第五十六話 レーリス 2
今回は字数が少なくて申し訳ございません……。
北東の住宅街のちょっとした道を通り抜けて現場に辿り着いたとき、思わず呆然としてしまった。
土木作業。確かにそう依頼には書いてあった。
でもさ。
家が全く建っていないってどういうことなのさ!?
あの依頼って建築途中とかで人数が足らなくなったとか、そういう形で出されたものだと思っていたんだけど。
土台の部分を見ると、そこはがっちりできている。土を魔法か何かで固めてあるんだから。もう少し周りに目を走らせると、他に家を建てるために必要な資材も充分に揃っていた。だというのに、建築士の人たちは全員疲弊した顔でぼんやりと地面に座り込んでいたり、時々うなされながらも眠っている人もいる。
そして一番の問題点は、
「人数が少ない……?」
土木作業をするならもっと人数が必要なはず。大体七人から八人ぐらいは必要だと思っていたんだけど。それが、重機がないこの世界ならもっと必要だと思うし。だというのに、今この場には四人しか見当たらない。
隠れている、というわけでもなさそうだ。
うーん、と。
とりあえず大きな紙を見ながら唸っている人に訊くのが妥当かな。
「あの、すみません。冒険者の文と申しますが」
「お? 依頼を受けて来てくれたのか?」
嬉しそうに顔を上げて僕を見た瞬間に罰の悪そうな顔になった。あー、うん。わかってる。
僕があまりにもひ弱そうだからだよね。そんなこと、僕が十全に知っているから。
でも、見た目だけで判断されるのは癪だ。特にこの世界はスキルや魔法で判断した方が確実だというのに。
「まずは何がどうなっているのか教えていただけますか? それを聞いた後で僕が遂行可能か判断しますので」
「あ、ああ」
土で汚れたところを拭き取るように手で擦りながら、この現場監督さんっぽい人が口を開いた。
「実はな……ここの土地に家を建てようとすっとな、皆怪我するんだよ……。しかも、ほとんどのやつが全治一週間といった具合でな。だから今回、冒険者ギルドに依頼を要請したってわけなんだ」
へぇ、それはかなり大変だね。
……。
…………。
……………………それってつまり、この土地が確実に呪われているっていうことなんだと思うんだけど。
まるでファラオの話お墓を掘り起こすときに起きた話を思わず思い出しちゃうね。
それに、
「そうだとしたら、僕も手伝うと怪我をする、ということですよね?」
「…………」
なんでそんなあからさまに目を背けるのさ……。
「いや、まあいいけどさ」
ため息を大きく吐く。
どうせこんないわくつきの物件、誰も住もうとは思わないよね。少なくとも僕は幽霊とお友達になる予定はないし。
「やれるなら、やってしまおうホトトギス、ってね」
「ん? なにか言ったか?」
いえ、と否定しつつ資材をチラリと見る。
とりあえずやってみたいこともあるし、実験になってもらおう。
「これぐらいなら僕の土魔法ですぐに終わらすことができますよ。……あの、設計図はありますか?」
「あ、ああ」
現場監督さんが手に持っていたものを受け取ると、紙に目を走らせて全体像を想像していく。
結構単純な作りだね。それに、外壁とかは適当で良いのか。だったら隣の家に似たような色で良いかな。
問題は、魔力がどれだけ持つか。そして僕の想像がどこまではっきりとさせられるか。この二つだ。
一応さっきの配達でMPポーションをいくつかちょろまかしたのがあるし、元々の予備もたくさんある。でも、やっぱり不安なものは不安だ。
今やれることは、完成像をしっかりと頭の中に入れておくこと。それだけ。……本当に?
いや、もう一個あるじゃん。
「あの、現場監督さん?」
「お? 俺のことか? いや、照れるなぁ」
大の大人が照れる姿を見ても気持ち悪いだけなんだけど。
「この作業は僕が全部やりますので、報酬金の増額って出来ますか? 確かこの依頼、五千エルドだったと思うのですけど」
「ああ、できるぜ。といっても依頼料自体は冒険者ギルドに預けたけんどよ、お前さんがやってくれるってんならここでもう五千エルドを渡したってもいいぜ」
「ありがとうございます」
これで一万エルド確保。ラッキーだ。
「じゃあ、皆さん離れてください」
あ、別に言わなくても全員作業してないし、それに資材からも離れているから良いのか。
「ふぅ……」
大きく息を吐き出してヒノキの棒を召喚。何度かヒノキの棒を握り直すと、土台の部分を見据えながら資材に近づいていく。そしてそのまま木にトンッ、とヒノキの棒を置く。
閉眼して脳内で作った完成図を瞼に焼き付けるように神経を研ぎ澄ませ――
「――【クリエイト】」
ゆっくりと言葉を紡いだ。
今回僕が選択したクリエイトの方法は、所謂多段式。何回かに分けることでより作りやすくなるはず。
床、壁、内装。
階段、二階床、大黒柱に屋根。
【クリエイト】と唱える度にどんどんとMPが吸い取られる。でも、一気にやったときよりかは確実にポーションを飲む回数が減っている。
閉じていた目をゆっくり開くと、木が意志を宿したかのように自由に動きまわっていた。
自ら割け、壁となり、柱となる。また、土は自ら硬化し、次々と内装を終わらせていく。
五本目のMPポーションが飲み終わったのと同時に家は完成した。
自分でもびっくりな速度だ。三分ぐらいなんじゃないかな。
……袋の中に入れてあったMPポーションは全部無くなっちゃったけどさ。
「ふぅ……」
脱力しながら周りを見渡すと、みんなポカーンと口を開けていた。
うん、と。これ、土魔法という嘘が通らないかも。
「監督さん、これでよかったらこの紙にサインとちょっとしたお金を」
「あ、あぁ……」
放心状態の現場監督さんが夢遊病のようにポケットから紙を取り出してサインをする。こころなしか手が震えているようにみえるのは気のせいかな。
……いや、気のせいじゃないか。
現場監督さんがサインを書き終わったのを見計らってその紙を貰う。
「あと、お金も」
「ああ……」
取り出したポケットとは反対のポケットから財布を取り出して、五千エルドを貰った。お小遣いゲット!
「ありがとうございます」
「ああ……」
『ああ』としか言わなくなっちゃってるよ……。
さてあとは――――逃げ一択。それが一番だ。
「では、これで失礼します」
「ああ……って、え、おい?」
現場監督さんの変化に他の作業員の人も皆我に返る。そして僕に何か言いたげな視線をぶつけてくるから、かなり居心地が悪い……。
でも。
僕はすでに走る予備モーションを入っているから。
「おい、おま――」
「さようなら!」
クラウチングスタート。学校で習っておいてよかった。
だって、自分でびっくりな速さでこの場から逃げ出せたんだから。
お読みいただきありがとうございます。
おさらい:多段式クリエイト法。そしてクラウチングスタート。
実は今回色々カキカキしていたのですが、思った以上にシリアスになってしまったので違う話で投稿しようと断念しました。
ちなみに、ボツった? ところは七千字ぐらい書いていました……。
今回は約二千六百字です……。




