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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第二章 ユナイダート王国編
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第六十九話 レーリス防衛戦 - 瓦解 2 -

 夢世界からウィズがでてきて二日後の朝。

 いつも通りおばちゃんの美味しいご飯を食べてからギルドに向かうと、そそくさと受付カウンターに座り込んだピミュさんを見届けてから適当に依頼書を見繕ってピミュさんに手渡す。

「今回は……えっと、南の商業区と工業区間の荷物運びですね。フミ様とウィズ様、ギルド証の提示をおねが――」

「吾輩もこれをうけるぞぃ!」

 バァンッ、とフェンの声とともにピミュさんのカウンターに依頼書がたたきつけられた。それだけでピミュさんは涙目だね。

 なんで静かに置けないのかな。一回後ろを軽く振り向いてフェンをジトリと睨んだ後にフェンが叩きつけた依頼書を読むと、まったくもって同じような依頼だった。

 依頼内容も荷物運び。行き先もほとんど一緒。届け先もほとんど一緒。まるでストーカーみたいだ。

 なんとなくここ二日間で僕についてまわるフェンにむかって最近思っていること口に出す。

「……フェンってさ。最近僕に寄生してない?」

「ウヌ? 寄生とはパラサイド・パラライドというやつのことか? あやつは本当にタチが悪くてな。吾輩も一度みたことがあったがそれはもう気持ち悪かったぞぃ。ブニョブニョとしていてだな、吐く息は少し緑がかっておった。よくわからぬねばねばした液体を身にまとって、一番近くにいる生物の身体にまとわりつくと、勢いよく血を吸うのだ。ウヌ、目もぎょろぎょろと七つもあったな」

「ふぇぇぇ! やめてくださいぃぃぃぃぃ!!」

 ギルド嬢なのに、これぐらいの話で目を(つぶ)ってしゃがみこんだ。ピミュさんは一応ゴブリンの耳とか兵器で扱える人のはずなんだけど、やっぱりこういう話は無理、か。

 まあいつも通りのピミュさんらしいね。

 ……本当に、いつも通り。

 ピミュさんが弱みを見せたあの日。あの時にちょっとしたアドバイスが驚くほど効いたみたいだった。いつも通りの感情の浮き沈みに、いつも以上のニコニコとした笑顔。

 まるで恋をしているようね、とはエレさん談。まあ、僕もそう思う。実際にはエレさんも僕も、ピミュさんが恋をしたとは思っていなくて、空元気にしか見えないのが本音だけど。

「まあパラサイドなんたらの話は置いておくとして、フェンはどうして僕についてまわるのか、そこのところを教えてくれないかな? じゃないと僕もウィズも色々と判断に困るから」

 よくわからない“何か”――そういえばまだ教えてもらってないな、“何か”の正体。後でダメモトで聞いてみよう。

 その“何か”についての警戒も少しあるといえばあるけど、根底の部分では戦力として使えるかどうか、もとい使い勝手がいいかどうか、なんだけどさ。

 その部分を隠してフェンに伝えると、ウヌゥ、と唸って上腕筋をムクリと起こした。なんでそうしたのかは、もう面倒だから訊かないし訊きたくない。

「実はなのだが……あのゴブリンキングを倒した日――」

(かんむり)を拾った日ね」

 なにポロリととんでもないことを言ってるんだろうか、この筋肉は。……本当に脳まで筋肉じゃ、無いよね?

「ウヌッ、たお……ではなく拾ったその日の夜に吾輩は筋肉と相談……いや、筋肉が語りかけてきたのだ。『フミと共に行動しろ』、とな。すまんな、少し迷惑がかかるかも知れんが、吾輩はどうにも右の筋肉と左の筋肉の助言には逆らえなくてな。しばしの間、吾輩と共に行動していただけると助かるのだが」

「あ、うん。そうだね」

 筋肉が語りかけてきた、というところからもうどうでも良くなったから聞いてなかったから、とりあえず肯定しておいた。

 一概には言えないけど、今のところ脳筋でいい人にあったことがない。一応まだフェンはグレーゾーンだけど……限りなく駄目な方向に傾いてはいる。完全にアウトなのは……誰だっけ。確か……キンニクン、だっけ? 僕と戦ってからは結構真面目に働いているとは聞いているけど、戦う前までのあの嫌な感じがアウトゾーンに入るし、銀河もあれはあれで脳筋だし。

「ウヌ、では暫くの間、よろしく頼むぞぃ!」

「……あー……」

 一緒に行動するということに収まったんだ。

 まあ、それならそれでいいけど。

「とりあえず今後同じ依頼を受けることになったらさ、報酬は適当に分配しよっか」

「ウヌッ。ウィズ殿はこれでよいか?」

「うんっ。というか、きっと文君はボクを抜いて勘定してるとおもうよ?」

「まあね。ウィズはこれからずっと僕と行動するから」

「ウヌ? つい先日であったばかりだと聞いたが……?」

「フェン……察しなよ……」

 顔を伏せながら暗い声を出す。するとたちまちフェンが「す、すまん……たちいったことを聞いた……」と勝手に勘違いした。

「まあ、わかるでしょ?」

 ウィズは僕の使い魔だから、どうせ僕のものになるって。

「ウヌッ。すまんな、ウィズ殿」

「……うん? うん、いいけど??」

「さて、じゃあいこっか」

 不思議そうな顔をして適当に頷いているウィズの手をとってギルドを出ようとすると、慌ててフェンがついてきた。

 あ、そうだ。

「ピミュさん、またあとで」

「はい。いってらっしゃいませ、フミ様」

 苦笑気味に見送られた。

 ……これは、フェンに適当な事言って勘違いさせたこと、鈍感だと思っていたピミュさんに見破られたかな……。



 今回の荷物運びは、最初に南東区域にある武闘具を作る工房に寄って荷物を預かるところから。その道すがらフェンやウィズとぽつりぽつり適当に会話をしながら進む。

 基本的に、フェンからはフェン自身の情報を引き出せない。

 これが少しの付き合いでわかるフェンの情報。これは信用されていないからなのか、それとも誰にも喋りたくないからなのかは判断つかないけど、とにかくなにも語られない。

 唯一知ってるのは、魔族(マヴィラス)に友だちがいて、そのことを酷く悲しそうに口にしたこと。それだけ。

 いままでどこに居て、どんなところの魔物を狩って、どういう人に会ったか。そういう情報が全く引き出せない。とにかく「フンヌッ!」という鼻息をたてて筋肉をもりもりっと隆起させてくるから途中で諦めた、っていうのもある。

 まあ、結局僕もフェンから同じような質問をされたら、翔みたいに「え、なんだって?」って言うしかないけど……。

 もし異世界からきましたー、だなんて伝えたらどうなるのかわからない。

 異世界人が召喚された、というのは確かこの国でもあったという情報はきいた。つまり、僕はこの国の召喚された人ではないけど、少し誤解される可能性が残ってるわけだ。それに、ギルドが情報をどれだけ掴んでいるかはわからない。カスティリア王国でも召喚された、という情報があるなら、僕はきっとなんでここにいるのかと詰問された挙句、連れ戻される可能性も残ってる。

 ギルドが政治に介入するということは限りなくないけど……少しでも可能性が残っているならなるべくばれないようにしたい。

 だから、フェンにも共犯、とまではいかないけど、ある程度信用できるまでは話すのは無理。

 結局、フェンの情報を引き出すときは自分の情報も引き合いに出さないといけないというデメリットがある。それはあまりいただけないから、自然と他の情報を聞くしかなくなる。といってもほとんど知っていることばかりだから、上手く行けば面白い情報がある、くらいかな。

 地図をみながらちょっとした細道を左へ曲がったとき、ふと疑問に思ったことをフェンが持っている杖を見ながら質問してみる。

「フェンさ、魔法って別に杖は必要ないよね? 基本的に魔法は詠唱とその魔法の特性をイメージさえできればいい、って本で読んだんだけど」

「ウヌッ。確かに基本的には必要ないぞぃ。だが、魔法使いにとって必ずしもいらない、と言い切れん」

「というと?」

「きちんとした杖には色々と機能が備わっているのだ。杖の根本から中腹にかけては、身体だけではなく地面からも魔力を吸い上げて、体内にある魔力の節約と、より質の高い魔力を練ることができるのだ」

「じゃあ、杖の先っぽはなんなのさ?」

「中腹から杖先にかけてはだが、速さと発動者の思考のアシストをする役割があるぞぃ。どのくらいの範囲か、強度はどれぐらいか、魔法の高さ・深さはどれぐらいか、破壊力はどれほどにするか、などが主だな」

 あれ……? 魔法ってそんなに考えるものなのかな?

 今まで、といってもみたことがある魔法使いっていえば(あずさ)さん。梓さんって結構簡単に魔法を撃っていたような気がするんだけど……。

「ウヌ? 顔の筋肉に『魔法はそんなに難しいのか』と書いてあるが……」

 普通に「顔にかいてある」でいいじゃん……。

 少し呆れた視線を横目で送っても、まるで気にしていないと言わんばかりに語りだす。

「破壊力と強度を考えなければ思考することは半分まで軽減されるぞぃ。それに、かなりの手練のものはこのような操作を無意識のレベルでやれるようになる」

「そう考えるとなんか、剣と同じだね」

 僕の【クリエイト】のスキルも、最初はかなり集中しなくちゃ駄目だったけど、練習する度に徐々に楽になっていって、最近では片手間で使えるようになった。それと同じだ。

「フミ殿の言うとおり、魔法も剣も、一日にしてならず、なのだ」

 梓さんは結構最初期の方ですでにマスターしてたかもしれないけど。もしかして、勇者ボーナス? それとも異世界からきたチート性能かな。

「あ、ここ右だね」

 僕を挟んで隣を歩いていたウィズが、周りの美味しそうな食べ物に(よだれ)を垂らしつつそう教えてくれた。なんだろ、歳相応って言えば年相応なんだけどなぁ。でも蓋をあけてみればきっと云千歳、ていうオチが絶対にあるから、なんとも残念な子としか見えない。

 ……なんて考えていたらウィズから物凄い殺気が飛んできた。

 慌てたふりをしつつ視線を逸らして右に曲がる。

「あった」

 依頼書と同じ紋章をした大きな看板。

 依頼書にも大きくてわかりやすいとかなんたらと書いてあったから、あれで正しいはず。じゃなかったら、なんだろう。狐に化かされた、とかそういうオチになってしまう。

「まずはあそこだねっ」

 なんて、ウィズがそんなこと言った瞬間。


 北の方から爆ぜる音と、今までに聞いたことのない威圧のある遠吠えが鼓膜を震わした。

 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:フェンはただ杖を持っていた、というわけではなかったという事実。

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