第六十三話 奇術師 4 -カノウセイ‐
安請け合いというものは、いざっていうときになると後悔するようにできている。
それは僕自身、まだ日本にいた時によく起きたことで、澪のお願いを安請け合いして後悔したことがたくさんあるからよくわかる。
でも、結果的にプラスに働いたこともあったし、逆に自分にデメリットしか働かなかったこともあって、本当に苦労したこともある。
でも、いくら僕にデメリットしかなかった時も、澪が楽しんでくれたり喜んでくれたりしたから、結果的には良かったのかもしれない。妹分のおねがいを答えるのは義兄の義務、みたいなものだからね。“しかたない”というより“やってやろう”という気持ちが強かったというのは否定出来ない。
まあ、安請け合いなんて本当に心を許しあった人にしかしなかった。つまり、僕は安請け合いをしたことがあっても、されたことはない。
だから、今の今までそちら側がどれだけ楽なのか知る由もなかった。そう、今の今までは、ね。
「……以上で一六八九〇エルドになります」
「ウヌゥッ!?」
少し洒落たカフェテリアで遅めのお昼を食べる。
店の指定から食べるものまで、全部僕が決めさせてもらった。勿論、最初に提案したのはフェンだ。共闘する代わりになんでも奢ると言ったのだから。
「それにしても……半分はコリスの分でもってかれたみたいだね」
コリス用のご飯は、基本的に普段僕らが食べているようなご飯でも良いみたいだから、ここでコリスのご飯もついでに買った。
勿論、奢るといったフェンが。
「ウヌゥ……男に二言はない、というからな……」
「そうだね」
さっきフェンに教えたばかりのことわざだけど。
「さて、と」
カランカランと軽快な鈴の音を響かせながら外へ出ると、そろそろ夕日が差し込む時間帯になっていた。少し冷えた風が僕の火照った身体を撫でては去っていく。
なんとなく少し振り返ると、看板に『産地直送! 一流の料理人が送る、最高の料理!』という謳い文句が目に入った。さらにその上には小さく『レーリスの街領主御用達!』と書かれている。
……うん、別に他意はなかった。少し高めの値段設定がされた料理っていうのはだいたい察しがついていたし、行けたら行こうというスタイルで前々から目をつけていただけだから。
だから、今回フェンのお金にかこつけて食べようだなんて、そんなことは思ってなかった。
ただ、じっと僕がこの店をみてただけ。
それだけでフェンが率先して入れてくれたんだから。
「フェン、ご馳走様でした」
改めてフェンの方を向いてお礼を言うと、笑って「ウヌッ!」と力強く頷いてくれた。
かなり引きつり気味の笑顔で不気味だったから顔を逸らしたのは、不可抗力。
そこから一旦コリスのところまで戻ってご飯を渡す。
するとそれを近くの斬られた木のところに置いてがっつき始めた。「うさ、うさ、うさ」と途中途中歌を歌うように鳴きながらも、物凄い勢いで食べる。
……この子、本当にメスなのかな……?どっちかっていうとただの飢えた獣だと思うんだけど。…………いや、獣か。
「ウヌゥ……しかしコリス殿は立派な毛並みをしている。吾輩の筋肉よりも綺麗ですぞぃ!」
「うさっ!?」
嫌悪かわからないけど、コリスの毛が全部逆立った。
「フェン、よくわからないけどコリスの毛より綺麗な筋肉って……存在しないから」
「ヌゥ? そんなことないぞ? みよ、この――」
なんか筋肉談義をし始めたからすぐに放置して、椅子を作ってそこに座り込む。そして僕は僕で考えなくちゃいけないことを纏める。
――ゴブリンキングの出現。
これはきっと、冒険者ギルドに報告したらいろいろゴタゴタするかもしれない。それほど重要な事柄だ。
基本あそこは森じゃなくて『林』という区分になっている。木々は少なくて、魔物も平原にいるやつに毛が生えたぐらいレベルだっていうのが常識。だというのに、森の中心部付近にいるような魔物が現れたんだ。何か異常があったと思われてもしかたない。
もしかしたら他の森から単純にこの林へ映り込んできた、という可能性もある。それだったら冒険者にギルドが依頼を出して魔物の一掃をする、という手もある。
まあどちらにしても、情報が集まらないことにはなにもできない。暫くあの林は立ち入り禁止になりそうだ。
…………でもこの異常は、本当に『普通の異常』、なのかな?
カスティリア王国にいた時に聞いた『異常』は二つ。
一つは愚王から聞いた【魔族の侵攻】。
もう一つは迷宮未攻略時に起こる、【大侵攻】。
多分、今回の部類は後者、なのかな。……そもそも前者は、情報源が情報源だけに全く信用できないし。
「ねえ、フェン」
「つまり筋肉とは心技体、そして魔法を使う際に――――ウヌッ?」
え、心技体と魔法を使う際ってなに? 筋肉って何かそんな重要な役割を果たしていたの? 初めてどうでもいいと決めつけて損した気がするんだけど。
「あーっと、ここらへんに【迷宮】ってある?」
「迷宮、とな?」
ウヌゥ……と顎をしゃくったフェンは、目をスッと細めた。
「ウヌッ……フミ殿はゴブリンキングの出現が【大侵攻】のせいだと思われているとお見受けするが」
「その可能性がある、と思っただけだけど」
そう、いろんな可能性から一つをくじを引くように出して、フェンに披露してみただけ。
それだけなのに、目を細めたフェンはどことなく雰囲気が変わっていった。
「最初に言っておくと、その可能性は限りなくゼロだ」
いつもの口調からしっかりとした突き放すような口調になり、僕に射抜くような視線を向けて説明をし始めた。
「ウヌ……まず、迷宮の及ぼす範囲は、迷宮の周囲のみ。そしてレーリスの近くにはダンジョンがない。簡単なことを述べると、そこから可能性は無くなるのだ」
「だったら、今回起きた一通りの事象はなんだって言うのさ?」
ため息ついでにそう尋ねると、右腕の筋肉をモコモコ動かして「ウヌゥ……」と唸っておもむろに口を開いた。
「……一つだけ、可能性があるのだが……」
「お願い」
「ウヌ」
筋肉を隆起させるのをやめていつの間にか触れていたコリスから手を離すと、いかにも真面目そうな顔をして空を見上げた。
「フミ殿は最近魔物の凶暴化がこの大陸各地で報告されているのは知っておるな?」
それは知ってる。情報だけだけど。昔と今がどれほど変わっているのか、それを知る手段を異世界人である僕は知らない。
フェンが一つ頷くと言葉を続けた。
「では、この凶暴化した理由は何か、と考えたことは?」
「あるよ。でも、僕がたどり着いた結論はさっき言ったとおりだから」
この異常は大侵攻の前触れだと、総錯覚させるには充分なほどカスティリア王国にいたし。
「それで、フェンはこの魔物の凶暴化は何が原因だと思っているの?」
「――魔族が絡んでいる」
芯が凍るようなゾッとする声で紡がれた言葉は、僕を硬直させるのに充分だった。
――魔族。
その単語でふと頭をよぎったのはメイド長さんだった。
あの人のような変な人が絡んで……いや、魔族の全員が全員あんなおかしくてミステリアスなわけじゃないか。
この魔物の凶暴化に魔族が絡んでいる。なんとも使い古された展開だ。
……まあ、本当にそうだとしたら、だけど。
「フェン。その情報は本当?」
「いや、信憑性に関して言えば半々、といったところであろうか」
やっぱり。
多分街の噂とかで聞いたとかだろうね。
「フェンはどう思うのさ?」
「ウヌゥ……吾輩はそうだと思う……が、実際足取りが掴めぬのでな。筋トレしても筋肉が増えない感じで気持ち悪い、もとい噂がひとり歩きしているようにしか思えん」
筋肉のくだりはよくわからないけど。
「結局フェンもよくわかっていないってことかな。だとしたら、結局僕が情報を得ただけ……って言うわけでもない」
おろしていた腰を上げ、フェンをジット見つめる。
「フェンって、魔族となんかあったの?」
そう言葉を投げかけると、あんまり表情筋は動かなくてポーカーフェイスを貫かれたけど、お腹と腕の筋肉が気持ち悪いほどぴくぴく動いた。うん、ちょっと見てて僕の眉もピクピク動いてしまう。ちょっと精神的に来るもんがあるから。
フェンが『魔族』と発した時、尋常ではない殺気、みたいのを感じた。すぐにそれは霧散したし、深く詮索するつもりはない。でも、あれだけ異常なものがなんなのか、知っておきたいというのはある。
「フェン、おし――」
「フミ殿」
その時のフェンの表情はとても清々しくて、
「魔族に私の心の友がいる。それだけですぞ」
とても悲しそうだった。
どうして、そんな悲しそうな表情をしていたのか。
僕はどうしても理解できなかった。
◆
――ウヌッ! ギルドに行くぞぃ!!
心機一転といわんばかりに高笑いをして雰囲気を変えたフェンの後ろをひょこひょことついていく。
太陽はさっきより傾いてそろそろ沈みそうになってるけど、いつまでもゴブリンの耳を持っていくわけにはいかないし。だって、いくら袋に入れているからって、臭うものは臭う。
北から伸びる大通りはそこまで大きくはないけど、中心に向かう間に二つの門みたいのが見えてくる。そしてそれが境界の役割を果たすかのように、そこから店の毛色がガラリと変わる。
一番外のエリアは宿や家が多くて、通りの中央は活気だった商店街のようにたくさんの店と人がいる。そこからさらに中央へ向かうと、徐々に小綺麗なカフェテリアや重要な役所などの施設が現れてくる。
多分、この街に関わらず他の街でもこのような作りになっているんだろうね。重要なところは中心において、宿は冒険者が外からすぐに自分の行きたい宿屋にいけるようにって。
ああ、でも。
一応それは少なくとも北の通りは、ってなっているのか。南に東西はまた違った家々が置かれている。
そう考えると、共通点は重要ものは中央、っという考え方で良いかも。
まあでも。
結局二つの門もどきは使えるようなものじゃない。ということはこの門はきっと本当に境界として使っているのかも。実際明かりがあるかぎり夜も活動するのだから、そういうこと以外に思いつかない。
あるとしたら魔物から守るため、だけど、それだったら兵士が守る大門を閉めればいいんだから。
……。
…………。
……………………はぁ。
そういった考えに耽っていても、現状は変わらない。
さっき僕はフェンに教えた。もっとも効率の良い筋トレ法についてを、だ。
結構ありふれたはなしで、本を読まなくても出てくる。
地球ではそれほど通な話なのに、この世界でまさか『画期的』だなんて言われるとは夢にも思わなかった。
そして、現状がこれだ。フェンはその方法が本当に正しいのかずっと考えこんでいるから、僕とフェンの間に一切の会話がない。
僕とフェン。
それは僕とフェン以外ならあるってことで。
「お主はどう思う、筋肉よ。こちらの筋肉は一日ごとにやるなど言語道断といっておるが……なに? お主はやってみれば良い、と言うか! ウヌゥ……どうすれば……」
……どうすればよいか考えないといけないのは僕だと思うんだけど。筋肉と話す幻想なんてぶち壊したほうが良いと諭した方が良いのかな?
大げさにため息を吐いて思考を放棄した時、ふとヒソヒソと話し声が耳に入ってきた。
うわ、僕をみてヒソヒソと話してるし。……趣味悪いなぁ。
そう思いつつ、耳を傾けてみた。
「あの人、よく依頼受けてくれるフミ、だよな?」「ああ、そうだ」「ほら、前に知り合いが探してたゴメちゃんを捕まえたフミさんだよ」「俺なんて元嫁と仲直りしてもらったんだぜ」「元嫁な」「おう、離婚した鬼の元嫁とだ」「フミさんすげえ」「おめえら、なぁにが『フミさん』だよ。あの人はフミさんじゃねえ。『フミ様』だろうが!! 崇め奉れ!」「え?」「ええ?」「え!?」
僕も『え?』なんだけど。最初は……まあ、うん。やっぱり最初から最後までよくわからない。
そういえばさっき、街で人気があるとかフェンが言ってたけど、こういうことかな。よくわからない人気があるし。
……でも、やっぱり僕がここまで注目されるのはおかしい。
いつも視線は少しだけど感じている。でも、ここまであからさまに注目されたことはないし、ひそひそ話もここまで露骨にされたことはなかった。ということは、だ。
一つの可能性を念頭に置いてもう一度耳を傾けてみた。
「――――んでさ、あのフミ様と一緒に行動している奴ってもしかしてのもしかしてなんだけど……」
ああ、やっぱりね。フェンも含んでの注目っぷりだ。ということはフェンもなかなかの有名人ってわけか。
どんな噂なんだろ?
ちょうど先の方にいた二人組の男の会話が聞こえてきたから、その会話に再び耳を傾ける。
「ああ、あいつは間違いない。あの威厳のある筋肉に太陽にきらめく焼けた筋肉、そして無駄のない右腕の力こぶ……さらにさらにあの汚れ一つ無い白い歯と筋肉!」
「しかもよ、見てみろよクロワサーン! あの右の力こぶ、無駄がないぞ!」
「それは俺がさっき言ったセリフだこのばっかもんが!」
「いで! ……で、でもよ、やっぱりあの筋肉、《奇術師》の異名を持つフェンドラじゃないか?」
「ああ、そうだ。あの筋肉は絶対にそうだろうな」
へぇ。
フェンってかなり有名なんだ。……筋肉が。
いや、なに? 別にいいんだよ? 筋肉が有名でもさ。
でも、なんで筋肉なのさ?
魔法使いなのにまったくそのことには触れられてないし、しかもフェンの認識ポイントが筋肉しか無いって、異常すぎるんだけど。
あの二人組の人、ひたすら筋肉って連呼するほどの筋肉って……。
い、いや、まだ魔法に関することが出てくる可能性はある。
だから――もう一度だけ耳を傾けてみた。もう、その場で足を止めてまで。
「――だからな、俺は思うわけよ、クロワサーン。あいつがいつまでもDランクに甘んじているようなやつじゃねえってな」
「まあ確かにな。冒険者ギルドに登録してからまだ四ヶ月だ。たった四ヶ月でEランクで、今はDランク。でもそのDランクの依頼を朝飯前って感じで終わらせてくるんだ。いつまでも放ち続ける魔法はまるでこの国の南にある底がみえねぇ《ハンハン湖》のようだと言われ、何時いかなる時にも屈することがないその強靭な体はまるでどでけぇ鉱山だって言われる。そこから付いたあだ名が《奇術師》だったな……」
フェンはかなりヨイショされちゃってる感じだね。でも、確かにフェンは魔法がものすごく上手い。まだよくわかってないけど、確かに魔法の腕は確かだ。フェンのMPがどれだけあるかは知らないけど。
それに、強靭な体は……筋肉だし。うん、筋肉は硬いもんだよね。
でも、Dランクのクエストがラクラクとこなせる、か。
……じゃあ、なんでDランクがFランクの依頼を……いや、これは単純か。
そもそもゴブリンの討伐は常時どの依頼板にも貼ってある。さらっと流し見しただけだけど。
だからフェンがその依頼をとって受注する可能性は充分高い。
「――――ぜんっぜん違うじゃないの!」
聞き覚えのある声に思わず足を止める。
今の声はたしか――そう、ボッチちゃんだ。
答え合わせをするかのように声のした方向をみると、やっぱりというか、ボッチちゃんがいた。
いつものフードを被ってるからすぐにわかる。
「な、なあ嬢ちゃん。俺の情報の何処が間違ってんだ?」
「あのねぇ、あんた! あのむさ苦しい筋肉はべつにそういう経緯から《奇術師》ってつけられたわけじゃないわ!」
「「はぁ?」」
クロワサーンという人と相方が揃って変な声をだした。まあ、気持ちはわかる。僕も意味分かんないんだから。
「あれは確かに冒険者としては一流よ。でも、でもよ! あのへんた、じゃなかった、筋肉は魔法使いとしては失格なのよ!」
つかつかとあの二人に詰め寄りながら叫ぶ。大丈夫かな? 僕らのところまでしっかり聞こえてるのに。
「まず、一つ、あのへんた……筋肉はまず頭が悪いわ! それに、何故か一人で闘う時は必ずあの筋肉を使いたいとかいって杖で魔物を殴りつけるのよ!! 馬鹿で変態としか思えないじゃない!」
フー、と息を吐き出すと、最後にボッチちゃんは僕らの、いやフェンに顔を向けた。フードに隠れて見えないけど、きっとフェンを睨んでるよね、この流れは。
「――あれは、魔法以外頭が仕えない変態。奇天烈な魔法使いということでついた二つ名が《奇術師》なのよ……!」
すごい、噂だ……。 というか奇術師っていう称号、奇天烈だからなんだ……。いや、あってる。意味は合ってる。合ってるけどなんか違う気がする!
ただ、フェンは今も筋肉とぶつぶつと話してるし、ゴブリン倒している間にも僕が作った落とし穴に落ちていっちゃうし……。
でも、さ。
フェンはただの馬鹿じゃない。
そんな確信めいた予感だけは本能的な部分が教えてくれるし、きっとそれはあってる。
だけど、少なくとも僕らに背を向けて去っていくボッチちゃんにはわからないだろうね。こうして遠くから僕らを観ているだけなんだから。
「さて、そろそろ行こうか」
「ウヌゥ! 決めたぞ! 儂はフミ殿が考案した筋トレ法を実践して――――」
「ふぇえええええええ!! どいてくださああああああああああい!!」
「へ?」
「ヌッ!?」
「ふぇえええええええフェバっ!」
物凄い衝撃とともに空が見えたかと思うと、一瞬目の前が真っ白になった。
「……うぷっ」
気持ちわるい……強く頭を打ったみたいだ……。
「いたた……ふぇ!? ふぇえええええ! フミさん!? フミさんじゃないですか!? だ、大丈夫、大丈夫ですか……!?」
頭がクラクラして焦点が上手く合わないし、耳も少しボーッとしてる。これ、HP大丈夫なのかな……。
「えっと、さ」
とりあえず誰? そう訊こうとしたとき、一気にその相手が顔を思いっきり近づけてきて、ようやくわかった。
「確か、ドジとバカドジと大ドジの三冠をとったピミュさん?」
「全部ドジですぅ!? って違います! あの、その……」
「とりあえず、どいてもらえない? 僕のぼやけた視界が正しいなら、ピミュさんが座ってる部分は腰に馬乗りで座っていると思うんだけど」
「ふぇぇ! ごめんなさい!」
慌てて僕から顔を引いてその場からどこうとする。つまり、急いでどこうとするわけで、
「わっ、ふぇふんっ」
やっぱりドジって倒れこんだ。
……僕の身体の上に。
「ピミュさん……?」
「ふぇぇ……どきどきするよぅ……」
顔を真っ赤にさせて今度はゆっくり僕の上からどいてくれた。きっと、こんな人が多い大通りで痴態晒したんだ。恥ずかしくて鼓動が早くなったんだろうね。
「ピミュさんの痴態はこれでレーリス中に広がること待ったなしだよ。やったねピミュさん」
「全然良くないですよ!」
「それで、何急いでたのさ?」
ピミュさんの抗議の声を軽く無視して走ってきた理由を訊ねる。すると「あ、そうでした!」とポンと手を叩いて焦った表情を浮かべた。
「フミさんはまだこの街に戻って来たばかりですよね?」
「そうだね。これからギルド行こうと――」
「手短にお伝えしますね!」
ギルドがある方向と僕を何回も視線を行き来させながら、息を吸い込んだ。
これは先ほど私が知った情報ですが、という前置きしてピミュさんは息を吸い込んだ。
「ここより北西の方向へ行った村が先ほど、大量の魔物によって全滅したようなんです」
お読みいただきありがとうございます。
おさらい:奇天烈な魔法使い→《奇術師》




