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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第二章 ユナイダート王国編
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第六十一話 奇術師 2 -キンニク-

 この世界での魔法使いは完全な後衛職となっている。というか、定説だ。

 つまり、ギルドで組むことが出来るパーティで言うと、一番後ろで魔法を詠唱し、放つ。そう、魔法は基本詠唱して放つもので、魔法名だけを唱えて放てるようなものじゃない。

 それが出来るのは魔法使いとして極め、スキル【詠唱破棄】を手に入れた人。もしくは先天性としてそのスキルを持っている人だけ。つまり、誰もが詠唱を破棄できるわけではない。

 ……《だれでもできる初めての魔法! 7才向け》という本にそう書いてあった。

 別に、魔法が使いたくてむずむずしていたから読んだとかじゃない。単純な知識欲で、読んだだけ。うん、そのはず。

 まあ、いい。

 ゆっくりと気付かれないように近づいてもう一度確認する。

 ……やっぱり、魔法使いだ。紺のローブに杖を持っていたからわかったものの、もし持ってなかったら絶対わからなかった。

 一人だし。

 というか、でかいし。

 キンニクオと同じぐらい、もしくはそれ以上にでかい。でも、持っている杖が様になっているから、なんというか……シュール。

 それに、魔法使い一人にゴブリン五体が対峙している。この状況もやっぱりおかしい。魔法使いはそもそも、詠唱破棄を覚えていたとしても群れて魔物退治するものだとも、《だれにでもできる初めての魔法! 7才向け》に書いてあった。

 だからといってこの場に踊り出て助太刀する、という雰囲気でもなかった。

 この少し張り詰めた空気に当てられて、こっちまで緊張してくる。喉を鳴らし、静かに見守るしかなかった。

「フンヌッ!」

 気合……気合なのかな? とりあえず一度声を出して杖を構えた。

 魔法使い、か。

 そういえば何気にお城を抜けだしてから生活魔法以外の魔法を見るのは初めてかも。

 それに、梓さんの魔法は見たというよりくらった、っていう表現のほうが正しいし。

 こうしてゆっくり見るのは初めて?

 魔法使いが杖を天に向かって掲げる、と同時にゴブリンに詰め寄った。そして、

「ふんぬぅぅぅっ!!」

 思いっきり杖でゴブリンを殴りつけた。

 …………………………え?

 殴った!?

 どういうこと? 全く理解できないんだけど……!

 唖然としているうちにも、魔法使いが次々と魔物を殴りつけて昏睡状態に持ち込んでいく。魔法使いなのに。

 きっと脳挫傷が起きてるから死んでるかも。

 てか、魔法使いじゃないの?

 あまりの混乱具合に思わず頭をかかえてしまう。

「フンヌッ! フゥ……良き汗がかけたぞぃ!」

 うわぉ。前匹魔法を使わずに倒しちゃったよ、この魔法使い。

 というか、この魔法使いが持っている杖は普通の木を掘り出したもの。つまり、殺傷力はない。だから良くて昏睡状態であって、絶対に殺せるようなものじゃない。

 だというのに、全匹殺したって……。

 なんとなく隣をみると、羽が逆だっていた。……えっと、鳥肌、みたいなもんかな? 精神的に受けつけないと。

 僕も積極的に関わりたくない人だし、気が合うね。

 僕とコリスが同じタイミングで頷き合うと、そのまま息を潜める。そしてゆっくりと後退しようとしゃがんだままはなれ――――


「ウヌッ! やはりこの世界は筋肉でできていると言っても過言ではないぞぃ!」


「過言ありすぎる!!」

 唐突すぎるし何言ってるのかなこの人!? 思わず突っ込んじゃったじゃん!!

「ウヌッ? この声はフミ殿ではないか?」

「なんで知ってるの!?」

「最近有名になってきているとこの筋肉が教えてくれるからだ! はっはっは!」

 右腕の筋肉を強調しながら高笑いした。それ、理由になっていないです……。

 てか、うでふと……。

 思考停止に陥ろうとしている頭を無理やり回す。

 正面からみると、この人は本当に大きい。それに、一応杖持ってるし、ゴブリンを狩っているところをみると……今更だけど多分冒険者。

「だとしたら、もしかして僕のことをギルド内で聞いた、とか?」

「ウヌッ! それもあるが、街でもものすごく人気があるからな、フミ殿は! 街で困っていることがあればフミ殿に頼れ、と言われているほどだ」

 ……まじすか。

 しわよせどころじゃなかった。完全に便利屋扱いだ……。

 普通にGランク相当の依頼をこなしていただけだったのになぁ。

「まあ、僕のことを知っている理由はわかった」

 街でそれだけ言われているならしょうがない。でも、

「袖振り合うも多少の縁っていうし……もう一つだけ聞いてもいい?」

「ウヌッ?」

「…………なんで、魔法を使わないのさ?」

「ウヌッ! それは簡単だ! みよ、この筋肉! 素晴らしいだろう!!」

 右腕の裾をまくってグッと力こぶを作った。うん、わかるよその筋肉。僕の二倍、もしくは三倍もあるし。

「……すばらしいね。それで?」

「魔法で倒すより、この素晴らしい筋肉を使った方がスマートではないかと思ってな!」

「むさ苦しいだけだよ……!」

「ウヌゥッ!?」

 百人に聞いたとしても誰一人スマートとは言わないだろうね。百人に訊いたら二百の否定が返ってきそう。

 はぁ……本当に変な人に関わってしまった気がする。

 まだ、引き返せるかな……?

 うん、引き返そう。

「よし、じゃあ僕はこれで」

「フミ殿」

 踵を返して別れようとしたら、後ろから声をかけられた。

「えっと、なにかな?」

「最近フミ殿が受けている依頼から推察するに、今日はゴブリン退治だとお見受けしたのだが」

「そ、そうだけど」

 どうやって情報を仕入れたのか小一時間ほど問い詰めたい。

 だけど、なぜか魔法使いが相好を崩して僕に笑みを浮かべてきて冷や汗を垂らすと同時に口を閉ざす。

 すると、すぐに向こうが口を開いた。

「ならば、共闘せぬか?」

「共闘?」

「ウヌッ! 吾輩も今日受けた依頼はゴブリン退治! して、残り十匹ということころまで倒した。しかし、フミ殿はこれからとお見受けする」

「まあそうだけど……その申し出に何か僕にメリットがあるのかなぁ……?」

「ないな! はっはっは!」

「…………じゃっ」

 こんな変人とは本当に関わりたくない。

 手のひらをふってコリスと一緒に去ろうとすると、魔法使いの慌てる声が耳についた。

「ウヌッ!? ……いっ、いや、一つあった!」

「……なに?」

「これが終わったら昼食をおごってやるぞぃ!」

 なんでそんな笑顔になれるのさ……。

 この人、狩る量が増える上に、僕に昼食を奢るってことは、ほとんどデメリットしかないじゃん。

 逆に僕にはメリットしかないし。いや、僕のゴブリン十五匹にプラスしてこの人のゴブリン十匹分だから、合計二十五匹になるのか。

 まあ、それぐらいなら。

 それに、昼食をおごってもらえる、ということは自分の財布を気にしなくていいということ。だったらプラス十匹分、なんてことない。

「わかったよ」

 提案に乗ろう。きっとそっちのほうが面倒じゃないし。

「ウヌッ! 吾輩はフェンドラ! フェンと呼んでくれぃ!」

「フェン、ね。よろしく」

 面倒事回避のため。そして昼食のため。あと、今度こそこの人の魔法をみるため。

 一度だけだったら、ね。



 ◆



「ウヌッ! 【ウィンド】!」

「はい、【クリエイト】」

「うさー!」

 フェンが風系統の魔法でゴブリンを上に舞い上がらせて、ゴブリンが地面に落ちたところで地面に縛り付けると、最後にコリスが蹴ってとどめを刺す。

 共闘なんだからと、少し打ち合わせをした結果こうなった。流れ作業のように魔物を倒すのも悪くないかも。

 それに、流れ作業でゴブリンや魔物を倒せれるのは、フェンに魔法を使うよう厳命したのが大きい。


 ――しかし、吾輩の肉体を魔物に魅せつけたいのだが……。


 そうのたまったフェンに僕の全力のげんこつを食らわせたのは三十分ぐらい前だ。

 それにしてもフェンには驚いた。 というより、フェンの魔法に、だけど。

 フェンはかなりの魔法の使い手だ。それは、魔法の強さ、とかじゃない。

「フンヌッ! 【ウィンド】!」

 フェンが使った魔法はまだ風。でも、明らかに魔力効率はいい。小型のゴブリンといえどその体躯にみあった体重はある。それを軽々と持ち上げるフェンのウィンドはかなりものだと思う。

「フミ殿!」

「あ、うん」

 クリエイトでゴブリンを縛り付けると同時に、コリスが回転しながらゴブリンにキックを食らわせた。

 なんか、『トルネードキィィィック!』って言ってそう。

 まあでも、コリスはコリスで前衛としてかなり強い。そりゃあもう、僕が引くほど。

「うささっ!」

 鳴き声を初めて聞いた時と同じぐらい引いたなぁ。

「お疲れ様」

 二人に短くねぎらいの言葉をかけると、身体をグッと伸ばして袋からMPが回復する野いちごを取り出して口に放り込む。

「んっ、おいしい」

 縛り付ける、といってもきちんと想像しているわけじゃないから、意外とMPの消費が激しいのがこの作戦の穴、なんだよね。

 ぶどう味のMPポーションもあるけど、どうしてもとっておきたいと思ってしまうのは、なんだろ。貧乏性みたいなものなのかな?

「ウヌッ! これでフミ殿の依頼達成まで残り五体だぞぃ!」

「何気に先に終わらせたのがフェンの依頼だっていうのが若干癪だけど……まあ、いっか」

 パーティでどこまでいけるかっていうのがわかったから。

 作戦と実行。

 この二つを出会ったばかりの僕らがやるのはかなり難しいのに、やすやすと実行できたのは大きいし、それにメリットもわかった。

 メリットはかなり楽。

 デメリットは同じ依頼を別々に受けていた場合、面倒極まりない。

「さて、残りを探そっか」

 そういってフェンを先頭に立たせて索敵する。

 すでに索敵はコリスとフェンに任せておいた方が確実だ。

 コリスは嗅覚で。

 フェンは何故か当たる筋肉の勘(・・・・)で。


 ――筋肉が教えてくれるぞぃぃ!!


 左腕をむき出しにすると筋肉をピクピク動かしてそう叫んだから、とりあえず草の輪っかを足元に作って転ばせた。たしか、最初のゴブリンが見つかる数分前だったかな。

「そういえばフミ殿」

「なに?」

「ウヌゥ……先ほどからフミ殿が使っているその妙技。一体なんなのか気になっておってな……。それに、フミ殿が持っているその武器。それはヒノキの棒とお見受けするが、一体何故その武器を使っておるのだ?」

 そこを突っ込むか……。うん、面倒だし適当にごまかしておこう。

「んー、なんでだと思う?」

「ウムゥ……吾輩の予想だと、筋肉を鍛えるため……つまり、吾輩の同類の匂いが!」

「違うからっ! というか、僕のどこに筋肉があるのさ!?」

「ウヌッ! それは勿論、筋肉が身体を支えているんだぞぃ!」

「たしかにそうだけど! 僕が言っているのはそういうことじゃなくて、ほら、弱々しいでしょ? だから……」

 そこで言葉を区切ると、ヒノキの棒の先端を地面につけてちょうど何かが出てきたところに落とし穴を作って落とす。

「この土魔法もどきを使う媒体として使っているわけ」

 間違ったことは言っていない。

 本当のことも言っていないけど。

 コリスにさっき出てきた魔物を殺すよう指示出すと、ものすごい勢いで埋め始めた。

 ……生き埋めは辛いからやめてあげようよ……。

「はぁ……」

「ウヌッ、なるほど。…………フミ殿も、なにか事情がある、と」

「えっ?」

「……我輩も事情があるからな」

 小さいつぶやき声が聞こえた瞬間、

「数、十体! ゴブリンだぞぃ! 【ブラスト】!」

 そう叫んで草むらに炎の球を放った。

 そして数秒後に遅れて聞こえてきた爆破音に思わず耳を塞ぐ。

「殺した……?」

「ウヌゥ……わからぬ」

 声を低くして

「うささっ!」

 コリスが僕の目の前にやってくると、素早く顔を横に振った。

「倒せれて、いない?」

 僕の言葉に、一回縦にふる。

 今の魔法はかなりのものだった。それなのに倒せれていない……ということは。

「ねえ、フェン。最近魔物が凶暴化してるって噂は知ってるよね?」

「ウヌッ……まさか、ここにいる、ということか、フミ殿?」

「……いや、いるというより、凶暴化したゴブリンがあそこにいると思うんだ」

 あくまで淡々と伝える。けど、僕はゆっくりとヒノキノ棒を地面につけて警戒する。いや、いくら僕が警戒しても意味はないけどさ。

 僕は弱い。弱い。弱い。……弱い。

 呪詛のように思い続けて、ようやく前を向ける。

 ――――弱いからこそ、知恵を回す。

 少しずつ下がりながらフェンが魔法を放った先を見据えて耳を傾ける。

 どこか重苦しい音と木々が倒れるような地響き、なのかな?

「さて、鬼が出るか蛇がでるか……」

 なんて、口にした瞬間。

 醜悪な緑の巨体が姿を現した。

 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:キンニク

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