えと、あなたは私のファン?」

「違う」

「あ、なら夜の魔王ですか! ついに姿を現しましたね!」

「違う」

「え、え……? じゃ、じゃあ……――」

 適当に答えただけだから、答えらしい答えはないんだけど。それに、この子もまともに答えるつもりはなく、ただこの問答を楽しんでいるように見える。

「あ、わかりました! あなたは私のことが好きで、相思相愛になりたい人ですね!」

「違う」

「あうっ! ふられちゃいましたー……」

 声だけ聞いてるとものすごい絶望感漂ってるのに、顔見た瞬間そのにやけ顔をむにゅむにゅして苛めたくなるほどいい笑顔をしているもんだから、この子は本当に残念な子だ。

「この巫女さんのキュートでプリティでかわいい私の姿をみて靡かないなんて。なかなかやりますね、あなた! わたし、そういう人好きです!」

「キュートもプリティもかわいいも全部同じ意味だよ……――――――って、巫女?」

「はい? 呼びましたか? はっ! わたしの名前を知っているなんて、あなたもしかしてわたしのファンですね! サインとか求められるんでしょうか? こう、グーサインから帽子のつばを直して、最後に胸をトントンと叩けば良いのでしょうか!?」

「それ、僕に何を求めているのかわからないんだけど」

「『YOU、僕のものに、なっちゃいなYOUハァハァ』です!」

「明らかに僕が変態だよ……」

 というか、この子のヲタ方向に偏った知識って、本当にこの世界の物? 明らかに日本の腐女子の考え方に傾いてるんだけど。

 残念巫女だよ、残念巫女。

「って、そうじゃなくてさ。君の名前は?」

「わたしの名前ですか? 巫女さんは巫女さんですよ?」

「……巫女っていうのは職業でしょ?」

 なんて問いかけてみたら、「ポクポクポク……」と何故か自分で効果音を言いながら考えこんで、最後に手を胸の前で叩いて笑顔で口を開いた。

「わたし、そういえば名前もらってないです!」

「……そういうパターンね」

 異世界でこういう隔離された場所にいる子は名前がないパターンは異世界もの読んでいるといくつもあった。本当に『おまえ』だとか、たまに固有名詞、今回で言うと〝巫女〟というように呼ばれていたり。

 こういうとき、主人公は名前をあげるとかあるけど……。

 ちらりと巫女をみると、そろそろのぼせてきたのか僕の手を掴んで何とかお風呂から出ようともがいてる。

 ……この子に名前、つける必要あるかなぁ。

 というか、よくよく考えればこの子と一緒に何かするわけもないし、別にいいじゃん。この場限りの出会いってことで。そうすればこの子も自然と忘れるはず。

「それで、巫女さん」

 そろそろ出してあげようと力を抜いた瞬間、水面から飛び上がる魚のように巫女さんが勢い良く飛び出してきた。――僕に大量の水しぶきをぶつけながら。

「出られました! わたしもしかして力が強いんじゃないでしょうか!? それともあれでしょうか? 『くっくっくっ、これぞ巫女の魔力ぞ……思う存分食らわせてやろう……!』というやつなのでしょうか!? わたし、嬉しいです!」

「…………そう」

 とりあえず巫女さんの頭の守備力と僕が振り下ろす拳の力を比べてみた。




「うぅ~……」

 頭をさするのを抑えてからネグリジェを羽織った巫女さんの髪をしっかりとふく。じゃないと髪が痛むとかなんとか。でもってタオルを上手く頭で巻いて保温をするとより艶が増すとかなんとか。

「フミフミさんは怖い人ですか? それともこっちの優しいフミフミさんが本物なのですか?」

 鏡を見ると巫女さんがぷく~っと頬を膨らませていた。

 というか、フミフミさんって……。フミは一回だよって突っ込めばいいの? 面倒だからしないけど。

「どっちの僕も本物だよ」

 頭のツボを押すと一瞬で気持ちよさそうに顔をとろけさせた。澪だとこうはいかない。しっかりと十五分。じゃないと顔をとろけさせてくれないからね。確か一回詩織ちゃんにやったときは……どうだったっけ? 必死に押し寄せる快楽に対して抗っていたような気がする。

「ふにゃあ~~~~……。フミフミさん……最高ですぅ……。女の子の中の女の子ですぅ…………」

「…………」

 今、この子なんて言ったの?

「フミフミさんって本で出てくるような男の子よりの顔で、しかも体つきも細いですよね! でも、わたしよりも女の子してます! これが噂のレズです!?」

 もう一度守備力のテストした方がいいのかな、この子。

 いや、しよう。

「ふ、フミフミさん!? その拳はやめてください! 鏡越しにバリバリと猫さんがふにゃ~、ごろごろ……癒されます……」

 いきなり癒され始めたからもうダメだこの子。作っていた拳を緩めてマッサージを続ける。

「ちなみに私は猫より犬です派ですね!」

 だったらなんで猫で癒やされたのか知りたいんだけど。

「あのさ」

「はいです?」

巫女さんの会話の流れを断つようにマッサージをピタリと止めてさっきのことを訊く。

「巫女さん、僕のこと、女の子だって思ってる……?」

「はい? はい……。はい! だってフミフミさん、マッサージがうまいです! マッサージがうまい人は女性だって昔から相場が決まってるんですよ!」

「昔ってどれだけ前なのさ?」

「えっと……一時間前ぐらいです?」

「結構最近だ!?」

「過去は全部過去ですから!」

 ニパーッと笑ったかと思ったら、すぐにサーッと顔を青ざめる。

「わたし、マッサージ下手ですから、実は男の子です!?」

「さっき君を見た僕が断言する。君は女の子だよ」

 何を見たかはあえて伏せておこう。巫女さん自身のためにも。

「僕は男だよ」

「それは嘘ですね」

 本当のことを伝えたら即否定されたんだけど。しかもこの巫女さん、ドヤ顔してるし。

「……根拠は?」

「巫女という不思議特性を活かしてみました!」

 ……意味わかんない。

「ミステリアス風味にしてごまかそうとしてもさ、本当に僕は男だよ」

「え……」

 そこで初めて巫女さんは驚いた顔を見せた。というか、キョトンとした顔が僕にはそう見えただけかも。

 ただ、そこから段々顔が赤くなっていって頬に手を当てた。

「で、でもでもでもです! フミフミさん、わたしのボン・キュッ・ボンの豊満ボディを見ても夜の魔王になりませんでした、よ?」

「興味無かったらそりゃ、ね」

 僕が見た感じだと、キュ・キュ・キュだったんだけど。

 そっとため息をつくと、巫女さんが頭を下げてしまって表情が見えなくなった。まあ、恥ずかしかったのはわかるけど。わかるだけわかるけど。澪もよく『乙女の身体に気軽く触ったらだめなんだからね!』って再三注意してきたし。

 そういやその続きが――

「わたし、フミフミさんが男だとしたら、フミフミさんのお嫁にいくしかないですぅぅうううう!!」

「…………はあ」

 そうだ。そうだった。女の子ってこんな感じだったんだっけ。ふと澪が言っていたことを思い出されて頭の中で流れる。

 『女の子は無意識にしても、お嫁さん願望持ってるんだよ! ……も、もちろん私もお兄ちゃんと……な、なんでもないからね! えっとね、「あなたのお嫁に行くしかないです」って言ってくるの! 気をつけてね』

 あの時は軽く受け流しちゃってたけど、まさか本当にこういうお約束的展開があるとは。テンプレって言う程でもないけど、面倒なことにはなった。

 ……かなり、断りづらい。

 断るけどさ。

「ごめん。僕には――――」

「フミフミさんはこの世でたった一人の男です! この機会は逃せません!」

「……もう、この子の教育係はどうなってるのさ」

 この世に男がいないとか、腐女子的な考え方とかさ。あと、どうやったらこんな頭がゆるい子に育てられるのか、その教育係とじっくりとお話してみたいよ。

「フミフミさん!」

 勢い良く振り返ったかと思ったらそのまま押し倒された。

 頬を上気させて僕の顔を覗きこんでくる。さっきお風呂場で渡したリンスの匂いと髪の毛のくすぐられるような感触が顔に、柔らかいのが体中に襲った。

「男と男が身体を合わせる本の展開には、口と口を合わせるというものがあります」

「まあ、あるだろうね」

 そう肯定すると、巫女さんがずいっと五センチぐらいまでの距離まで顔を近づけてきた。軽く顔に息がかかるし、さっきまで巫女さんなんかお風呂に入ってたせいで身体が火照ってるのかかなり暑い。

「その唇を合わせる行為をたしか……せ、せ……ク」

 必死に思い出そうとぎゅっと目を瞑り、声を絞り出した。


「――セクシャルハラスメント!」


「……それ、何情報だよ」

 思わず言葉が雑になったのも仕方ないのかもしれない。

「なんでも良いです! しましょう、セクシャルハラスメント!」

「え、いいの? セクシャルハラスメントってしていいものなの? ていうかそもそも逆セクシャルハラスメントだよ、これ」

 いや、まあ男主体で考えた場合だけどさ。巫女さん的にはあってるのかな?

 なんて考えている時。

 唇に柔らかいものが押し当てられた。

 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい1:残念系物知り巫女さん。


 巫女さんについて。

 塔の中にいた巫女さん。名前はないっぽい? 自称ボン・キュッ・ボン。文くん曰く「キュッキュッキュ」。男と男の関係性と魔王についてどうやってか調べてはきゃーきゃー言ってる子。

 投稿が遅くなってしまった理由は、テストとレポート、その他もろもろの大学のことで追われていました……。すみません。次は時間的に余裕がでる木曜日以降に投稿します。

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