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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第二章 ユナイダート王国編
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第五十四話 空振りジェラシー

「おはようございますフ、フミ様。い、依頼ですか?」

「いや、おはようもなにも朝挨拶したし、それに一緒にギルドまで来たよね?」

「ふぇ? は、はい……そうですね……」

 ピミュさんがものすごいガクブルして涙目になっている。なんだろう。昨日の夜から夜半過ぎまで何があったんだろう?

 たしか、僕と一緒に食べるために持ってきたお菓子を全部食べたんだっけ?

 ああ、なるほどね。だったら怒られても仕方がない。食べ物の恨みはなんとやらだから。

「とりあえず、ピミュさん」

「は、はい! おはようございます!」

「…………ピミュさん、これお願い」

「ふぇ……なんですか、これ?」

「いや、なにって……依頼書だけど?」

 朝ピミュさんが出勤する時に合わせてきた理由はこれ。依頼を受けるため。そして、この依頼書をボードから取ってピミュさんの目の前に置く。この一連の流れを全てピミュさんは見ていたはずなんだ。なのに、なんでそんな驚いた顔をしたのさ。僕の背中に突き刺さっていた視線、全部ピミュさんでしょ?

 ……大丈夫かな、この受付嬢(ピミュさん)

「それで、依頼書を持ってきたらどうするのだったかな?」

「あ、えと、そのですね……」

 ギルドカードの提示を求めるのと、依頼書の確認。今回は配達と土木の二枚。依頼書は期限内に済ませられるなら何枚受けても可となっている。それほど緊急性に富んだものあるからね。だからその二つのランクを確認して受付備え付けのハンコでポコンと『受印』マークを押し、ギルドカードを推奨にかざすことで完了。

 単純明快。わかりやすい作業だ。

 だというのに、この新米さんはあたふたして目を回していた。

「え、えええと! ま、ままままず依頼書を焼却炉に……じゃなくて……!」

 それは依頼終わったあとだよ。まだ燃やさないで。

「そ、そう! フミ様、ギルドカードを確認して下さい!」

「まざってる……混ざってるよ、ピミュさん」

「ふぇぇぇ……」

「ギルドカードを提示させて、そのギルドランクと依頼書のランクの確認でしょ?」

「あ、はい! そうです! ギルドカードの提示をお願いしま……はい……受け取りました…………」

 うん。次からはちゃんと言われてから取り出そう。じゃないとピミュさんのテンションの落差が半端ない。

「えっと、しょれ……それで次は……はい、確認が終わりました。どちらもGランクですね」

 まあ、どちらも簡単な街中作業だからね。ここまで低いランクのものは街でのお手伝いさんが基本となっていることはさっきボードを眺めて確認済み。まあ、こうして依頼としてあるということは、猫の手も借りたい、っていう状態だから、こういう僕みたいな人間も必要なんだろうね。

 人間は必要とされることで生きる価値を見いだせるというけど、人族(ヒューマ)はどうなんだろう?

「ではギルドカードを返却します」

「その前にやることは?」

「ふぇ? ……い、いってらっしゃいませ、ですか?」

「なんで見送ってしまうのさ……」

 だめだね、この天然(ピミュさん)は。

「その前に――」

「ピミュ、この水晶にギルドカードを通すのよ」

「あ、そうです!」

 慌ててギルドカードを水晶に通す。薄く紅色に発光したかと思うと、すぐにその光は消えた。

「ありがとう、エレちゃん!」

「どういたしまして、よ」

 笑顔で後ろを振り向くピミュさんに薄く微笑みかける。

 えへへーって笑ってるけど、ピミュさん。よく、よーくエレさんの顔を見てみてよ。めっちゃ企んだ顔してるし、しかも目が笑ってないんだけど。うん、きっとピミュさんの魔改造計画(さいきょういく)でも考えているんじゃないかな。

「さて、最後よ。私が教えたのだから勿論覚えているのよね?」

「う、うん!」

「じゃあやってみせて?」

「が、がんばるよ!」

 僕の方に向き直ると、ふんにゅ! っと一回気合を入れる。でも、きっとそんな声だと逆に気が抜けると思うんだ。

 でも、エレさんがいるからか最後の作業はスムーズに進んだ。

 ハンコでポコポコリと二枚の依頼書にハンコを打ち、僕にギルドカードを返す。さっきまでのピミュさんがまるで別人のようだ。

 緊張するとダメなタイプなのか、ただ単に器用貧乏なのか……。

「じゅ、受注完了しました! が、頑張ってくだしゃい!」

「……うん。その、ピミュさんもがんばって?」

「ふぇええ……」

「あ、エレさんもお疲れ様です」

「フミさんも頑張ってね」

「……程々に頑張ります」

 にこやかな笑みを浮かべたエレさんにそう返事をすると、踵を返して出口に向かう。

 さて、まずは道具屋と鍛冶屋を回って荷物を回収……――ん?

 出口から溢れる光が突然遮られた。その光を頼りに歩いていたから足を止めて思考の渦から現実に戻らざるを得なかった。その瞬間、濁った銀色の鎧が目に入り、思わず上を見上げた。

「……うわ、なにこのキンニクオ」

「ほお、俺の名前を知っているとはお前はなかなか通だな!」

 …………えっ? 嘘……でしょ?

 キンニクオ……筋肉男、という意味で適当に言っただけなのに、それが名前とか……無いわ……。

 でも、キンニクオのお母さんは嬉しかっただろうね。きちんと名前通りに筋肉をこんな無駄に付けたんだから。

 キンニクオに憐憫(れんびん)の眼差しを向けていると、一歩引いて僕をジロジロ観察してきた。

 うん、この後の展開は――

「「おめえ、よく冒険者ギルドに登録できたなぁ?」」

 うん、テンプレありがとう。一言一句ハモれたね、僕と。

「その服装、まるで『田舎から出てきましたー!』って感じのお上りさんじゃねえか! ガハハハッ!」

 あれ? そこまでは予想してなかった。

 一度自分の服を見下ろしてみる。どこにも変なところはない。

 だってこの服、カスティリア王国城下町、《メルノマリア》でメティさんに選んでもらった服だよ? 田舎どころか都会の最先端だよ。

 どっちかっていうと、キンニクオの銀をあしらったガチガチの鎧のほうが田舎っていう感じが醸し出されている位だよ。

 ……ということは、もしかして。

「僕がピミュさんやエレさんと話していたから嫉妬? いや、でも冒険者がそんな小さなことで嫉妬心を抱くわけ無いしなぁ。そうだよなぁ。だってこれ王都で買ったのに田舎だって断定するような人間だけど、そういう心の部分は寛容なはずだからなぁ」

 わざとらしく声を大にして言葉だしてチラリとキンニクオを見る。うん、羞恥と怒りで顔を真っ赤っ赤にしていた。うん、なるほど。

 図星か。

「お、おめぇ……! 俺はDランクのフェルガ=キンニクオだぞ!? 昨日今日登録したGランク風情のくせによぉ、なんだ、あ? 殺されてぇのか? 死にてえのか!?」

「といってもね」

 頬をポリポリと掻く。というか、キンニクオは苗字の方だったか。つまり、貴族とかその辺りなのかな? まあ、どうでもいいけど。

 そのキンニクオを主軸にして左にそろそろと動く。

 そんなファイティングポーズをとってもさ、僕はそんな戦闘職じゃないし、そもそもステータスも初期が低いんだから今も低いんだよ? なのにそんな真正面から勝てるわけ無いじゃん。

 はぁ……。

「ねえキンニクオさんや」

「あ゛?」

「知ってる? ギルドのルール」

「知ってるもなにも、常識じゃねえか! なにクソみてぇな質問してきやがるんだ」

 ああなんだ。常識なんだ。じゃあ、いっか。

 壁に背を向けてこっそりと、でもまるであたかも持っていたかのようにヒノキの棒を召喚すると、壁にコツンと付けた。

「【クリエイト】」

 ボソリと周りに聞こえるか聞こえないくらいかの声で呟くと、そこに数秒でそこに扉が出来上がった。うん、我ながら見事なでき。……いや、別にギルドの扉と瓜二つだけどさ。

「まっ、みんな驚いているからいいけどさ」

 キンニクオですら、僕が成し遂げたことに唖然とした表情を浮かべている。

 ふと、ピミュさんの反応が気になってカウンターのほうをみると、あんぐりと口を明けていたピミュさんと目があった。

 まあでも。

 何にも反応がないというところがピミュさんらしいというか。まだ出会ってそれこそ昨日今日だけど、なんとなくらしい気がした。きっと口を開けていることすら忘れているかもしれない。

「ま、いっか」

 ニコリと笑みを浮かべて余裕なふりをすると、仰々しく一礼をした。

「では、D級のフェルガ=キンニクオ先輩、今日は失礼します。また今度」

 一歩後退して外に出ると、もう一度【クリエイト】を唱えて元の壁に戻す。

「大分このスキルには慣れてきた、かな」

 ヒノキの棒をしまいつつ、手を握ったり開いたりする。

「本当、ヒノキの棒いらず、だね」

 変な笑いがこみ上げてくるのを押し殺す。

 とりあえず、キンニクオとかが出てくる前に行かなきゃ。

 とりあえず、南東にある道具屋と鍛冶屋に行こう。……というのは名ばかりにしておいて、早く立ち去らないと今度こそ殺されそうだ……。はぁ、面倒だ。


 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:キンニクオさん……憐れ……。

      テンプレから逃げる文くん。

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