第七十五話 レーリス防衛戦 - 氷獣 2 -
今回、戦闘描写が上手く書けていないかもしれません。ですので、暖かい目で読んでいただけるととても嬉しいです。
では、長くなりましたが本文をどうぞ。
バラバラと家が崩れ落ちる。
「カハッ……!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
何が、何が起きたんだ……!?
わからない。
脚が変な方向に曲がっている気がする。脇腹は守りきれなかったみたいで、ドクドクと血が流れ出ているのがわかる。背中も
「フミ殿!」
「文君!」
二人の声が聴こえる。
「だいじょう――ゲホゲホッ!」
声を出したら激痛が走った。喉も何かされた……?
そう思って喉を触ると、小さな氷の粒が手についた。多分、手で薙ぎ払われたときに、一緒に飛んできたのが浅く刺さったんだろうね。それでもかなりの重症だけど。
身体を起こそうとした時、ふとお腹の当たりにのしかかっているものが見えた。
氷塊だ。
そしてその隙間には、真っ二つに折れたヒノキの棒。
武器を失った。
……いや、武器は直せれる。クリエイトで縫合できるから関係ない。
それより、回復しなくちゃ。
なんとか動かせれる腕を必死に動かして袋に手を伸ばすと、指と指の間に挟み込んでビンを顔の前まで持ってくる。
「……は、はは……」
ビンの色は青。
つまり、MP回復薬を表している。
そういえば……回復はウィズに任せていたんだったっけ。
そのことを思い出した瞬間、意識が朦朧としてきた。
これは、やばい。
ここで意識を失ったら、きっと二度と浮上できないと思う。
「……し……ぬ……」
もう生まれてから何回目かの目の前に迫る〝死〟。
昔からそうだ。
弱いから。僕が弱いから、死ぬ。
力こそが生きる大元となっていて、知識だけじゃ絶対に生きていけないのが人生。いや、その傾向はこの世界では顕著に現れている。
運命に残酷で、死なないという保証すら役に立たない。
過酷な世界に自ら飛び込んだくせに、最後はこんなあっけなく――――
「――――――し、なない」
全身に走る痛みを無視して氷をどかし、声を上げる。
「死なない。僕は死ねないんだ……」
色んな人の約束がある。
おばさんとの約束もある。
やりたいことだって、たくさんあるんだ。
フェンリルにも、おばさんの料理が食べられなくなった恨みを果たさなくちゃいけない。
だから、弱くても、生きなくちゃ……!
折れたヒノキの棒をギュッとしっかり握りしめる。
【クリエイト】のスキル欄に書いてある文を思い出す。
[つくりかえます。土を壁にしたり、畑をつくったり。人によって使い方はかわります]
この文が本当なら、できるはず。
人体を作り変えることが。
……作り変えるというより、つなぎ合わせる。いつも通り、寄せ集めの部品で新しい道具を生み出すように。
「――――【クリ、エイト】ォ!」
MP回復薬を飲んでスキル名を叫ぶも、なにも起きない。
「【クリエイト】!」
何も起こらない。
【クリエイト】、【クリエイト】ォォォ!」
喉から血反吐を吐きながら叫んでも、何も起こらない。
……何も、起こらない!
クリエイトをしっかり握りしめて何回も叫ぶうちに、段々と意識が遠のくのを感じた。
それを意志一つで何とか食い止める。
ウィズに来てもらうのが一番ベストだ。でも、ウィズはきっとフェンリルを引きとめるだけで精一杯だと思うし、フェンは回復魔法、使えたっけ? ……多分、使えない。
視界がかすれて何も映さない瞳の中、生きる活路を見出すかのように、感覚がない右手を空に伸ばす。
――生きたい。
死なない。死にたくない。
「…………【クリエイト】」
最後の勝負。
全ての想いを籠めて発動しようした。
けど、結果は空振り――
――――新しいスキル『レパラーレ』を獲得しました。
――――修復が可能です。
久々に聞いた、どこか無機質な声。
いや、それよりも、修復?
この言葉を額縁通りに受け取っていいのかわからないけど、でも。
もう、これに頼るしかない。
「【レパラーレ】!!」
ドク、ン。
物凄い勢いでMPが吸われていく。
と、同時に身体の細胞が活性化したのが気持ち悪いほどに理解できた。
体中に走る形容しがたい気持ち悪さに転がりまわって気を紛らわそうにも、身体が動いてくれない。
「う、ぐぅ、ぅ、ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
体中にウジ虫が這いずりまわっているみたいだ!
MPを吸い上げる速さも変わらないまま十数秒。MPが枯渇する寸前に、始まりと同じように突然終わった。
何が起こったのか、と混乱する程度には意識はクリアな状態になっていた。
自分の状態を確認するようにゆっくりと立ち上がる。すると、さっきまで骨が折れていたところはもちろん、脇腹の傷も、喉も、全部治っていた。
……もしかして、回復魔法のようなもの、なのかな……。
「……っとと」
急激にMPを減らすと、物凄い倦怠感に襲われるのはこの世界の基礎中の基礎知識。だから素早く袋からMP回復薬を取り出して一気飲みをする。
これで一応準備万端。
……さっきまで死にかけていた僕と、今こうして平然と、とまではいかないけど、こうして立っている僕。生と死の境界を漂っていたのに、簡単に行き来できるこの世界は、やっぱり地球とはまた違うことを思い知らされるね。
でも、今こうして生きていられるんだからなんでも良いけど。
……結局今回は僕の職業にまた謎が増えたことには変わりない。
「さて、と」
真っ二つに折れたヒノキの棒を【クリエイト】でくっつけて、トントンと二回地面を叩く。
後ろで僕がぶつかったせいで瓦礫の山となった元家から巨大な滑り台を作った。その頂上に置いたものは、綺麗な球。
どこか艶を保っている球を、僕は思いっきりフェンリルの方に蹴っ飛ばした。
ゴロゴロと勢いを増しながら転がっていって、フェンリルが気づくのと同時に横腹にヒット。
確かにダメージは通った。
呻くフェンリルおの隙を突いて、ウィズが僕の方に血相を変えて飛んでくる。
「文君! だいじょうぶ!?」
「うん、この通り」
なんとなくくるりと一周りして、
「身体的には大丈夫」
精神的にはへろへろだけど。
あえてそのことは言わない。
「ウィズ、さっきのは僕の責任だから、約束守れなかったとか言うのは無しね」
「う、ううん! あれはボクが……――」
「そんなことより」
「そんなことじゃな――あ、なんでもないよっ!」
時間はそこまであるわけじゃない。だからひと睨みしてからそっとため息を吐いて、言葉を続ける。
「……そんなことより、ウィズ。フェンリルの倒し方がわかったかも」
「そうなの?」
まったくもって驚かれなかった。どうせ、「ふみ君だもん!」とか言うんだろうね。
「フェンにこの剣を渡して」
アイテムボックスから普通の剣を取り出して渡す。武器類は装備という意志を持たない限り、持ち運びとはできる。だから、一応いざっていう時の備えとして持っていたものだ。
「僕が合図するから、その瞬間投げるようにって伝えて。ウィズはこの剣が刺さったら雷魔法ね」
「りょうかいっ!」
ビシッ、と綺麗な敬礼を決めて、その場からフェンの方に跳躍した。
「さて、と」
大きく深呼吸して、ヒノキの棒で身体を支えるようにして立つ。
そろそろ体力面でも精神的にも辛くなってきた。
ここまでの苦戦は初めてだ。それに、相手がでかくて俊敏。余計に気を回さなくちゃいけない。
それに、【クリエイト】は集中力がいるし、さっきの【レパラーレ】というスキルのせいで倦怠感が半端ない。
あとでどういうスキルなのか確認しておかないと。
大きく息を吸い込んで、いつもの言葉を吐く。
「……【クリエイト】」
まずはフェンを大体フェンドラと同じぐらいの高さまで上げる。
次に的にされやすいフェンはウィズが守ることを信じて、僕はさっさとフェンリルの氷が展開されているところまで移動する。
半径十メートルぐらいで展開されている氷に、グッとヒノキの棒を差し込んだ。
「よし、準備は完了」
一度フェンリルを見上げる。
……目があった。
真っ赤なおめめのフェンリルさんに二回も壁ドンなんてされたくない。
だからすぐにスキルを唱えた。
「【クリエイト】!」
水は三つのものに変化する。
フェンリルが発生させている氷。
川に流れている水。
そして、水が蒸発するときに発生する水蒸気。
そしてフェンリルの氷は、きっと魔法でやらない限り絶対に溶けないのかもしれない。だって、フェンリルに意志があるとは思えないし。
でも、僕の【クリエイト】なら。これなら氷を溶かすことができるかもしれない。
それも僕が故意的に、範囲なんて関係なく。
「グルァッ!?」
最初に変化があったのは足元だった。
ヒノキの棒を起点として、滑るようにスゥッと水へと変化していく。
その変化の先には、フェンリルがいる。
再びフェンリルと目があった。その時、初めてフェンリルに怯えが見て取れた、と思う。
未知の力。
フェンリルにとってはきっとそうなんだと思う。
きっとスキルにしても、僕のこの水に作り変える力は初見だろうし、なおかつ今まで自分の氷が火系統以外のは、意味がわからない恐怖しかないはず。
まあ、知能があったらの話だけどさ。
集中している間に、いつの間にか変化はフェンリルの足元まで辿り着いていた。
ちゃぷん、とフェンリルが水音を鳴らした瞬間、今度は足を昇るように氷を溶かし始めた。
「グルァァァ!!」
「させないよっ!」
僕を踏みつぶそうと前足を上げたところを、ウィズが『リベンジ!』と顔にメモしていたと言いそうな勢いで、下から魔法で突風を巻き上げる。
安心・安全・快適と三拍子を揃っているから、自分のことに集中。
足に付着していた氷が全部解け終わった後、今度はそのまま身体にまとわりついている氷を溶かし始めた。
「フェン、そろそろ準備!!」
「ウヌッ! よくわからぬが、わかったぞぃ!」
力こぶ作らなくても大丈夫だから。
「さて……【クリエイト】」
もう一個唱えると、フェンリルの足元に大きな穴を作り出す。まあ、当然のように僕らより目線が落ちるわけだけど、別にそんなことやってもフェンリルならすぐ出てくるだろうね。
フェンリルが困惑している隙に、念の為に二本MP回復薬を飲んでから口元を拭うと、もう一箇所だけ大きな足場を作り出した。
「フェン、投げて!」
「ウヌゥゥゥァアアァァッ!」
投げ槍の体勢で待機していたフェンが思いっきり投擲した。それはもう、筋肉が誇張なしに光りながら。
そのまま背中に刺さると、すぐに作ったばかりの足場を見ると、すでにその場からウィズが降り立っていた。
「ウィズ!」
「うんっ! 【サンダートール】!」
急降下で下りながら、指先をパチパチと雷を走らせてから、身体を横に一回転させる。そしてその勢いのまま巨大化した雷を放つと、誘導されるかのように剣へ落雷した。
「グォオオオオオオオオオオ!!」
水は電気が通りやすいし、刺さった剣は体内に電気を流し込む。
そして氷という壁が無くなった今、フェンリルは僕らと同じような生身で高電圧を受けたことになる。
「ウヌッ! やったか!?」
「……だからそれはフラグだって」
僕がそう呟いた瞬間、ウィズに向かって冷凍ビームを吐き出した。間一髪で避けられたみたいだけど、打ち続けていたサンダートールは止めてしまった。
今ので仕留めるつもりだったのに……まあ、いいか。黒焦げになってるし。
「ちょっと今のは危なかったかなー」
僕の横に降り立ちながらそう呟いたウィズの頭を、優しく撫でる。ついでにふらついてきたから支えにしよう。
「フェン、最後に首に魔法をお願い」
「ウヌッ。【ウィンドカッター】」
氷が溶けてがら空きになった首筋に吸い込まれて、
「グルァ――」
トンッ、と顔が首から血を撒き散らしながら吹き飛んだ。
そして僕の方にバウンドを繰り返しながら転がってきて、最後にぎょろりと動いた紅い目と目が合った。
――――コロス。
なんてことのない、簡単な意思表示。
でも、なんとなくだけど、僕にはその意志がどこか薄っぺらく感じた。
「ウヌゥ……勝った、のか……」
だから、それはフラグ……。
そう思ったのと同時に、フッと力が抜けた。
「フミ殿!?」
フェンの声とウィズのどこか厳しい顔をした横顔を最後に、意識が遠い所に飛んでいった。
お読みいただきありがとうございます。
おさらい:薄っぺらな意思表示。
フェンリル戦、決着。
次話、『誕生 2』。
余談ですが、フェンがフラグたてすぎだと私も思いました。




