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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第二章 ユナイダート王国編
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第五十五話 レーリス 1

 今回の依頼はとりあえずある程度街を回れるようにと、なるべく場所がバラバラになるところを選んだ。昨日ピミュさんから訊いた感じだと、この街は貴族らしい貴族はいないらしい。一応統治する領主は居るけど、領地経営は曰く「面倒」らしい。この街には領主代理がいるぐらいなんだっけ。

 それに、この街の地形は二段式になっている。東から西に向かうほど、少しずつ坂を登っていく。高低差はそこまで無いけど、南北を通る中央通りと東西に渡る大通り、この二つの通りが大まかに四つのエリアにわかれている。

 だけど、住宅・商店などの区切りはないみたいだ。ただ、工業区域だけははっきりしているみたいだけど。

 とりあえず、まずは剣を受け取らないと。

 工業区域は南東で、これは依頼書にも書いてあったし、南東にエリアの奥に少し入っただけですぐに分かった。ほぼ工房で忙しなく黒煙や白煙を吐き出していて、空気がけっして良いという場所じゃない。

 ギルドに張り出してあった依頼の紙に地図は描いてあったから、その記憶を頼りに歩き続ける。はっきりいってピミュさんの五十倍はわかりやすいね。……いや、あれは嘘しか描いてなかったから論外、か。

「多分、あそこかな」

 他の工房とほとんど変わらない。でも、扉のところに【ヒュージ】と書いてある。うん、僕の覚えている依頼人と同じだ。

「すみませーん」

 なにかでべっとりと汚れている扉を叩く勇気が僕にはない。

 だからヒノキの棒に土をまとわせて三回叩くと、中から人が出てきた。

 ボサボサの髪にゴツゴツとした指。それに多分この辺りの人特有の鉄の煤けた臭い。

「んで? おめ、誰で?」

 めっちゃ眠たそうだね。

「冒険者ギルドで貴方から依頼を受けた、文です」

「んで! お前さんが依頼を受けてくれたで! ちょい待っとで!」

 眠たそうな顔が一転。顔を輝かせながら奥に引っ込んでいった。

 ……これは突っ込むべきなのかな。僕のスキル、【言語マスター】がきちんとお仕事してくれないんだけど。語尾が「で」って、方言なの?

「フミ、と言っとで? これを南門の兵士に持ってってほしいで!」

「あ、はい」

 返事しながら受け取ったのは一振りの剣。バスターソードかな? 結構剣の幅が広い。非力な僕じゃ絶対振れそうにもないや。振った瞬間明日から全身筋肉痛間違いなしだね。

「ギルドのあのおっちゃんに届けたらあれもらうやで」

 あれってなに?

「じゃあ、頼むで!!」

「え、あ……!」

 引きとめようとした瞬間にはもう扉はしまっていた。嵐のような人だ。

 …………いや。

 だから。

 あれって何さ!?

「はぁ……もうまったく」

 とりあえず南門にいる兵士さんに訊けばいいや。ここで無理に訊きに行けばどうなるかは簡単。どやされるだけだよ。

 バスターソードはアイテムボックス、と。

「次は、確かもとの道を戻って……」

 さっきの道をUターン。

 それで最初の中央広場まで行くと、南門を中腹まで歩く。その間にも色々な店があって覗きたくなる衝動に駆られた。

 レストランにアクセサリー店。服屋にクレープやモチンプというこの地方特産のモプの木に生える実をすりつぶして作ったクッキーみたいなもの。

 あとは人が入って出てくると必ず正気を失って出て来る館とか。

 ああいうところって、なんか妙に気になってしまうんだよね。知的好奇心とでも言えばいいのかな。

 まあ、危険そうだからやめておこう。

 っと、ここだ。この変な館を右手に回ったとき、街の警備兵のような人が冒険者数人と一緒に抜刀しながら館に入っていった。

「幻術士ウッツ! やっと見つけたぞ!」「な、何? どうして私の場所が……」「あんだけやっておいてよくばれないと思ったな! さあ、お縄に頂戴する!」「クッ……見逃してくれ……私には妻と娘が……」「なに……? う、嘘だ!」「嘘だが?」「おのれええええええ!!」

 …………ようし、見なかったことにしよう。

 我関せずを貫き通して真っ直ぐ突き進むと、次の配達荷物の受取場所である雑貨店が見えた。

 中に入ると、普通の腕輪や防寒具に薄手の衣服に安めの紙。それに調理器具であるフライパンや一般的なポーションがところ狭しと置かれて、はいないね。ただ雑然と置いてあるだけだ。

「あらあら、いらっしゃい」

 なんとなく品物を見て回っていたら、声を掛けられた。

 そっちに視線を向けると、ふくよかなおばさんがニコニコと笑みを浮かべていた。とりあえず、会釈。

「こんにちは。冒険者の文ですが、依頼を受けてこちらにきました」

「あらあら、こんなに若いのにお疲れ様」

「え……あ、そうですねー……」

「ふふ、少し待っててね」

 そう言って奥に引っ込んだ。

 ああいうタイプは適当にあしらうのが一番。ああいうの、僕知ってるよ。

 妖怪井戸端会議好きおばさんだ。

 はぁ、と溜息を零すとまた売られている品物に目を落とす。……それにしても、この依頼って本当に初心者向けとしてよく作られていてびっくりだよ。

 この街を理解、もう少し深いところまでいくと、街をどれだけ早く理解して馴染めるか、という狙いがあるのが明白だ。今回はたまたま、という可能性もあるけど、さっきの人も、あのおばさんも慣れた様子だった。ということは、結構積極的に出しているに違いないね。

「はい、どうぞ」

「あ、どう……うわ」

 ドスンと机に置かれたポーションの山。腰につけるようなバッグからはみ出るほど持ってきたけど……なに、配ればいいの? ラズワディリアってサンタさんみたいな人いたかな……?

「ちょっとあの南門の兵士さん、ポーション切らしているって言ってたか、お願いするわね。……大丈夫? 持てるかしら?」

 どれだけ備蓄するんですか、南兵士さん。

 なんとかぎこちなく頷くと、恐る恐る持ってみる。

「……これは……!」

 ズゥンと腕にのしかかる重み。なにこれ、めっちゃ重いんだけど!

「や、やっぱり無理よね! うん、がんばった、頑張ったわフミちゃん!」

「僕を、おんな、のこみた、いに……よば……呼ばないでくだ、さい!」

「フミちゃん、フミちゃん! 一回下ろして!」

「だから、だいじょ、です……」

 ここ出たらすぐにアイテムボックスの中へ放り込むから! だからとにかくフミちゃんって呼ばないで!

「よ……っと!!」

 腰に巻きつけれないから一気に背負い込む。……ふぅ、こっちのほうが楽だね、やっぱり。変だけど。

「これで大丈夫です」

「そ、そう? ……なら、頼むわね。うん、だってフミちゃん男の子だもん!」

 そう思うならフミちゃんって呼ばないで。

「じゃあ、頑張ってね!」

「頑張りますね」

 適当に流して店を出る。そのまま路地裏に入ると左右を確認する。よし、誰も居ない。

 数個だけ腰ポケットに残しておくと、すぐにポーションをアイテムボックスに放り込んだ。

「ふぅ……」

 肩に手をやりながらコキコキと鳴らす。

 これ、明日筋肉痛にならなければ良いんだけど。

「さて、と」

 南門にいる兵士さんにどうすればよいか訊きに行かないと。



 ◆



「ああ、これか。これはあれだ。受領サインを俺が書くから、それを冒険者ギルドまで持っていくと報酬がもらえる、っていうシステムなんだ」

「なるほど。ありがとうございます、南兵士さん」

「お礼を言われるようなことじゃないよ。……じゃあ、はい。これが受領サイン。ちゃんと忘れずに渡せよ?」

「大丈夫ですよ」

 そう返すと早速剣を手になじませるように持って振り回し始めた。

 それを尻目に少し門の端によってアイテムボックスから紙とペンをとりだして、南兵士さんの話を纏めてみた。

 まず依頼主、今回は南兵士さんがギルドに依頼を登録したら専用の紙をもらう。そして、冒険者がきちんと依頼を達成されたら依頼主がサインを書いて冒険者がギルドの方に渡す、と。

 なんか、面倒だね。報酬も依頼主が依頼料と同時に一旦ギルドに納入しないといけないし。

 冒険者の負担は限りなく少ないけど、ギルド側と依頼主側の負担がかなりあるっぽい。

 ……僕には関係ないけど。

 少し目を上げて南兵士さんを見る。あの大きな大剣をあんな軽々と振り回して……ギックリ腰にならないのがすごいや。

 それに、安定感がある。空を切るときに出る音。連続して繰り出される鋭い連撃。そしてさっきまで好印象を人に与える爽やかで整った顔立ちも、汗を飛び散らせながらその表情は至って真剣で、どこかギャップがあるね。きっとご近所で人気だよ。やったね南兵士さん。

 …………女性だけどさ。

 確かに髪もショートで、あんなでっかい剣を振り回しているのに、よくみたら女性なんだからびっくりだよ。

 ペンと紙をアイテムボックスに放り投げると、遠くから南兵士さんに声を掛けた。

「では、僕はもう行きますからー」

「おーう! ……あ、そうだ」

 ピタリと剣を止めると、背に剣をしまう。その動きも様になっていて、これぞ兵士なんだとなんだか変なところで思わず感嘆してしまった。

「おめーさん、さっき昨日この街に着いたばっかだって言ってたよな?」

「え? ええまあ……そう言いましたね」

 それが何なのかと思いながら言葉を返すと、南兵士さんが渋い顔をして何度か街の外をちら見した。僕も倣ってその視線の先を追うように見る。

 外は草原と森が広がっていて、とても綺麗だ。今日は晴天だから空も透き通っているし、魔物とは共存関係にある動物――鳥も飛んでいるね。

 そんな清々しい光景だというのに、やっぱり南兵士さんは渋面顔をしたままだ。

「あの……――」

「おめーさん、おかしいとは思わないか?」

「ええっと、何を……」

「この光景をさ」

「豊かな自然が、広がっているだけですが」

「そこだよ。そこなんだよ」

 つかつかと僕の方に歩み寄ってきて肩を掴むと、グラグラと揺らし始めた。

「ほら、みえないか? いや、みえないだろ! いつもはいるはずの、魔物の姿が!」

「え、そ、そうなんですか?」

「ほら!」

 脳を揺さぶられたかと思ったら、今度は南兵士さんの怪力で無理矢理外に顔を向けさせられた。頭がシェイクされて視線がなかなか定まらない……。

 なんとか意識をしっかりさせて目を凝らしてみる。さっきと変わらない景色だ。うん、でも。

「確かに魔物はいないですね」

「だろ? 昨日の夜からずっとなんだ。何かの前触れかと思うと眠れなくてさ……」

 開放されたかと思うと身を震わせる。ずっと警戒していたのか。よく見れば目に隈もできているし……他にも交代の人はいるんだろうけど、離れたら離れたで不安になるからずっといるのかな?

 まあ、なんにせよ。昨日来たばかりの僕が知る、よしも……ない…………――

「―――きのうの、夜からって……言いました?」

「ん? ああ、そうだ。昨日の夜からだ。……もしかして、なにか心当たりでもあるのか!?」

「あ、あるっていえば……って頭を揺らさないでください!」

「お、おう」

 また揺らされたせいで頭がズキズキしてきた。この人、狙ってやったのかな?

 頭を抑えて少し頭を落ち着かせてからとあるワードを口にした。

「【ステータス】」

 僕の考えがあっていれば、これは何か前触れとかじゃない。

 昨日僕が来た時点では魔物は普通にいた。街に向かう魔物はいなかったけど、それこそ普通にそこら辺を闊歩してたし、気性が荒い魔物なんかは普通に僕らのところに走り寄ってきたからね。

 ……殆ど気性が荒い魔物しかいないけどさ。

 じゃあ、その魔物たちを撃退したのは? そんなの決まってる。

 僕の相棒兼ボディーガード兼ペットの、コリスだ。

 そしてその相棒は今――――どこにいる?

「……これだ」

 ステータス欄からテイムを選択して、現在テイムしている動物を閲覧する。一番上にきているのは『ノナ』。一応僕の魔物だけど、ノナはリリルの傍にいることを選択したから置いてきたんだよね。立派なナイトになる腹づもりかな? 女の子だけど。

 まあ、いない子のことを考えてもいないんだからしょうがない。

 ノナの名前から下に視線をスライドさせると、次は『コンプリス』と書かれている。

 きっと。

 こいつの仕業だ。

 なんとなく雰囲気てきに唾を飲み込んでから、ゆっくりと『コンプリス』の名前を押すと、僕のステータスに折り重なるようにしてコリスのステータスが浮かび上がった。



 ― ― ― ―



 コンプリス

 LV.37↑    シュロワラン亜種

 HP:3600/3600

 MP:460/460

 力:508

 守:470

 速:632(652)

 魔力:102


 魔法:なし

 スキル:双風爪・風爪・蹴刃・疾風迅雷・黄花

 称号:フミの相棒・スピード王



 ― ― ― ―



「うわぁ……やっぱり……」

 犯人はコリスだった……。

 昨日は確かレベル二十四ぐらいだったから、昨日より十三も上がってるよ……。なに、コリス。僕でもまだ二十二しかないのに。

 いや、まあ確かに戦闘はほとんど任せてるけどさ。僕、後衛職だから。

 でも、そんな戦闘狂に育てた覚えはないんだけど。ウサミミをもふもふしたのがだめだったのかな? 気持ち良いんだからしょうがないといえばしょうがないけどさ。

「おめーさん、わかったのか?」

「え? ああ、わかりました。犯人は僕の相棒です」

「そいつが親玉か。待ってな、今から俺がこの剣で一発……」

「違いますよ。僕の相棒がそこら辺の魔物をところかまわず狩っちゃってるみたいなんです」

「……なんだ、そっちか! そうかそうか!」

 急に高笑いを始めて僕の背中をバンバンと叩いてきた。なに、この街の住民は背中を叩くのが好きなのかな? その度にHPが減っていく僕は冷や汗ものだね!

「そうか! なら俺の仕事も減るし、おめーさんの相棒もレベルが上がって良いことずくめじゃ無いか!」

「そうですね」

 あとでコリスはこってり絞っておこう。僕が近くにいないと、僕のレベルが上がらないのに勝手に一人でレベルを上げるな、って。僕が楽してレベルを上がることに関してだけは良いことなんだから。

 基本【クリエイト】を使えば勝てるし、一人でもレベリングは出来る。もともとはそういうつもりだったんだから。

 でも、コリスが勝手に一人でレベリングするのはなんだか許せない。ただでさえ僕より基礎ステータスが上なのに、これ以上離されたらなんだか感覚的にはヒモって感じになりそうだね。

「はぁー! じゃあ俺はもう帰るかー」

 グッと身体を伸ばすと、南兵士さんは僕の方を向いて口元を緩ませた。

「配達の方、ありがとな。じゃ、またな」

「はい」

 『またな』、か。

 去っていく南兵士さんの背中を少し見つめた後、踵を返す。

「また会おう、なんていう言葉があるぐらいなら、一期一会なんていう言葉は無いんだよ」

 そうぼやくと、次のエリア、北東の住宅街に足を向けた。


 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:よくみないと女性だとわからない南兵士さんは良い人。


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