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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第二章 ユナイダート王国編
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間話 レーリス防衛戦 - 誕生 1 -

 北門最前線では、苛烈を極める戦いが続いていた。

 斬り裂き、貫き、豪炎で焼きつくす。

 しかし泉の如く溢れ出る魔物に、いくら鍛えぬかれた冒険者といえど体力をひどく消耗していた。

 前門の虎、後門の狼。

 最前線に立って戦っていたフェルガは胸の内でそうごちり、幅広の剣を横一閃と振るう。それだけで五匹魔物を屠ったが、さらに奥からその倍の数がノシノシと現れてくるのをみて、精神がガリガリと削られていく。

 後ろを肩越しにみると、脇を通り抜けた魔物がどんどん奥へ進もうとする。

「チッ!」

 フェルガとて、後方にも冒険者がいることはわかっている。それでも、奥へ行こうとする魔物の数が問題だった。

 最初は一匹だった。

 しかし徐々に通り抜けていく魔物は三匹、五匹と数を増やし、フェルガたち最前線で戦っている者に焦りを生むばかりだ。

「どうしたらいいんだ……!」

 苛立ち混じりに大剣で魔物を斬り伏せるも、数は減らない。

 魔物の様子がおかしいことは知っていた。しかし、ここまで大量の魔物が進軍してくるのは異常だった。

 フェルガ自身正確には覚えていないが、もう二百は殺しているだろう。それだけだったらまだ威勢はあがるばかりだ。しかし目の前の魔物の軍勢を見た途端、そういう気概は無くなってしまう。

 斬る。斬る、斬る。

 彼が今できるのはそれだけだった。

 フェルガは魔法を得意としない。

 それは己の筋肉を信じることをモットーとするキンニクオ家の家訓として魔法に触れ合う機会が少なく、生活魔法しか触れることがなかったからだ。

 また、彼の剣筋も荒削りだ。冒険者には珍しくないことだが、それでも本人はその冒険者よりも未熟だと言う。

 その言葉の裏には、彼の鍛えぬかれた筋肉がある。

 『鋼の如く堅き筋肉』を生涯目指すキンニクオ家は、本来対人戦を想定しており、いつでもどこでも戦えるような(すべ)を代々受け継いでいる。

 だから無駄に筋肉があるのだ。

 だから、彼は剣を力の限り振り回すのだ。

 それ故に、雑さが目立ち、体力も無駄に消耗し、集中力が切れ、後ろからの攻撃に気付かなかった。

「グルァアアアアア!!」

「しまっ――」

 ぎりぎり後ろを振り向けたが、せいぜいリーフウルフだと確認することしかできなかった。完全に身体が固まってしまい、躱すことも、攻撃を防ぐことも、逃げることもできない。

(――これまでか!)

 首を鋭い歯牙で掻っ切られ、噴き出した血を悦に浸るように飲まれ、最後には筋肉も余さず食べられる。

 あまりにもあっけない終わりが一瞬で想像できた。

(せめてこいつだけは、絶対に道連れにしてやる!)

「グルァアアアアアア――――」

「火の精よ、我に火の祝福を。【ファイア】!」

 噛み付かれる瞬間、リーフウルフの横っ腹に火の球が直撃し、カチンと歯と歯が空を噛む音と同時に燃え上がりながら吹っ飛んだ。

「カカ! フェルガ、大丈夫かー?」

「ラース……」

 薄紅色をした短髪のラースが、勝ち気な表情を浮かべて立っていた。

「お前さ、俺を置いて先に出すぎ? まったく、魔法が使える俺をおいて行ったら駄目だろ」

「あ、ああ」

「それに、幼馴染なんだし、さ!」

 錆びた剣を振り回しながら近づいてきたゴブリンを、持っていた出刃包丁のような幅広の剣でさっくりと首を落としながらニヤリと笑う。

「お前は俺がいねぇとだめだめだなーまったく。俺に任せとけっての」

「チッ……。ラースも俺がいねぇと駄目じゃねぇか」

 ラースの後ろから迫ってきていた矢を剣で弾き、フェルガも笑う。

「俺とお前でようやく一人だ」

「一心同体ってか? カカ! 笑えるねぇ。だけど」

 背中を合わせ、数回剣で魔物を薙ぐと、一瞬で周りに二十匹以上の魔物の死体ができあがった。

「「俺の背中はお前に任せた」」

 声をハモらせたかと思うと、二人は回り踊るかのように魔物を屠り始めた。




「これで最後、っと!」

 ラースが北門から入り込んだ魔物の首を落とすと、ふーっ、と息を大きく吐いた。

 フェルガとラースの活躍によって、ひとまず北門は一段落がついた。まだまだ魔物は入ってくるが、今いる冒険者たちでも十分殲滅できると踏み、フェルガとラースは一度奥へ引っ込んで体力の回復を待つことにした。

「お疲れ、ラース」

 ラースが剣を地面に突き刺して建物に寄りかかりながら座るのをみて、フェルガも同じように剣を刺して隣に座り込む。

「お前もな、フェルガ。カカ! それにしても、お前も丸くなったもんだな!」

「ど、どこが丸くなったってんだよ!」

 顔を赤くしながら怒鳴る。が、ラースはその反応をみて面白いものをみているかのように腹を抱えて笑う。

「だってよお前、Dランクなった途端、俺とパーティ解散したろ? しかも、威張り始めたってんだ。笑うしかねえだろ?」

「だ、黙れ!」

「しかも、じ、じ、自分で『期待の新星』だっけか? カカカ! あれは派手に笑ったもんだわ!!」

 今も思い出し笑いで爆笑しているラースに、羞恥と怒りで顔中が真っ赤になっていく。それはもう、熟れた赤い果実のように。

「も、もう昔の話だろうが! それに今はそんな話してる場合じゃねえだろ!」

「どっちみち体力が回復してないんだから、何もやれないだろ? だったらこんな暗い雰囲気に飲み込まれちまうより、お前の黒歴史の話をしてたほうがよっぽど……プフッ」

「良いこと言おうとするならまず笑うのを止めろよ!」

「カカ! いいぜ。それでぇ、なんだったか? あのフミとかいう冒険者成りたてのやつに挑んで負けたんだっけか?」

「あ、あれは落とし穴に落ちただけだろ!」

「フミが魔法で作った落とし穴に落ちたんだろ? だったら負けは負けだ。傑作じゃねえか。お前わかってるか? そっからだぜ、お前が丸くなったのは」

「…………チッ。わかってるよ、んなこと」

 フェルガにとっては面白くもない事実をただただ告げられていく。

 ふてくされたように上を見上げたフェルガに、ラースは優しい笑みを送ると、同じように空を見上げる。

 空には昨日と同じ空があり、太陽が存在する。

 それが当たり前で、普遍的なものだからだ。

 だからだろうか。

 ラースは下唇を噛むと、空から目の前で繰り広げられている戦いに目を向けて顔をしかめた。

 端の方にいるから気づかれていないのだろうが、また魔物が数匹前を通って行った。その先を目で追うと冒険者がいたが、それでも最前線で戦っていた者と同じぐらい体力を消耗しているように見える。

 それでも必死に剣を振り回して生きようとしている。

 惨めだ。

 そう思うのは簡単だった。

 しかしラースは、そして同じようにその冒険者を見ていたフェルガは、決してそう思うことはなかった。

 その胸中を、フェルガはポツリと漏らす。

「――なんでだろうな、ラース」

「何がだ?」

「俺は今まで親に認められたくて、がむしゃらに努力をしてきた。それは知ってんだろ?」

「まあな」

 口調は軽い。

 しかし小さい頃からのずっと一緒だったラースだ。彼の言葉に重みを感じ、しっかりと受け止める。

「最初は筋肉を鍛えた。キンニクオ流派の武術も鍛えた。んでもよ、あの親どもは俺の兄をずっと褒め称え、そして俺を(さげす)んだ。惨めだった。……だから冒険者になった」

「冒険者で有名になれば親も認めてくれる、てか。カカ! 健気だねー、まったく」

 そう笑い飛ばすラースだったが、フッと無表情に戻る。

「そんなお前について行った俺も俺だけどな」

 また「カカ!」と笑う。

「本当にな。俺は馬鹿で単純だったからしかたねぇのかもな」

「今も、だろ?」

「家出てから二年経ってんだぞ! 昔より頭ぐれぇ良くなっとるわ!」

「カカカ! 女の口説き方を覚えてからそう言えっての! あの受付嬢の子、お前狙ってんだろ?」

「グッ……ピミュちゃんのことはどうでもいいだろ!」

「顔真っ赤にしてやんの! いやーからかいがいあるわお前」

「は、話を戻すぞ!」

 恋愛関係になるとまるっきり駄目らしいフェルガが話を強引に戻す。

「それで俺は頑張ったさ。お前と放浪しながらな。そんで最近はCランクにまで上がって、それでまた強くなったと喜んださ」

 フェルガがフッと笑うと、

「でも俺は、あの小僧……フミと出会って悟ったんだよ」

「悟ったのか」

「ああ」

 肯定して一拍置くと、穏やかな表情を浮かべて語る。

「別にあの家族に認められなくてもいいんじゃねえか、ってな」

「お前がそんなこと言うなんてな」

「ハッ! 俺もそう思うぜ。ま、家族に認められてもらったからといって、俺の人生に何か影響があるかといわれりゃーなんもねぇんだよ。力も才能も、俺より下のフミが俺に勝ったんだぜ? おかしな話じゃねえか。しかも、『いつも通り卑怯な方法でやらせてもらいました』だ」

 あの時のことを思い出すように遠い目をする。

 フェルガがフミに敗北し、落とし穴の中で喚いている時に聞こえてきた彼の言葉は、少なくともフェルガにとって衝撃的だった。

 この世界は誰であれ、決闘と言われれば正々堂々としたものを思い浮かべる。

 そして、フェルガ自身もそう思っていた。

 卑怯な手を使う者は愚行だと。そう決めつけていた。

 しかし、試合開始と同時に作られた落とし穴――フェルガは少なくともそう思っている――を卑怯な手と開き直る態度。

 落とし穴を作ることは、そんじょそこらの魔法使いでは土台無理な話。

 それはつまり、フェルガの中でフミは物凄い魔法の使い手だと勘違いしたわけだ。

 だというのに、「卑怯な手」と割り切る。

 その驕ることを知らない彼に感銘を受けた、と言う顛末が、フェルガが心を入れ替えた理由だ。

「俺の家族は完全に実力主義者だ。でも、それだけが生きる意味じゃねえってのを知ったんだ。ああ、そうとも。ものすっげぇ重いパンチを食らった気分だ。惨めでもいいから、弱いことを自覚しろってな」

「……そこまでわかってれば、もう結論は出してんだろ?」

「ああ。思考がグチャグチャで追いつかねえけど、結論だけは出てる。でもちっとばかし踏ん切りがつかなかっただけだ」

「…………」

「俺は」

 ラースの手を握り、目を覗き込む。

「俺は、お前と一緒にこの防衛戦を生きて……そんで一回実家に帰りたいと思う」

「その心は?」

「……俺は一人で、とは言わねぇが、少なくともあの家族と縁を切ろうと思う。そして、『冒険者フェルガ』として新しい自分を始めたい」

 その表情は。

 その言葉は。

 彼が幾度もなく葛藤したことが明らかだった。

「……ラース。お前はどうする?」

 その問いは、個人のラース=フルンプニスにではなく、冒険者としてパーティを組んでいるラースに向けられていた。

「……カカ!」

 フェルガは笑いながら手を振り払って立ち上がると、剣を引き抜いてまっすぐ歩み、道のちょうど真ん中で振り返って剣を振るった。

「わかってんだろ? 俺はお前のお守役だ。だったら付いていくに決まってるさ」

「……お前ならそう言ってくれると思ってたぜ」

 フェルガも立ち上がりながら笑うと、剣を引き抜く。

 そしてラースの傍に歩み寄ろうとしたとき、

 ラースに不穏な影が覆った。

「ッ! ラース!!」

「カカ。どうした、フェル」

 グシャリ。

 なんとも不愉快な音がフェルガの耳に届く。

 ……ラースの言葉が続けられる事は、なかった。

「ラァァアアアアアスゥゥウウウウウウウ!!」

 フェルガが悲鳴に近い叫びは、北門付近にいた冒険者の鼓膜を揺らし。

 ラースを肉塊にした棍棒はゆっくりと持ち上げられる。

 涙を流したまま動く棍棒をつられるように目で追っていくと、 そこにはニタリと寒気が走る笑みを浮かべた黄土色のオークが立っていた。


 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:フェルガもなかなか苦労してた。

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