間話 王の計算
日が沈み、玉座の間。
そこではこの国の王であるグレンが、たった一人、ワインを口に傾けていた。
その姿は気品を感じられるが、顔に浮かべている黒い笑みによってそれは打ち消されている。
「ククッ……あのカケルとやらを煽って正解じゃったわい」
クイッとグラスをまた煽る。
王はもともと計算高く、それゆえに腹黒く、狡猾な人族に育っていた。
王座に居座る者が全てそういうわけではない。ただ、善政を引くものが多いわけでもない。英才教育を受けたからこそ、彼は国の暗黒部分も見て、黒く染まってしまったのだ。
「ふう。しかし、今回は四勇者が現れてよかったのぅ。そして、サクラとかいう勇者は……第五夫人にでも迎えるか」
王ですらも、桜の美貌にやられて見惚れていた。
他にもめぼしい人物は見つけていたが、その中でもダイヤの原石とばかりに光っているように見えたのだろう。
そこでふと思い出した日のように思案顔をする。
「ヒノキの棒の勇者は現れたのじゃろうか?」
一つの懸念材料。王にとって、この国にとって、そして、女神フォルチュナー様にとっての害悪と信じて疑わない、王。
王は、心の底から女神フォルチュナーを敬愛しているのだ。
その敬愛は、時に狂気へと変貌すらする。
「……クク、すぐにこの世から退場してもらうがな。ハッハッハッハッハッハ!!」
王の高笑いが玉座の間に響き渡る。
この国の宗教上、勇者はヒノキの棒を除いた剣・籠手・杖・本の四つしかない。
確かにこれだけなら他にも持っているものはちらほらいるだろうが、ユニーク武器である真なる〈勇者〉の称号を持っているのはあの四人だけなのだ。
さらに、桜を娶ることによって勇者という後ろ盾を手に入れることができ、より堅実で、より世界に台頭する力を手に入れることができる。
つまり、平和を取り戻した後の世界でこの国が大きく出れるのだ。また、上手くいけば世界の中心になることもできる。
人間以外の大陸に攻め入り、女神の名の下征服すれば、この国は平和だ。
「……まあ、他の者達も戦争の道具として使ってやるか」
この場合の『戦争の道具』とは、他国間との戦争を指す。
他大陸に攻め入ることを指してはいない。
国王という表の仮面を外した狡猾なグレンは、残りのワインを一飲みすると奥の部屋に引っ込んでいった。
その言葉を聞くものは、誰もいない――――わけではなかった。
日本でいうならば、障子に耳あり。
王の言葉を聞いていたものは、ひっそりとその場を後にした。
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おさらい:王は腹黒でフォルチュナーを敬愛しすぎてる。