第六話 ヒノキの棒
「ですが王様、俺たちには戦う術がありません。力もありません。どう戦えばいいのでしょう?」
一つの決断とともに王様への警戒レベルをつり上げていると、翔がテンプレ的な質問をした。
でも、質問内容には一理ある。城を出ると決断したからには力がいるからね。この世界はまだ未知しかない。魔族というぐらいだからある程度のいざこざがあるかもしれない。
だから、この世界で生きていくには力が必要になるのは確実。なのに、その術を持たないというのは自殺行為もいいとこだ。
翔や僕のそうした疑問を、王様は振り払うようにゆっくりと頭を振って口を開いた。
「そのことなら大丈夫だ。【ステータス】と唱えてみよ」
ステータス? ゲームみたいだ。
みんな戸惑いながらもそれぞれ唱える。僕も唱えてみた。
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アンジョウ フミ
LV.1 職業:学生・ヒノキの棒の勇者
スキル:武器召喚/収納・アイテムボックス・速読・言語マスター・クリエイト
称号:勇者・本の虫・理の精霊に認められし者
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かなり微妙だなぁ。しかも称号的に武器が弱い気がする。ヒノキの棒の勇者って書いてあるけど、ヒノキの棒ってつまり木だし、殺傷能力もそこまで高くないじゃん。つまり木で殴れってことでしょ? 打ち所が悪くて、みたいなことが起こらないとそうそう敵も死なないでしょ、これ。
周囲に目を向けると、みんなで武器の見せ合いっこをしていた。弓やら槍やらムチやらと、それぞれが明らかに棒よりも数段強いものばかりだった。
少し羨ましげに皆が取り出している武器を眺めていると、唐突に王が声をはりあげた。
「皆に中に、聖剣・籠手・魔杖・聖本という固有武器を持ってる方はおられぬか?」
その声で、にわかに騒がしくなり始めたその場に静寂が戻る。
誰も何も言わない時間が数秒過ぎたかと思うと、四つ、恐る恐るといった感じで手が挙げられた。
その四人はやっぱりというか、まあ予想通りというか。
一番前に居座っていた翔達だった。この四人と言ったら、本当に主人公気質だね。
「おおっ! あなた方が勇者の中の勇者、【女神に認められし者】か!」
顔を輝かせながら側近の人と喜びを分かち合っている。
「えっと……どういうこと?」
困惑しているこちら側の代表として梓さんが訊くと、王様は思い出したかのようにバツの悪い顔をして僕らの方に、ではなく四人に向かい直した。
「すまぬな……少し気が急いてしまっておった。お主らには称号に勇者とついておるだろう? それは召喚された中で女神フォルチュナー様に認められたものだけがつく特別なものでの。先ほど上げた武器を使わされた四人にしかつかんのだ」
おお~っと周りから感嘆の声が上がり、羨望の視線が集まった。ここで嫉妬の目が集まらなかったのは、きっと彼らだからしょうがない、主人公気質だからと言った意識を持っているからだろう。
「他の者には【女神の祝福を授かりし者】と現れておるはずじゃ。【女神の祝福】はとても強力じゃがの、【認められし者】はよりこの世界が混迷の時代に突入する時出現する、という言い伝えがあるのじゃ。そしてその時、祝福を持つ者は勇者という称号は出ないとも記載されている。しかし! 儂は皆のものを勇者であると断言しよう!! 勇者は1人ではなく、ここにいる皆のことを指すということを!!」
勇者認定された翔達以外の人、つまり僕らをみて王様は口を開いた。
「彼らを中心にこれから精進して行ってもらいたい!!」
こうして簡単な説明は終了となった。
…………僕も〝認められし者〟っていう称号があるんだけど、どういうことなんだろ?
確かに女神ではなくて、理の精霊から認められたことになってはいるんだけどさ。
この王は四人分、『聖剣・籠手・魔杖・聖本』の四つしか挙げなかった。だから、僕は勇者ではあるけど別口なのかな? それならそれでいいんだけどさ。王様は信用ならないから申告する必要もない。ステータスを見せろだなんていうテンプレではなく、自己申告制だったのも良かった。なんか作る系ですって言ったら残念そうな目で見られたぐらいだ。
ワッと湧いたこの空間で、冷静にこのあとのことを考える。
異世界。勇者。職業。魔王という存在。
冷静に考える。考える。考える……。
……ダメだね。分からないことがたくさんだ。情報が欲しい。たくさんの知識が。そうとなれば──。
お読みいただきありがとうございます。
おさらい:文くんのステータスが悲惨でした。