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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第二章 ユナイダート王国編
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第六十七話 未来を嗤う夢

 僕は夢世界をなめていたかもしれない。

 『夢』というものは過去に体験した経験を頭の中で少しずつ拾い集めた後に再構築していくものだと思っていた。それは実際正しくて、それ以上のものはみれない。

 それに、もしこの考えが間違っていたとしても、些細な違いしかないはず。例えば、脳がなにかしらの活動をする際にみせるものだといっても、再構築という点に関してなにも変わらない。つまり色々な説があるにしても、最終的には『経験』と『再構築』というところに帰結する。

 でも、その再構築の利用方法はいろいろある、というのが今目の前にある光景が証明していた。

 どう見ても僕の脳内で……いや、きっとカスティリア王国でも起こったこと無いほど……凄惨だとしか言い様がない光景が視界を覆い尽くしていた。

 僕が立っている位置からだと、ちょうど見下ろす形でカスティリア王国王都を食い入るように観れる。……いや、眺めるという表現があってるのかも。……どっちでもいい。

 結局、どっちにしても『観る』という行為に変わりはないのだから。

 いくら人が死んでいこうと、理解不能な光景を眺めるしかない。

 十数人。少数精鋭といったところかな。それぐらいの魔族がひたすら街を蹂躙していた。

 首を撥ねられ、胴体を横薙ぎに真っ二つにされ、正中線を綺麗に割られ、頭を砕かれ、火炎魔法で灰すらも焼き尽くされる。

 住人はひたすら殺され続けている。

「……意味がわからない」

 それはこの光景になのか、それとも自分があまりにもショックじゃなかったことなのか、自分で言っててもよくわからない。もしかしたら、どっちもかも。

 なんでカスティリア王国の人が殺されているのか。

 なんで僕はこの光景にそこまでショックを受けていないのか。

 わからない。

「……いや、わからなくてもいい。これは夢なんだから」

 なんとか頭を振って我に返る。

 いくら夢だからといって、こういう夢はあんまり好きじゃない。しかも、意識があるだけめちゃくちゃはっきりしてるしさ。

「これはね」

 声につられて後ろを振り向くと、ウィズが静かに僕のほうへ歩み寄ってきていた。

「いろいろな可能性から現在導き出せる、最も確立が高い……一年後の未来」

「……かなり近い未来だね」

 色々な可能性、か。

「魔族の侵入、ダンジョンの期日」

 さっき出されたピースはこの二つ。

「それに魔物の活発化に加わるし……」

 桜さんのことはきっと関係ないだろうけど、一応心の中で付け加える。

「まるで、夢だ」

「夢と同じ原理だよ」

「……ああ、なるほどね」

 夢と同じ原理を利用した、可能性をはじき出す予知夢ということか。これなら確かに、再構成と同じ原理で導き出せる。

 王都に意識を向けると、色んな所から悲鳴が聞こえる。この中には、メティさんやアーチバルにテトラさんもいるのかもしれない。

 あの人達は関係ないのに。

 関係あるのは愚王だけなのに。

 どうしてこうも人は死んでしまうんだろ。どうして関係ない人が巻き込まれて死んでしまうんだろ。

 これがラズワディリア? これが異世界?

 ……違う。

「僕の運命のせい、になるのかな」

「そうともいえるし、そうじゃないとも言える……。でも、文君が関わってることは確実……」

「そう。僕のせいで、こうなっちゃうんだ……」

 こうなると決まったわけじゃない。もっと別の、安全な道がある可能性もある。でも、だからといって、逆にこうならないという保証もどこにもない。

 でも……それでも。

「僕の運命に、他の人を巻き込みたくないなぁ……」

 今の僕に言えるのは、これだけ。

 これだけしか言えない。だって、

「運命には常に負けている」

「――ッ! まだ負けてないよっ!」

 ウィズの叫び声が僕の耳をつんざく。

「どこが……?」

 ウィズに視線を戻しながら訊く。

「これは最悪の可能性で、文君が運命になにも干渉しなかったらこうなるだけだもん!」

「いや……――うん?」

 干渉しなかったら? それだと、まるで僕が運命からずっと逃げるみたいな言い方だ。運命は向かってくるものだから、干渉しないだなんて……。

「文君は……文君は数日中に起こる魔物からの防衛から逃げようとしたよね?」

「あ、あー……あれも一応運命なんだ?」

「うん。れっきとした運命の一つ。文君の選択で起こることなんだ」

「……いや、僕が早くレーリスから離れれば、まず魔物が大量に押し寄せてくるということじたい知らなかった、ということに――」

「そこなんだよ。文君は結果残った。残ったという『選択』がなされたから、魔物がくる」

 ……なんの恋愛ゲームかな。

 ゲームでこの子とくっつくと、いろんな過去とトラウマが暴かれる。そのトラウマを主人公が治してエンド。でも、二周目で違う女の子とくっつくと、一周目でくっついた女の子はご都合主義的にそのトラウマが治る。

「ウィズはこう言いたいんじゃない? こういう事象は運命がこれに対しての設問をだして、選択肢次第でお題を出す」

 本当、恋愛ゲームみたいだ。

「運命という相手(ヒロイン)を攻略できるのかね……」

 冗談交じりに頭をポリポリと掻く。なんとなくウィズをチラリと見ると、なんとも言えない表情をしていた。本当、そこでいう言葉はひとつじゃん。

「ほら、いつもみたいに『文君ならできるよっ!』って慰めるところじゃない?」

「……でも」

「結局、僕は運命に屈して負けると?」

 軽く煽るようにいったけど、ウィズは無反応。……はぁ。

 ため息を吐くと、ウィズに近づいて顎を持ち上げる。目を丸めて僕を覗きこんできた。

「僕は、運命に負け続けている」

 そう、負け続ける。それは、幼いころから、ずっと。

「それでも運命というレールを喜んで進もう」

 だからこそ、というのもある。

 でも、それは僕の人生で、誰も……といっても僕が心を許した人にだけでも、絶対に被害がでなかったから。だから、僕は喜んで運命に従った。負け続けた。

 だから……「でも」と続けてニヤリと笑ってやった。

「だからといって、負け続けることは、絶対にない」

「ッ! 文君!」

 この光景を前にして、運命に負け続けろ、だなんて酷なことは誰も言わない。目の前にいるウィズなら、喜んで僕の手伝いをしてくれるはず。

「ボクは、文君を絶対に守るから。だから、文君も頑張って!」

「目下目標は魔物か……。この光景って逃げようとしていたからというのもあるんだよね?」

「うん。文君が魔物と向き合って戦えばなにか変わるかもっ」

 なら、ちょっとは頑張ってみよう。

 塵も積もれば山となる、というわけじゃないけど、最初は小さな運命に抗う。これから始めていけばいいや。そうすれば、いずれこのこの景色はきえて、愚王だけが死ぬ。そんなシナリオを組み立てていこう。

 ……うん、愚王が死なない、というシナリオはない。

「死なないといえば……このときの勇者ってどうなってるのさ?」

 愚王は死んでると思うけど。

「んーっと……」

 少し考える素振りを見せると、パチンと指を鳴らした。

「……なるほどね」

 すぐに場所は把握できた。

 謁見の間。王がいつもふんぞり返る場所。

 そこに翔と銀河、梓さんに、そして桜さんもいた。

 けど、翔も銀河もすでに事切れていた。

「翔も、銀河も、死ぬんだね。それで、あと二人は死にかけている。つまりバッドエンド、か」

 なかなかグロい死に方をしている。翔は顔が潰れて下半身はぐちゃぐちゃに。

 銀河は顔は残っているけど、五体バラバラにされている。

 梓さんはまだ大丈夫っぽいけど、右足が千切られてる。唯一無事なのは桜さんだけ、か。これはこれは。

 そして、目の前にはよくわからない黒い何かがいる。多分、ここまでは夢の力で構成できなかったのか。でも、圧倒的な力をもった魔族、っていうのは間違いない。

 その魔族に梓さんが強力な魔法、桜さんが聖魔法をぶつける。

 けど、何の意味をなさない。

 そのまま……――

「文君」

 パチンと指が鳴らされた。

 出た場所は、最初の昔住んでいた家。その家で、僕は椅子に座っていた。

「僕は……」

 頭を軽く振って、頬を掻く。

「ちょっと文君にははや――――」

「もっかい言うよ」

 ウィズの言葉を遮って、微笑む。

「僕は運命に負け続けることなんて、しない」

 というか、負け続けることは、ない。今の景色をみて、僕は負けられない。

「桜さんや梓さんのためにも、頑張る。……だからといって、八割は自分のためだけどね」

「――――っ!」

 ウィズが息を呑むのが目に見えた分かった。なんで息を呑んだのかわからないけど。

「文君は、こういうの興味ないと思ってた……」

「…………興味はないよ」

 いくら人が死のうと、いくら国が滅びようとも。

 僕には関係ないし、興味もない。

「でも」

 そう、今回は本当に『でも』なんだ。

 さっき言葉に出さなかった言葉を、頬を掻きながら言うしかない。

「僕のせいで、ヒノキの棒の勇者のせいだというのならば……しょうがない。自由奔放に生きることに誰かを巻き込むというのはいただけないから、当の本人がなるべく緩衝材のように頑張るしかないよ」

 他人を巻き込むということは、僕の親がやってきたことと同じ。そんな良い反面教師がいるのだから、やらないわけがない。

「ただ、僕がやることは変わらない」

 紅茶に口を付けて一口飲む。

「「獣人族(ディヴィム)が住む大陸には絶対に行く」」

 …………はもった。

 でも、ウィズもそのところはわかっている、っていうことで、顔にアイアンクローで済ませておこう。

「ボクは、文君を導いて、守る」

「いや、守ってもらうだけでいいよ? 僕は自分で自分の行きたいところに行くから」

「……わかったっ!」

 ニパッ、と僕に笑いかけてくる。

「それでこそ文君だからねっ。それに、ボクは文君の使い魔。どこまでもつきまとって、どこまでも守ってみせるよっ!」

「最後の発言だけ聞くと、どこかのアイドル親衛隊かただのストーカーだね」

「うにゃっ!?」

 やろうとしてることは酷く健全なことなのに、なんか残念だなぁ、ウィズって。

 紅茶をことりと置くと、椅子から立ち上がる。すると、周りの空間がぐわんぐわんと歪み始めた。……こわっ。

「そろそろ文君が目を覚ます時間、てことかな」

「……だから寝てないって」

 目を瞑って眉間を揉みながらため息を吐く。目が覚めるってことは、朝でしょ? こっから二度寝しようとしても、きっと出来ない。

「さて、じゃあボクは先に行くよ」

「え……ええ……」

 引き止めるまもなくさっさと出て行ってしまった。

 一人だけ、残される。

 はぁ、とため息を吐くと、紅茶を飲み干した。と、同時に夢が少しずつ瓦解する。

「……カスティリア王国が滅ぶまであと一年を切っている」

 夢から出るために、前に覚えたゲートを作り出す。

 そこをくぐるとき、なんとなく、この夢の空間においていくように、

「ヒノキの棒の勇者の調査に平行してやることが増えたなぁ」

 ぼやいて、外に出た。










 二日後。

 僕らに襲いかかったのは――――『選択』だった。

 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:一年後に滅ぶカスティリア王国。ただし、未来は変動式。

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