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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第二章 ユナイダート王国編
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第五十七話 狡猾に生きる

「ぜは……、こ、これで、ぜは……、良いんですよね……?」

「は、はい。これが報酬です。……あの、どうしてフミさんはそんなに息が乱れているのですか?」

「き、聞かないで……」

 ピミュさんは小首を傾げつつ、少しもたついたぐらいですぐ手続きが終わった。

 一回深呼吸して息を整えると、ピミュさんからお金を受け取る。

 あれからエレさんに魔改造(さいきょういく)されたのかな? 無駄が省けてさっきよりかは洗練された手つきだった。

 ……指先が触れ合った瞬間顔が瞬時に真っ赤になったけど。

 いやまあ、それを抜けばこれが普通の受付嬢なんだと思うから良いけどさ。

 もう一度深呼吸してから渡されたお金を袋にしまっていく。

 配達の依頼で千エルド。

 建築の依頼で五千エルド。

 そして僕一人でこなしたからプラス五千エルド。

 合計一万千エルドも稼いだ。

 でも、とりあえず一万エルドは飛ぶことは確定してるからなぁ。

 これが生活する、ということだからね。仕方ない。

 溜息を吐きながらピミュさんの手のひらを上に向けさせる。そのときまたピミュさんの手がビクッと震えて顔真っ赤になる。

 ……まあ、なんでもいいけどさ。

「それじゃあ、これはピミュさんに渡しておくよ」

「ふぇえええ!? どうしてですかぁ!?」

「どうしてって、わかるでしょ?」

 だって、ねぇ……?

「わかりませんよ!? も、もしかして私をろ、ろ、籠絡(ろうらく)するための手始めにお金を渡して……ダメですダメです! 私はお金で落とされるような安い女の子では――――」

「えいっ」

「あぅっ!」

「まったく、変なこと言わない」

「ふぇぅ……ごめんなさい……」

 チョップで治るって、昔のテレビじゃないんだから。もうちょっとまともな方法で今度は治す方向に後ろ向きで検討しておこう。

 お金を指さして、きちんと説明はしておこう。

「これは宿代とその他もろもろの料金だよ。自分がどういう家なのか思い出してね?」

 優しく諭してあげると得心がついたのか、顔を赤らめた。

「た、確かに受け取りました……。でも、一万エルドですと夕飯はともかくお風呂が……」

「ああ、そっか。じゃあ今日の報酬全部渡しておくよ」

 一万三千エルド全部をピミュさんに押し返す。

 ……さっきのお返しでもしておこう。

「こうして貢いであげるんだから、サービスも最高品質で頼むよ」

「ふ、フミさん!? しょ、その言い方は語弊が生まれます~!」

 生まれるようにわざと言ったんだけど。

 それに、先に言ってきたのはピミュさんだし。

「大丈夫、ピミュさん。お金が足りなかったら、僕にもまだ蓄えがあるし、いつでも出せるよ」

「ふぇえええ……」

 実際、アイテムボックスに愚王とか桜さんからくすねたお金が出費はいくらかしたけど三万ほどあるからね。これに関してはもうあの国から出た時点無効だから関係ないし。

 でも、さすがにこの国ではやらない。

 カスティリア王国では、あの愚王が好きになれなかったからやっただけだしね。

 さてと。

「じゃあ僕はそろそろ帰──」

「おい、小僧!!」

「――れないんだけど、どうしようピミュさん」

「ふぇええ!? 私に聞かないでくださいよぉ!!」

「だよね」

「はぅっ!」

 固まってしまったピミュさんをほっといて振り向くと、さっきもギルドで絡んできたおっさんがいた。

 えっと、だれだっけ……?

 き、きん……。

 立派な筋肉……あ、思い出した。

「キンニクオ先輩だ」

「そうだ。Dランクの期待の新星、フェルガ=キンニクオだ!」

「お疲れ様、キンニクオ。今日は疲れたから先に帰るよ。キンニクオも気を付けて帰ってね。じゃっ」

「おう、おつかれさん…………じゃねえよ、小僧!」

 なぜか労いの言葉を掛けたのに怒鳴られた。

 まあ、本当に逃げられるとは思ってなかったし、その場から一歩も動いてなかったけど。

 他に何か言おうと振り返った時、思いっきり睨まれた。

 ああ、なるほど。

 キンニクオはつまり、そういうことか。

 でも、

「ごめん……僕ホモじゃないから付き合うのはちょっと……」

「俺もホモじゃねえよ!!」

「じゃあなんなのさ?」

「俺は至ってノーマルだ!」

「……なん、だと……!」

「なんだその棒読みはよぉ! しかも顔だけが迫真だから妙にムカつく……!」

「ホモ=キンニクオさん」

「だから俺はホモじゃねえよ! フェルガだ! もういい!! ちょっとツラ貸せや!」

「やっぱりホ……――」

「ちげぇつってんだろうが!! おめえが本当に冒険者としてやっていけるか俺が試してやるんだよ!」

 あー、やっぱりテンプレ……。

 僕の答えはもうとっくに決まっている。

「お断りさせていただきます!」

「あ"ァ"!?」

 いや、そんなに威圧されても困るんだけど。だって僕弱いんだよ? こんなガタイがいい人と戦ったら死んじゃうんじゃないかな。うん、絶対死ぬね。

 あ、でも別に試すって言うんだから、戦って確かめるって言う訳じゃないかもしれない。

 それこそ、あえてこのキンニクオが苦手そうな知識勝負かもしれない。

「あの、さ。試すって知識問題で正答率を競うんだよね?」

「戦闘訓練と同じ形式に決まってんだろうが!」

 おっと、脳筋でした。無理無理。

 主に精神的と肉体的に無理。

「やっぱりお断りします」

「あ"ぁ"!?」

 だから威圧しないでくれませんかね。

 だいたいさ。

「ギルドの規則にさ、『ギルド内での冒険者同士争いを一切禁止する』ってあるよね、ピミュさん」

「ふぇぅ!? は、はい! それで先ほど、キンニクオ様はマスターにお小言をもらっておりました」

「……学習能力ないね、このおっさん」

「そうですね、あはは……」

 二人で笑うとおっさんが顔を赤くして「グググッ……」って唸り始めたかと思うと、腕をむんずと掴まれ……え?

「こっちに来い!!」

「うわっ!?」

 その状態のままギルドの端にある道に連れ込まれた。

 抵抗しても、無駄。

 この人、無駄に筋肉があるんだから。

 チラリと助けを求めるためにきた道をわらにもすがる気持ちで見る。

 あれ? なんかピミュさんと目があった。

「フミさん……!」

 その消え入るような声とともに弾かれるようにしてピミュさんは何故かカウンターの奥に引っ込んでいっちゃった。

 ……どこかに行くより、止めて欲しかったなぁ……!



 ◆



「俺も昨日今日冒険者になったやつに完璧は求めん。戦闘面に対して実力を見せてくれりゃあいいんだ」

 自慢するように幅広の剣をブンブンと振り回しながら勝利条件を教えてくれた。つまり、僕が勝てなくてもキンニクオを満足させれば良いのか。

 無理だね。

 ため息しかでないや。

 ヒノキの棒を召喚すると、キンニクオから離れながら辺りを見回す。

 連れ込まれた先は、ギルドが保有する専用訓練場。地下に作られた、かなり広い空間で、上を見ると所々に崩落しないよう固く補強されているのが見受けられる。そのまま下へと視線を運ぶと、回りには観客席みたいなものがあって、地面は土で作られたフィールドだ。地面の踏みしめた感触からすると、きっと何もコーティングされていないね。

 一歩一歩踏みしめながら歩いて、振り返る。するとキンニクオと僕との間に十メートルほど間ができた。

 風は無いから砂埃も舞わない。

 吹いたらそれ、誰かが故意的起こしてる。

 ……なんて、変な思考してもこの戦わくちゃいけない現実は変わらない。

「僕、戦闘面には全くもって自信がないんだけどなぁ」

 正々堂々ってより、後ろから闇討ちとか、卑怯な方法の方が性に合うんだよね。

 そう、例えばヒノキの棒をこうしてトンッと地面を叩く。それと同時にキンニクオの前に口径が広い深さ十メートル程の落とし穴をクリエイトで作っておいて、ヒノキの棒には土を纏わせる。

 これでおっさんも戦う気になったと勘違いを勝手にしてくれるから、あとはまっすぐ来てもらうだけだね。

「さて、フェルガさん。私が審判を引き受けるけど、文句はないわよね?」

「ああ。ないぜ」

 キンニクオがエレさんに向かって頷く。

 エレさんの心はよくわからない。

 僕らがここについた時、ピミュさんがエレさんを連れてやってきた。

 そして開口一番にエレさんが何故か審判を買って出てきたから。

 思わず変な顔をすると、エレさんにウインクされたし……。

 ……うん、嫌な予感しかしない。しかも、予感プラス胸騒ぎの二コンボだから、絶対これ当たる……。

「もう、詰んでる気がする」

「あ? 小僧、おめえもう降参するつもりか?」

「いや……ちょっと魔が差してるだけ」

 右手でヒノキの棒を持ってキンニクオに向ける。

「さ、ルールを確認するよ。といってもルール無用で殺しは無し。僕がキンニクオを納得させるか、両者のどちらかが戦闘不能になるまで行う」

 つまり、落とし穴も良いってこと。

「ああ。それでいい」

 キンニクオがそう言って武器をあの大剣を、グッと腰を落として構えた。その構えには流石というか、なんというか。Dランクでもかなりの雰囲気を醸し出している。

 強そう。

 いや、僕のものさしで測ったら全員強いけどさ。

 だからこそ、相手の愚直さを逆手に取る。

「僕はいつでもいいよ」

 準備は万全。欠伸の一つしておいても問題はないぐらい。

 その気楽な体勢がムカついたのか、額に筋を立てて怒鳴り散らしてきた。けど、さらりとスルー。

 ……あ、やばい。

 よくよく考えたらご飯代ってその場で払わないといけないじゃん。

 だとしたらピミュさんに千エルドほど返してもらわないと、夕飯を食べる時間が遅くなる……。

「では始めます」

 エレちゃんのその一言でなんとも度し難い静寂が訓練場を包んだ。

 お金はこれ終わってからでいいや。

 まずはこれを終わらせないと。

 僕とキンニクオの間には殺気が充満している。僕が0、キンニクオが百パーセントの殺気が。

 だから和ませるために微笑みかけたらさらに殺気を飛ばしてきた。

 次は眠気でも飛ばそうかと考えていると、エレさんの凛とした声が耳に入る。

「試合……――」

 一旦切れる声。

 その一瞬で頭のスイッチを切り替え――

「――開始!」

 合図とともに僕は後ろを振り向いた。

 最後に見えたのは、キンニクオが剣を振りかぶると同時に、思いっきり蹴り足に力を入れたところだった。

 結構見えてるね、僕。

「うおおおおぉぉぉぁぁああああああああ!?」

 気合一閃的な声から驚愕の声に変わる、というか断末魔みたいな声が聞こえてきた。

 すかさずヒノキの棒をトンッと叩くと、クリエイトを発動して出られないよう、そして動けないようにしてから埋めた。殺さないために空気穴は作って死なないようにはしたのは気まぐれ。

「エレさん」

「はい?」

 うわ、全く驚いてない。

「これでいいよね?」

「はいっ! フミさんの勝利です!」

 エレちゃんが福引で一等賞を出した時のようなノリで勝利宣言をした。

「ふぅ……」

 一息ついてペタンと座り込むとピミュさんとエレちゃんが近づいてきたから慌てて立ち上がる。

「お疲れ様、です」

「お疲れさま~」

 ピミュさんとエレさんに労いの言葉を掛けられた。そこまで疲れてはないけど、適当に手を上げて返事をする。

「ピミュさん、さっきのお金、千エルドだけ返してもらえる?」

「ふぇえ? え、は、はい」

 手の上に置かれた千エルドをポケットにしまうと、とりあえず突っ込まれそうなことは先に言っておかないと。

「さっきのは僕のスキル、クリエイト。所謂土魔法と同じだから気にしないで」

「ああなるほどね。無詠唱魔法だったら貴方、一気にCランクだもの」

「それほど重宝されているんですね」

「まあそういうことよ。それで、貴方の戦い方はあれでいいのかしら?」

「そうですね。卑怯ですが、なんでもオッケーって言ったのは君たちと向こうですから。いつも通りの卑怯な方法でやらせてもらいましたよ」

「いつも通り、なんですか?」

「そうだね」

 ピミュさんの質問に微笑んで答える。……あれ、なんかひかれた?

 魔物はやり方は違うけどはめてから殺す。人間は殺さず生け捕り。最後が違うだけで人間も魔物もなんら変わりはないや。

「まあでも、フミさんが面白くて狡猾(こうかつ)な人間だってことはわかったわ」

「お褒めに預かり光栄至極」

 エレさんの皮肉を皮肉で返す。すると感心したように「ふふふ……」と不気味な笑みを浮かべられた。こわい。

 エレさんって、所謂(いわゆる)小悪魔系女子といえば良いのかな。

「……エレさんって人を騙してそうだよね?」

「そう思うならそうかもしれないわね。ふふっ」

「うわぁ……」

 思わずエレさんの隣にいるピミュさんを見てしまう。

「なんでこっち見るんですかぁ!?」

「‥……うん」

「私、別に騙されませんよ! お仕事渡されたけど、報酬としてお菓子も貰いましたから! 正当な対価ももらってます!」

 ふんにゅ、と意気込んでそう(まく)し立てた。

 まあ、確かに騙されてはないね。

 でも、ピミュさんには違う言葉をプレゼントしよう。

「ちょろい」

「ふぇええええ!? なんでですかぁ!?」

 言わずもがな、ってやつだよ。

「それよりさ」

 ピミュさん放置でエレさんを見る。

「エレさんって、気づいてたよね?」

「何にかしら?」

 しらを切って……。

「合図の前に僕が落とし穴を仕掛けたことに、だよ」

「さあ。どうだったかしら」

「……まったく、食えない人だね」

 半眼でじとーっとエレさんを睨むも、どこ吹く風とかわされた。

 余計な詮索はなし、ということかな。

「はぁ……とりあえずそろそろ帰ろうかな」

「あはは……今日はもう、本当にお疲れですからね」

「まあね」

 配達に土木によるマジックポイントの消費、加えて予想外の戦闘。疲れもあるけど倦怠感もすごい。

 結構レベルも上がってきたけど、まだこの倦怠感には慣れきれない。

 長い付き合いになると思うからそのうち、っていう考えもあるけど、早く慣れたほうが生活する分にも支障が出にくくなるし、早いことに越したことはない。

 といっても、召喚されてから二ヶ月と少し。

 本当にまだまだ時間はある。

 焦らず効率的に頑張るのを目標にでもしておこう。

「では、お先に……――」

「待ちなさい」

 帰ろうとしたらエレさんに引き止められた。

「なんでしょう?」

 内心ため息を吐きながら振り返ると、キリッとしたエレさんが、ため息混じりに口を開いた。

「あの最近Dランクになって魔物対峙でもそこそこの結果を出せるようになりはじめて調子に乗ってきた私の可愛い可愛い妹分のピミュを(たぶら)かそうとしている二十五歳独身のフェルガ=キンニクオだけど、出してあげてくれないかしら?」

「……別に出さなくてもよくないですか?? だって、そんなおっさんを世に離したら、ピミュさんとかが危ないじゃないですか」

 しかも、嫌悪感がはっきり伝わってくるほど早口だったし。

「……それも一理あるわね。じゃあこのままでも──」

「よくないです! 死んじゃうですよ!」

「いいんじゃない? マスターにお小言もらっても治らない端直バカよ? いっそここで骨を埋めてもらった方が世のため人のためピミュのためよ」

 エレさんがばっさりと切り捨てようとするけど、ピミュさんが「ダメですダメです!」と首が千切れそうなぐらいブンブンと首を横に振る。

「ダメです! ここの土が(けが)れてしまいますぅ!」

「……ピミュさんもなかなかひどいね」

「ふふんっ、これが私のピミュよ!」

 なぜかエレさんが胸を張った。

 それより、ピミュさんには恐れ入るね。さっきまでBGMと化していた怒声が全く聞こえなくなったじゃないか。

 ……活力がなくなったなら出してあげようかな。

 クリエイトで下からエレベーターをイメージしながら一気に押し上げる。

 その反動でおっさんが五メートルほど飛び上がったけど、きっと骨は折れたと思う。

 この世界には回復魔法……治癒魔法だっけ? まあとりあえず骨ぐらいすぐに治せるから大丈夫だよね。

 僕が気にすることでもないし。

「じゃあ、今度こそお先に失礼します」

「はいはい。また明日ね~」

 呻いているおっさんとピミュさんたちを尻目に、重い体を引きずって階段を登ると、ギルドを後にした。

 その最中、おっさんの悲鳴が聞こえてきたんだけど、だれも気にかけてなかったから気のせい、かな。


 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:文もエレノアも狡く、(わるがしこ)い。



 三千次ぐらいのウィクリのクリスマスネタ書こうと思い立って書き始めたら、一万字越えても書き終わらない件について……。

 もうこれは、意地でも書き終えます……。

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