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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第二章 ユナイダート王国編
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第七十二話 レーリス防衛戦 - 萌芽 2 -

 北の大通りを通ったほうが早い。

 そう思って走り始めたけど、実際そうでもなかった。というか、あんまり走れない。

「もうっ!」

 ウィズも焦れったくなったのか、苛立ち混じりに魔法を何発か撃って魔物を殺す。

「ウヌッ! 【スラッシュ】!」

 フェンも杖を振りかざしながら風魔法を放つ。少し焦ってるみたいだ。こっちは魔物が多すぎて本当に街が陥落しそうだから、かな。

「本当に、魔物が多すぎる……」

 はぁ、と息を吐きながらヒノキの棒で地面を叩きながら「【クリエイト】」と唱えて地面から土の壁をもこもこと作り出して妨害工作をする。……なんか、僕だけしょぼいなぁ。まあ、弱いから仕方ないけど。

 僕も焦っていると言われれば、認めたくないけど焦ってると答えるしかない。

 ここまでの魔物の軍勢は初めて見た。一体何処から集まってきた、って問いただしたくなるレベルだし。

 焦りは禁物とか、そんなこと言ってる場合じゃないぐらい北通りを奥に進めば進むほど段々と惨状が克明に映しだされるようになってきている。

 ボロボロと崩れてる建物は勿論、周りで戦ってる冒険者に魔物の死体。それに、冒険者の死体もある。どれも……まあ、あれだよ。グロ映画でも規制が掛かりそうなレベルだ。

「ウィズ、火系統の初級魔法を頭に」

「了解!」

「フェンは魔力を温存しつつ魔法を放って」

「ウヌッ! この筋肉を魔物にみせてやるぞぃ!」

「……ごめん、言い方間違えた。魔力と体力を温存しておいて」

「ウヌゥッ!?」

 今のは絶対素なんだろうなぁ。

 頭をブンブンと振ってまたクリエイトを唱えると、今度はちっちゃい魔物を串刺しにして殺す。

 殺しても殺しても。十匹二十匹殺しても、あとから同じだけ、もしくはそれ以上湧いてくるし、それで道を塞がれているから本当に遅々として進まない。

 他にも冒険者が居るというのに、だ。

 しかも、冒険者の数にも限りがある。

 死んだら終わり。

 消耗品と同じ。

 十歩進めば魔物に当たる。横に五歩歩けば死体で転ぶ。それほど悲惨な状態。

 魔物にも少なくない知能はあるって聞いたことがある。それは人型に近づけば、でかければでかいほどある知能があるらしい。

 だというのに、今の魔物勢は何かに取り憑かれているかのようにどんどん歩く。目の前に障害があれば取り除く。そんなスタイルに見える。

 ウィズを先頭にして進み、横からきたゴブリンをクリエイトでこけさせて、もともとクリエイトで補強してあった強化版ヒノキの棒で殴りつける。どっちも簡単に想像できる分MPの減りは少ないけど、数が多くなるとやっぱり有効なのは魔法になる。

 だから基本は二人任せ、ってなるのがちょっと厳しい状況か。

「グフォォォォォォォ!」

「あれは……リーフウルフ……!?」

 誰かが言った言葉に反応して前を見ると、確かにウルフというだけあって狼がいる。しかも、ざっと五十体。

 これはやばい。

 そう判断してすぐにウィズに振り返る。

「ウィズ! あそこに雷落とせる!?」

「落とせるよー!」

「でっかいのお願い!」

「任されよう!」

 ウィズは基本、魔法はなんでも使えるというのを自己申告で聞いていた。だから、とにかく使えるものは使えという方針で使ってもらっている。

 MP大事に、とかウィズに言っている暇はない。

 相手は数が多くて、戦力は未知数だっていうのはわかりきったこと。何気に無双ができるウィズの手綱を握ってしっかりコントロールしていかないと、やれることもやれなくなる。

 それに、ウィズは他の人のいうことをあんまり聞かない。

 フェンやピミュさん、エレさんとはよく会話はするけど、他の冒険者とは会話は淡白で愛想も悪いし、何かお願いされても聞かなかったり、とても嫌そうにやるもんだから、頼む側もあまり気分が良いもんじゃないと思う。僕の命令は嬉々としてやるけど。

「……【クリエイト】」

 ウィズの雷魔法がリーフウルフに落とされたけど、やっぱりというか、数匹こっちに走ってきた。それをフェン、ウィズという順番にアイコンタクトを送ると、リーフウルフの前に壁を作る。

 すると、やっぱりというか怯まずに壁を左右に別れてさらに突っ込んできた。そこをすかさずフェンとウィズが同じ風魔法で魔物を切り裂いて道を作り出す。

「ウィズ、先行して!」

「あいあいさー♪」

 疲れ知らず、と言わんばかりに軽やかにスキップしていったけど……僕すでに結構疲れてるからね? そんなにスラスラと行かれても困るんだけど。

「はぁ……」

 ため息を吐いて頭をかこうと手を伸ばしたところで、ピタリと手を止める。そのまま顔の前にもっていってまじまじとその手を見る。

「……まあ返り血ぐらいはあるから、仕方ないか」

 こんな血まみれの手で頭を掻いたら、髪が粘ついてたまったもんじゃないや。

 ズボンで手についた血を拭い、これから行こうとする方向へ目を向ける。

「フミ殿」

「わかってる」

 早く行かないとウィズが作った道が塞がれてしまう。

 でも、右にも左にも魔物がいる状態で、僕が先に行くのは危ない。というより、ヒノキの棒は万能じゃないし、クリエイトも簡単に出来るもんじゃない。 

 だったら、やることはひとつ。

「フェン、走るよ」

「ウヌッ? 魔物が来たらどうするのだ?」

「……まあフェンの筋肉で頑張って」

「ウヌッ!」

 筋肉っていう単語を使うと、物凄い張り切るのはこれも短い経験からすでに知っていることで、すでに暑苦しい何かを身に纏い始めている。多分、熱気かな……。

 近くにいるだけで汗かきそう……。

「行くよ」

 僕の掛け声と同時に道の真ん中を駆け抜ける。

 ざっと目に入るだけでゴブリンやオーク、フレイムボアにプッシュボア。これらが全員群れ単位なんだから嫌になる。唯一良かった点は、冒険者がこの場にいっぱいいるという点。そして、僕らが堂々と走っている点か。

 オークみたいな人っぽい形をした豚顔の魔物は難しいけど、ゴブリンやフレイムボアなどの小さい魔物は、堂々と走れば気づかれにくい。そのときに負の感情や敵意、あとは殺意を向けると喜々として襲い掛かってくる、んだっけ?

 本の知識は万能だね、ほんとに。

 基本的に魔物って弱いものいじめが好きな種族だからなぁ。

「グモォォォォォ!」

 目の前に現れたオークが冒険者の血肉をこびりつかせた棍棒を雄叫びを上げながら僕らに振りかぶる。

 気持ち悪い。

 そう思いながら間一髪で飛んで避けると、すぐクリエイトですっぽりとオークを包む。

 パチンと指を鳴らすと同時に肉が突き刺さる音が微かに耳に届く。

「グフォオオオオオオオオオオオオオ!!」

「フェン」

「ウヌッ! 魔法で止めをさせばよいのだな」

「いや、先に進もう。一刻も速く鳥のとまり木亭に行って依頼を達成したほうが良い」

「確かにな……わかったぞぃ!」

 と言って後ろを少し振り返って安全を一度確認すると、すぐに視線を前に戻した。僕もチラリと後ろを確認すると、周りに数人いた冒険者がグーサインを出した。多分、ここは任せろ、ってことかな。……あ、一人グーサイン出したまま死んだ。

 まあ、頑張ってもらおう。

 そう思って前に視線を戻すと、フェンの背中越しに鳥のとまり木亭へ行く小道が見えてきた。そこでウィズが腕をグルグルと大きく身体の前で振り回してる。なんだろ、僕ら野球の走者か何かかな。

 ウィズがいるところまで一気に駆け抜けると、息を整えるために大きく深呼吸をする。

「ウィズ、先に……――」

「ここから先には、もう魔物はいないよ」

「いない……?」

「うん。いないよ」

 ……ただいない、というわけじゃないような気がする。ウィズは自分で倒したならそう言うし、どっか行ったならどっか行ったってはっきり言うはず。だから妙に引っかかる。

 ……少し、考え過ぎかな?

「ウヌゥ、では行くぞ」

「あ、フェンはここでボクと一緒に魔物の足止め、しよっ?」

「足止めって……一緒に行けば――」

「ほら、魔物がこっから来たら、文君困るからね」

「ウヌゥ……? ここには一人残ればよかフォギッ!?」

「ほら文君。ゴー、ゴーゴー♪」

「わかった。わかったからさ……フェンのつま先に進行形で積み重なってる石、どかしてあげて」

 ため息混じりにそう言うと、一瞬でパッカリと半分に割れて地面に転がった。

「つま先には……鍛えづらい筋肉があってな……! 吾輩もまだまだ二流筋肉使いということか……」

「いや、二流筋肉使いってなにさ」

 少し残念な目でフェンを一瞥してから、鳥のとまり木亭の方を振り向いて「行ってくる」と短く告げる。

「行ってらっしゃい」

 ウィズの掠れるような声が聞こえたのは、結構後だった気がする。

 なんだか、嫌な予感がする。よく外れるけど。

 胸によぎる嫌な感じを振り切るように少しずつ歩を速めながら、周りの状態を確認していく。

 確かに魔物はいない。でも、ところどころ魔物が破壊したような後や、その魔物が凍りついた跡がある。仲間割れ、という線はないと思うけど……どうなんだろ? そういうことは本には書いてなかった。

 まあ。

 そんなことはどうでもいいよね。

 魔物の仲間割れが本当だとしたら、後で調べればいい。

 今僕がやるべきことは最優先事項は一つ。

 ピミュさんの家族を助けること。それだけ。

「美味しい料理をこれからも食べたいから、というのもあるけどね」

 小さく笑い声をたてて左右に揺らしていた視線を前に向ける。

 僕はおばちゃんの料理が好き。それにあのピミュさんの両親も好き。……そして家族全員の暖かさがあるあの場所が好き。

 好き、好き。好き……。

「……まあ、この想いは澪に対しても同じようなものを抱いていたけど」

 ――つまるところの『家族愛』。

 それも、ピミュさんのところの家族愛は僕らと違って本物の家族愛。

 よそはよそ。うちはうち。

 そうだとわかっていても、家族愛というのはいつも心を温めてくれる。

 だから、その暖かさを守るために僕はこうして……

「……こうして……僕のためにも……そして……それに……なんで…………」

 僕はあの場所があるならこの場所に何度も戻りたいと思った。

 けど。

 やっぱり僕が守りたいと、家族だと認識して深入りした場所は。

 脆くて。

 (やわ)で。

 限りなく、壊される。

 それは、この世界にきて変わったと思った。思いたかったさ。

 でも、そんなことはなかった。

 そんなこと、あるわけがなかった。

 ――――鳥のとまり木亭が全壊していて、しかもそれが僕のせいかもしれないだなんて、思いたくなかったんだ……。

 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:鳥のとまり木亭、【全壊】。

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