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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第二章 ユナイダート王国編
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第八十話 到着! ケットルの街

 世界の歩き方

 著:ユーラ=ファーネスブック


 セセトト山の(ふもと)にある《ケットルの街》。

 初めてこの街を小高いところから視界にいれた者は、雪化粧がかかった幻想的な風景に目を奪われるだろう。そしてあらゆる期待をふくらませて街中に入った時に目にするギャップに目を白黒させるに違いない。この私もそうだった。

 そのことについて触れるには、まず二つの特色を語らねばならない。

 一つはやはり街自体が〝源泉〟という温泉の元となる場所の上に立てられていることだ。セセトト山から運ばれてくる雪が《ケットルの街》にある温泉の湯気が溶かし、日の光を浴びながらキラキラと降り注ぐ。その光景が先ほど述べた通り、とても幻想的なのだ。このとき、運良く地上へ降り注いだ雪はまた一層幻想な風景となるのだ。

 そして二つ目だが、領主が私設した直属の精鋭騎士団、いわゆる私兵団だ。彼らは《ケットルの街》で独自の訓練を積んでおり、ユナイダート王国とはまた違った系列で動いている。

 この私兵団の役割を十全に把握することはできなかった。だが、領主館、この街の中心に存在する塔、そして街の警備を担っているということに関しては調べがついている。

 もう一つあげるとならば、とある時期に警備が厳しくなることだろう。そう、最初に私が《ケットルの街》にお世話になったのは、この厳重な警備による挙動不審で捕まって牢屋に入れられたのだ。牢屋(そこ)を出るのにかなり時間がかかったのは言うまでもない。

 つまりそれほどの警備が敷かれることには何か理由が存在するに違いないと私は考えているが、全くもって心当たりがない。

 いや、全くないというのは嘘となるだろう。一つだけ、ユナイダート王国内で一時期有名になった噂がある。

 この街に王家直属の温泉が存在する、と。

 その発想があまりにも突飛で信じるものは誰もいなかったが、私はこの説が正しいのかもしれない。

 しかし、この街には【巫女】様が住まわれている。女神フォルチュナーに仕えているという巫女がいるのだ。

 その姿は誰もみたことがない。故に、彼女(巫女は女性のみであるため)はいないのを隠すためといったものや、実はお忍びで街に遊びに行っているという噂の方が信憑性は高いと言われている。

 だが、結果として真実味を帯びていてもそれが『真実』ではない。故に、噂が絶えないのだ。

 最後に、この警備は年々厳しくなってきている。理由はわからない。色々と考えられるが、ここでは控えておく。

 だから、一つだけ。

 旅人よ、気を付け給え。

 厳重な警備下で入った時、街を出るなら用心せよ。





「用心せよ……か」

 本をパタンと閉じてアイテムボックスにしまうと、そっとため息を吐く。

 この本の作者、中々愉快な人生経験をしてそうだ。普通『用心せよ』なんて書かないからね。

 ため息を吐きながらぐるりと見渡す。

「用心せよって、きっと経験者が声で伝えないと駄目なんじゃないかな」

 簡単に確認しても、しっかり確認しても、僕が今いるところは無骨な部屋だ。間取りはだいたい六畳ぐらい。三食ついてて昼寝し放題。しかもちょっと呼びつけて頼めば本もいっぱい持ってきてくれる。ちょっと暗いのとベッドが堅いことに目をつぶれば最高の場所だ。

 あとは……一面だけ格子にあってることぐらいか。そこも目をつぶれば最高のニート生活ができる。

 ……まあ、牢屋だからそうなんだろうけどさ。

 またため息をつくと、ベッドに寝転がる。

「テンプレ展開を斜め上をいく展開だったからなぁ」

 天井に染み付いた顔のようなシミを眺めながら、もう一度ため息を吐いた。



 ◆



 《ケットルの街》が見えたのはお昼を少し過ぎた頃。急に視界が開けたかと思ったらやはりというか、壁に囲まれた街が見えた。

 やっと次の街。

 なんて少し喜んでいたら、まあ、うん。

 あれだよ。テンプレ展開というか、きっと日常茶飯事なんだろうけど。

 結構豪華な馬車が山賊に襲われていた。

 うん、わかる。わかるからとりあえずフェンに訊く。

「あれって」

「ヌッ!? 馬車が襲われ――」

「ケットルの街であってるよね?」

「ウヌッ? あ、あっておるが……ふ、フミ殿? あそこで馬車が――」

「じゃあ、コリス。あの大きな門に向かって」

「うささっ!」

「ふ、フミ殿……」

「……ああ、うん。コリス、そのときあそこにいる屈強な男たちが邪魔だからさ、一回ここで馬車から離れて蹴散らしてきて」

「……うさっ!」

 ……ああ、もう。なに?

 フェンもコリスも、なんでそんな優しそうな目で見てくるのさ? 別にお金を巻き上げつつこの世界で位の高い人と繋がりを作ろうとしているだけじゃん。

 うん、そう。そうだから。テンプレ展開にあやかろうと思っているだけだよ。

「じゃあ、コリス早く」

「うさっ」

 『俺は……そう、風だ。風になるのだ!』と言わんばかりに疾走したかと思うと、男性の象徴に向かって思いっきり蹴りを放った。コリスはメスだから『私は風よっ!』かな? ……どっちでもいっか。

 それにしてもさすがコリス。きちんと教えたとおりに蹴りを放ってくれてる。

 ザクロの花を咲かせるのはちょっと、と思ったけど、これはこれでお笑いものだ。

 なんて思っているうちにどんどんコリスが無双をする。……ウィズを乗せて。

 ……いや、まって。なんで乗っているのさ。

 しかもいつの間にか持ってる木の枝を振り回してるし。

 段々グロッキーな顔になってきてるけどさ。

「さて、と」

 フェンとピミュさんの方を向く。

「ちょっと二人は待ってて。まあ、すぐ戻ってくるからさ」

「ウ――」

「はいっ! 待ってます!」

 ……だからきらっきらした目で見ないでくれないかなぁ。なんか何も悪い子としてないのにばつが悪くなっちゃうじゃん。

 ため息を吐きながらピミュさんの頭を撫でると、「えへ、えへへ……」っとだらしない声を上げた。

 もし澪だったらあえて「デュへ、デュへへ……」って言うから、それに比べたらマシだろうけど。……ああ、天然な桜さんもあげるか。多いな、デュへへ率。

 面倒だと思いながら左手で頭を掻くと、ゆっくりと死屍累々とした山賊さん達に近づいていく。

 こら、コリス。

 馬車の上で勝利の雄叫びをあげたら駄目でしょ。

「もう……」

 なんとなくため息をついて馬車に近づく。

「うさっ」

 トン、と地面に飛び降りると、僕の後ろに回ったのを横目で確認してから口を開く。

「あのー、すみませーん。誰か生き残ってる人いますかー?」

 中でごそごそと動く音は聞こえるんだけど、返事は無い。

 だからとりあえず開いてみた。

「あ。……そっ」

 後ろでヒノキの棒を地面につける。

 中にいたのは二十過ぎぐらいの綺麗な女性と、それをとりまく数人の騎士。……兵士かな? 見分けはつかないけど、きっと護衛だ。

 その護衛さんが皆僕を今にも殺しそうな勢いで睨んでくるから、思わず戦闘準備をしてしまった。

 けど、普通に考えればそんなことしなくても良いというのに。

「こんにちは。僕は――」


「ひっとらえろおおぉぉぉぉぉ!」


 ――――え?

 そんな間のぬけたような声が出したかはわからけど、その数秒後に僕はその護衛さんのお縄にかかっていた。

「ええ……あの、僕助けた側だよ?」

 なんて言っても話を聞いてくれるわけもなく。

 コリスはいつの間にか馬車の方に戻っていて助けに来てくれないし。いや、友好関係というのを考えると来ないでくれなくていいんだけどさ。




「あれから三日か……」

 フェン達は街の中に入ったか、それとも街の外で待っているのかわからないけど、とりあえず助けに来るということはないのはわかった。

 そりゃ、こないことが正解だけどさ。

「まあ、そろそろ頃合いかな」

 ベッドから起き上がって立ち上がると、グッと身体を伸ばすと、なんとなく口を開く。

「僕はヒノキの棒を召喚すると、ゆっくりと鉄格子にくっつける。そしてゆっくりと口を動かした」

 ――――【クリエイト】。

 そう唱えた途端、鉄格子はぐにゃぐにゃと形を変えて、出口が作られた。


 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:予想の斜め上の到着……。

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